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少女漫画と小説の感想ブログです

白泉社名物、社長室に直談判しに行こうとするヒロインの姿が まさか本書でも見られるとは…。

幸福喫茶3丁目 13 (花とゆめコミックス)
松月 滉(まつづき こう)
幸福喫茶3丁目(シアワセきっさ3ちょうめ)
第13巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

遠足で登山にやってきた潤(うる)は、偶然同じ所へ研修に来ていた草(そう)に出会う。そこであるきっかけから草が潤に告白…!! 思いもよらない出来事の連続で、動揺をかくしきれない潤は高熱でダウンしてしまい…⁉ うるのシアワセ探しロマンス・大波乱の第13巻。

簡潔完結感想文

  • 自分の失敗の落とし前をつけるために社長とホテル。いや、社長の脇が甘すぎない?
  • 推定40歳以上の おじさん がJKの首を噛む意味が全く分からないから白けるばかり。
  • 当て馬の告白でも誰の恋心も誘発しない。残り2巻なのに問題が山積。もしくは散乱。

線は張れないが、トーンを貼ることを覚えたよ、の13巻。

序盤は、一般の作家さんが余力で描く おまけ漫画レベルに画面が真っ白で悪い意味で驚いたが、トーンを使ったら使ったで、それはまた別問題が引き起こされた。どうにもトーン選びにセンスを感じない。服にトーンを使うことを覚えたようだが、それによって登場人物全員の服が うるさくなった。特に桜庭(さくらば)社長の周辺はドイヒー。

また人物の顔は どんどん均一化しているように見える。男性陣の目が小さくなったのは、それでも顔のバランスが取れていることになり画力が向上した証拠だろう。だが それとは反対に初期の頃よりも男性たちの描き分けが甘くなっている気がしてならない。
特に進藤(しんどう)と草(そう)は いよいよ分からなくなり、大事な場面の巻末で2人が話す様子は まるで鏡を見ているようだった。2人の服装の違いから、これは進藤、これは草と判別していかなければ ならず、読者に余計な労力を使わせる。一郎(いちろう)の髪型を途中で変更したように、草の方を短髪にするとか、見分けがつくようにすることは出来なかったのか。

この期に及んで恋愛感情を抱かない進藤。この期に及んで同じ顔にしか見えないヒーローたち。

力の面では、20歳も40歳も同じに見えるのが大問題だ。ほうれい線一つで年齢を表すのが少女漫画の手法だが、本書には それがない。潤の母親も一郎の両親も 皺一つない。老けて見えたら負け、とでも作者は思っているのだろうか。

『13巻』の中で推定40歳前後の桜庭と、ヒロインでJKの潤(うる)がホテルの一室に入る場面がある。そこで桜庭が潤の首筋を噛むというシーンが展開されるのだが、画面上だと綺麗に見えるが、実際は おじさん がJKに襲い掛かるホラーな場面である。これは年齢による描き分けが出来ていないから桜庭の年齢が読者に分からず、ちょっと年上の お兄さんが潤に接近しているように見える。だが再読すると、どう考えても桜庭は40歳前後。JKをホテルに入れて「色気のあるシチュエーション」とか言い出すことに嫌悪感を覚える。

また少女漫画なのでヒロイン視点で物語が語られるから、このことは潤の貞操の危機として描かれているが、見方を変えれば中年がパパ活(現代風に言えば)をしているようにしか見えない。何と言っても潤は制服姿なのだ。
桜庭は老舗洋菓子チェーン社長という設定で、社内には彼を快く思わない人が多い。そんな彼が自分に直談判をしに来た潤と話すためだけにホテルの一室を選ぶことの方がリスクが高い。桜庭の性格を考えると、自分の弱みになるようなリスクを選択しないと思うが、本書では彼に躊躇は見られない。ホテル自体の設定も謎で、交通の便が悪いところに立っているのも気になる。地上30階はありそうな高級ホテルに見えるが…。


『13巻』も引き続きトラウマの匂わせで終わる。残るはラスト2巻なのに解決しない問題が多すぎる。ここで進藤の家族問題・トラウマという少女漫画の王道路線を出すのなら、潤側の問題は いらなかったなぁ。役割が重複するような人物もいるし、もっと交通整理すれば 良いのに、と再読時にはゴチャゴチャし過ぎる後付け要素ばかり目につく。

草の告白は ようやく決着がついた数少ない問題の1つとなるが、それが単発のイベントであるのが気になった。草の告白に対し、進藤や潤が自分の中の恋心を明確にするのであれば草の行動にも意味が出てくるが、鈍感な彼らは ここでも変化がない。恋愛の解禁を双方の問題を解決した後にしたいのかもしれないが、それでは遅すぎるだろう。読者の予想よりも早く意外な事態を引き起こすのが面白い漫画の一つの要素だと思うが、本書の場合は テコでも動かない頑固さばかりが目立つ。こうやって複数の問題が何もリンクしないで、あちこちで起こった問題が解決することが繰り返されるのだろうか。


庭の悪意に落ち込む潤だったが、ボヌールの面々は彼女を元気づける。いや、進藤と店長はアイデアをそのまま流用した自分に責任を感じなさいよ、とは思うが。進藤は『2巻』の安倍川兄弟との勝負と同じように、売られたケンカは買う主義らしく、復讐に燃えている。私が思う進藤よりも体温が高くて戸惑う。こんな人なの?

潤は桜庭が社長をする洋菓子チェーン・ブロッサムの本社に向かう。ヒーローの御曹司率が驚異的に高い白泉社作品だから、クライマックスで会社に乗り込むのは頻発されるパターン。でも まさか本書で そんなシーンが見られるとは思わなかった。

その社内で潤は桜庭が社長として盤石な地位を確保していないことを知る。桜庭は血筋で社長に選ばれたが、それを快く思わない幹部連中もいるらしい。いくら桜庭が憎くても本社内、来客の前で皮肉を言うのは人としての常識を疑うが…。

そこに居合わせた桜庭に連れられ、潤は彼が仕事で使うホテルへと向かう。にしても この時の桜庭のスーツのセンスが酷い。

男女がホテルの一室に入ることの意味をウブな潤は疑問にも思わない。だけど考えてみれば桜庭が制服姿のJKをホテルに連れ込む方が問題だ。彼の方も脇が甘いとしか言いようがない。

潤は桜庭から出された飲料を一気飲みして、彼と対峙するが、桜庭は あっという間に折れる。束の間のヒマつぶしが出来れば彼は それで満足らしい。自分の楽園・ボヌールが少しも顧みられないことは潤にとって屈辱で、怒り心頭に発する。だが桜庭が望むように泣いたりはしない。


が折れず まだ反抗的な潤に対して桜庭は彼女の首元を噛む。桜庭の思わぬ行動に対し潤は怪力を発揮し、彼を引きはがし、お返しに頭突きを くらわす。潤の怪力設定は、男性に暴力で圧倒されないという意味もあったのか。

アラフォーの おじさんがJKを噛む。これこそ逮捕案件なのに誰も桜庭の行動を問題視しない。

桜庭は一瞬 気を失うが、覚醒後 あまりに おバカな潤に笑いが こみ上げる。本書において「笑顔」は最高に価値のあるもので、たとえそれが失笑や嘲笑に近いものでも桜庭の笑顔を見れたことで潤は満足し、後ろに倒れる。桜庭に悪気はなかったが、潤に渡した飲料にはアルコールが入っており、潤は酔い潰れてしまったみたいだ。

私には この桜庭の首を噛む行動の理由が全く分からない。へこたれない潤に対する怒りという理由でも殴るのではなく、噛むという行為を選んだ理由は不明のまま。俺様ヒーローがヒロインを噛むのとは訳が違うが、本書の中では そういう使われ方をしているようにしか見えない。作者の意図を答えよ、という国語の問題が出ても全く正解が思い当たらない。40歳前後の桜庭の性欲のたかぶり、だったりするのだろうか。いや、印象的なシーンを作る、という作意以外、何も理由はなさそうだ。扉絵での舌を出す、タバコを吸う、過度な露出(裸)などと同様に意味のない「色気」でしかないのかな。色々と気持ちの悪いシーンである。

そして桜庭問題は、店長の「颯季」問題と同じく、背景を匂わす割に解決に十分なページが用意されていない。どうやら祖母である会長と折り合いが悪いらしい。社長の母親が会長から嫌われているので、母と子、または嫁と姑で何かしらの問題が発生したみたいだ。ちなみに推定80歳以上の会長は過剰に皺を描き込むことで年齢を表現している。この作品では幾つから皺が出来るのか?


はバイト前に桜庭社長に会いに行っているらしい。『10巻』での安倍川(あべかわ)家での勉強回もそうだが、学校が終わってからバイトまで そんなに時間があるのか疑問に思う。なぜ彼女はバイトがある日に行動しようとするのか。

バイトに現れない潤を心配するボヌール組。そこへ その日、学校帰りに潤と会った安倍川 草の情報によって、潤の行き先が何となく推察され、進藤は店を出て、潤を捜索する。この時、一郎は口は出すが、捜索を進藤に任せている。それなのに一郎の潤への執着は増すばかりで、彼の心の動きも良く分からないなぁ。

酔って眠ってしまった潤は悪夢を見て、自分の「赤い封印」の一端に触れる。そして店長が潤の実家に電話をした際には母親が潤に対して悪い予感に心当たりがあるような素振りを見せている。んーー、情報が渋滞しているなぁ。

目を覚ました潤は、こちらも寝入っていた桜庭に声をかけ帰宅しようとする。桜庭はボヌールへの嫌がらせの方針を撤回しないままだが、潤のケーキを美味しいという人には悪い人はいない、という方針で彼を悪人には断定しない。自分たちに対する悪意を持った人にも いいところを見つけてしまうのがシアワセ教なのだろう。


藤とは すれ違いになり、潤はボヌールへ単独で帰還する。男性陣は潤を心配していたけれど、無事に帰ってきたことで不問にする。進藤は かなり動揺していて、その表情を潤に見られる。また潤の首に桜庭の痕跡を認めるが、彼女の純潔は守られたことに男性陣は安心する。

後日 桜庭が来店し、全てを水に流すことにすると言う。彼の真意は結局分からないまま、嵐は去る。徹頭徹尾 彼に翻弄された事件だった。それでも潤は桜庭の不安定な精神や立場を本能的に察知したからか、彼との縁が切れないように、またの来店を希望する。どこまでも無限の優しさを持つヒロインだ。ただし潤は初対面の時に感じた桜庭と自分の実父が似ているという印象は撤回する。これは この後の展開のため、父親と桜庭を違う場所に収納する必要があったのだろうか。

潤が桜庭を敵視しないからか、男性陣は桜庭の潤に対する誘拐&暴力を問題視しない。この問題を上手く利用すれば窮地に陥るのは桜庭で立場が逆転するのに、シアワセ教の信者たちは他人を脅迫したりしない。いい人の表現なんだろうか。桜庭に首輪をつける意味でも、この首噛みは問題にした方が良かったのではないか。

そして どうも桜庭の行動はボヌールや潤ではなく、進藤への執着に由来するようにも見える。更には ここから進藤 千年(ちとせ)という女性の影まで見え隠れする。進藤の母親問題が出てくるのは、いつ以来だろうか。前半では匂わせていたが、ここ最近は忘れさられていた。『7巻』の文化祭で安倍川父と進藤が出会って以来は、特に話題に出ることが無かったように思う。ラストスパートというか やっぱり大渋滞が起きているようにしか見えない。


の学校で遠足があり、利用する施設に草の学校が宿泊していて、潤は草と会う。

遠足で向かった その街で潤は進藤 そっくりの女性を見かけ、それが進藤の母親であると直感する。自分のこと以外には勘が鋭いんですよ☆

こうして潤の頭が その女性で いっぱいの時に、草が唐突に告白する(この時の顔、私には進藤と同じに見えるなぁ…)。草には いつも潤は他ばかりを見ていることが分かっていたから、少しでも自分の方を向かせようという気持ちから告白に至ったらしい。

潤は遅れて状況を理解し混乱するが、草は返事は急がないと先に宿泊地に帰る。こうして進藤母、草の告白に加え、遠足中には赤い封印が顔を出し、潤はトリプルで頭を悩ます。うーん「赤い封印」という格好つけた過去は必要だったのかなぁ…。


えすぎて潤は知恵熱を出し、バイト中に倒れる。男性陣が彼女を家まで運び、看病する。潤の風邪回は初めてだろうか。

潤の精神的な悩みを聞くのは、店長に呼ばれた母親。というか、こういう状況なら実家に運べば良かったのではないか。やはり潤が頑なに実家で暮らしたくないように見えてしまう。

翌日、学校の研修から帰った草は進藤に会い、自分が潤に告白したことを告げる。それに対して、進藤は自分は無関係だと言い張る。この時点でも進藤は何も感じていないということなのか。もう恋愛する必要も意味もない気がしてならない。ただし、無意識化では潤のことばかり考え、気にしている。つまりは 好き の条件に当てはまっているようだ。草の告白に少しは意味があるといいのだが…。それにしても進藤と草の2人のシーンは 同じに見える。

潤の家に山根(やまね)が見舞いに来る。潤の周辺では唯一、異性と交際している人なので、潤は彼女に恋愛相談の相手として登場してきたようだ。山根は好きだと その人に触れたいという。潤は恋愛感情の有無も分からないのに、告白自体は嬉しかった。それなら その気持ちを素直に伝えればいいと山根は潤に助言をする。

翌日、その気持ちを草に そのまま伝える。好きだけどラブではない。その答えを聞いても草は これまで通り接して欲しいと潤に伝える。それは潤にとっても嬉しいこと。表面上は何も変わらず これまで通りの関係が続く。恋愛に悩んだら進藤の顔が出てきた、とかでもない。じゃあ恋愛解禁はいつなの…??