《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

神木(弟)を間接的に おことわりして、神木(兄)に直接的に おことわりされる★

神木兄弟おことわり(3) (別冊フレンドコミックス)
恩田 ゆじ(おんだ ゆじ)
神木兄弟おことわり(かみききょうだいおことわり)
第03巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

学年全員で行く学習合宿のクラスリーダーに指名された色葉(いろは)は、蒼一郎(そういちろう)のクラスの合宿リーダーで爽やかイケメンの城戸(きど)と急接近!! それを見た蒼一郎の心は、今までになく揺れ動いて……。ドキドキのお泊まり合宿で、2人の関係に大波乱が!?

簡潔完結感想文

  • ヒーローが告白を保留するのは、連載継続のため が第一の理由なのでは?
  • 事情を察した弟が撤退した後に、すぐに全ての事情を察する邪魔者が登場。
  • ヒロインは家族にとっての最良の形ではなく、自分が望む答えを急ぎすぎ。

談する人を間違えている 3巻。

状況的には99%両想いなのに、あと1%届かない恋愛の もどかしさを描いているのだろう。でも全体的に恋愛の困難を打開するための知恵も覚悟も備わっていない2人の中途半端さが目に余る展開に思えてしまう。

特にヒロイン・色葉(いろは)は自分の恋愛成就や告白の返事を優先するあまり、再婚を予定する母親のことを恋愛の障害ぐらいに思っていそうで好きになれない。今回、いよいよ入籍を発表した親に対して、子供たち3人が誰も祝福しないから彼らに迷惑を掛けている。そして そのことに対して子供たちが誰も罪悪感を覚えていないのが とても身勝手に映った。再婚で義兄妹になることを問題視しながら、彼らは親への配慮が足りない。この作品においての彼らの人生は記号でしかないと思わされた場面である。それぞれに片親で育ててくれた親への感謝があるはずなのに、それが見えない。
今回、色葉は もちろん、蒼一郎(そういちろう)も中途半端な対応をしている。作中で それが一番 残酷だと新キャラの城戸(きど)に指摘されているが、一番 不幸なのは彼らの親たちではないか。

ここで蒼一郎が、自分の色葉の気持ちを表明したら、告白からのハッピーエンドで話は終わる。

そして この中途半端な保留状態が続くのに特に理由や意義がないのが見えてしまう。例えば本書は終わらせようと思えば2話程度で終わるだろう。2人が両想いになるのに1話、そして家族問題を解決するのに1話があればハッピーエンドになる。私は義理の姉弟となった2人が結婚する作品も読んでいるので、この設定が障害にならないことも知っているし…。
全ての人に正直な気持ちを伝えれば すぐに終わる話なのである。

おそらく『3巻』ぐらいで終わってもいい話を引き延ばしているのは作品人気が予想以上に高かったという理由しかないだろう。商売上 そうしなければならないのは分かるが、作者が良くなかったのは、それによって主人公たちの行動に読者が嫌悪感を持ってしまう展開にしてしまった点だ。上述の通り、両親を大事にしているようで していないし、ヒロインは我慢が出来ず自分の気持ちを押しつけて彼に答えを急がせている。そして学年一 頭脳明晰のはずの蒼一郎は新キャラに良いように操られてヒーローとしての輝きを失ってしまった。ただでさえ優柔不断さが見えるのに、そこに第三者の意見で自分が揺らいでしまうほど、彼には強い意志がないことが露見してしまう。少女漫画としてはジェットコースターな展開になっているものの、作品としては体幹の弱さばかりが目立ったように思う。どうにも考えが浅い。


を跨いでの告白の返事は、蒼一郎に言葉を濁される。蒼一郎は自分の言葉を語らず、色葉のリセット癖を指摘し、返事を聞くと戻れなくなるから言わないという。冷静な判断にも思えるし、卑怯にも思える。

兄姉2人の距離感が近くなっていることに危機感を覚える橙次郎(とうじろう)は色葉をイルミネーションに誘う。しかし色葉から完全に「弟」としか思われていないことを知り彼は臍を曲げる。橙次郎は当て馬というよりもトラブルメーカーの かませ犬で、蒼一郎をヒーローにするために存在しているように思う。今回のトラブルで橙次郎は完全撤退になるのかな。書名が『神木兄弟おことわり』の割に、橙次郎は別に色葉から少しも忌避されていない。まぁ橙次郎は 間接的に恋愛は おことわり されているので、合っているとも言えるが…。


葉からの告白は保留にするが、蒼一郎は他の女性からの告白には相変わらず冷淡である。その違いが蒼一郎の本心を表していると言えるだろう。

橙次郎が騒動とヤケになった暴言のお詫びに遊園地に連れて来てくれる。橙次郎の要望で蒼一郎も含めて義きょうだい3人でのイベントとなる。橙次郎は蒼一郎を緩衝材にしていて、色葉は橙次郎を緩衝材にしている不思議な三角関係になる。

だが橙次郎は遊園地内で色葉の親友・セリナを発見し、義兄妹という関係を隠している彼女を色葉(と蒼一郎)から遠ざけるためにセリナと行動を共にする。残された色葉と蒼一郎は2人きり。蒼一郎は色葉が今日を楽しむことが橙次郎の目的ということを伝え、2人で行動することを自然な形に見せる。知力に差がある男女間だと男性は自分の本心を隠しながら女性を誘導することが多い。

そして観覧車に乗った2人は、互いの気持ちを確かめ合う。色葉は もうリセットを絶対にしない恋心を抱いているし、蒼一郎も彼女を抱きしめることで その気持ちを受け取る。


が2人の間にハッキリとした確約はない。いつだって蒼一郎は玉虫色の決着しか見せない。そして そんな時、同居開始時に半年を目途に入籍すると言っていた親たちが それを実行に移すという。だが子供たちが素直に賛同してくれないことを見て取った色葉の母親が、再度の延長を提案する。これは2人の交際の前には大きな障害があることが再度 確認したのだろうが、上述の通り、彼らが自分を優先し、親の再婚を祝福しないことの表明にも見えて気分が悪い。思わせぶりな態度を取るぐらいなら、早めに親に相談してみるのも手だろう。特に何かを察した色葉の母親なら助言をくれるだろう。この後の展開も含め、本書では色葉が誰にも相談しないからストレスが増え、そして相談する相手を間違えるから事態が悪化する。


習合宿が開催が近付く。そのイベントから登場するのが城戸。城戸の登場で作者に男性の描き分けは あまり期待できないのでは、と思ってしまった。城戸は神木兄弟どちらにも似ている。

色葉と同じくクラス別のリーダーになった彼は、親切で色葉のミスをカバーしたり、夜道を一緒に歩いてくれたりする優しい人間。ただ それは自分を そう思ってくれるように色葉を誘導しているとも言える。橙次郎と同じような可愛い系キャラなのだが、橙次郎と違って自分の可愛さを自覚して、それを利用して相手をノーと言えないよう追い込んでいる。
蒼一郎は城戸の接近を快く思わないから、つい色葉にキツいことを言ってしまうが、城戸は ずっと優しいという対比も生まれる。

しかも城戸は、届け物をした際、色葉が入っていった家から蒼一郎が出てくるのを見てしまう。そこで2人は観念し、城戸に事情を話す。城戸はそれで納得したように見えるが、蒼一郎と2人、男同士だけになった際に、彼の恋心を指摘し、脅迫めいた言動をし始める…。蒼一郎ポンコツ化が始まった。


して始まる学習合宿。ここから城戸が女子生徒から「王子」と呼ばれている設定が出てくる。神様と王子、2人の高貴な方々に色葉は縁が出来たのか。

色葉は親友のセリナに話せないことを、優しく接してくる城戸にペラペラと話す。彼が自分の気持ちを察しているから それに乗った部分はあるが、あっという間に城戸は色葉と蒼一郎の事情を全部 把握していく。後発キャラがヒーローと対等になるのは、このぐらいの情報収集能力が必要なんだろうけど、大体において こういう場合ヒロインの脇が甘くてイライラする展開になる。蒼一郎が神様として どれだけ崇め奉られているかの描写が少なすぎるため、なぜ色葉がセリナに相談できないのかも いまいち分からないまま。そしてセリナを無視することで男には頼る人間に色葉が見えてしまっている。親の再婚問題への配慮も含めて、全体的に本書は人との関係のバランス感覚が変。

セリナに相談しないから 唯一の相談相手の城戸に依存する。色葉の行動は全て裏目に出ている。

合宿の夜、強引な展開で色葉は蒼一郎の布団で見回りの教師から隠れる。作中でも指摘されているが これは『1巻』と同じ内容。気持ちが違うと言っているが、こういう お泊り回の定番イベントを利用しようとしたらネタが被っただけだろう。ベタなネタを安易に使うだけで作者に工夫の跡が見られない。

その後、謝罪と共に色葉は蒼一郎にスキンシップを試みて、彼の気持ちを引き出そうとするが、城戸に保留状態が一番 残酷と指摘されていた蒼一郎は、色葉に対して拒絶の意思を示すが…。