《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

日本のJKだった頃は空回りばかりのドジっ子ヒロイン、異世界 行ったら無双する。

ニブンノワン!王子 4 (花とゆめコミックス)
中村 世子(なかむら せいこ)
ニブンノワン!王子(ニブンノワン!おうじ)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

満天国へ向かう途中、シビの妨害に遭い都から遠く離れた所に落ちてしまった月子!青年・テテンに出会うがテテンはジンと同じ半人半犬で!? 満天国の人々に助けられ月子はジンのもとへ近づいていく★ 一方、ジンも月子が満天国に来ていると知って!?

簡潔完結感想文

  • ヒロインに実務的な能力がないが国母になれる慈愛は兼ね備えている。
  • またも半種の男性のアイデンティティを回復させて、モテるヒロイン。
  • 同じ世界に居るのなら その距離を縮めるまで。遠距離は自ら終わらせる。

月連載で遠距離恋愛を1巻以上続ける作者の英断、の 4巻。

『3巻』の中盤でヒロイン・月子(つきこ)と異世界の王子・ジンの遠距離恋愛異世界恋愛?)が始まった本書の遠距離が終わるのは『4巻』ラスト。私は完結後に1日1冊のペースで読んでいたから気にならなかったが、本書の連載形態と刊行ペースを考えれば、これは異色の展開であると言わざるを得ない。

その理由は本書が隔月誌の連載だから。この5話に亘る遠距離は現実時間では約1年に相当し、リアルタイムの雑誌読者も単行本購入者も彼らの遠距離恋愛が終了するのを約1年間 待ち続けていた。しかも その連載や刊行の間に現実では2011年03月に東日本大震災があり、読者の体感時間は数字以上のものであったのではないだろうか。
作者が1/4スペースに書いていたが、隔月誌は基本的に読切形式で1話完結型の話にしなくてはいけないらしい。だから このように会えない時間が長くなるのは異例の展開のはずだ。特に本書の場合、日本での2人は月子が失敗し、それをジンが大きな愛で包むという溺愛が恋愛の基本パターンで、それが読者に受けていた部分もあっただろうから、この方針の転換は大きな決断だったと思われる。

ジンと引き離すことで別のロマンスも生まれる。月子は半種を愛し、半種に愛されるヒロイン。

も結果的に2人を離れ離れにしたことや異世界・満天国(まんてんこく)に月子が単独で乗り込むことは大成功だったと思う。これまでは上述の通り、月子が未熟でもジンは愛するというパターンで、ともすると男性に寄りかかっているように見えることもあったが、単独行動によって月子の成長が一層 際立つようになった。また単純に世界が広がったことで、物語の世界観や人の思いの輪が連鎖し広がっていくことを実感できるようになった。
この国での差別の中で生きてきたジンと、今回 その差別を目の当たりにし、その解消に動き出す月子は やがて良い治世をもたらすことが予感されて、物語に光が差し込んでいた。特に月子はジンの妃としては まだまだ未熟だが、国民から愛される資質を持っていることが分かる。慈善事業など人と触れ合うことに長けているようで、それは将来的な国母になりうる予感を覚えた。日本ではダメダメでも、月子は異世界で輝くことが分かって純粋に彼女を応援したいという気持ちも芽生えた。

そんな月子の様子は勇者じゃないけどRPG感(または水戸黄門)が凄い。行く先々のトラブルを解決していき、市井の人々の暮らしと価値観に触れることで王子の嫁としての覚悟と能力、そして地域住民からの支持を受けていく。その活躍は長らく その土地で語られ続け、それが草の根的に王族の支持に繋がっていくと思われる。
今回 描かれるのは2つの土地での半種にまつわるエピソードだったが、月子は これから色々な土地を回って、半種に対する偏見と差別を撲滅するために動くだろう。

あとは日本では学校など同年代の男性の存在感がゼロだったが(ジンに完敗するからだろう)、異世界では新たなに半種の男性が登場し、月子が無自覚ヒロインになっている。日本では無能だったが、異世界では半種にモテるというのが月子の隠された資質だったのだろうか(笑)


ンに会いに行くために異世界・満天国への道を歩いている途中、ジンの異母弟・シビによって王宮ではない場所に飛ばされてしまった月子。

そんな彼女が出会ったのがジンと同じく半種のテテンという男性。その幼なじみである女性(犬)のシャオによって、国民の大半を占める犬の姿ではなく、人の姿をしていることから王族だと思われてしまう。
テテンの父親(犬)が村長であることから、事情を説明する流れになるが、王子・ジンの名前を出したり目的を正直に話すことで、悪目立ちして自由を奪われる可能性を考えた月子は口ごもる。第一、この国の事情や地理を知らない月子は自分がどこに向かうべきかも分からない。

月子の混乱を気遣ってくれるのはテテン。だが この一帯の市長は差別主義者で、半種であるテテンに対して酷い言動を取る。彼の身を案じた月子が市長の前に出ると、権力に おもねるタイプの市長は月子を どこぞの王族の子女だと思い込む。そこにテテンが月子を記憶喪失設定にしてしまい自分の嫁にすると言い出す。そうすることで市長による月子への身元調査から逃れるというのがテテンの考えで会った。月子は半種と会うと婚約者にされてしまう運命なのだろうか…。


、テテンが見回りに行くことを疑問に思った月子は彼の目的を父親である村長から聞く。その裏には あの市長の半種への差別があり、その引き金になっているテテンは自分の危険を顧みず村を守ろうとしていた。そしてテテンは村長の本当の息子ではない。彼こそ どこかの王族の血を引いており、何か理由があって捨てられたらしい。
テテンは自分の存在が村にとって不利益であることに思い悩み、その姿は月子にジンを思い出させた。だがジンの姿を見てきた月子には半種だからといって差別される無意味さが分かっており、テテンのアイデンティティを否定しない。

彼から王都は西にあると聞かされた月子は興奮して眠れない。眠れずに夜中に村を歩いていると市長の放火現場を目撃する。テテンが市長を制圧するが、それにより彼が罰せられる可能性が出てきた。そこで月子は一計を案じ、そしてジンから贈られた金の指輪を使い、市長を退散させる。今回の件は問題に対し月子が独力で良い方向に導いた最初の事例ではないか。彼女の存在によって救われた土地・人がいる。異世界いったら無双するタイプの女子高生なのかもしれない。

その後、月子は村人に見送られ西へと一人で歩き出す。しかし彼らから貰った食料の中にテテンが入っており、彼との道行(みちゆき)となる。序盤はジンも鞄の中に入っていたなぁ…。テテンは自分のアイデンティティを取り戻してくれた月子が気に入った様子。これは完全にジンと同じコースを歩いている気がする。やはり聖女な女子高生は半種に好かれるのか。だがテテンは半種であるため人間の男女でもあるから、2人には安全装置が付けられる。実家では姉が その役目を担っていたが、今回はシャオがテテンの制御役となっている。


点はジンに移る。ジンは長らく悩まされた半種特有の「渦」から復活し、月子のために装束を用意したり、事故の処理を終えたら すぐにでも迎える準備がある。そしてジンによって配られた月子からの医薬品は国民たちの心を掴み、彼女への醜聞は消えつつあった。

そんな時、父である国王から呼び出される。そして そこでジンは初めて月子の飼い犬の首輪になっていたはずの嫁選びの道具である宝玉輪(ほうぎょくりん)が国王の手の内にあることを知り、顔色を変える。それは嫁の再選考を意味しており、思わずジンは異世界・日本に通じる門を確かめる。だが国王によって その門は閉ざされ、父は月子の存在を否定する。

そして父は息子の嫁候補への執着に異常を感じていた。王子としての立場より私(わたくし)としての感情を優先していることが王から見れば王子としての覚悟の不足に見えるのだろうか。それにしても王は割とジンのことをよく知っている。彼が嫁を選ぶ基準とか、わざわざ嫁を見に行くとか、ジンの父親評とは反対に割と子煩悩な父親にも見える。それはジンには見えない側面なのかもしれない。

だが父親は国王として妃でなくても良いから側室に子供を産ませる考えを提示する。それが国を脈々と続ける責任ある立場の義務なのである。

顔は険しいが息子の理想の女性像や想い人に関して詳しすぎる父王。さては息子のこと好きだな??

私の間で揺れるジン。だが彼には自分以上に自分を分かってくれる側近のガクがいて、彼はジンと月子が この国に新たな風をもたらすと信じてくれている。そしてジンの指には月子から贈られた指輪が輝いており、ジンは その指輪の輝きを自分の愛情を信じて進むことにする。

だから月子との人生を捨てず、その上で この国を繁栄させると父に誓う。そして世継ぎ問題は異母弟のシビにも担わせる。そして最後に月子と一緒に異世界ロードを通っていた家臣たちによって、月子が この国の どこかに落下したことを聞かされる。以前と違い2人は同じ世界にいる。だが、彼らを隔てる距離や立場は果たしなく遠い。だから それを埋めるために2人は生きることになる。


都へ向かう月子はシャオたちに お金を借りる生活。3人の旅費はバカにならないので宿にも入れない。これは現代JKの月子には堪える生活だが、これも花嫁修行の一環と思えなくもない。

しかもテテンが半種特有の「渦」になり、足止めを食らう。テテンの渦は、体調不良を起こすジンの それとは違い、酔っ払いモードで甘えまくるというもの。そんなテテンを目撃した街の者に月子は声を掛けられる。招待された家は街の長者の家で、彼らが呼ばれたのは この家に生まれた子供が半種で、自分が半種を産んだ妻が悩んでいるという相談だった。

半種は生まれた時から祝福されない現実を目の当たりにして、月子はジンのことを考える。そしてテテンもまた同じであると考え、彼に話を聞く。テテンは捨てられていた時に一房の毛髪が添えられていたという。彼を育てた養父の考えでは それは母親のものだという。それを母からの忘れないで、というメッセージだと月子は自分の考えをテテンに伝える。あぁ こうやって また半種の自尊心を無自覚に回復するから、月子は半種からモテるのだ、と思う。

月子は新しく半種を授かった この家の人にジンの治世になれば半種への偏見がなくなると伝えたが、先行きの不安や半種特有の渦を悲観した母親は生まれた子の未来を奪おうとする。それを止めるのは半種の先輩のテテン。彼は自分が不幸ではなく、育ててくれた親、そして村の人々の優しさの中に生きていることを伝える。そして母親に彼女を心配してくれる優しい人たちがいること気づかせる。月子もまた見せてもらった半種の赤ちゃんに惜しみない愛情を注ぎ、母親の心を軽くする。そして彼女の偏見のない接し方にテテンは また月子に惹かれていくのだった。

この村での問題が解決した後、月子は道を間違えていることを聞かされる。だが この街はジンが帰国する契機となった建設現場の事故があった場所から ほど近いことを知り、月子は そこを目指す。時、同じくしてジンもまた月子の情報を得るため、労働者が集まる その土地へ向かうため王宮から脱出することを企てていた。


ンは半種だから荷物や人に紛れることが出来る。これは日本の時も同じだった。そして半種だから庶民である犬たちと同じ立場で交流できるのも強み。だからジンは犬の姿のまま労働者と共に肉体労働をこなし、情報を得ようとする。やがてジンはテテンの出身の村で「半種調査員」という女性が指輪を見せていた、という情報を得る。だからジンは翌日にでもテテンのいた村に発とうするが、それはつまり月子とすれ違うことを意味した。

その頃、月子は既に事故のあった街に到着していた。実は この街にいるジンとは接触できていないが、自分がジンに渡した医療セットが市井の人々に行き渡り、そして大事にされていることを知り涙を流す。そして自分も誰かの役に立ちたいと願い、この街で自分の出来ることを探し始める。そこで見つけたのが子守り。

だが旅の疲れと奮闘が原因で月子は高熱を出してしまう。ジンに会えないまま すれ違ってしまうのかと思われたが、月子が子守りをしていた子供たちが役人に見つかり、子供たちは月子の存在を隠そうとして逆に怪しまれてしまう。テテンたちは訳ありらしい月子が役人に見つかる前に出立しようとするが、月子はジンから贈られた指輪が ないことに気づく。それを持ち出したのは月子に この街に居て欲しい子供の1人。

その子供は建設中の橋の足場に上り、その子を追って月子も高所へと進む。子供を説得して安心させて指輪を返却してもらう月子だが、体調不良のせいでバランスを崩し、落下の危機。そこに現れるのがテテンの村への出発前に現場を見に来たジン。高所から落ちるヒロインを助けるという久々にヒーローとしての仕事を果たし、彼らは再会する。