《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

印籠代わりに笑顔を出せば全てが許される 少女漫画界の水戸黄門。目的なく続く日常回。

幸福喫茶3丁目 2 (花とゆめコミックス)
松月 滉(まつづき こう)
幸福喫茶3丁目(シアワセきっさ3ちょうめ)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

無愛想魔王だけどお菓子作りは鉄人並みの進藤さん&空腹即爆睡の変人・一郎くんにも慣れ、元気&笑顔でカフェ・ボヌールのバイトに励む潤(うる)。今日も進藤さんのケーキで幸せになる女の子を見て、潤の心はなんだかあったか☆ そんなある日、嫌がらせをする謎の兄弟が現れて…!?

簡潔完結感想文

  • イケメン兄弟を新キャラに迎え お菓子対決。進藤さんの立ち位置がブレブレで気になる。
  • 無自覚最強ヒロインは その笑顔で黒髪の男性2人を照れさせる。当て馬は簡単に発情する。
  • 36歳の女性も中学生も見た目が同じ。年上に見える中学生のデビュー作も そうは見えない。

ロインの1人暮らしが続く限り、作品も終わらない!? の 2巻。

『2巻』は5号連続の短期連載分が収録されている。最後にヒロインの母親が、家を出て1人暮らしをする娘に その継続を許可するが、これは作者が連載の継続を許可されたことと連動しているのかな。だとするとヒロインが1人暮らしを終える時は、作品が終わる時なのだろうか。

登場人物は増える一方で、今回から安倍川(あべかわ)兄弟の柏(かしわ)と草(そう)+ α が正式に参加し、ますます舞台となるカフェ・ボヌール周辺は賑やかになる。ヒロイン・潤(うる)の笑顔も健在で、彼女の笑顔に魅了される者が続き、男性(イケメン限定)だけでなく、女性からの熱烈な支持も集めるという最初からヒロインが頂点に君臨する物語になっている。

ここが好き嫌いの別れるところだろう。潤は確かに いい子である。ただ一方で、潤のために周囲の人間が何でもしてあげているのが気になる。そして彼女の願望だけが叶えられる世界観も、物語から一歩引いて見ると冷めてしまう。

『1巻』の感想でも書いたが、特に母の再婚を機に家を飛び出した潤の行動は別に美談でも何でもない。気分的に悲劇のヒロインになって説明不足で家を出ただけ。バイト代だけで自立できる訳がないのに家に帰らない彼女の姿勢も頑なだ。せめて両親の再婚をしっかりと祝うとか、これまでの態度を扶養者に謝罪するとか そういう場面があれば潤の冷静な立ち回り方を好きになれるのだが、それがない。
親と暮らして本当の親子になることが潤がすべきことで、それが両親を安心させるのに、結局、一緒に住みたくないと言わんばかりに両親と距離を取るのが 良く分からない。
1人暮らし(しかもイケメンが隣人)というシチュエーションが大事なのは分かるが、潤と作品は もう少し きっちりと この問題に向かうべきではないか。そういう優れたバランス感覚があれば本書をもっと好きになっただろう。

また、本書の特徴として子供に優しくすることが絶対的な優しさの指標になっているのが気になる。客商売だからといって店側は子供のワガママを聞けば いいというものでも ないだろう。作品全体で子供の存在を都合よく利用している。


して話を前に進ませるために キャラがブレブレなのが気になった。

今回、上述の安倍川兄弟との お菓子対決が繰り広げられるのだが、そこでの進藤(しんどう)の立ち位置を作者は見失っている。勝負を吹っ掛けられた当初は「客に食べて貰うのに 勝ちだの負けだのつけることじゃねーだろ!!」と啖呵を切った進藤。だが いつの間にかに勝負に前向きで中盤には「勝ちゃいいだけの話」と言い出す。
それなのに勝負を美談にするためなのか最後には「俺は 最初(ハナ)から客 喜ばすこと以外 考えてねーんだっつーの」という展開になるのが意味不明。本書は真面目に読んだら負けなのかな、と本気で思った。

(右)と言ってたのに(左)に転向。そして結局(右)に戻って右往左往する情けない進藤。

本書において進藤はブレちゃいけない人で、彼が抱えているものや思想を どう表現するかが彼の人生を投影することになると思うのだが、どうにも浅い。ツッコみにしても「殺すぞ」とか進藤に言わせないで欲しいなぁ。進藤側には禁止事項をたくさん作って、彼がナイーブに生きていることを示すと もっと進藤という人間が際立ったと思う。そこを深く考えず、全てノリで壊してしまっているような気がする。

そもそもの勝負の始まりも安倍川兄弟の嫌がらせも私怨だ。高校生という年齢や、実家が客商売をしていること、それに誇りと喜びを持っている彼らが本書で描かれているような幼稚で悪質な悪戯はしないと思えないのだが、作者は話の都合上から それをさせている。悪い人に見えて そんなに悪い人じゃないという転換を描きたいのだろうが、いやいや悪い人でしょ、と悪戯が帳消しにならないレベルなのは失敗だろう。

上述の潤もそうだが、本書の登場人物たちが自分の正義と思ってやっていることが、全然 正義とは思えない。それは結局 娘に1人暮らしを認めてしまう潤の母親も同じ。もっと心底「粋」だなぁ、という言動が欲しいが、本書には期待できないか。


藤がパティシエを目指したのは、自分を育ててくれた この店の店長の影響。店長の手際を魔法みたいだと思ったことが全ての始まり。今は潤が進藤のケーキ作りを見て魔法使いと表現している。この2人は感性が似ているという話でもあるのだろうか。

そんな店長が作ったボヌールに安倍川兄弟が初来店。商店街の和菓子屋の息子たちである彼らがここに来たのは敵情視察。初登場の彼らは態度が悪い。そして悪戯では済まされない業務妨害をしている。まさか この後、超純情少年になるとは思いもしなかったなぁ。

近日、商店街のイベントがあり、ボヌールは いつの間にかに参加することになっていた。そう手続きしたのは安倍川兄弟。彼らはボヌールが自分たちの実家の和菓子屋の客を奪ったと考え、一方的な恨みを募らせていた。更には兄弟の兄・柏は進藤に個人的な恨みがあると言う。

この兄弟は それぞれの店が新作メニューを作り、多く売った方を勝者とする勝負を挑む。もしボヌールが負けたら店を畳めと要求する。勝ったら何でも言うことを聞くという条件。兄弟が負けた時、実家を廃業させる覚悟があるか怪しいものだ。

進藤は勝負自体を否定し、挑発に乗らない。だが弟に喧嘩を売られた潤が それを買ってしまい勝負が始まる。

そういえばボヌールは この地に出店して どのくらい経っているのだろうか。安倍川兄弟の言い分からすると、新規出店のような雰囲気だが。店を出すにあたっての紆余曲折(店名決定などの流れ)を読んでみたかった。でも作者は話を横に横に広げるばかりで、結果 収拾をつかなくさせている印象ばかりが残る。

ライバル店で第一印象は最悪だったのに いつの間にかに恋に落ちてる…!? 当て馬だけがね☆

負の土俵に乗ってしまった潤は、自分の足で和菓子屋「あべかわや」に向かう。ボヌールのバイトの面接の時は店内にすら入らず志望したのに、今回は熱心だ。

店番をしていたのは弟・草。早速、潤のスパイ行為は筒抜けになる。そして どうやら この店の和菓子は兄が作っているらしい。20歳の進藤といい、読者たちの年齢まで職人たちの年齢を下げているようだ。彼らも進藤と同じように お菓子作りや自分の店に誇りと喜びを持っているのにすれ違ってしまうことに潤は悩む。

そこで彼らにボヌールの、進藤のケーキを食べてもらって相互理解を深めようと計画する。潤のような人がいれば争いも戦争もなくなるだろう。本書において潤の笑顔は無敵で、それを見てしまった草は早くも心を奪われる。

ただ和菓子を買って相手を理解をする潤の目論見なのに、進藤は潤が和菓子を買ったことをスパイ行為と思い「下手な小細工」と言い切っているのが謎。潤の真意を理解しないまま、問答無用に勝てばいいと好戦的な立場にいつの間にかになっている。話の繋がりが変。


うして なぜか勝負に前向きになった進藤がイベントに向けて商品開発をするはずが、潤を庇ったため右手を怪我してしまう。対決まで あと3日でボヌールは大ピンチ。

いやいや、本来 ボヌール側には争う理由もなかったんだから、進藤の負傷による不戦敗でもいいじゃないか。潤は戦わず和解する道を模索したんじゃないのか、と話の不自然な流れが気になる。

潤は不器用で進藤の代わりにならず、一郎(いちろう)は器用なのだが、エネルギーが切れると役に立たない。なので高校生バイトたちは互いにフォローする形で1人前になる。だが実は潤も足を怪我しており我慢していた…! 作者としては、この潤の怪我の我慢を彼女の努力として受け取って欲しいのだろうか。あんまり意味のない怪我である。

安倍川兄弟は売り子の人数を制限するなど、ルールがないのに反則はあるという謎の こだわりを見せる。当日は潤も好戦的になっているし、本当に する意味が良く分からない対決だ。


後には、潤のアイデアにヒントを貰った進藤が、和洋折衷の抹茶のパウンドケーキを和菓子屋の兄・柏と完成させる。この協力が両者の壁を取り払う。

こうして勝敗が自然消滅していく雰囲気の中、柏がどうして進藤を恨んでいるのかが明かされる。それは妹の さくら が、ここ最近ボヌールの話題ばかり出すから逆恨みしていただけだった。だが さくら が好きなのは潤。蜜香(みつか)といい同性からも愛される最強ヒロインだ。ちなみに さくら は1話から登場していた少女である。その内 蜜香にも きょうだい が続々と設定されるかもしれない。

潤の怪我や、彼女の言っても止めない性格はイケメンたちにはお見通し。片付けは男性たちに任せ、女王である潤は隣人でもある進藤に背負われて帰る。この頃の潤は まだ少し恋愛モードである。いつから完全に不感症になるのだったかしら。


の母親がボヌールに初来店する。母が、進藤から挨拶して一郎には形式的なのは、結局、本書のヒーローは進藤ということなのだろう。

来店の理由は、潤がしっかり生活・バイトしているかをチェックするため。役に立っている所を見せなくては、と潤は緊張する。そんな潤をフォローするのは2人のイケメン。母親の話ではないが、こういう設定が読者に受けるのだろう。

だが母は厳しい言葉を潤に投げる…。

その言葉に店を出た潤は、さくら と草に会う。ここで さくら は柏・草兄弟とは異母兄妹だということが明かされる。潤、進藤ときて安倍川家も複雑な事情を用意している。果たして必要あったのか謎だが。作者は親の再婚が子供にとって大きなドラマであると考えているようだ。

潤が元気がないことを見抜いた草は、一郎との因縁を話し、彼女を元気づけようとする。なんと一郎は草にとって初恋の人で、告白してしまったという。幼稚園生当時から綺麗な容貌をしていた一郎を草は女の子だと間違えたのだ。

しかし潤は その笑顔で誰でも魅了し、笑顔が失われれば主に男性陣が彼女を過保護に元気づけるなぁ。至れり尽くせりで、実は潤は何もしていないように見えてきた。

潤の母親は、親子で父親の不在を乗り越えてきたのに、潤が家を出てしまったことが さみしかった。だが進藤は母親に対し、潤が家を出たのは今の両親の幸せを願ってのことだと告げる。潤の自立は両親を安心させたかったから(どうしても金銭面は頼ってる部分があるから自己満足に見えるけれど)。

こうして母から1人暮らし継続の許可が出た。まだまだ連載も継続するようだ。

「推定青年少女」…
作者のデビュー作。14歳だがフケ顔+170センチの長身で母親と よく間違えられる詩帆(しほ)。だが新聞の集金に来た男性だけは詩帆を一目で若いと判断してくれた。それが「何年ぶり」に母と間違えられなかった嬉しい出来事になる。いや何年かぶり、って…。例えば11歳で30代に見える人がいるだろうか。キャラ付けし過ぎて話を盛っている気がしてならない。

新聞屋の男性の方は童顔で19歳には見えないという逆パターン。そんな彼は人間 中身だと詩帆に教えてくれる。だが彼の方に女の影が見えてショックを受けた詩帆。更には別の新聞社のしつこい勧誘にピンチ、というところにヒーローが参上し、誤解も解ける。こうして見た目と年齢のギャップに悩む男女は胸を張って生きる。

でも この話の一番の問題は、一般の19歳は14歳を相手にしないという年齢差という現実ではないだろうか。これで手を出したら怖いよ。