里中 実華(さとなか みか)
雛鳥のワルツ(ひなどりのワルツ)
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
女子校育ちで男子が大の苦手!なひな子。でも、入った高校は女子が4人しかいない元・男子校だった! 隣の席の瑞希にはからかわれ、委員長の駿には冷たい目を向けられ、散々な目に遭う。ひな子が恋する日はくるのか!? どうなるスクールライフ!!?
簡潔完結感想文
- 同学年の男女比は50:1ぐらいだが、主要キャラ6人の男女比は1:2で女性優位。
- 花ざかりな学園生活なのはいいが、そんなことよりヒロインの家庭は大丈夫なの⁉
- イベントで彼の性格や背景を知る。甲乙つけがたいから始まる恋愛エンドレスワルツ。
突然の環境変化でも自分を見失わない作者とヒロイン、の 1巻。
本書のヒロイン・百瀬ひな子(ももせ ひなこ)は、幼稚園から女子校育ちで、しかも子供の頃、公園で男の子に怪我をさせられた過去があるため男性が苦手。そんな ひな子が高校進学時に親に頼まれ、エスカレーター式の私立校から公立校へと進むことになった。しかも ひな子の入学した年度から共学になったため、集まった女子生徒の数が極端に少ない。その数 たったの4人。
そこから続々とイケメンたちに囲まれる逆ハーレムの「花ざかり」な高校生ライフが始まるかと思いきや、本書ではイケメンは たった2人。それ以外はモブである。おそらく男子生徒は3学年で600人ぐらいいるだろうが、2人以外はモブ。もはや清々しい。
1人は女性嫌いを公言する学年首席でクラス委員長の椎名 駿(しいな しゅん)。そして もう1人は いつも ひな子のことを見つめ、彼女の心の状態を優しく見守ってくれる和久井 瑞希(わくい みずき)。
この2人の男性とヒロインの恋愛初心者たちでお送りする三角関係が描かれる。各話それぞれに その人を好きになっていく/近づいていくエピソードがあり、それが最後まで描かれエンドレスなワルツとしてリズムを刻む。
ヒロインは苦手な男子生徒たちに囲まれながらも、友人のため、女性の権利のため立ち上がる。どんな状況にあっても、自分が得意ではない男性たちにも、臆することなく物が言える ひな子の姿に彼女本来の強さが見られた。
2人の男性たちが、それぞれに彼女の強さを見ることで彼女を好きになったり、一目置いたりするのは当然の流れのように思える。モテモテ逆ハーレム漫画にはならず、ヒロインの良さを分かる最小限の人だけがヒロインに関わるから、作品の品が保たれていたように思う。
そして予想外の展開で強さを発揮したのは作者も同じ。恐らく本書の連載開始時には作品が全9巻に達するなんて思っていなかっただろう。でも その中でも毎号の面白さに加えて、全体の構成が しっかりとした作品を作者は完成させた。こうやってチャンスに確実に結果を残す人が、長編作家として認められていくのだろう。本書の後も連載作品を発表し続けている作者の実力が十分に発揮された作品と言えよう。
特に本書は、連載の好評で多少の引き延ばし感はあったものの、新キャラや友人の恋など余計な要素を一切 追加しなかった所に好感を持った。徹頭徹尾、ヒロインの恋の成就までを描いた所に私は大変 気に入った。
あれっ、掲載誌は『りぼん』だったかな!?と思うぐらい平和な内容である(実際は『マーガレット』)。
更には本書の設定から2つの『りぼん』作品を連想したからだろう。女子生徒が少ない高校に入るという点では酒井まゆ さん『ロッキン★ヘブン』、最後まで続く三角関係という点では春田なな さん『スターダスト★ウインク』を連想した。
また男性が苦手なのに男子校状態の学校に入ってしまう導入部は、同じく『マーガレット』作品の ななじ眺さん『コイバナ!』に似ていると思った。
このように既視感溢れる作品だったが、それでも楽しかったのは、やはり作者が描きたい内容を描き切っていると感じられたからだろう。良い意味で『りぼん』っぽい品行方正さを保ったまま、読者を飽きさせない展開を用意している点が好きだ。
それにしても気になるのはヒロインの恋愛、ではなくヒロインの家庭である。
ひな子が私立校から公立校へ進んだのは、親に学費のことを言われたから。
どうやら ひな子の学費が家計を圧迫しているらしい。もちろん ひな子がエスカレーターを降りたのは、少女漫画的に面白い特殊環境にヒロインを投入するためなのは分かるが、リアルに考えると、急に学費が払えなくなった、ひな子と その家庭は なかなか辛いものがある。
しかも どうも ひな子は1人っ子である。これによって ひな子が幼稚園に入った時から家族構成が変わらず、下に弟妹が生まれて新たな支出が増えた訳ではないことが分かる。要するに ただただ世帯の収入が減ったのか。もしくは親の収入が当初の予想ほど伸びず、住宅ローンなどの返済に首が回らなくなったか。そこで切り詰められるのが ひな子の学費だったという…。単なる胸キュンの恋愛漫画かと思ったけど、実は泣ける漫画なのかもしれない。
特に ひな子は幼稚園から私立校に通うほど裕福だったと予想されるから、この生活レベルの落とし方は堪えるのではないか。
まぁ そんな一切の描写は無いですけど…。
いきなり男子生徒たちの中に放り込まれた ひな子だが、彼女の安心材料は ただ一つ、幼なじみの華(はな)が同じ学校にいること。彼女もまた私立の女子校から この共学校に進学した人である。華の場合は、この進学で窮屈な女子校生活から抜け出したかったのかもしれない。更に授業の関係などから女子生徒4人は全員1クラスにまとめられている。
そんな男性が苦手な ひな子が目についた男性は2人。1人は その姿に目を奪われた雰囲気がキレイな男子生徒・椎名駿。そして もう1人は隣の席になった男子生徒・和久井瑞希だった。
椎名は ひな子の逆で女性嫌いを公言する人で、自分の都合を優先する冷淡な人物に見える。一方、和久井は ひな子との距離感をグッと縮めてくる。グイグイくる和久井のお陰で ひな子の男性恐怖症も治るかもしれない。
ひな子は女子生徒たちで行動する分には気が楽なのだが、いかんせん この学校では女子生徒が貴重で、しかも友人たちは男子生徒に受けが良いタイプなので、盗撮という実害も出てくる。
幼なじみの華の更衣室での着替えを盗撮され、ひな子は盗撮犯の討伐に向かう。盗撮犯を追い詰めた ひな子だが、武器として持っていたホウキを いとも簡単に掴まれ、そして自分も着替えの途中で肌の露出が多いことを指摘され、羞恥の気持ちが大きくなる。
男性への苦手意識から身動きが取れなくなった彼女のピンチを救ったのが椎名。自分の制服を ひな子に被せ、彼女への男子生徒たちの注目を外す。
といっても助けに対する感謝を述べる ひな子に対して椎名は塩対応。自分の行動は騒ぎを治めただけであって、ひな子個人を助けた訳じゃないから「うぬぼれるな」と去っていく。解釈の仕方によっては、ツンデレにも思えなくないが。「べっ、べつに あんなのことを助けた訳じゃないんだからねッ!!」。
そして和久井も、先輩のスマホから画像を しっかり削除する正義感を見せる(この方法じゃ ゴミ箱から復活するような気もするが…)。ひな子は和久井のヒーロー行動を翌日に知る。この一連の騒動で ひな子にとってヒーローになった2人が彼女と恋をする資格を手にしたと言えよう。
続いては学校イベント宿泊研修なのだが、出発前から男女で揉める。
それが班決めで。女子生徒4人が、それぞれ別の班になりそうなところを、椎名が1つの班に まとめるように進言する。これも女子生徒の利益ため ではなく、女性が苦手な彼が自分が一緒の班にならないようという自己防衛である。椎名は なかなかの俺様ヒーローと言える。
その後、班決めの方法で男女での話し合いは平行線になり、苛立つ男子生徒が女性の権利を蹂躙する発言をしたことで、ひな子との長距離走対決が始まる。男子生徒も自分の欲望に素直になって、女子生徒と一緒の班になりたい、青春したい と言えばいいのに。
だが対決では、男子生徒の足が予想以上に速く、先にスタートしたはずの ひな子は追い抜かれ、無理をしたために ひな子は倒れてしまう。その救護に椎名が指名されるが、彼の女性嫌いが発動し、お姫様抱っこをして保健室に連れていくのは和久井の役割となる。
こうして和久井は ひな子の一生懸命さや、目の離せないところに惹かれ始める。
そして始まる宿泊研修。結局、女子生徒は4人共別の班に振り分けられた。
ひな子は和久井と同じ班だが、お姫様抱っこの件を聞いてから恥ずかしさのあまり、彼と接することが出来ない。ちなみに椎名とも同じ班だが、自分を嫌っているかのような彼の態度に意気消沈する。近づいてくる男も対処に困るが、遠ざかる男にも悩まされる ひな子。
この研修ではスタンプラリーがあり、ひな子は椎名と2人1組でスタンプ捜索に出る。続く沈黙を嫌ってか、男性が苦手な ひな子の方から話かけている。
だが やる気は空回りし、ひな子は階段を滑り落ちてしまう。そんな ひな子に椎名が血相を変えて飛んでくる。これは予想外の反応だ。無傷と分かるまで椎名は心配し続けるが、無傷と分かると一転して ひな子のドジを責める。
その割に足を痛めた ひな子のために自分のバッグの中身を全部出して、湿布を差し出すし、歩きづらそうな ひな子に対して、服になら つかまってもいい、という妥協案を見せる。冷たいだけじゃない、彼の中の温度が コロコロ変わるのが また彼のことが気になってしまう要因である。椎名は なかなか小悪魔的な部分を持っている。
ちなみに椎名のバッグには お菓子が詰め込まれている。どうやら彼は駄菓子屋が好きらしい。そして几帳面そうに見えて雑に荷物を詰め込んでいるのも意外な発見だろう。この日1日で椎名の意外な面を見た ひな子は、椎名を意識し始める。
こうして和久井 → ひな子、と順調に好意を持ち始めるが、椎名に関しては当分 先だろう。
和久井は ひな子と椎名の距離の接近を敏感に察知する。だから和久井は ひな子に明確なアプローチを始める。こうして意識的な大胆な行動は和久井に任される。
恋愛に不慣れな和久井が なぜ こんなに積極的なのかといえば和久井と椎名が同じ中学出身で、和久井が椎名を気に入らないのは「…俺がいいなって思った子 アイツに惚れるから…」という理由だった。だから ひな子に関しては手遅れになる前に自分からグイグイいく方針にしたのだろう。過去の連続の敗戦があるから、序盤から和久井が「当て馬」認定されるのではないだろうか。
風呂上がり、女子生徒たちは それぞれ単独行動を取り、ひな子は1人になる。そこで自分の荷物の中に椎名のメガネが入っていることに気づき、彼に返却しに行く。どうやらスタンプラリー中の怪我の騒動で混じってしまったらしい。
男子生徒たちを避け、隠密行動で男子部屋に侵入する ひな子。そこへ椎名が現れるが、コンタクトを取った裸眼の彼には ひな子が男子生徒に見えるらしい。ひな子は無防備に肌を露出させる椎名に慌てるが、椎名から身体を接近させてきて、彼は ひな子の匂いも嗅ぎ取る。
だがメガネを返却すると彼は慌てふためく。慌ててジャージのファスナーを上げている様子は、自分の胸部を男子生徒が見ていることに気づいた時の行動そのものである。キャッ!!という声が聞こえてきそうである。女嫌いの彼にとって、自分から顔を接近させることなど あってはならないことなのだろう。
和久井は いつも ひな子の行動の先に椎名がいることに腹を立て、ひな子とデートをすると決める。待ち合わせ時間を勝手に決め、来るまで待つと告げ、半強制的に ひな子を参加させるように仕向ける和久井。ひな子も和久井の連絡先を知らないため、当日は待ち合わせ場所に行かざるを得ない。
合流した ひな子の緊張を察した和久井は、この日はデートではなく、ただのクラスメイトとして遊ぶことに務める。身体を動かすのが好きな ひな子と各種目で勝負しながら ひな子に緊張を忘れさせた。ここで ひな子は和久井に双子の弟妹がいることを知る。ちなみに和久井の家は母子家庭で、和久井が双子の面倒を見ているとい
和久井のお陰で 想像以上に楽しい1日を過ごせた ひな子。そして和久井も初めて女性と過ごす1日で、その緊張もあるのに、彼は ひな子のために色々と考えてくれたことを ひな子は知る。どこまでも優しい太陽のような人である。
その翌日、ひな子は男子生徒に呼び出され、ラブレターを渡された。ひな子にモテ期到来かと思われたが、ひな子は仲介役で、本命は華ということが分かる。
だが ひな子は、直接渡した方が嬉しいと彼にラブレターを返却する。しかし当人には渡せるわけないと逆ギレする。その険悪な雰囲気に椎名が委員長として授業のノートの回収に来た。一連の流れを見てい椎名には相手を思い遣る ひな子の優しさも見えていただろう。
椎名の参入により ひな子への害はなくなったが、男子生徒はラブレターを破いてしまった。だが放課後、1人で その修復を試みる ひな子。なぜなら自分の余計な お節介ので、男子生徒が頑張って書いたラブレターを台無しにしてしまったと考えるから。
その姿を見た和久井は一緒に修復をし、その中の「好き」「です。」という部分をひな子に見せて、自分の気持ちを伝えてきて…。
いきなり展開が早いのも読者としては嬉しい。北風と太陽のような2人に、ひな子という旅人は どういうリアクションを取るのか、そして この旅の決着はどうなるのか、早くも楽しみになった内容充実の『1巻』である。