《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

制服目的で学校を選択したように、青春目的でクラス改革。恋愛は副産物に過ぎない。

ロッキン★ヘブン 1 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
酒井 まゆ(さかい まゆ)
ロッキン★ヘブン
第01巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

制服に憧れて天羽学院に入学した紗和。しかし、そこは元男子校でクラスは男だらけの無法地帯だった!! イジワルばかりする彼らに紗和は反抗して…?

簡潔完結感想文

  • 無意識の逆ハーレム。気が付いたらクラスは生意気ざかりの君たちのイケメンパラダイス。
  • 「ゴミ組」謎の結束。異邦人の主人公がクラスの過去にまつわる謎を解き明かすミステリ。
  • 努力は必ず報われる。イベントに並々ならぬ熱意を燃やせ。血と汗の染み込んだゼッケン。

愛も青春も相手を矯正してから始まる 1巻。

清く正しい少女漫画です。
小学生が読んでいても全く問題のない種類の漫画です。
「りぼん」の正統派と言っていい前向きな主人公が、恋に青春に全力疾走しています。

ただ、余りにも正統派すぎて本書ならではのオリジナリティに欠けるようにも思えた。

男装などはしないが、女子が男子の群れの中に入っていく様は少女漫画の典型パターンですし、
男子生徒の意識を女性が捨て身の奮闘で変えていくという展開も既視感がある。
ヒットする要素ばかりで作られた作品である。

私の中で連想したのは
本書の連載時にはドラマ化はされていなかったが原作漫画は既にあった「花ざかりの君たちへ」と、
原作漫画・テレビドラマが当時 大ヒットしていた「ごくせん」です。
その内容を足して二で割ったような印象を受けた。

高校生という設定の割には話が狭い世界で完結していると思ったが、
最終回を読んで、それこそが作者の狙いだと分かった時にはカタルシスを覚えた。

『1巻』では その狭い世界であるクラス内の変化が描かれる。

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主人公だから口には出さないけど、可愛い制服を着こなす可愛い私という自意識が見える。

人公の小西 紗和(こにし さわ)は15歳。
天羽(あまばね)学院高等部の新1年生。
4月に入ると同時に新しい家に引っ越してきたという設定。

だが制服名鑑のみで学校を選んだ彼女には知らないことが1つあった。
それが この学校が去年まで男子校だったこと。
そこから二重の意味での異邦人生活が始まる。

ちなみに新しい家の周辺では事件は起きません。
本書の舞台は高校の、更に言えば紗和が在籍する1年G組のみ。
世界は教室の広さに等しい。

1年G組に女子生徒は2人のみ。
といっても学校の中には女子生徒は いることはいる。
ただし紗和は他生徒と ほとんど交流を持たない。
彼女の興味は自分のクラスだけ。

途中参加の新キャラまでも、このクラスに転校してくるから
単純に逆ハーレムのイケメンパラダイスを作りたかったのかな、と思ったが、
紗和にとって高校生活はクラスの親密度が高く、充実した学校イベントを送ることと同義であった。

本書は間違いなく恋愛漫画であるが、その前に青春漫画である。
恋愛は青春の中の一要素に過ぎない。

結構早い段階で恋愛要素が淡白になっていくが、
それでも読み続けられるほどクラスメイトたちが活躍する。

紗和が この学校を元・男子校だと知らなかったのは とんでもない ご都合主義であり、
彼女の頭が お花畑だという証拠である。

制服という自分を装うツールこそが目的で、偏差値などは関係ない。

そう考えると紗和は結構なナルシストのように思う。
制服の似合い方を自画自賛しているし、毎日、鏡に向かって髪型を気合入れて整えている。

問題児だらけのクラスメイトと伍して話す勇気があるのも、
自分の容姿に自信があるからでは?と、卑屈な私は邪推してしまう。

まぁ そんな深読みをしなくてもいいのだろう。
これは まだ自意識や劣等感に苛まれる前の小学生読者のためでもあろう。

ただ、細かいことに捕らわれない、自分の楽しいことを追求する彼女だから、
クラスの改革に身を投じることになっていく…。

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実は男装の麗人でしたと言われても違和感のない藍。首が細長いぜっ!!

1年G組は、問題の多いクラス。
というか問題児が多いクラスかもしれない。

学院総理事の一人息子の松雪 藍(まつゆき らん)を筆頭に、
内部生の持ち上がりが多く、G組の生徒の構成は中3の時のメンバーとほぼ一緒らしい。

これは藍が総理事の息子による特権を利用したというよりも、
問題児を一か所に集めて封じてしまおうという学校側の苦肉の策なのだろう。

その証拠に、他生徒からG組は通称「ゴミ組」と揶揄されている。

学校内の治外法権的な場所がG組。
教員すらも恐れをなす授業が受けられない世紀末的な荒れ果てた雰囲気。

そこに掃き溜めに鶴とばかりに現れたのが紗和だった。

そんなクラスがどうかわるかが『1巻』の内容。
紗和の孤軍奮闘ぶりが彼女の自己紹介代わりになります。

ハッキリ言って、G組の男子生徒たちの精神年齢はかなり低い。
高校1年生とは思えない、小学校高学年レベルの粋がった生徒たちの集まりにしか見えない。
これもまた読者の年齢に合わせた、のだと思いたい。

クラスメイトとの青春を目標にする紗和は、
幼稚な男子生徒たちにピシャリと物言う立場。

しかし それが男子生徒の反感を買い、
「女共が調子乗らないうちに もっと釘さしといた方がいーんじゃねーの⁉」
という、決して頭の良くない発言を引き出す。

お子様な彼らのやることは姑息で彼女の靴を隠しては喜ぶ始末。
ここも暴力やら暴行などに手を出さないのは読者のためか。
高校生にしては幼稚だが、これ以上の非道な行いをすると読者が彼らを嫌いになってしまう。
女性読者たちが男の子って可愛い、と思うぐらいのレベルが この辺りなのだろう。


ちなみに こういう時に、紗和以外の唯一の女子生徒・永島 晶(ながしま あきら)は関与しない。
これは彼女の危機管理能力の賜物というだけでなく、
漫画家志望の彼女の時間は漫画制作のためにあるからである。
このドライな思考によって、序盤は紗和一人で問題を解決する流れが自然と出来ている。

多人数を一気に動かしながら、
それでも焦点を絞って、要点を説明している点に感心する。

紗和の正義感と負けん気の強さ、
そしてヒーローの藍の陰険さと危うさ、そして優しさを上手に1話で まとめている。


うして一目置かれるようになった紗和が次に挑むのは球技大会。

気だるいことが格好いいと思っている男子生徒を学校イベントに参加させるために、
紗和は身を粉にして尽力することを厭わない。

無理難題が立ちはだかっても、目的に向かって全力疾走する紗和の姿は、
精一杯生きることの楽しさを伝えてくれている。

ヒーローの藍も紗和の努力を認め、
彼の根本に潜む優しさを見せて、紗和の胸をときめかせる。
無気力に見えても、何だかんだヒーロー役をしっかりと演じてくれている。


でも、1つだけ気がかりなことがある。
それは、紗和が球技大会に参加している様子がないこと。

そもそも女生徒が少ない中で、彼女たちはどう対決するつもりだったのか謎だ。
共学校としてスタートを切ったばかりの学校運営の混乱が見られる?

なので球技大会における紗和の役割は、男子生徒を支える完全にマネージャーである。

参加の条件とはいえ男子生徒全員(35人分)のゼッケン付けをして、
やる気を引き出すためとはいえ、朝5時半から おにぎりを作っている。

これは女性の役割は裁縫と家事という旧来の価値観が滲み出ているような気がしてならない。
その疑念を払しょくするためにも最後には紗和にも男女混成チームで球技大会を満喫する様子が欲しかった。

女性の社会進出という意味では、
紗和の家族の小西家は母親が獣医師として働きに出て、父親が専業主夫をしている。

ただ これは変わったキャラ付けの一環でしかないように思える。
このことが既存の価値観を揺るがすような問題提起はしていない。

実際、最後まで紗和は紗和であることだけを望まれ、
周囲の人物たちが将来の夢などを明確にしていく中でも、彼女の道は示されない。
唯一示されたのは、前時代的な女の幸せのみ。

その意味では、紗和は男性たちからチヤホヤされるだけの愛され主人公である。
男子主導の学校生活の価値観まで変革するぐらいの大望を持って欲しかった。


いても学校イベントが続いて、試験直前の勉強回となる。

勉強会場は引っ越してきたばかりの紗和の家。
休日ということもあり、小西家は全員集合。
紗和の両親もクラスメイトたちと初対面となります。
(ちなみに女生徒・晶は今回も欠席)。

そして まだ交際前だが、ヒーローと家族の対面場面でもある。
私の中での「少女漫画あるある」では、
家族と対面・挨拶することは、婚約とほぼ同義である、という偏見がある。

本書の場合、交際前から婚約が成立している。
その結果がどうなったかは、最終巻で明かされるだろう(知ってるけど)。


この勉強回は本書で初めて学校外に出る回でもある。
全員の私服が見えたり、これまで以上に素顔が見えてくる回。
色々と読み込む要素が満載だと思われる。

そんな中で藍が何かに反応していることが分かる。
小西家で家族とクラスメイトで囲む食事の間も、どこか虚無的で覇気のない藍。
そんな彼の様子に気づいた紗和は、2人きりでの後片付けの最中に藍のプライベートを垣間見る。
(食事に睡眠薬でも混入していたのだろうか、というぐらい他の男子生徒4人全員が即座に寝る!)

これもまた学校という檻から出た開放感が成せる業だろうか。

クラスメイトと距離を近づけるという本来の紗和の目的は達成され、
次は、藍個人に近づくことが彼女の目標となる。
青春の環境を整えてから、次は恋愛への主題が移るのだろう。

紗和は割と お花畑の人ではあるが、
恋愛が人生の全てと思う恋愛脳ではないことが分かる。
恋愛だけでなく何事においても前向きという紗和の姿勢に好感を持った。


年ぶりとなる「りぼん」漫画。前回は春田なな さん『スターダスト★ウインク』

ページ全体に貼られたトーンの多さに驚く。
事実、書籍のデータも他の漫画に比べて多い。
白っぽい漫画が60MBに対して、本書は100MBを超えている。
画面に余白がないほどである。
この辺も少女向けに華美にしているのかな。
私には少し目に痛いぐらいだ。

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紗和の大きい目 特集。特に(右)の紗和は主人公なのに作画崩壊している。怖いけど笑える。

目といえば、気になるのが主人公の顔。

結構、少女漫画耐性のある私だと思うが、この顔は怖い。
目が大きすぎて、顔から零れ落ちんばかりである。

表情の変化で上のまつ毛から黒目が離れることが多いが、
そうすると本当に落ちそうに見えて恐怖が倍増した。

この目の大きさはやりすぎで、
失礼ながら、深海魚やトンボの目の大きさに類似すると思う。
中盤から徐々にサイズダウンしていって違和感もなくなったが。


男子生徒は基本的に同じ顔である。
髪型・髪色・メガネの有無で見分けるのが精一杯。
クラスメイトでは誰が好き、などと言ってられないほど判別すら困難な状況だった。

男子生徒は目が紗和に比べたら小さくなっているが、
大きな目でバランスを取る代わりに、目の距離を離してバランスを取っていると思われる。

なので顔の端の方に目が存在するという、こちらも魚顔の仕上がり。

そして斜め向きの顔は、俗にいうエラ部分が全く、あごから耳へと一直線。
その弊害で、口が異様に小さく、歯の生える隙間すらなさそうな気配である。
パッと見は綺麗なんだけど、現実にいたら個性的な顔に見えるだろう。


「エンドレス・マーチ」…
音楽学校に通う音羽 弥生(おとわ やよい)は学年でも有数のピアノの奏者。
だが臨時講師の寺脇(てらわき)だけは苦手。
なのに彼と個人レッスンが舞い込んできて…。

仮にも音楽学校で弥生の演奏の欠点に気が使いない人はいなかったのかという疑問はあるが、
自分だけが知るその人の本当の音、というのは秘密めいていてエロティックですらある。

最後のアドバイスは的確だけど、
彼女の気持ちに うぬぼれているナルシストじゃないと言えない気もする。