里中 実華(さとなか みか)
雛鳥のワルツ(ひなどりのワルツ)
第02巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
女子校育ちで男子が苦手! なのに、男子だらけの高校に入っちゃったひな子。イジワル男子・瑞希に告白され、初めての体験にドキドキがとまらない…! 一方、女子嫌いのクール男子・駿から“女子嫌いの理由”を、特別に教えてもらう。2人の男子の知らない顔を知ってしまったひな子。止められない恋の三角関係へと発展!! 中学時代を描いた描きおろしオマケまんがも収録!
簡潔完結感想文
- 自分を好きだと言ってくれた彼のため、恋に悩むが浮かぶのは別の男性の顔!?
- 勉強回からの風邪回の連続コンボ。どうしても おいしい場面は椎名の役割。
- ずっと優しい和久井の たった一つの失敗を描いて、彼にも欠点を付加してみる。
早くも三角関係の決着はついたけど、それが両想いに繋がるとは限らない、の 2巻。
冒頭の一文の通り、既に三角関係は終わっているようにしか見えない。象徴的なのが中盤でヒロインの ひな子が、自分を好きだと言ってくれたクラスメイトの和久井(わくい)の「壁ドン」をすり抜けて、三角関係の最後の一角・椎名(しいな)のもとに向かおうとしている場面である。
この時 和久井は「好きな女(ヤツ)が他の男ん所 行くの 止めねー バカいねーだろ 行くな」とまで言っているのに、ひな子は あっさりと壁ドンと言葉の束縛を すり抜けて椎名のもとに向かう。もう この時点で和久井の敗戦は濃厚である。
和久井も それを察知して、最後の悪あがきのように せめて ひな子と椎名の両想いを阻止しようと動く。ここで和久井はヒーローの資格を失い、むしろ意地悪な同性ライバルのような言動をしていて、ますます自分を惨めにしている。
その後の偶然もあって椎名に想いが届かない状況が完成し、ひな子は悲しみのどん底に 突き落とされる。こうして ひな子の恋が多難であることは表現できたが、どうしても三角関係が早くも終了したように見える。ここから ひな子が和久井に気持ちが傾いても評判が悪いだろうし。展開は面白いけれど、三角関係モノの作品としては三角の均衡が崩れるのが早すぎるような気もする。もう いつでも連載を終われるような状況だ。
初読時は気づかなかったが、感想文のために再読すると和久井がそれほど機能していないように思う。椎名という存在が目障りで、焦燥から自分からヒーローの座を降りるようなことをしているし。
ただ これは決して ひな子に対して悪い部分のない和久井の欠点とするべく用意されたのかな、という考えも出来る。もう1人のヒーロー・椎名は序盤は ひな子に対して冷淡で暴言を吐いたりしている。割と俺様ヒーロー、というか何様?という言動が多いの。
だから玉に瑕という感じで、全体的に欠点のない和久井に たった1つの愚挙を用意して、椎名とのバランスを取ったのではないか。そして今回の この和久井の行動は その後も ひな子に対する罪悪感や後悔となって機能する。ヒロインに対する過ちが、ヒーローの成長の動機となるのではないだろうか。
ちなみに出版社側の「あらすじ(↑)」での、和久井を「イジワル男子」と表現するのは いまいち腑に落ちない。序盤は どちらかというと椎名の方が意地悪だし、和久井はずっと ひな子に気兼ねなく話しかけてくれる良い人なのに。
放課後に和久井から告白された ひな子。恋愛に疎い ひな子が返事に詰まっていると、和久井は彼女が恋を理解するまで待つという。そこから ひな子は和久井のことが頭から離れなくなり、恋を理解しようとし始める。
前日に ひな子が修復したラブレター(ひな子の友人宛て)の作者に手紙を返却しがてら、恋をしたキッカケを聞く。知りたい、近づきたい、その人の一番になりたい、などと思うこと、というのが彼の解釈だった。和久井から ひな子への想いは まさにそれに重なるが、ひな子が知りたいと願うのは和久井では ないような…。
ひな子は和久井のことが頭を占めるあまり、前日に椎名から要請されていたノートの提出を忘れる。椎名は連帯責任として教師から図書室の整理を課され、ひな子も当然 参加することになる。
この共同作業の中でも、容赦のない椎名や、スイーツ好きが見え隠れすること、意外に大雑把なところなど彼のキャラクターが見えてくる。『1巻』の和久井との1日デートでもそうだったが、ひな子が男性たちの背景や性格、それぞれの良さを見つける場面が多く用意されており、それが読者の理解にも繋がっていく。2人とも少女漫画特有の強烈なキャラクターを持ってはいないが、それぞれに ちゃんと個性があり、それぞれに素敵だということが丁寧に描かれている。
脚立から降りようとした椎名がバランスを崩し、思わず ひな子が助ける。男性嫌いの彼女も性善説のように身体が勝手に反応し、椎名に抱きつく形で彼の落下を阻止した。
だが女性嫌いの椎名にとって、それは苦痛かと思い、ひな子は急いで離れる。そんな所まで気配りができるのが ひな子の良い所だろう。人を助けながらも謝る ひな子に対し、椎名も素直に感謝を述べる。
ひな子は、椎名に女性嫌いになった理由を問うが、その答えの前に和久井が図書室に現れる。何だか和久井は いつも肝心な時に ひな子の側にいないのに、大事な場面で ひな子と椎名の間に割って入るだけの役割を担っている。当て馬というより咬ませ犬・お邪魔虫といった言葉が適当に思えてしまう。和久井にも非日常的な場面を用意してあげて、と願わずにはいられない。
和久井は ひな子が彼の前で「普通」に出来ないことを指摘するが、それでいいという。それは和久井を意識しているからで、その延長線上に友達以上の関係があると和久井は思っている。ひな子が避けても和久井はガンガン責めるつもりだし。椎名とは違い友達という入口から入った場合の恋愛関係へのルートが和久井の役割か。
だが今度は ひな子と和久井の会話の最中に、椎名が割り込む。といっても完全に恋愛感情ゼロで、単純に図書室の整理が終わらないからだと思われる。初期の椎名は結構 利己的で自分の不利益に対して神経質な面がある。
そして和久井が弟妹に呼び出されたため、再び椎名と2人での作業となる。和久井は出たり入ったり忙しい。
だが そこから図書室の整理を終えた2人が下校時する頃には、大雨が降っていた。傘のない椎名に ひな子は傘を差しだし、コンビニまで椎名が傘を持ち相合傘をして歩く。こんなに異性と接近したのは2人とも初めてだろう。特に ひな子は意識するあまり、身体の動きが変になり、転ぶ。その際の泥が椎名の制服を汚し、更に強風で傘は壊れてしまう。びしょ濡れになった椎名は怒りを通り越して大笑いする。こうして ひな子は椎名の初めての笑顔を見れた。そして その笑顔を ひな子は好ましく思う。
その後、公園で雨宿りをする2人だったが、椎名が自分の女性嫌いになった理由を話す。それは かなり前に女の子にケガさせたから、というもの。そのケガが結構ひどくて、脆いと思ったことで、近づくことを怖がるようになったらしい。
そうして椎名の女性嫌いは、キライではなく、怖いということが判明する。
これは一種のトラウマとも言うべきもので、『1巻』合宿の際、ひな子が階段から落ちた時、椎名が必死になったのは、その時の恐怖がよみがえって、ひな子のケガが怖かったのだろう。
そんな椎名の内面を知った ひな子は、女性が脆くないと彼に言ってあげる。椎名は ひな子の意外な言動に居を突かれるが、椎名は「アンタはな」と皮肉を言えるぐらいには元気になった。
そうして2人の男性との距離が縮んだ頃に始まる中間テスト。それに備えた勉強回が始まり、男女3人ずつが教室で机を並べて勉強する。4人目の女子生徒・秦(はた)は図書室で勉強すると参加せず、椎名は誘われず、和久井以外の2人の男子生徒は名前も知らない完全なモブである。
ひな子は和久井のアシストの お陰で初めて男子生徒に勉強を教えたり、それを感謝されたり、緊張しない時間を過ごす。勉強に飽きた一同は遊びに出掛けてしまうが、ひな子だけ1人 教室に残り勉強をする。
この回でも和久井は前座で、真打として椎名との交流が話のメインになる。作品の和久井の扱いの軽さに抗議したい気分だ。
偶然にも下校が一緒になる ひな子と椎名。
椎名は昨日の自分のトラウマ発表を少し悔いていて、ひな子に周囲への口止めを要求した。もちろん ひな子は最初から言うつもりなど無い。昨日の椎名は大笑いしてテンションが上がっていたのだろうか。
先に帰ろうとする椎名に「バイバイ」と挨拶するが、返答はない。…かと思われたが椎名はちゃんと返事をしてくれた。そのことに喜ぶ ひな子だったが、椎名は校舎を出る前に倒れてしまった。
勉強回から風邪回の連続コンボである。昨日、雨に打たれたため風邪を引いたらしい。女の子は脆くないが、男の子は脆い。
責任を感じる ひな子は、親が遅くまで帰らないという椎名を自宅に連れて帰る。ここでは本来は話すのも苦手な男子生徒に声を掛け、自転車を借り、彼を後ろに乗せて帰宅する勇気を見せる。最初は渋る椎名だったが、ひな子は一喝して言うことを聞かせる。本書では女の子の方が ずっと強いのかもしれない。
お節介な ひな子のペースに巻き込まれるが、椎名は やがて観念する。自分の不調に気づいた時に早退すれば良かったのだが、そうすると自分の異変を ひな子に悟られ、責任を感じるから しなかったらしい。椎名は ひな子に余計な気を遣わせたくなかった。もしかしたら図書館で勉強していたのも、自分の不調を ひな子に悟られないよう、場所や下校時間をずらすためだったのかもしれない。それなのに ひな子が熱心に勉強していたから鉢合わせてしまった。この運命性はタイミングの悪い和久井とは正反対である。
こうして ひな子は、椎名の第一印象や最初に感じた嫌な所と表裏一体の、椎名の良い部分を どんどん発見する。そして この気持ちが椎名への恋心であると予感する。
椎名の家に到着し、彼を誘導するが、玄関で椎名は限界を迎え、2人して倒れ込む形になってしまう。図書室の時といい、ひな子は椎名を支えるような展開が多い。更に倒れた後に椎名は ひな子の頬に自分の頬を当ててくる。これは高熱で ひな子の頬の冷たさを求めている無意識の行動。
そんなラブハプニングに登場するのが和久井。自転車で帰る彼らを発見し、ここまで ついてきた(よく追いつけた&家が分かったなぁ…)。
これ以上の ひな子と椎名の接近を許さない和久井は看護をバトンタッチする。彼を家の中まで運び入れながら椎名を牽制する。この時、和久井は、椎名に特定の女性がいることを匂わせる…。
翌日、椎名は学校を休んだ。
不在と頭では理解しながらも椎名と似た人を目で追ってしまう ひな子。もはや完全に恋に落ちている。そして職員室で発見した椎名のプリントを自分が届けると立候補する。和久井並の攻めの姿勢である。
放課後に和久井が勉強を手伝ってと要望しても、断る。
だが、彼はあきらめない。壁ドンして ひな子が椎名の所に行けないように拘束するが、ひな子は それをくぐり抜け椎名のもとに向かう。もう この時点で和久井は玉砕していると言っていい。
そして ひな子が和久井の告白に対してペンディングする理由も特にない。物語は完結に向かうと思われたが…。
敗色が濃厚なことを悟った和久井は、椎名には彼女がいることを ひな子に伝える。彼が幼なじみの女性と交際中であることは中学時代から噂されていた。椎名の女嫌いを反論の根拠としようとする ひな子だったが、その幼なじみだけはトクベツだという。
中学では椎名ファンの女生徒が その幼なじみの彼女に嫌がらせをしてケガをしたという。そのケガが恋人たちに距離を生んだが、今回のような高熱では彼女の登場もあり得る、と和久井は予言する。
和久井の話は、椎名の これまでの言動を補強するものだった。自分が原因のケガがあって、女性を遠ざけていること。女性が嫌いなのではなく怖いだけだから、それ以前に彼女がいる可能性は残されている。
しかも ひな子は椎名の家の前でクラスメイトの女子生徒・秦と椎名を発見する。彼らは昔からの顔見知りであるような会話を交わしている。椎名の幼なじみ=彼女は秦なのか⁉ しかも椎名が女性と自然と話し、そして笑いかけているのを見て、ひな子はショックを受ける。
翌日、意気消沈の ひな子の前に復調した椎名が声を掛けてくる。
高熱を出していた彼だが ひな子に送られた日のことを うっすら覚えている。リセット機能は発動していないらしい。そのことに関して椎名が ひな子に何か言おうとする直前に、秦が2人の会話にショートカットし、椎名を遠ざける。
秦は前日、ひな子が椎名の家の前から逃亡していたのを見ていた。珍しく秦から話しかけられた会話の中で、秦の手の甲にケガの痕があるのを認める。更には秦と椎名が学校では喋らないのに知り合いで驚いたと言うと、学校以外で いくらでも話せるからと切り返してきた。自分は知り合いではなく「彼女」だから、と衝撃の情報をひな子に伝える。
その情報に打ちのめされるひな子。自分だけは特別だと思っていた ひな子だったが、彼の特別は他にいた。認識し始めた途端に終焉を迎える ひな子の初恋。これは和久井と似たような状況かもしれない。
そうして ひな子のショックを認める和久井だったが、彼は ひな子の傷心に便乗しない。自分の思惑通りに進む展開を利用するほど彼は悪人になりきれないのだろう。
放課後に ひな子に声を掛けてきたのは椎名の方だった。高熱の自分を家まで送ってくれたお礼としてスイーツ無料券を渡す。だがクラスメイトたちのアシストで、ひな子は そのスイーツ店に椎名と2人で行くことになる。「彼女」がいることもあって遠慮する ひな子だったが、椎名の方が納得し、テスト明けに一緒に行くことになった。これは和久井に引き続き、椎名ともデート回といったところか。『1巻』に続いて『2巻』も気になる場面で終わっている。これでは次巻も読むしかないではないか。