《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

本書で一番 厄介な存在は、元カノではなく お酒。遠慮や配慮、記憶を消失させる少女漫画の敵。

リビングの松永さん(7) (デザートコミックス)
岩下 慶子(いわした けいこ)
リビングの松永さん(リビングのまつながさん)
第07巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

告白しなきゃ、伝わらない! シェアハウスで暮らす女子高生のミーコは、同居中の年上デザイナー・松永さんに片思い中。そんななか、担任の小林先生が松永さんの元カノの小夏と知ってしまい、ちょっと複雑なミーコ…。一方、同じシェアハウスで暮らす大学生の凌くんは、そんなミーコの恋の相談にのるうちに彼女への恋心を募らせていく。さらに松永さんのなかでも、ミーコへの気持ちに変化が!? 走り出した4人の想いが交錯する、年の差シェアハウスラブ第7巻!!

簡潔完結感想文

  • 熱血 vs. 無垢は、後者が優勢かと思いきや、経験の差がモノをいい 前者がリード。
  • 始まったのは三者面談ではなく三角関係。先生が知る生徒の好きな人は熱血男。
  • クリスマスに告白をすることを決めた女性の用意周到な罠が見事に効果を発揮する。

書において オトナ=酒 なのか疑惑が渦巻く 7巻。

『7巻』は松永(まつなが)の元カノ・小夏(こなつ)こと小林(こばやし)先生の執念が結実する過程を描いた完全犯罪の記録にも読めてくる。クリスマスに元カレ・松永に告白するという目的達成のために小夏は罠を張り巡らせていた。彼女の予告告白は まるで犯行予告のようだ。

今回の感想文は ほぼ妄想ですので悪しからず。ただ こうやって色々な視点で物語を見つめると作品は何倍も楽しくなる。ここでは小夏を必要以上に悪者として扱っているので、気分を害される方もいるかもしれません。一応、先に謝るポーズだけは しときます(笑)

結論から言うと小夏がシェアハウスに持ち込んだ「酒」がクリスマス告白を成功させるための重要なアイテムであると推測される。小夏は大人組を酔わせることで彼らから通常の思考を奪った。自分の周囲を酔わせることで、彼らの記憶を あやふやにし、松永と2人で席を外しても誰も覚えていないような状況を作り出したのだッ!!

このクリスマス会では小夏は招待客である。だが彼女は会が始まる第一声から場を仕切っている。「やっぱ最初は乾杯だよね?」と自分が手土産として持ってきた お酒を披露し、大人組に飲酒を勧める。ホールケーキを買っているので片手が埋まっているにもかかわらず、もう一方の手でワイン・スパークリングワインを計3本、そして未成年者の美己(みこ)のためにノンアルを1本、計4本も持ち歩いてきたのだ。小夏が荷物を持つ様子は描かれてないが、どう考えても一人で持ち込むにしては量が多い。もしかしたら このお酒は口当たりは良いが酔いやすい お高い品を選んだのかもしれない。それもこれも全ては松永と2人きりになるためである。やがて誰の記憶もあやふやになり、大人組の関心が自分以外に向いているのを見計らって、彼女は松永と一緒にリビングから離れようとしている。こうしてクリスマスに、松永と出会った この家で告白する という小夏の目的は完遂される。告白までの流れは完全勝利の完全犯罪と言っても良いだろう。

ワインにケーキと大枚を はたくのは全ては告白のため。邪魔をしないで、という無言の圧力かもしれない。

して もう一つ 小夏が悪意の塊と考えられるのは、この会で美己が感じた疎外感も小夏によってコントロールされていたのではないか、という疑惑があるからだ。大人組にワインを、そして美己にまでノンアルを持ってくる気配りに見えて、これは大人組が酔うこと、そして美己が絶対の酔わないことへの準備なのかもしれない。こうすることで美己は自分だけが未成年という年齢差を感じるだろう。更に小夏は、大人組を酔わせて、本来なら彼らが持っている美己への配慮も周到に奪っていく。酔っていなければ大人組はちゃんと美己も参加できるような話題で会話に花を咲かせただろう。だが美酒に酔う彼らは何も考えられなくなってしまって、この場は小夏に掌握されていく。
そうすると何が起きるか。美己の立ち入れない話題を連続させることが出来るのだ。大人組への仕事関連の話題は小夏から振られている。小夏は久々に会った住人たちと近況報告をする振りをしながら、ここでも美己に未成年・未就職という絶対的な壁の創出に成功している。じっくり読むと、最初の乾杯の段取りから、話題の提供まで全ては小夏発信で、彼女が この会の支配者だということが見て取れる。

こうして美己のことを精神的にフルボッコにすることで、小夏は美己が自分の告白を阻止・監視しようという気持ちを萎えさせようとしたのかもしれない。小夏にとって、美己は自分の目的(今日の告白)を知る唯一の人物で、美己が松永にベッタリしていたら告白は出来ない。だから その前に美己と松永の立場の違い、精神的な距離を明確にして美己の気持ちを削った。
小夏が学校で美己に「(松永に)想い 伝えてもいいかな?」と聞いたのは、犯罪者が名探偵にする犯行予告であった。止められるなら止めてみな、という彼女の挑発だったが、お酒という魔力に美己は撃沈するのであった。

小夏が最初にケーキを披露したのは偶然だろうが、もしかしたら美己ならケーキを作ると踏んで、素人とプロの差を見せたのかもしれない。これもある種の子供と大人の差を見せつけている。もし美己がケーキを用意してなくても小夏にはダメージは全く無い。もしかしたら小夏は、凌(りょう)が美己を気遣う会話を横目で見て ほくそ笑んでいたかもしれない…。

更には小夏の大目的である告白の場面でも、小夏の狡猾さが見える(かもしれない)。ここで問題となるのは屋上での位置関係である。屋上への出口に対し、小夏は正面、松永は背を向けて立っている。これは告白をしている場面を美己に見せるための配置ではないか。美己が覗いて扉が開いたことを小夏は感知できるが、松永には分からない。美己が声を聞くために扉を開けるのが、女優・小夏の演技開始の合図となる。


…と、バカみたいに妄想を書き連ねてきましたが、大満足です。こういう妄想 楽しすぎる。

私自身は この作品に悪い人は出てこないと思っているし、小夏の気持ちも純粋なものだと思う。でも本当に小夏を悪意の塊だと考えると様々な意地悪が見えてくる(ような気がする)。
でも本書の場合、一番の悪は 今回のタイトルにした通り、お酒である。小夏が持ち込まなくても大人組は お酒を飲んだであろう。これまでにも松永は酒に酔って好き放題している。そして都合よく忘れ、都合よく寝る。まるで松永にとって この恋愛は お酒を飲んでないとやっていられないみたいではないか。オトナの象徴のような お酒であるが、美己にとっては お酒によるメリットよりも被害の方が大きいように見える。

お酒で顕著になる年齢差や失敗談、寝たふり(または寝てる人のそばでの会話)、そして巻末詐欺は本書の特徴と言えよう(笑)


回も巻末詐欺であった。『6巻』巻末では男性2人が美己を巡って対決ムードの雰囲気があったが、あっという間に両者が冷静になり、問題は起きず。そういえば小夏も登場から本当に暴れるまで随分 時間がかかっている。
その対決が未遂に終わった所で すぐ傍で寝ていた美己が目を覚ます。寝たふり疑惑があるなぁ…。

一年の終わりを意識する頃、リビングにはコタツが設置される。コタツに合わせて鍋パをするため、美己は凌と2人で買い物に行く。松永は仕事。もはや邪魔者の松永は仕事を忙しくさせておけば、出てこない(笑)
買い物中、美己は手ごたえを感じたテストについて感謝し、そして凌は美己の恋愛応援団として松永への豪速ど直球の告白を促す。凌が こうして人の恋愛に口出しするのは、早く上手くいってくれないと、自分の中の気持ちが育ってしまうと感じているからだろう。ただし美己はシェアハウス内で失恋するリスクの高さ、松永の反応の悪さを考慮すると動けない。
タツは人の距離を縮める。同じ鍋をつつき、心だけでなく身体的接触も近くなる便利な道具だ。


んな時、美己に母から祖母の手術のため三者面談に行けないかもしれない、という連絡が入る。祖母の容態が分からない美己は不安が募る。高齢の祖母の万が一を考えると尚更、心配になる。

そんな美己の 些細な様子の変化に気づくのは、凌と、そして松永。双方に問題はないと言う美己だったが、松永は心の奥まで入ってくる。美己の ワガママとも言える願望を松永は叶えてやりたい。なぜなら松永は美己が「誰よりも特別」そして「誰にでも優しいわけじゃねーから」。
ここは凌と松永の踏み込み具合の差、また経験の差が出ている。

松永は遅くまで仕事を片付けてから、翌日に2人は車で名古屋へ向かう。車で出掛けるのはニャッキーランド以来2回目ですね(『5巻』)。凌は免許を所持しているのだろうか。

到着して知ったのは祖母の手術は痔だということ。それに胸をなでおろす美己。ここで松永は母親に続いて、祖母とも顔を会わせ、親族への挨拶は順調に進む。

残る問題は母が祖母に付きっ切りになって行けない美己の三者面談。それを美己の母は松永に任せる。母は松永を、シェアハウスのオーナーである弟と同様に「保護者」だと思っている。この辺は少女漫画ならではの、どこの世界の話か、という展開である。というは祖母は入院するんだから、むしろ暇では?


感・松永もクラっと来る ど直球の球を投げるために、美己は帰りに立ち寄ったパーキングエリアで松永に後ろから抱きつく。この日のお礼と、そして松永に自分の気持ちが伝わるのを願って。だが松永は逆に美己を翻弄することで窮地を切り抜けた。こうして美己を混乱させなければ、自分の理性が危ないのだろう。なぜなら松永は彼女の母親公認の「保護者」なのだから。こういうテクニックも凌には出来ないだろう。松永には松永の良さがあるのだ。序盤は こういう松永だからドキドキしたでしょう?

混乱と後悔のまま帰宅した美己は、恋愛アドバイザーの凌に全てを話す。松永に嫌われたと思っている美己だが、凌には「大丈夫です」と話を切り上げる。だが その日、健(けん)ちゃんから女性の大丈夫は大丈夫じゃない、と聞かされていた凌は、もう一度 美己を励ます。「園田さんが嫌われるわけない」「心配しなくて いいくらい いつでも全部かわいい」。美己が泣いていると思っての最上級の励ましのようだが、どう聞いても愛の告白である。こういう ど直球の言葉は松永には言えない凌のアドバンテージである。互いの良い点を引き立てつつ、美己が愛されヒロインになっていく。


して始まる三者面談。いや、始まるのは三角関係だろうか。
美己側の保護者が松永なので、当然のように学業の話よりも雑談が多い。そして この会話の中で小夏は、松永が美己とニャッキーランドに言ったことを知る。これは小夏に2つの衝撃を与える。

1つは、ニャッキーランドに行くような人じゃなった松永が、美己となら一緒に行ったこと。そして もう1つは、美己が想いを寄せている人が松永だと判明したこと。その動揺を見せず、小夏は三者面談を終える。

一方、美己も松永が小夏こと小林先生と連絡を取り合っていることを知る。そのことにモヤモヤし、松永に素っ気ない態度を取ってしまうが、やはり松永はグイグイ心に入ってくる。
観念して松永が先生と会ったことについて美己は聞き出す。松永は、小夏の自宅周辺に不審者が出て、彼女を守る助言をしたという。そう話した松永は、なんだよ嫉妬したとかー?と軽口をたたくが、美己は それを肯定する。

束の間の嫉妬と、それを認めた羞恥からヒロインは逃亡する。だが松永は美己を追いかけ、そしてクリスマスの約束をする。これはニャッキーの時のような お礼や仕事に かこつけるのではなく、「一緒にいてぇなあ」という彼の本音の約束であった。


シェアハウスでのクリスマス会を企画する美己と凌。どうやらクリスマス回は、シェアハウスを卒業した服部(はっとり)や小夏を含め、全員集合するらしい。

そんな中、松永も、そして凌も自分の気持ちを見ない振りをするのは限界。美己にとっては小夏が家に来ることが気がかりだが、メインイベントは彼女を巡る男たちの戦いである。悪いが小夏は、文字通り門外漢なのである。

このシェアハウスの住人になる条件は、他者の自分への恋心に鈍感なことかも。服部を含め、初動が遅い。

終業式の日、小夏は美己に松永に告白すると宣言。それを聞いた美己も初めて自分の気持ちを他者にハッキリと告げて受けて立つ。

クリスマス会当日の話は上述の通り、小夏が主導権を握っているように見える。シェアハウスに約3年いた彼らの共通の思い出の話になり、美己は蚊帳の外になる。こうして居心地の良かったシェアハウスが、異分子が1人いるだけで、知らない家のようになる。これは『1巻』の時のような状況だ。シェアハウス暮らしも半年以上 経過して、仲間との絆が出来たと思ったが、それ以上に長い時間が彼らの中には流れている。

小夏は松永と2人きりになる頃合いを見計らっており、彼と一緒に屋上に物を取りに行くという。それが告白タイムになることは美己に想像がつき、駄目だと思いつつも足が向いてしまう。小夏の言葉、松永の言葉を聞き、美己は彼らの過去に打ちのめされる。これは その前の疎外感が かなり効いている。小夏、恐ろしい子ッ!状態である。


上の2人の世界に入り込めない美己は、買い物を理由にしてシェアハウスを出る。それを凌が追う。

美己は小夏の告白を、途中で見るのを止めた。少女漫画的には、最後まで見届けていれば良いのに!と思う場面だが、途中の「純(松永)は離れても別れたくないって ずっと言ってくれたのに」という言葉を聞かずに済んだのは僥倖だったかもしれない。この言葉を聞いたら、その後の言葉なんて入ってこないだろう。

復縁を求める小夏に対し、松永は「好きな人がいる」といってハッキリと拒む。そして それが美己であることを認める。松永が こういう ど直球な言葉を口にしたのは初めてである。クリスマスイヴに2人は両想いになったと言えるのだが…。

一方、美己は自分の、小夏に対する後ろ暗い感情に振り回されていた。泣きじゃくる美己を、凌は後ろから抱き締めるが…。