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少女漫画と小説の感想ブログです

オトナ男子のくせに、中学生レベルで感情が表に出る松永さんだから すぐに恋に落ちた。

リビングの松永さん(1) (デザートコミックス)
岩下 慶子(いわした けいこ)
リビングの松永さん(リビングのまつながさん)
第01巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

親の事情で叔父が経営するシェアハウスに住むことになった女子高生のミーコ。家事に不慣れなうえに、住民はちょっと変わった大人ばかり。しかも一番年上の松永さんはちょっと怖いけど、じつは世話焼きで!!? オトナ男子にキュンとなるときめきシェアハウスラブ、第1巻!

簡潔完結感想文

  • 本の中の全てが綺麗! 装丁も世界観も画力もエピソードも全部、好きです…松永さん。
  • 当初は2巻8話完結予定で序盤の展開は早め。延長後も作品を支えた丁寧な集中力に感謝。
  • ヒーローとしては気性の荒い松永さん。高校時代に出会わなくって良かったのかも(笑)

シェアハウス生活1日目の1話から心を掴まれてしまう 1巻。

お薦めです!
やっぱり掲載誌「デザート」は最高だよ、と改めて感じた作品。約30作品ぶりにデザート作品を読みましたが、私の好みに一番 近い雑誌は2010年代のデザートかも。読者の想定年齢が少し高めだからか、分かりやすい胸キュン場面や、ドSなど特異なキャラ設定(特にヒーロー側)に依存していない物語で心が落ち着く。これから講談社漫画(特にデザート)熱が高まりそうな予感がする。
本書は、講談社でよく見られる2巻8話の予定で連載が開始された作品で、人気に火がついて全11巻44話まで延長された。ちなみに2巻8話の予定だった作品は渡辺あゆ さん『L♥DK』三次マキさん『PとJK』などが挙げられる。作者は本書がヒットしなければ漫画家を引退しようと考えていたらしく、本書は起死回生の一冊となった。今後のご活躍を期待しております!

内容は↑の「あらすじ」にもある通り、16歳の高校2年生の園田 美己(そのだ みこ)が祖母の介護をするため引っ越した両親と離れて暮らし、叔父がオーナーのシェアハウスの一員になるというもの。そこで出会ったのが11歳年上のデザイナーの男性・松永 純(まつなが じゅん)。少女漫画において1つ屋根の下に男女が暮らせば恋に落ちるのは必然だが、美己は松永に惹かれていく…。

シェアハウス生活では こんなハプニングも あるある!? 1巻につき1回は松永さんの半裸が見られるよ☆

親御さんに きちんと育てられてきたことが分かる美己もいいが、やはり松永の造詣が良い。格好良いのだけど格好つけていない、大人なんだけど大人じゃない部分が良いアクセントになっている。派手な場面を演出しなければならない低年齢向けの少女漫画と違って、現実に即した造形のヒーローが、生活の延長線上に厳しさや優しさ、笑顔をヒロインに向けてくれる場面にキュンキュンしてしまう。
松永の欠点を挙げれば きりがない。短気で気性や言葉遣いは荒く、いつも怒っているような雰囲気をまとう。その上 美己がいても裸(主に上半身)で歩き回るし、やたらと口うるさい。でも それが良い意味で年齢差を感じさせない要因になっている。松永が胸襟を開いているから、美己もまた彼に対して率直にモノが言え、遠慮が無くなる。やたらと面倒見の良い松永だから、自然に接点が生まれ、そこから好きが芽吹いていく。


書でいいのは、最年少の美己をシェアハウスの誰もが大事にしてくれるところと、誰もが美己を子ども扱いしない所ではないか。他の住人はシェアハウス暮らしが長いこともあって他人に干渉しないのが基本のスタンスになっている(松永は例外)。だから美己は自分で料理を作らなければならないなど自己責任の中で生活する。それは もう大人で、他の住人も彼女の意見を1人前の意見として聞き入れてくれているように見える。美己から見れば全員が年上で大人に見えるが、年長者たちは美己と自分の中に差が それほどないと思っている。自分が未熟で欠けていることを自覚しているから美己に偉ぶった態度を取らない。その大人たち側の距離感が心地良く感じた。

そして美己を心配すれども、過度に子ども扱いからこそ互いに恋愛感情が生まれたように思う。美己を1人の大人として認める松永の意識や、一方で子供っぽい雰囲気を残す松永だからこそ、2人には自然に恋心が芽生えていく。まぁ 良くも悪くも中学生のような松永が、自分の中にある気持ちを恋だと気づくのは大分、先のように思われるが…。2人には11歳ほどの年齢差があるが、恋をする準備が整っていないのは松永の方なのではないか。

松永に大人と子供の部分が同居する今こそが、2人が出会うベストタイミングだと思われる。後々判明していくが、過去の松永は尖り過ぎていた。まだまだ気性は荒いが、これでも共同生活をするマナーを身につけ、他者を気遣う余裕が生まれた大人の松永なのである。埋めがたい年齢差だが、これ以前の松永に会ったら、フルボッコ状態で美己は泣かされ(または面倒見が良くないため無視され)、松永を嫌いになるルートに突入する恐れがあるだろう。そういう部分も運命的だと思ってしまうのは、私が本書を好きすぎるからだろか(笑)


己がシャアハウスに住むに至る園田家の過程などは割愛される。とにかく序盤は2巻8話しかないという想定で進むので展開が早め。叔父がシェアハウスのオーナーとはいえ、未成年の娘が共同生活をするのだから両親が挨拶して当然だが、そんな無駄なページは使ってられないのである。

美己が荷物を運びながらシェアハウスに向かう途中で見たのが、電話で言い合いをする松永だった。電話の口調が怖い上に、自分の後をつけてくるように動く松永に制汗スプレーを吹きかけ退治する。第一村人は松永で、そして印象的な出会いで美己にも読者にも松永を忘れられない存在にする。

美己を迎えに出た叔父から松永が同じシェアハウスの住人だと紹介され美己は平謝り。ちなみに この叔父は独身で、出張が多いため、姪っ子の美己とは暮らせないという話。オーナー収入だけではなく他にも謎の出張を繰り返す仕事をしているが、叔父の設定も良い感じに謎のまま。
そして住人の面接などは この叔父の仕事で、彼が信頼した人ばかりが住むシェアハウスだから、美己の両親も安心して娘を預けられているらしい。実際、最年少の美己は皆から大事にされ、シェアハウスの生活には問題はない。美己がシェアハウスを嫌になったら、そこでセミ同居生活が終わってしまう。


シェアハウスには美己以外に男3女2+猫の先住民たちがいた。全員美形に見える。そして短期連載を予定していたため序盤は特に他の住人は敢えて触れない。他の4人はモブレベルで終わりかねなかった。しかしモブでも ちゃんとキャラクタのデザイン(外見と中身)をしていたから、連載が継続しても彼らの背景を広げれば話が作れることになった。シェアハウス感を出すためだけに存在した彼らが作品の継続を助けたと言えよう。

松永さん以外の住人たち。好評による連載延長で個人回が だいぶ遅くなった人もいる。

叔父に家の案内をされる美己。再読すると、この後 そこここにドラマが生まれた場所があることが分かって、それだけでジンときてしまう。ただ1話で登場している電子ピアノは1度も活用されなかったなぁ。その内、いつの間にかに撤去されているような気がする。誰か弾ける設定だったのだろうか。

仕事で時間のない叔父に代わって、松永が美己に家を案内することに。
松永は出会って数十分で美己の名前をミーコと呼ぶ。なぜなら猫みたいな名前だから。彼は直感で生きる即断即決の男である。美己ちゃんと他人行儀ではなく、最初に一気に距離を詰めたから、愛称が定着し、後々も呼び方を変更しなくて良い。美己ちゃんだと完全に年下扱いで、恋愛対象にはなりにくいだろう。その意味では松永は愛称という言葉の通り、最初から愛をもって接していたのかもしれない。

なんと松永と美己の部屋は隣同士。せめて男女でフロアを分けようよ、と思うが、基本的には成人した大人が住むのだから、自己防衛・自己責任の世界なのだろうか。まぁ お隣設定だからこそドラマも生まれやすいのだろう(実際 そんな話もあったし)。


っ越しに慣れてない美己は荷ほどきにも一苦労。それを見た短気な松永は怒ったような口調で美己に指示する。鬼教官に従い動いた美己は疲労困憊。見知らぬ他人に いきなり指図されるのは精神的にもストレスを感じる作業であっただろう。だが母から、松永の指示があったから短時間で部屋が片付いたことを指摘され、松永を見直す。

そのお礼に美己は松永にカレーを作る。カレーは美己が唯一作れる料理で、彼女の好物でもあると思われる。料理と言えば、序盤では新しい料理に挑戦したりしてるので、美己の料理のレパートリーの広がりが、彼女の成長に直結しているのかと思いきや、美己は そこまで料理にのめり込まずに終わった。毎日、料理を作っていたら調理系の進路になっただろうなぁ(少女漫画にありがち)。

松永に料理を提供すると笑顔で食べてくれた。そこから打ち解けて話をしてみると、気性が荒く見えるのは、彼の中に情熱が迸っているからだと美己にも分かった。だからデザイナーの仕事に打ち込む彼を美己は見直す。

手料理で胃袋を掴むはずが、松永さんの笑顔に心を掴まれる美己。無邪気なんだよ~、松永さんは。

が、夕食後になって美己はスマホを夕食の買い物時に落とした事に気づく。だが全員年上で一緒に探してくれと声を掛けられないどころか、自分の携帯を鳴らしてもらうことすら躊躇われる関係性だから、黙って1人で夜にスマホ捜索に出掛ける。

そこで初めて自分は親元を離れて1人なのだと気づく美己。大袈裟じゃなく、携帯電話を気軽に鳴らしてもらえない関係で孤独を浮かび上がらせる手法が上手い。家には皆いるけど、まだ美己は独りなのだ。

涙を流すピンチの美己を助けるのは、松永。美己は松永にスマホの紛失を話すが、彼には協力を求めなかった。だが親とも連絡を取れない不安を察知してくれた彼は捜索に協力してくれる。基本的には短気だけど他人の気持ちが分からない訳ではない松永の優しさが沁みる場面だ。

スマホは交番に届けられていたが、捜索中に雨が降り、2人はずぶ濡れに なってしまう。2人の所持金は松永の250円のみ。100均で松永は傘を1本買い、相合傘で帰る2人。なぜ2本じゃないのかと疑問に思っている美己だが、その疑問は翌日に解消された。

彼は100均でもう1つ商品を購入していたのだ。それがスマホのストラップ。美己がもうスマホを落とさないようにという松永の配慮であった。彼からの最初の贈り物で、そして今後の美己の松永への愛の象徴となるものだ。それを美己は大事にする。

この250円の謎のエピソード大好きですね。時間差で真相が分かるのも、真相が分かって胸がキュンとしちゃうのも本当に良く出来ている。1話目50ページの間に美己の孤独と松永の魅力がしっかり詰まっている話だ。これは初回から人気が出ただろう。
ただ、このご時世、スマホ1つ持っていれば、買い物が出来ちゃうような気がしなくもないが…。

こうして美己のシェアハウスの長い長い1日目は終わった。世話焼きの松永の お陰で、美己は今後のシェアハウスへの不安が無くなった。ちなみに松永は1話目から裸になっている。彼の本書における役割はヒーロー兼 裸要員。この裸も高校生ヒーローではなく20代後半の男性だから不自然に見えない。中学生男子のような松永だから、自分の裸にドキドキする女性がいることに無頓着っぽいのだ。あと1話を読む限り、松永さんはリビングというよりもダイニングの松永さんっぽい(まぁ この家はリビングダイニングなのだけど)。


永はデザイナーで、基本的に どこでも仕事が出来る。だからシェアハウスの誰よりも、共有スペースであるリビングにいることが多く、美己の生活指導やシェアハウスでの指南をする先生役となる。

そういえば松永は美己が引っ越してきて以降、彼女の登校を出来る限り(半裸で)見送っているが、彼は美己の来る前から朝の早い生活だったのだろうか。どこかの巻の おまけ漫画で目覚ましより早く起きる元気すぎる松永の様子が描かれていたから、朝にはちゃんと起きるタイプか。もはや小学生か もしくは おじいちゃんである。松永さんは 今までも これからも変わらなさそう。

美己が越してきて1週間が経ち、松永によって歓迎会が計画される。それを楽しみにして自分でも料理を作ると意気込む美己。だが ほとんどが社会人のシャアハウスの住人は開催時間の19:00になっても現れない。
予定開始時刻から3時間弱が経過し、家に1人でいる寂しさを抱え、部屋に戻ろうとする美己だが、鍵の不調が続いていたトイレに閉じ込められてしまう。

それを助けに来るのは やはり松永。だが、トイレに入って鍵を検分する松永もまた閉じ込められてしまった。こうしてトイレという密室空間で2人は密着して座る。2人して身体を寄せ合って座らなくても美己は便器の前のスペースに座れば…、と思うが ここは少女漫画世界である。
実際、身体を寄せ合うことで、美己は松永に本音を話すことが出来た。歓迎会が出来なかった寂しさを正直に話す美己に、松永は自分がシェアハウスに来た当初は何もできなかったことを告白する。それを助けてくれたり指導してくれたのは今も家に住む先輩住人たち。そうやって順番に助け、助けられるバトンが渡されていくのだろう。

やがて23:00過ぎに全員が集合し、そこから美己の作った料理が机に並べられ、パーティーが開かれる。実家にいた頃から今日まで19:00に食事をしていた美己には それが新鮮。そういえば環境が変わって、親の監視がなくても19:00に夕食を食べようとしていた美己の生真面目さが表れているし、そして夜遅くから仲間たちと食事をする後ろめたい快感も よく分かる。それでいて美己は これ以降に生活リズムを乱すことがないので、やはり真面目で、そして それは早起きをする松永と よく似た部分にも思える。


シェアハウス生活1か月が経過し、住人たちとの生活も慣れてきた。だが松永の手掛ける小説の装丁に対し、正直な感想を求められ、ダサいと答えたことで松永の怒りを買い、美己も彼を避けてしまう。

これまで1番関わった松永との距離が出来、その空気を察した美人ネイリストの朝子(あさこ)が、美己を自室に誘う。そこで女子トークをし、美己は朝子のパーソナリティーを知って、2人の距離は近づく。朝子は松永に対しても、彼の性格を分析し、美己の心を軽くしてくれた。

朝子の提案で深夜1時からのサッカー中継をシェアハウス全員で観戦することになった。途中、飲み物を買いに行く松永に美己も同行する。そこで美己は装丁に関する失礼な言い分を謝るが、松永も沸点の低い自分を理解しているから謝罪する。

観戦後、気づいたら全員で雑魚寝していた。目の前に松永の顔があることにドキドキしていたら、松永も目を覚ます。咄嗟に寝たふりをする美己を松永は部屋までお姫さまだっこで運んでくれた。シェアハウスらしいイベントに恋愛要素を上手く取り込んだ展開である。胸キュン重視じゃなく、その前に朝子との距離を縮めるエピソードがあるのが良い。本来の構想では3話から1人ずつ美己がシェアハウス住人と距離を縮め、様々な価値観を学び、7話8話で松永との恋愛が成就してハッピーエンドという構成だったのだろうか。


き続き小説の装丁に悩む松永は、現役JKである美己と2人で出掛けることで、美己の言う「カワイイ」を理解しようとする。
彼らが日が出ている内に出掛けるのは初めてで、この回では周囲に人もいる。そこで起こるのが「見て あの人かっこいー」現象である。この現象は、なぜだかモブは気持ちを声に出し、なぜだかヒロインには聞こえ、なぜだかヒーローには聞こえないという謎の現象までが一連の流れである。少女漫画で辟易する現象の1つだが、本書では そういう場面は少ない。あまり2人で昼間から出歩かないというのもあるが、松永の格好良さを再認識させるのは最小限で良いという作者の利口な判断だろう。本書に出てくるのは美男美女、そういう お約束を読者だってすぐに理解するし。

このデートのような1日を美己は強く意識するが、松永の方は まだまだ世話焼きの兄と言った感じが強い。
それを表すかのように、松永は街中での美己との会話の中にヒントを見つけた速攻で帰ってしまった。彼の中では これはデートではなく、仕事の延長のリサーチでしかないのだろう。

そうして方向性を見つけた松永は仕事に徹する。部屋にこもる松永が不在のリビングで、美己は他の住人たちから この家での昔の話を聞く。今はもう この家にいない人、かつてのブームなど、自分の知らない歴史があることを知る。ちなみに この中の一つが後々の伏線となる。

そして仕事が完了した松永は、美己にお礼としてタコ焼きを作る。タコ焼きパーティーは かつてのシェアハウスでのブームの一つで、美己は自分が それに参加できたことで、さらに住人になった気がした。

2人だけのタコパで、美己がまだ100均のストラップをつけていることを見つけた松永。そこから外す外さないの押し問答となり、バランスを崩した美己を助けようとした松永が美己の頬にキスをしてしまう。そのハプニングに美己は自分の気持ちが溢れてしまい…⁉

この時点では まだまだ8話完結で動いている気がするが、連載延長が決まったのは どこのタイミングなのでしょうか。そして相変わらず2人はリビングよりダイニングにいる確率の方が高いような気がする。でもダイニングの松永さんだと料理漫画みたいになってしまうか…(笑)