《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

シェアハウス住人の悪口を 住人以外が言うのは可能。卒業生か飼い猫なら どんな毒舌もOK。

リビングの松永さん(8) (デザートコミックス)
岩下 慶子(いわした けいこ)
リビングの松永さん(リビングのまつながさん)
第08巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

「オレも好きだよ 女の子として…」ついに、ついに年の差シェアLOVEクリスマスに恋が動く、胸アツすぎる第8巻!シェアハウスで暮らす女子高生のミーコは 同居中の年上のデザーナー・松永さんに片想い中。みんなが集まったイヴのパーティーでミーコの担任で松永さんの元カノ・小夏が松永さんに告白するところを盗み聞きしてしまう! ショックを受けて家を出てしまうミーコを凌くんが追いかけてきたうえに、「オレは泣かせたりしない」と抱きしめて…!?オレの望みは好きな子が好きな人と結ばれることだよ。

簡潔完結感想文

  • クリスマスイヴの悲劇がクリスマスの歓喜となる怒涛の2日間。観覧車 最強説。
  • 秋以降シェアハウス内に恋愛が持ち込まれてしまい空気が悪くなったので換気。
  • 女性キャラに毒を吐く女性キャラ(&猫)がいるから読者の溜飲も下がるメタ構造。

呂は命の洗濯よ、の 8巻。

他にもっと語るべきことがあるだろう、と言われそうだが『8巻』で印象に残ったのは2つの お風呂にまつわる お話だった。
1つ目が美己(みこ)が松永(まつなが)と風呂場で遭遇してしまう場面。同居漫画のハプニングと言えば お風呂だが、本書ではトイレではあったが お風呂場での遭遇は無かった。裸を見る/見られる、どちらにしろ年齢差から未成年の美己の問題が大きいのか。今回、脱ぎたがり松永の過去最大露出、全裸☆が見られるのだが、それは2人が想いを重ねてからとなった。アラサー男がJKに(の)裸を 見せる/見る という立場では無理だが、両想い同士の2人なら裸も解禁される(違うと思う)。
分かりやすいハプニングとなったが、これによって2人は改めて話し合い、両想い後の気まずい空気を払拭できた。一糸まとわぬ空間で、心も裸になることで お互いに歩み寄る、それが少女漫画における お風呂の効能なのかもしれない。

2つ目の お風呂は、ここ数日 シェアハウス内に恋愛が持ち込まれて空気が淀んでしまった住人たちの関係を松永がリセットした温泉旅行回(正確には寺だが)。ここでは全員が温泉に入ることで一度 命の洗濯をしている。そうして新しい心をもって、それぞれに相手との関係を再構築しているのが印象的。全てを水に流して、恋愛が持ち込まれる前にリセットしようという松永の試みが見られる。

また この回でも お風呂によって、松永と美己の関係が再定義されている。いや、松永にとって大事なのは、その前の滝行(2回目)かもしれない。1回目の滝行は『5巻』の前で、寝たふりの松永に美己が頬にキスをした時であった。そこから察するに松永が滝行をしたくなるのは気持ちが暴走しそうな時で、己の中の煩悩を消したい時だと思われる。
シェアハウスのお風呂場での遭遇において全裸だった松永だが同時に美己の肌着姿を見てしまった。そこから湧き上がる煩悩(端的には性欲)を消すために松永は滝行をする必要があった。こうして煩悩を落とし賢者となった松永は、美己との清く正しい交際を提案する。煩悩を落としたからこそ出来る提案で、もしかしたら この時しか提案できない内容だったかもしれない。松永の真の目的は温泉による和睦ではなく、滝行による湧き上がる未成年JKへの性欲の消去だったか。でも血の気の多い松永は消したはずの煩悩が消し切れておらず、早くも美己に手を出すようなことをしてしまう。もしかしたら松永は今後、滝に打たれまくる日々なのかもしれない…。

こうして恋愛一色に染まるシェアハウスの空気を入れ換えた松永だが、朝子(あさこ)&健(けん)ちゃんは ともかく、松永もまた恋愛問題を持ち込んだ張本人である。それは彼にも分かっているだろう。だから ここまでの松永の言動を総合すると、彼が この後に取る行動も容易に推測される。もしかして今回のラストで松永がシェアハウスの健全な治安を守り、取り戻そうと奮闘したのも、自分がいなくなった後の「家」のことを考えての行動なのかもしれない。


して もう一つ印象深いのが登場人物への作品内での悪口。これを言う権利があるのはシェアハウスの住人でない人、もしくは人語を喋らない者であるのが面白い。今回は元シェアハウスの住人の服部(はっとり)が松永の元カノ・小夏(こなつ)を悪口で一刀両断。更には ここ数巻、巻末ではシェアハウスの飼い猫・サバコ視点によって美己の悪口が続いている。
これによって読者のモヤモヤが消化されているような気がする。読者からすれば最大の敵である小夏はもちろん、凌(りょう)ファンの読者には彼になびかない美己がイライラの対象に なりかねない。読者が美己に不満を持つことは作品にとっては読者離れの大きなピンチである。そんな時、美己をクソミソに言うサバコによって凌ファンは留飲を下げることが出来る。ヒロインである美己を「八方美人ブス」と罵倒できるのも巻末おまけ漫画で猫が言っていることだからである。サバコが人間だったらサバコ自体が嫌われてしまうだろう。

今回の松永のシェアハウス内の空気の保全ではないが、作者によって作品内の不満が上手く代弁されていることで読者は心の安寧を得ることが出来る。このバランス感覚、嫌いじゃないです。そして おまけ漫画が本編の伏線になっているのも上手いと思った。サバコは巻を重ねるごとに存在感を増している。ブサカワの彼女の魅力に読者はメロメロになりかけている。

美己の避難先、読者のガス抜き と便利に使われる服部。彼女が新たな恋愛アドバイザーと なるか?

永の元カノ・小夏が大暴れしたクリスマスパーティーの夜、凌は美己に「オレの想う人は園田さんしかいない」と言われる。自分が凌の想いに気づかなかったこと、松永と小夏のことで頭がいっぱいになる美己は、凌からも離れ、1人雪の舞う冬の夜の中を あてどもなく彷徨う。

一方、松永は小夏の想いには応えられない、美己が好きということをハッキリと明言し、その事実を知った小夏はシェアハウスを去る。松永は空き部屋から美己の手作りケーキを発見した後、小夏だけでなく、美己や凌までも いないことを知る。松永がケーキを発見したのはサバコの お陰。サバコは愛のキューピッドであり、凌を美己の魔の手から守ったと言えよう。

美己たち2人のことが気になる松永は一目散に駆け出す。そこで発見したのは俯きながら歩く凌。凌が美己を泣かせたことを知る松永だったが、凌に激昂したりしなかった。凌の精神を安定させる言葉を紡ぎ、美己の捜索を任せろ、という。ここは凌と松永の器の大きさの差で、凌は勝てないと思う場面ではないか。


の舞う中、公園のブランコに座る美己に声を掛けたのは元住人の服部。彼女は美己を自宅に招く。どうやら服部は、美己の避難先を確保するためにシェアハウスを出たらしい(笑)

事情を聞いた服部は、読者の気持ちを代弁すべく小夏の悪口を言い放題。そして美己にも、元カノなど過去に怯えて「今」の松永を見失ってはダメだと助言する。こうして改めて明日、告白する気持ちを固めた美己。
そこに服部が呼びよせた松永が訪問する。美己は松永と口喧嘩になりそうになるが、松永の優しさが場を包み込む。

松永が出て行ったあと、朝子と健ちゃんだけになったシェアハウスでは恋愛が動き出そうとしていた。これまで朝子にだけは ちょっかいを出さなかったし、軽口も言わなかった健ちゃんが、朝子を「女として見てる」と告げる。だが唐突で拙速な行動が朝子を傷つけた。健ちゃんは女遊びをしているが一番大切な人には手を出さないパターンだったのだろうか。いよいよシェアハウスが強制恋愛の場に見えてきた。


己と松永が帰宅すると、全員が部屋に引き上げていた。美己は松永に自分の心の動き、そして屋上での一幕を見たことを正直に話す。松永は自分が美己に そういう思いをさせたことを詫びる。更に松永は美己に小夏からの告白を断ったことを話す。未練がない、とハッキリと明言する。この時点で美己の告白の勝率がグンと上がる。

そして松永は美己の作ったケーキを取り出し、それを食べる。少女漫画ではヒロインの願望は何でも叶えられるのです。小夏が買ってきた高級ケーキに比べて自分が子供じみて見えた手作りケーキだが、今度は逆に優越感の象徴になったのではないか。
こうして それぞれのクリスマスイヴは終わり、25日へと日付が変わる。このシェアハウス関係者で、クリスマスイヴに傷心した人は3人となった。なかなか厳しい戦績である。


日は2人は夜景を見に みなとみらい に向かう。遊園地で遊び、最後は、少女漫画で乗車率90%を誇る(であろう)観覧車に乗る。この透明の観覧車、同じデザート掲載の タアモさん『たいようのいえ』でも乗ってましたね。

観覧車の中、美己は初めて松永に「好きです」と伝えた。何度も念を押すように言うのは、松永でも絶対に分かる ど直球の言葉にするためだろう。その言葉に混乱する松永。というのも松永にとっては美己からの好意は青天の霹靂だから。一呼吸置いて、松永も美己のことが好きだという。この2人、どちらも自分が相手に好かれているとは思っていない。だからこそ悩んで、言えなかった。

そして思いがけない言葉だからこそ、予想以上に嬉しい。間違っても この人は自分のことが好きかも、という計算高さを見せてはいけないから少女漫画は難しい。現実の告白なんて勝率が かなり高いと踏んでからでないと言えないのに。

ここでは美己が事前に、小夏の松永への告白の結果は知らなくても良かったのかな、とは思うが、そうすると松永が精神的な二股継続のように見えてしまうのが難しいところ。美己が告白を見たと言っているのに、その告白の答えを言わないのは誠実じゃない。だけど そうなると美己が小夏がフラれたと知ってから告白することになり、美己の体当たり感は半減する。ここは難しい匙加減だったと思われる。


宅した美己は、リビングでツリーの片づけをする凌を発見する。クリスマス前と同じように2人で作業をするが、2人の関係は大きく変わっていた。美己は凌の気持ちには応えられないとハッキリと明言する。それでも凌は「オレの一番の望みは 好きな子が好きな人と結ばれること」と美己の幸せを一番に願ってくれた。「だけど 次 泣いたら 今度は絶対 離さないから」と、美己個人の恋愛の応援団から、松永との2人の恋愛の監視団へと立場を移行する。この言葉が不吉な伏線に思えてならない。これで小夏も まだまだ諦めてなかったら どうしよう…。

年齢差や保護者という しがらみがない分、凌の言葉の方がストレート。少女漫画の最強の当て馬の一角。

翌日から美己は松永と どういう風に接していいか分からなくなってしまう。そういえば、2人の間に問題が無くなると松永はリビングに登場するようになりましたね。松永は仕事だと言って引き籠らせて、その間は ちょっとだけ「リビングの北条(ほうじょう)さん = 凌」が短期連載されていたが、失恋によって終了。『北条さん』の連載期間は『6巻』の終わりの勉強回~クリスマス回までだろうか。

両想いだけど気まずい2人の距離を縮めるのは上述の通り お風呂。松永は滝行のふんどしが最大の露出だと思ったが、全裸シーンがありました。
ここでは松永を意識する余り自然に過ごせないことを美己は正直に話し、松永も照れて口が悪くなってしまうことを謝る。松永でも緊張することを知り、美己は安堵する。
ただ、両想いになっても交際している訳ではない。女子高生と交際を始めることは、また難しい問題がある。


2人の仲は近づいたが、美己と松永は凌に対して複雑な思いがあり、朝子と健ちゃんは恋愛関係が顔を出したことで彼らも これまで通りの交流が出来なくなった。皆がリビングに居るのにそれぞれが別の方向を向いたまま。この1コマ好きです。

その状況を松永は嫌がり、全員で元シェアハウスの住人の お坊さん・龍元(りゅうげん)の寺へと向かう。そういえば小夏といい龍元といい過去の住人までが美男美女ばかりだ。やっぱりオーナーによる顔審査があるっぽい!?

この寺には温泉が湧き出ているらしく、男女それぞれに裸の付き合いをして、抱える問題を共有する。松永は凌に接近し、互いに告白したことを報告し合い、背中を流すことを試み、この居心地の悪い空気を水に流そうとしたようだ。
美己も朝子に健ちゃんとの事情を聞く。そうして2人に対話の機会を持たせ、双方を歩み寄らせる。

そして松永の相談役は龍元。一歩 踏み出してシェアハウス内の空気を良くしようと務めたように、恋愛にも一歩踏み出すように言われる。

食事中、皆の空気が元に戻ってきたことを感じた松永は感涙の涙を流す。熱い男です。松永が維持してくれるシェアハウスの空気。美己を好きな男性たちは美己がシェアハウスにとって重要と言っていたが、やはり松永のような お節介で行動力のある人がいることが大事なんじゃないか。彼がいなくなったら どうなってしまうやら…。


れぞれが相手と向き合う小旅行となったが、松永も美己と向き合い、今後について話し合う。やはり保護者役として任されているし、一緒に住んでいるので、松永は美己と卒業まで お付き合いはダメだ、と考えていた。
卒業までの1年以上は美己にとって永遠にも思える期間。だから美己は約束をすることで、自分の心を満たそうとする。2人は卒業式が終わったらキスをいっぱいすることを指切りする。かわいいかよ。

しかしその最中に松永は美己にデコチューをかます。これは、卒業までキスをしないなんて無理ですね。松永は この日もう一度 滝に打たれるかもしれない。