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少女漫画と小説の感想ブログです

シェアハウスの裏ルール。巻末で起きたことは次の巻で否定される。1巻につき1回の寝たふり。

リビングの松永さん(5) (デザートコミックス)
岩下 慶子(いわした けいこ)
リビングの松永さん(リビングのまつながさん)
第05巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

同じシェアハウスで住んでいる年上のデザイナーの松永さんに片想いをしている女子高生のミーコ。夏休み中に松永さんからミーコと同居人の凌くんが付き合っていると勘違いされちゃうけど、凌くんのおかげで無事誤解も解ける! でも、松永さんの過去を盗み聞きしちゃったミーコは、熱で寝込む松永さんに想い余ってまさか…キスをしちゃって!!? 胸キュン展開から目が離せないときめきシェアハウスラブ第5巻!

簡潔完結感想文

  • オトナ男子との放課後 遊園地デート。煩悩を浄化した松永は中学生モード発動中。
  • デート後に帰れず一泊(潔白)。飲酒して本音を話すオトナと しらふで嘘をつくJK。
  • 文化祭での共同作業の一体感もシェアハウスに持ち帰る。優しい大人たちに感激する。

メだ、寝たふりをしている人を発見すると笑ってしまうようになった、の 5巻。

この作品は、寝たふりを1巻につき1回入れるノルマでもあるのでしょうか。そして相変わらず巻末の踏み込んだ行動は次の巻では無効化されている。この2点に関しては、またかよ!と思う部分もあるが、作品の雰囲気に魅了されているので大きな瑕疵ではない。

シェアハウスで暮らす女子高生・美己(みこ)には、片想いの相手で生活指導員の松永(まつなが)と、彼との恋愛を指南してくれる大学生・凌(りょう)がいる。この分担が面白い。
松永は美己の生活のありとあらゆる分野(学業や家事など)を見守っているが、唯一抜けている分野が恋愛。鈍感だと思われる美己が自分を好きだとは思っていない。美己がかなり踏み込んだアプローチをしても その鈍感力で帳消しにするアンチ恋愛ヒーローである。そして その11歳余りの年齢差から、自分の美己を女性として見ている気持ちも打ち消そうとしてしまい、彼の方からは動かない。これによって両片想い状態が膠着化し、話が進展しない。動けない2人に対して、動くのが周囲の人間の気持ちである。

松永が美己に対してフォローしない唯一の分野をフォローするのが凌の役目となっていく。本来は恋愛に興味のない凌が、なぜだか美己の松永に対する恋心の一から十までを見る羽目になり、一生懸命な彼女が傷つく状況に対しては優しい言動を見せる。単純に言えば、恋愛相談をしてきた相手を好きになってしまう、アレである。
ここで作者のバランス感覚が秀逸なのは、美己は別に松永との恋愛を凌に相談している訳ではない。決して男に頼って生きている訳ではなく、シェアハウス内恋愛は限られた空間で起きるから、凌は美己の心の動きが見て取れてしまうのだ。
今回、凌が美己の苦しさを知るのが本書恒例の「寝たふり」であった。リビングで住人全員が作業している際に力尽きた者から眠り、起き続けている美己と松永が松永の過去の恋愛について話すのだが、美己がその話を聞いて複雑な感情を浮かべるのを凌は寝たふりをして見守っていた。『4巻』の「小夏(こなつ)」の情報といい、個人情報がダダ漏れになるのがシェアハウスの弊害だろう。少女漫画的には、知るはずのない情報に接してドラマが生みやすくなるし、寝たふりもし放題なので便利な設定だと思われるが。

そして凌が美己の心の動きに触れることによって、凌自身が恋愛を学んでいっているように思う。まるでAIが恋愛感情を学んでいくように、美己の喜びや悲しみを隣で体感することで、凌もまた恋愛を疑似体験し、他者への気持ちを育んでいく。特に凌が接したのが美己の純粋な想いであることが彼に「愛」の理解を早めたような気がする。美己が ちょっとズルい手法を使ったりしていたら凌は この愛を学ぼうと思わなかっただろう。凌もまた松永と同じく自分の中の感情には鈍感であろう。一緒に暮らしたりバイトをしたり、接する時間は長い本書の男女だが、その想いが届くのには果てしない時間がかかる。


回 良かったのは美己の文化祭準備の様子。これは美己が友人関係に悩んだり、恋愛問題に悩んだりする回で、それを解決するのは松永の誠実な言葉だった(のちに凌も美己の気持ちを軽くする)。

その場面も良かったが、仕事を抱えてしまった美己をシェアハウスの住人全員でフォローしている場面に心を打たれた。年齢差は最大11歳余りで、年齢も性別も、社会的な立場も違う6人の男女が黙々と作業していた。これは このシェアハウスで、同じ時間を過ごし、同じことをすることで連帯感が生まれる学校での文化祭準備の効用が持ち込まれたようだった。年齢差はあるけれど同じ青春の中に生きている感じを受けて感動してしまった。
その前に松永が言っていた、美己がシェアハウスの住人を繋いだという発言の実証とも言え、可愛い末っ子のために個性的な兄や姉が手助けをする家族モノの作品にも見えた。他人だけれど それ以上の関係で、抱えている物を分け合う、そんなシェアハウスのメリットが最大限に活かされた場面だった。

年齢も性別もバラバラのシェアハウスの「衣装班」。美己は勿論、全員の青春の思い出ではないか。

て、巻末になると、思い切った言動をしてしまう美己と松永。これまで美己は『1巻』『4巻』、そして松永は『2巻』『3巻』と仲良く半分ずつ担当している。

美己が寝込む松永にキスをしてから、松永はシェアハウスに寄り付かなくなってしまった。美己以外には連絡をし、美己の生活管理をしているようだが、美己の連絡は既読スルー。不安ばかりが募る美己だったが、下校中、松永に車で拉致される。

どうやら気持ちを整理したらしい松永は、何かを吹っ切っていた。後で分かることが、松永は滝行で煩悩を浄化していたらしい。ちなみに今回 使用した車も滝行も、シェアハウスの元住人に寺の跡取りがいて、その人の伝手(つて)だという。
ちなみに この滝行のふんどし姿が松永の最高露出でピークだろうか。いよいよ太ももまで露わになり隠すのが股間だけになった。ここまで、順調に露出を増やしてきた「セクシーな松永さん」も最終回である。これ以上は犯罪である。

車で向かったのは約束していたニャッキーランド。放課後に あっという間にランドに到着するのは自動車免許を持つオトナだから。そして園内の物品販売で制服から着替え、2人してお揃いの服&耳をつける。全て松永の おごり。ここもオトナ男子の経済力を見せつける。

ランドでは、アトラクションを心から楽しむ中学生・松永と、美己のスカート丈を気にするオカン松永が顔を出す。

1日の終わりに高校生に戻りたいと松永は呟くが、美己は今の松永に会えた幸運でいっぱい。『1巻』の感想でも書いたが、この2人、きっと同級生なら上手くいかない。美己が高校生にしてシェアハウスに暮らして、経験を重ね丸くなった松永に出会ったから2人は惹かれ合うのだ。それ以前では美己は松永の中に優しさを見いだせなかっただろう。


しい1日が終わり、帰路につくが、借り物の車が止まる。タクシーも捕まらず、終電を逃した2人は、どこかに宿泊するしかなくなった。緊急時なのでラブホテルに入り、一夜を過ごす。経済力の乏しい高校生カップルと違うのだから、松永はアプリで配車を手配して帰ることは可能だろうが、そこは少女漫画ワールドということで…。

ラブホで早速 飲酒をした松永は、酔ったとき特有の本音を美己に話す。それは美己がシェアハウスに来たことでの効能。美己が来たことで、皆が自然に集まるようになり、家が明るくなったと松永はいう。

そして きっと ずっと聞けなかった美己のキス疑惑の真相も問う。あのキスの際、松永は高熱のせいで夢うつつ だった。彼には飲酒でも高熱でも記憶をなくす便利な機能が付いている。今回の この会話も覚えていないのでは?? そう考えると高校生からしたら飲酒時には、まともに話すのが嫌になりますね。逆に何をしても忘れてくれるなら告白し放題か…(笑)?
松永が滝に打たれてきたのは、自分の欲望が美己からキスされた幻想を生み出したと思ったからか。保護者として振る舞う自分が、娘的な存在にキスされたいという願望を抱いていると知って、彼は滝に打たれ煩悩を消たのかもしれない。滝行の効果は いつまで続くものなのでしょうか。

問い詰められた美己だがキスを否定し、松永に嘘をついてしまう。今回は巻頭ではなかったが、結局、巻末でした大胆な行動は次の巻で無かったことになる、という本書の伝統は守られたと言えよう。色々と繰り返し使い過ぎで、同じところを周回している気持ちが生まれつつある。

だが松永は酔っているから更に、凌との交際がなくてホッとした。美己はカワイイと、怒涛の本音を漏らす。酒乱とは全く縁のない松永だが、酒を飲まないと眠れないし、本音を話せない。そんなオトナの面倒くさい部分を抱えている。


中の季節は本格的に秋を迎えつつあり、美己は学校で文化祭の準備をしていた。
また学校では、小林先生の「元カレ」は、ニャッキーランドには行ってくれなかった人という情報を得る。元カレはカワイイ場所は似合わねえと言い、小林先生曰く、耳とか絶対つけないタイプだというが…。この話は美己が松永の人格を「更新」しているということなのだろうか。密かに美己の優位性が語られ、読者だけが悦に入る。
何も知らない生徒と教師は互いに相手の恋を応援しつつ、皮肉な未来へと進んでいく。この時、小林先生が美己と「彼」のニャッキーランドの写真を見たら、再起不能なほど傷ついただろう。その後の動きはなかったかもしれないが、美己が人を不用意に傷つけたという作品の瑕疵になってしまうことは回避された。

こんな2人のイチャラブは、小林先生にトラウマ級の心の傷を植えつけるであろう。見せられません。

美己は学校からの帰り道、怪しい男性の影に後をつけられる。『1巻』では松永がその役目でしたね。インド人っぽい見た目というワードに服部(はっとり)が反応し、それが自分の「彼ピ」かもしれないという。実は服部は彼からプロポーズを受けていたが、断ってしまったという。色々な所で物語が動いている。それでも服部の彼ピか分からないので松永が扉を開けると、そこに立っていたのは小林先生だった。そして彼女のことを松永は「小夏」と呼ぶのであった…。
2人の男女の間に ただならぬ雰囲気が漂うが、服部のカップルの件や、凌の帰宅など玄関先が賑わったことで、小夏こと小林先生は辞去する。

ここで美己は「小夏」が小林先生であることを初めて知り、そして松永と小林先生との空気に察するものがあった。


の後、美己は松永の元カノ問題を敢えて考えないように過ごし、文化祭の準備に勤しむ。だが期日が迫る中、準備が捗らない友人たち。その仕事を一手に引き受けてしまう美己。これは彼女が良い子だからというだけでなく、友人たちから実質的な1人暮らしであることを気遣われていると知り、その事実に対し空元気を出したからでもあった。

結果、1人では終わらないほどの仕事を抱え込んでしまった美己。彼女の持ち帰った荷物を見て松永が早速 声を掛けるが、美己は松永を敬遠してしまう。これは「小夏」の件が大いに関係しているだろう。友人関係で悩んだうえに、松永の問題までは抱えられないのだ。

しかし仕事量が多すぎて、心も身体もパンク寸前。そこに声を掛けるのが先日の彼氏の件を詫びに来た服部。細かい作業が好きだという服部に手を借り、服部が他の人の助けも呼ぶことで、シェアハウス総出で美己を助ける。服部をはじめ、クリエイターの松永に、朝子(あさこ)や凌も、細かい作業が嫌いではなさそうなのが笑える。健(けん)ちゃんは確実に集中力が持続しなさそうだけど。


うして夜通し作業をする。力尽きる者もいて、最後は美己と松永だけになる。そこで美己は自分が友人に頼られていなかった事実に傷ついていることを話す。

自分が友人たちから気を遣われていたことを知らなかった。美己は自分の彼女たちとは違う生活を心配かけまいと自分の状況を話さなかった。それが結果的に友人に気を遣わせてしまった。学校の描写は少ないが、美己が成長し、自立しようと生活に集中するほど、まだまだモラトリアムな周囲とは温度差が生まれるのは自然な流れだろう。こういう部分を拾うのは好きだなぁ。
松永は、その人と どんな関係になりたいか、それで自分のことを話す範囲を決めればいいと助言を送る。今回は、美己の物理的なピンチを皆で、そして心理的に追い詰められたピンチを松永が救ったと言えよう。

そして美己は、少し避けていた松永との関係もキッチリしたいから、彼の過去にも踏み込む。
松永曰く「小夏」は元カノ。いや正式な交際前に終わった関係らしい。それは松永がシェアハウス内で隠れて付き合うことを良しとしなかったという面もあるという。だからシェアハウスを出て一緒に済むはずだったのだが、小夏が海外に行くことになって、話し合いの末、関係が解消した。松永に未練はないし、小夏からもない、というのが彼の意見だった。またも自分に対する恋の矢印に鈍感な松永が見られる。自己肯定感が低いとはまた違う、うぬぼれが一切ない人と考えればいいのだろうか。


の話を聞いていたのは美己だけでなく、リビングで寝たふりをしていた凌もだった。こうして凌は本来は知りたくない他人の色恋沙汰を知っていく。そして凌は、これまでなら他者に踏み込まない領域に入っていく。松永と美己の恋の観察者として、美己に助言をする。だが、そんな変化が彼には珍しい。彼もまた「更新」し続けているのだろう。その先にあるのは、少女漫画的な ある役目なのだろう。

美己は松永に文化祭に来て欲しいが、招待券を渡した松永は体面を気にして絶対的拒否反応を見せる。文化祭当日、彼氏のいる友人2人は それぞれ見に来てくれている。そこにまた格差を感じる美己だが文化祭での発表ステージを松永は見に来てくれた(with 凌)。落ち込みからの浮上は胸キュンの基本構造です。

でも2人して教室の隅で固まっているのが変態おっさん丸出しで ますます怪しい。そして凌に関しては、松永に協力して苦手なJKばかりがいる女子校に入ったのに、一緒に回る訳でもないという噛ませ犬で泣ける。

文化祭編、続く。