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少女漫画と小説の感想ブログです

黒崎の愛はイノセントでエターナルだから、黒崎の過去の蛮行=黒歴史なんて存在しません。

黒崎くんの言いなりになんてならない(16) (別冊フレンドコミックス)
マキノ
黒崎くんの言いなりになんてならない(くろさきくんのいいなりになんてならない)
第16巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

記憶も戻って、黒崎くんへの気持ちが いっそう強くなった由宇。ハグのぬくもり離れがたし…と思っていたら、黒崎くんからベッドへのお誘い!? でも、キスより先は、なにも準備ができてなーい!!
兄アクマこと、黒崎くんのお兄さんも登場し、由宇の頭の中は思春期バクハツ中…。でも、黒崎くんが喜ぶことなら、覚悟を決めるべき…!? 初カレが悪魔だから迷うあんなことこんなこと…。ラストまで見逃せない、悪魔級ドS男子との24時間ドキドキラブ★

簡潔完結感想文

  • 由宇の頭がピンクに染まった1冊。一方、本能で動く黒崎は もういないので進展せず。
  • 男兄弟は永遠のライバル。軟派な黒崎兄を用意することで黒崎の価値を再上昇させる。
  • 親友の彼氏を酷い人間にして黒崎の価値を…(略) 黒崎の蛮行など無かった歴史の修正。

史とは勝者によって作られる物語である、の 16巻。

基本的には内容スカスカ、ピンク増し増しの『16巻』。『15巻』の騒動で、恋人・黒崎(くろさき)と確かな精神的な繋がりを感じたヒロインの由宇(ゆう)が彼との関係を一歩進めるために右往左往するだけの内容である。いよいよ性行為に話が及ぶのは2人の交際歴や関係性から見て当然のことのように思う。だが問題は その描き方だ。ずっと由宇の1人相撲にして、肝心の黒崎とのコミュニケーションが取れていない、という話になってしまっている。

彼女から他の男の名前を出るのが嫌いな黒崎。けど由宇は男に支えられて生きるヒロインだから…。

それに長編少女漫画には恒例の「するする詐欺」が存在する。10巻以上続いた漫画は、初回の挑戦で性行為をさせる気なんてありません。なぜなら性行為は幸福のピークで、伝家の宝刀だから。基本的には少女漫画の交際編というのは退屈になる宿命を背負っている。ライバルや当て馬を登場させるのも1回が限界だろう。そこでライバルたちを蹴散らした後に作者が利用するのが性行為を匂わし、である。少女漫画読者も、今回の由宇と同様に興味があることだから、ついつい後学のために その描写を期待する。その興味が作品の人気の維持に繋がる。だから「するする詐欺」は何度も多用されていく。王道少女漫画の展開ばかりの本書において、いきなり性行為に及ばないことは私には分かっていました。

ただ「するする詐欺」に終わるにしても、やはり描き方に疑問がある。どうにも由宇は性行為への興味があって、彼氏に飽きられないように拙速に動くが、黒崎は由宇を最優先にする考えだから、自分の欲望を自在にコントロール出来ている。これは『1巻』1話で本能のままキスをした かつての黒崎とは明白に違うことを表現しているのかもしれない。由宇との交流で人間的な感情を持ち、欲望よりも理性や愛情で動くようになったのだろう。
でも これだと、人間の本能として黒崎との性行為を考える由宇が まるで「いんらん」みたいじゃないか。確かに由宇は拙速なのだが、黒崎を完璧な人間に描こうとして、由宇が稚拙な人間のように見えてしまうのが残念。由宇までも黒崎称賛の道具にされてはいまいか…。
『15巻』では記憶を失っても、黒崎に対して恐怖心を抱いていても、黒崎の「寂しい」という気持ちなどに敏感に反応していた由宇。だが、今回は自分の頭がピンク一色になり、近視眼的になったからなのか、黒崎のデリケートな心境に全く気付いていない。せっかく精神的な距離を縮めたのに、このリセットは本当に残念でならない。こういう微妙な匙加減が上手くない。

そして完璧人間となった黒崎は、過去の性的暴行など悔いたりしないのか、が気になる。今回の黒崎は由宇を誰よりも大事に思うから簡単には手を出さない。少しでも彼女を傷つける恐れがあるから、ラブホという絶好の舞台に招待されても、彼は性欲の匂いすらもさせない聖人君子として正しい行動をする。そんな彼は、自分の過去の蛮行を悔いることはないのか。黒崎を格好よく描くことしか許されない独裁政権のような風潮があるから、かつて黒崎が由宇を傷つけてきた数々の行為は無く、黒崎の汚点=黒歴史は振り返られることはない。独裁者は謝る場面すら許されないのか、黒崎が「普通」になっただけで褒められ、過去の罪は全て水に流される。そんな黒崎にばかり都合の良い作風が受け入れがたい。


のように常に比較対象を用意して黒崎くんの素晴らしさを絶賛するこの漫画。恋人である由宇、親友である白河(しらかわ)ですら黒崎称賛の駒にされるのである。そんな作品に通底する思想は、過去の黒崎に心酔していた氷野(ひの)と同じで偏った危うさがある。

今回、ラストでは由宇の友人・芽衣子(めいこ)の彼氏が、彼女を精神的に束縛し肉体関係を強要するような問題が噴出する。由宇の親友枠なのに彼氏の相談など一切なかったのも気になるが、結局 そんな下等な彼氏に比べて黒崎くんは至高の存在であるという結論のために、この彼氏は勝手に比較対象にされているだけなのが見え隠れする。それに繰り返しになるが、黒崎だって過去には罪があるのだ。それを作者は権力で敢えて描かないだけなのである。

そして これまで黒崎の一番身近で、一番の比較対象であった白河が完全に恋愛戦線から離脱したので、今回から新たなに黒崎が絶対に負けたくないと思うキャラが投入される。それが兄の桜(さくら。通称・黒兄)。

悪そうなヤツ大体 優しいで お馴染みの本書。しかも桜は あの黒崎家の人間だ。絶対 敵じゃない。

わざと軽薄に振舞うような黒兄が登場することによって、硬派な黒崎の確かな愛が描かれる。作者は常に誰かと比較しないと その人の価値を描けないのだろうか…。
それにしても年の離れた軽薄そうな兄が、弟の恋愛問題に首を突っ込んでくるという構図は渡辺あゆ さん『L♥DK』で見たまんまである。これは発想が豊かではない作家さんは似たことを思いつくのか、それとも「別冊フレンド」の編集者のアイデアが似たり寄ったりなのか。

残りの巻数的にも黒兄が引き起こす事件が最後であろう。結局、クライマックスはヒーローの家族問題、という少女漫画の お約束を守りそうである。幼い頃から黒崎に欠落していた家族愛を完全に実感したら、本書に残る最後の「好き」が解禁されるのだろうか。『L♥DK』も最後は距離のあった兄弟の絆の回復がテーマだったような気がするなぁ…。オリジナリティって何かね。


『15巻』の騒動の後、黒崎家に連れられた2人。与えられたベッドは1つで由宇は身を固くするが、黒崎は早々に熟睡する。
翌朝、由宇が目覚めると首元には黒崎から贈られたネックレスが輝いていた。少女漫画ではアクセサリーは愛の結晶。これが戻っているということは、2人の仲は完全に復活したということだろう。

2人は朝(昼)からキスを交わし、感情が昂る。だが由宇が自分の下着が子供っぽいので気にする。女性が下着もしくは体型を気にしちゃうというのも お約束の性行為の抑止力である。
この場面では、由宇は ようやく黒崎の性格を熟知し始めてきて、黒崎が一方的な拒絶を嫌いなことを知ったから、自分が彼と距離を置く理由を話し、出来る限りのスキンシップには応じている。なぜ ここで出来ていたことが、後半 出来なくなるのか。「するする詐欺」は この1回に止めておけば良かったのに。

ベッドの上で2人がイチャラブしている時に登場するのが10歳年上の黒崎の兄・桜。いつもは外国で お医者さんをしている人なのだが夏休み明けから桜は学校と寮の校医を3ヶ月限定で兼務することになった。白河は桜が苦手らしく、由宇に注意を喚起する。3か月で退場するのは、彼が一波乱起こせば、それで用済みということか。

そして頭がピンク色の由宇は、黒兄を黒父から派遣された監視要員だと思いこむ。黒崎家の人間はそんなに暇じゃないだろうから自意識過剰である。


んな由宇に修学旅行参加禁止のピンチが到来する。2学期の中間で赤点を1つでも取ったらアウトだと教師に通達される。この高校はレベルが高いらしいが由宇は入学以来ずっと低空飛行を続けている(そんな中でも黒崎くんはトップ!という遠回しな再評価)。

ここから始まるのが『2巻』に続いての、2回目の勉強回である。ここで再放送をする目的は、学校最大のイベント修学旅行前の関門を用意するのと、この勉強を通して由宇に将来を考えさせるためだろう。

それにしても初回の『2巻』の勉強回は、1年以上前で、由宇が「高校デビュー」をして勉強に現(うつつ)を抜かしていた、という理由が用意されていたが、それから由宇の学力は上がっていないらしい。本来は根暗で真面目な生徒だったはずなのに、1年間、何してたの?? 黒崎のことばかりを考えていたら勉強のセンスが失われたのか。

以前も書いたが、ヒロインがバカな方が、幅広く読者に共感してもらえるのだろうが、由宇のように何も努力をした形跡がないままバカを維持し、それでも世界最強の男性に愛されるから世界一幸せ、という価値観が好きになれない。少女漫画は女性の自立が現実よりも遅いのではないか。


兄はセクハラ発言連発。喫煙エリアでもなさそうな所でタバコ吸ってるし。仮にも校医として赴任したのだから、生徒に対する発言は気を付けないと。そして教材用の余りの避妊具を由宇に渡す。

由宇は自分のことばかりで気づいていないが、黒崎は由宇に対する態度で悩んでいる様子。責めてもスルーしても今の由宇には黒崎の言葉は刺さらない。またもや ちょっとした すれ違いとなる。

そんな2人はテスト前の大事な一日に黒兄に、とある場所に呼び出される。何とそこはラブホ。ホント、学校関係者としてどうなの…。

しかし由宇は これを千載一遇の機会と思い、次の関係に進もうとする。だが無理をしているのは一目瞭然で、その上 他の男(黒兄)のことを匂わせたり、黒崎の機嫌を損ねることばかりする。

そして急いで次のステップに進むために、黒崎の言いなりになる由宇が、黒崎は気に入らない。何度も言うけれど、彼は自分に反抗してくる由宇に性的興奮を覚えるのだ。従順な由宇などいらない。性行為の前から露見する性の不一致だろうか。

しかもラブホテルから出る際に、芽衣子と彼氏らしき男性と遭遇し、自分より進んでいる友人を比較対象にしてしまう。


黒崎のことばかりを考えているが、その実 黒崎を見ていない由宇。この問題に黒兄からヒントを貰い、そして彼を撃退することで由宇は成長していく。
由宇は逆境には強い。だから芽衣子が彼氏との関係にトラブルを抱えていると分かると、その解決に乗り出そうとする。そして黒崎は もう無茶をしがちな由宇を縛ったりしない。黒崎が好きなのは、こうやって自分で問題に進んで対処する由宇なのだ。2人は少しずつ自分たちのカタチを理解してきたのではないか。