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少女漫画と小説の感想ブログです

由宇は 心と顔にメイクをしない スッピンのまま黒崎に出会う「if世界」でも 恋に落ちるのか…⁉

黒崎くんの言いなりになんてならない(14) (別冊フレンドコミックス)
マキノ
黒崎くんの言いなりになんてならない(くろさきくんのいいなりになんてならない)
第14巻評価:★☆(3点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

公開キスからの交際宣言で、学校中に黒崎くんとの交際が知れ渡った由宇。どんなトラブルも跳ね返してやる!と熱く燃えていたら、黒崎くんからお祭りに誘われて…!? なぜか浴衣だし、距離は近いし、これってデートってことでいいんでしょうか。つきあったあともフラれてるけど、今は、黒崎くんも違う気持ちでいるのかな──…。そわそわが止まらない由宇に主人公史上最大のピンチ!クライマックスに向けて、熱くて甘い新章スタート☆

簡潔完結感想文

  • 記憶喪失ネタについては まだ目的が分かるが、黒崎に暴力を解禁したことが許せん。
  • 「好き」といったら負けの恋愛頭脳戦が うっかり終わりそうになったからリセット!
  • 諦めたら試合終了だが、諦めなければ試合は終わらない。エンドレス三角関係に絶望。

『13巻』がとても好きだったのに、今巻は唾棄するほど嫌い、の 14巻。

非難されている記憶喪失に関しては、作者の意図も分からないでもない。今回、ヒロインの由宇(ゆう)は これまで1年半余りの高校時代の記憶を失った。由宇が中学卒業間近まで記憶が戻る というのは、心にも顔にもメイクもしない、本当の由宇になるということだ。「赤地蔵」と揶揄された自分を変革するため、由宇は「高校デビュー」をして この学校に入学した。
そこで出会ったのが黒崎(くろさき)。彼と出会ったのは本来よりも強気で攻撃的な人格の由宇と言えよう。そのお陰で由宇は黒崎と渡り合い、それにより黒崎から気に入られた、だが今回、記憶を失い 心も顔もメイクしていないスッピンの、本来の由宇の視点から、もう一度 黒崎に恋をするのか、という思考実験が開催されている。そのために記憶を失い、これまで築いてきた関係性をリセットする。
これまで黒崎にだけスッピンを見せてきた彼女が、今度は心のスッピンを見せる時が やってきた。これは、どんな世界でも君に出会い、何度だって恋に落ちる、という まるで転生を繰り返す2人が絶対に恋に落ちるような運命性を付加させる儀式なのである。
間違っても発想の貧困さが見られる作者が、自分が読んできた少女漫画から またもやネタを拝借した、などという陳腐な展開ではない!

メイクのスッピンに続き、心のスッピンも見せる由宇。どんな私も あなたとは もう一度 恋に落ちる。

憶喪失の件は私は面白いとは思わないが、作者の意図を理解する。でも今回、だ2人の王子それぞれに らしくないことをさせたことには幻滅した。特に作者が黒崎に暴力を解禁させたことには怒り心頭に発している。私の読み方が間違っているのだろうから身勝手なのは承知だが、ダメだ、やっぱり作者とは全く考え方が合わない と幻滅した。

『13巻』の感想文で熱く語っているが、暴力を封印する精神力を身につけたからこそ黒崎は成長しているのだと思っていた。しかし今回、黒崎は正当防衛とはいえ これまでは使わなかった暴力を使った。『13巻』では あれだけ首謀者である氷野(ひの)に挑発されても手を出さなかった彼が、今回 三下のザコ相手に暴力を解禁した意味が分からない。これまで13巻、注意深く黒崎を暴力から遠ざけていたように見えたが、それは私が好意的に見ていただけで、実は作者は何も考えてなかったのだろうか。黒崎には視線による抑止力もあるのだから今回もそれで良かったろう。なのに暴力、ボコボコ、これでは中学時代の彼になってしまい、氷野の目論見通りではないか。

黒崎に幻滅というよりも作者に幻滅した。ここまで私と作品に置く重点や価値観が違うとは思わなかった。この感じは作者が白河(しらかわ)にやらせることにも通じる。何度も何度も由宇を諦めない白河。至高の王子たち2人との三角関係は読者の夢だから、その状況は理解する。ただ今回、白河は黒崎が由宇を守り、暴力を解禁した裏で動こうとした。私は白河よりも、そんな事を彼にさせる作者が許せなかった。これには白河が卑怯なことをすることで完全に恋愛をする資格を失う、という意味もあるのかもしれない(女性ライバルは卑怯な手を使って自滅し、そして作品から排除されることが多いし)。でも作品から追放されることの無い白河に卑怯な手を使わせても、彼のイメージを悪化するだけだ。決着をつけないことが本書の延命術なのかもしれないが、2人の王子に らしくない行動をさせるぐらいなら、さっさと辞めなさい、と思う。

どうせなら黒崎が非暴力を貫くことで、ボコボコにされ、そのダメージから黒崎の方が記憶喪失になるような展開が良かったなー。黒崎は自分が由宇に惹かれた理由を忘れて彼女に対して冷淡な態度に戻ってしまう。だが その黒崎に由宇が諦めずにアタックして、持ち前のヒロイン力が黒崎に再び恋愛感情を思い出させる、という展開。そこで由宇が「好き」を解禁することが、記憶の解放の鍵となって、めでたしめでたしで、物語を完結した方が美しかったのではないか。大きな目的も見えないまま続く物語が面白いはずがない。

ただ、本書は実はブレブレの由宇に対して、黒崎が揺るがないから面白いのである。徹頭徹尾、黒崎のお気に入りであることが読者の満足感に繋がるのだし。そこが難しいところ。


出されれば必ず周囲の人から持て囃される王子たち。もう14巻も同じ場面を見せられて、読者はどうすればいいのでしょうか。王子の背景には赤面する女性の顔。14巻描いても描いても、自分に自信が持てない作者は こういう演出で王子たちの価値を上げていく。

この夏祭りでは黒崎が由宇や白河以外の人間にも優しさを見せている点に注目したい。実は額に傷があって それを気にしているミナに対し、黒崎は風で彼女の前髪が舞うのを抑えるために お面を渡している。「スペシャルショート」の話を組み込んでいる。今回の巻末の氷野の話など特にそうだが、本編で入れるべきエピソードが「スペシャルショート」で描かれ、それが公式設定となって本編に戻されるという構造が いまいちしっくりこない。

下心なく女性のピンチをさり気なく助ける黒崎(右) 黒崎の奮闘の裏で下心を見せる白河(左)

これは他者に興味が無かった黒崎が、自分の身内以外の、何にも思っていない人にまで気を遣えている。これもまた彼の成長だろう。ただ、これがミナが黒崎を深追いする理由にもなっている。白河も まだ由宇に対しての下心を持っているようで、由宇と黒崎の交際を含め、いつまで経っても結論を出さない関係が だらだらと続く。


崎と由宇が2人きりになった所を氷野の手駒として動く1年生たちが襲来する。黒崎は由宇を白河に託し、応戦。それが由宇が最後に見た黒崎の姿だった…。というのは冗談で、彼は1年生をボコる。

上述の通り、これには失望した。ここまで暴力を封印してきたような描写があったのに、結局 人を傷つけた。切迫した理由がある訳でもなく、簡単に元通りである。

しかも黒崎が由宇を優先して助け、白河は彼女を守ることを託されたのに動く。黒崎が射的の景品でミナにお面を渡したように、白河は景品として髪飾りを貰っていて、それを由宇につける。
動き出すにしても、そこじゃないだろ!と思わずにはいられない。親友に彼女を託された信頼まで裏切っている。嫌いだわー。作者のこと嫌いだわー。何もかも台無しにしてきている。

ここでは白河は行動を自制したが、今度は言葉によって由宇を縛り付けようとする。未練たらたらに、由宇と黒崎の関係が明確になることを望んでしまう。いつまでも2人の王子に言い寄られる少女漫画的においしい状況を続けたいだけで意味があるとは思えない。
3人には まだ言えていない「好き」があるのは分かるのだが、それを長引かせるような理由が用意できていない。

しかも白河の未練に対して由宇は甘酒で酔って覚えていないというご都合主義が展開される。あくまでも由宇は無自覚に白河に愛されているというヒロインだけは悪者にしない少女漫画的な力が働いているとしか思えない。
そして更に記憶の操作があって…。


野は白河を切り崩しにかかる。弱みを握って情報を搾取していた梶(かじ)に聞いて、白河が由宇を好きな情報を入手していた。ってか、梶くんは自分可愛さに白河の情報まで売ったのか。ここも幻滅。今回は男性キャラの失望3連発だ。

だが白河も彼への対抗策として氷野の個人情報を調べていた。氷野は元々黒崎と同級生で下級生ではないこと、そして家庭環境も黒崎と酷似しることを しっかりと握っていた。氷野は元々は暗い性格で、身体も弱い。だからこそ黒崎を自分の理想像として投影し、彼を信奉したのだろう。

他人の情報を握って自分の有利な展開を作り出してきた氷野。だが自分の情報を握られ、追い詰められた彼は呼吸を乱す。そんな氷野に対して由宇は聖母的なお節介を見せる。口の悪い男性に対する抵抗力があるから、氷野の罵倒にも由宇は物怖じせずに反論する。黒崎に相応しいかどうかで物事を判断する氷野に対し、単純に「好きだから」彼のそばに居ると訴える。

それを聞いていた黒崎。作品史上初の「好き」という言葉が相手に伝わった瞬間である。これが事実上の告白となるが、感情的になった氷野に崖下に突き落とされてしまう。由宇を助けようとした白河と3人が落下。

こうして由宇は記憶喪失となり、意地でも好きと言わせない状態が継続していく。本書における「好き」は物語を終わらせてしまう破滅の呪文のように描かれているのが気になる。読みたいのはもっと純粋な溢れ出る恋心なのに…。


宇は中学を卒業直前まで記憶が戻ってしまった。2晩入院したが記憶が戻らず、黒崎に連れられて寮に戻る。高校生たちだけで話を展開させるためなのだろうが、由宇の両親は出てこないのが不自然である。親が娘と対面しないことや娘を保護下に置こうとしない理由は特に明かされず、黒崎との関係のリセットだけに焦点が当てられる。

モブのように地味な容姿をした人が、記憶喪失という名の転生をしたら周囲が美男美女だらけで困惑する、という展開となる。しかも由宇の病状への対応を巡って2人の王子さまが言い争う。作者のやりたい事は分かるが、かえって夢のような状況がチープ感を漂わせている気がしてならない。由宇の異変に読者も緊迫感が増すというよりは、ベタな展開に熱が冷め、これを機に作品を冷静に見つめ直してしまう危険性の方が大きい。

記憶を失くした由宇からは、黒崎は乱暴な対応をする人にしか見えない。だから由宇は黒崎を拒絶する。ただし内気になっても黒崎には言うべきことを言うあたり、由宇の特性は変わっていないように思う。
そんな由宇の言動にショックを受けた黒崎は、彼女の肩にキスマークを付けて、肉体から記憶の再生を試みる。彼なりの荒治療なのだろう。黒崎は絶対この日 眠れなかったはず(笑)

そして白河は2人の関係がリセットされたのを好機と見て、彼もまたアタックをする。上述の夏祭りの時といい、人が弱っているところにつけ込んでいるみたいで不快感を覚える。まだ卑怯者を白河が自認していて良かったが。どうやら これが「最後の悪あがき」らしいが、ネバーエンディングな横恋慕な気がしてならない。

黒崎と白河の自分への対応は、北風と太陽みたいで由宇は困惑する。由宇が選ぶのは どちらの王子なの(棒読み)⁉


スペシャルショート 春美寮ライフ」…
この所 本編では少なくなった寮生活を描いた1編。25ページ以上あるために内容は 盛りだくさん。

ただ本編じゃないところで氷野の本質と目的が明かされていて、これでいいのかと疑問に思う。そして結局、氷野も黒父と同じ種類の人間なことが分かる。黒崎の過去を知る人の話が連続して同じ結論になるのは徒労感がある。長く引っ張った割に…。そして それが本編以外なのは やはり違和感がある。今回は作者のやることなすこと気に入らないなぁ。