マキノ
黒崎くんの言いなりになんてならない(くろさきくんのいいなりになんてならない)
第18巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
クライマックスへ向け熱を増していく悪魔級ドSラブ☆ 「大好きだよ」、トロントの夜に響いた黒崎くんの言葉。まるで夢みたいに嬉しくて…ホントに夢ならどうしよ~! 焦って目を覚ました由宇を待っていたのは、嬉しすぎる現実で…!? カナダでの修学旅行、黒崎くんの言動に由宇の心拍数は上がりっぱなしです! 幸せをかみしめる由宇だけど、悪魔とのおつきあいは一筋縄ではいかなくて…。・白王子vs.ミナの番外編・梶くん主役☆の描きおろしも大収録で満足度も悪魔級な18巻!
簡潔完結感想文
- 自分の気持ちを全て吐き出したnew黒崎が、どうにも子供じみて見えて好きになれぬ。
- 主要キャラ男女7人での楽しい修学旅行。でも接点のない人が仲良し設定で頭が混乱。
- 少女漫画の定番を全部やる漫画だから、最後が遠距離恋愛の危機になるのは想定内。
将来を見通した展開を用意しきれなかった作者の拙速さが目立つ 18巻。
全然、楽しくない。
隣に友人たちがいる中でのシチュエーションプレイとカナダ観光で収録4話中の2話が消費され、その後は黒崎の急な方針転換が2つ。遠距離恋愛の危機という少女漫画の最終ノルマを達成するために急ごしらえの展開で黒崎の性格まで破綻させた気がしてならない。
『17巻』では黒崎(くろさき)が由宇(ゆう)に初めて「好き」という言葉を用いて、この巻からが本当の意味での両想い・交際編の始まりとなるはずだった。だが黒崎は自分の気持ちを素直に伝える成長を遂げた後に、また旧来の黒崎に戻ったような展開が続いて違和感ばかりが残った。
これは黒崎の成長について、作者がコントロールしきれていない、という気がしてならない。初期の黒崎は本能で行動し、自分が由宇に惹かれていることを言語化できず、彼女を特別視する自分を気づかないまま、彼女にキスをしたり命令をすることで由宇との関係を構築していた。これは好きな子のスカートをめくってしまうような精神年齢6歳前後の人間のすることだろう。
だが黒崎は中盤では由宇との交流や寮生活での他者との交流で成長し、恋愛面では由宇のことが心配でならない自分を認め、彼女を監視下・支配下に置くことで自分の安心を得ようとした。これが黒崎にとっての「交際」のカタチであった。だが由宇は自発的に動くことを止めないし、彼女に自由があるからこそ自分は由宇に惹かれたことに気づいた黒崎は、その彼女を守れる大きな男になろうとした。だから最近では正義感の強い由宇がしたい お節介はさせていたし、『17巻』では そんな由宇の特性を踏まえた上で、黒崎が由宇を操っていることを気取られずに自分のさせたいように彼女を誘導していた。私は ここが2人の関係性の到達点だと思っていたし、そこに黒崎の成長を確かに感じた。
…が、作者はこの『18巻』で黒崎を中盤型に戻した。それが残念でならない。かつて黒崎の父(通称・黒父)は黒崎を溺愛するからこそ心配し、息子が傷ついたりしないように自分の手の届く範囲で、籠の中の鳥として育てようとした。それは中盤型の黒崎とよく似た思考であった。だが由宇が黒崎家の事情に介入することで、2人は それが間違いであったことを知り、互いに相手を自分の手中に収めようとするのが愛ではないということに気づいた。そう思っていたのに、黒崎は理由もなく元に戻っていった。しかも黒崎は あれほど避けていた黒父に幼い考えや間違いを指摘されるという残念な展開が続く。慎重に黒崎の変化や器が大きくなる様子を描いていると称賛する部分もあっただけに、こうして黒崎の言動を捻じ曲げることに違和感が大きい。
遠距離恋愛の可能性が恋愛の最後のハードルで、2人のこれからと目指すべき姿を考える契機なんだろう。しかし そのために黒崎が自分の目的に視野が狭くしている。ここまで作品世界の頂点に君臨させるために持ち上げてきた黒崎を、最後の最後で小さい人間に描いてしまっている。最終巻で、黒崎の横暴に、世界でたった一人だけ反論できる由宇を際立たせるためなのだろう。そして遠距離恋愛の危機、男の身勝手な決断などの最終盤の展開も渡辺あゆ さん『L♥DK』と似たような経緯となっている。前巻の感想でも書いたが、この残念な一致は編集側が似たような発想をしていて、それを押しつけているのだろうか、と疑ってしまう。というか、編集部側は同じような展開であることを見抜き、過去の失敗をブラッシュアップして修正して欲しかった。作者たちの貧困な発想が最終盤を台無しにしている。
折角、両想いになったが、その初回はホテルで体調を心配してくれて集まった友達たちの横でイチャラブ、というシチュエーションプレイに消費される。これは『2巻』の勉強回の時に似た状況で『黒崎くん~』らしいといえばらしいが、もっと精神的な充実感を味わいたかった。
続いては観光で1話。自由行動は主要キャラの男女7人で一緒に回っているが、ミナと、芽衣子(めいこ)とタラコちゃんの接点が描かれていないのに、仲良くなっていることに違和感を覚える。こういう脳内補完は嫌だなぁ。優しい作者による優しい世界観なのだろうが、それなら交流する様子を事前に挿んでおいて欲しい。
その後は黒父に呼び出される。その会合で語られるのは黒崎の将来、そして2人の婚約であった。自分の由宇への好意を隠さなくなった黒崎は、当然のように彼女との結婚の道を考えていた。だから婚約をし、そして2人でずっと同じ道を歩む事を望んでいた。だが、それは黒崎の将来の展望。由宇は友人たちと比べても将来を考えていない方だから寝耳に水。愛情を盾にして話を進めようとする黒崎に対し、由宇は困惑するばかり。
なんだか降って湧いた遠距離恋愛ですね。少女漫画のクライマックスには遠距離恋愛危機が必要ですが、唐突過ぎて、話についていけない。これまで18巻分もページが用意されていたのだから、出口戦略を考え、そこここに黒崎の将来についての伏線を張ることも出来ただろうに。でも、そうすると本当の両想いの前に、読者に2人の別れを予感させてしまって、気持ちが盛り上がらないのか…? だからといって最後の2巻で いきなり高校在学中から留学するというのも横暴な展開だ。それこそが黒崎に振り回される(または横暴に反論し続ける)由宇の人生を象徴しているのかもしれないが。
「離れるのも赤羽(あかばね=由宇)には たいしたことじゃねぇんだな」というのは、これまでの「おまえにとって 俺の記憶がないのは たいしたことじゃねぇんだな」(『15巻』)などに続く、黒崎が一方的に おセンチになる描写なのだろう。
ここも疑問が残る描写である。由宇は そんな発言はしていない。留学に一緒に行くのが当然で困惑していて、目的もなく留学しない、という至極 真っ当な意見を述べただけだ。なのに黒崎は由宇が従順であることを基本姿勢として、言いなりにしようとしている。「言いなり」は本書において大事なワードではあるものの、最終回を目の前にして、黒崎が横暴さ・幼稚さを見せることには落胆しかない。思い通りにならないとキレる母に甘える思春期の男子みたいだ。少しずつ上げてきたはずの黒崎の精神年齢が下がり、最後の最後で本書の評価も下がっていくばかり。
「スペシャルショート 白王子 vs. ミナ」…
カナダでの修学旅行中の白河(しらかわ)とミナの お話。
どうやら白河は由宇への気持ちには踏ん切りがついたらしい(怪しい部分もあるが)。横恋慕をした者同士、傷をなめ合い 時には 傷に塩を塗り合う白河とミナ。口喧嘩をしながらも仲を深めていくのは、初期の由宇と黒崎みたいだ。王子たちは少し気が強い女性が お好みか。
「描きおろしショート 修旅 side 梶くん」…
高校生男子の健全な下心を梶(かじ)くんを通して描く。
それにしてもキャラが全員どんどん頭身が高くなっている。黒崎たちは肩幅は頭の幅の6倍ほどあるし、小顔でCLAMP作品みたいになっていて、違和感を覚えるほど。梶もまたスタイルだけは美化されていて、黒崎と違って老けないから、実は一番の美少年キャラではないか。