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少女漫画と小説の感想ブログです

修学旅行回で王道の、教師から隠れるための同衾を、飛行機のビジネスクラスで実行する空前絶後。

黒崎くんの言いなりになんてならない(17) (別冊フレンドコミックス)
マキノ
黒崎くんの言いなりになんてならない(くろさきくんのいいなりになんてならない)
第17巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

赤点騒動も乗り越え由宇はブジ黒崎くんと修学旅行 in カナダ~!! 飛行機の中で…ナイアガラの滝で…夜のトロントで…悪魔級ドSラブは世界スケール☆ なのに黒兄・桜の彼女の登場で黒崎くんが急に由宇にだけアクマ対応!? なんか楽しそうにしてるけど、浮気はぜったい許さないからー!! 累計発行部数540万部超えの悪魔級ドSラブは黒崎くん史上最大の胸きゅんへ…!

簡潔完結感想文

  • 1話で同意なくキスしたヒーローだけど、簡単に手を出さないことで純愛を証明する…??
  • これまで何回もプチ遠距離状態にしてきた作者は、修学旅行の飛行機移動も有効活用する。
  • 黒崎くんの言いなりになんてならない。…が、黒崎にとって由宇の行動を操るのは お手の物。

ロインの聖母力のインフレが止まらない、少女漫画の最終盤らしい展開を見せる 17巻。

いよいよヒロイン・由宇(ゆう)が黒崎(くろさき)家の聖母となる準備が整った。
少女漫画の最終盤といえば、ヒロインがヒーロー側の家庭問題に首を突っ込むのが お馴染みの展開である。黒崎家には3人の男性がおり、まず黒崎本人をヒロイン力で良い人にした由宇。続いては黒崎と似たように愛を こじらせてしまったが故に性格が捻じ曲がった黒崎の父親の偽りの仮面を外させた。
そして今回、最終ターゲットとなるのが黒崎の兄。黒崎や黒父が虚勢を張って、相手に攻撃になることで自分を守っていたのとは違い、この黒兄は自分の弱さを隠すために軟派な態度を取っていた。何事にも本気に向き合わない姿勢を取ることで自分を守っていたと言えよう。そんな彼を改心させるのが由宇の役割となる。持ち前の お節介と正論で黒兄の正直な心を引き出し、問題の解決に一役買う。これによって由宇は、黒崎は勿論、黒兄と黒父から一目置かれる存在になり、まさに黒崎家の聖母になっていく。

ただ今回、面白かったのは、確かに由宇は聖母となって黒崎家の男性たちを順に救った訳ではあるが、この役割が間接的に黒崎に操られている、という点。由宇が なぜ そんなに黒兄の問題に介入するかと言えば、大半は黒崎と黒兄の恋人・リサの関係が ただならぬものではないかと疑心暗鬼になっているからである。黒兄の弱虫を強制させることは、自分の利になることでもあるから由宇は こんなにも必死に黒兄を動かそうと説得した。そして黒崎は自分の兄とリサの関係、そして近い将来の彼らの将来像を予見していているにもかかわらず、由宇に自分の浮気を匂わせるような言動をした。そうすることで由宇を動かし、男同士の兄弟での対話では決して本音を漏らさない兄の心を上手に解凍していく順序を踏んだ。これらは全て黒崎の頭脳プレーなのである。

黒崎が素直にならないことが連載継続の命綱だったが、もう終わりを見据えての展開なので大盤振る舞い。

に一歩、踏み込んで考えてみれば、黒崎は これによって黒崎家の足場を固め、そして由宇の黒崎家での地位を安定させているとも考えられる(邪推)。黒崎は優秀な兄を黒崎家から距離を置かせるべく、カナダで医者として働かせ、そこで家庭を築くことを画策した、のかもしれない。もしリサが帰国し、黒崎家に入ってしまえば、次男である自分、そして その嫁候補である由宇が唯一の聖母ではなくなる可能性がある。ネタバレになるが、リサは妊娠しているため、黒父が初孫に浮かれる可能性がある。そうならないために、黒崎は現地・カナダでの問題解決を狙ったのかもしれない。こうして黒崎は自分が父の会社を継ぐ権利を守り、そして由宇に社長夫人のセレブ生活を送らせる壮大な夢を守ったのだった…。という不必要な妄想。

ちなみに少女漫画ではヒロインが家庭の事情に首を突っ込むようにするためか、ヒーロー側の家庭が壊れていることが多い。現在調査中だが、ヒーロー側の親の離婚・別居率、そして死亡率は一般社会におけるそれよりも格段に高いと思われる。特にヒーローは母を何らかの形で失っているケースが多く、それが性格の歪みの根本となっていたりする。そんな母性が欠如している家庭にヒロインが舞い降り、彼女が聖母となることで家庭問題を解決していく。要するに、ヒロインが聖母になるためには「母」という存在は邪魔なのだ。間接的には、ヒーローから母を奪ったのはヒロインとも言えよう(暴論だ)。そして結局、ヒーローが欲しているのは母の代替という見方も出来るが…。


ただ、年の離れた兄と弟が和解し、もう一度家族になるというパターンは、何度も引き合いに出す渡辺あゆ さん『L♥DK』で読んだ内容だ。ヒロインのお陰で弟が更生し、その弟が根無し草の兄に安住の地を与える、というのが ほぼ同じ。兄が軟派で いい加減そうに見えて、その実 誰よりも弟や家族のことを思っているという真実も ほぼ同じ。同じ「別冊フレンド」で連載時期も一部重なっているが、約5年ほど連載時期が違うので読者も一新している、という目論見なのだろうか。作者同士の、というより「別フレ」の連載方針の幅の狭さが気になるところ。似たようなキャラで似たような展開でも爆発的に売れるのだからボロい商売ですね。


巻から続く芽衣子(めいこ)と彼氏の一件を通して、主役カップルそれぞれの良い所と反省点を炙り出す。
由宇は お節介ババアヒロインとしての役割を果たすことで情に厚い熱血漢を演出。黒崎は芽衣子の彼氏のように性行為を強要したりしないから勝手に株が上がる。黒崎は そういう場を用意されても由宇の不安や恐怖を感じ取って、本来あるはずの自分の欲望を制御したという英雄扱いである。まぁ、こういう美談も1話で性的暴行(キス)をしている時点で、私は白眼視してしまいますけどね。

そして由宇は黒崎の欲望を履き違えて、それに応えることが彼女としての役割と思い込んでいた。こうして互いに自分に素直になって、相手に本当にして欲しいことだけを望む、という2人の新たな関係性が構築されていく。

別れようとする芽衣子に、彼氏は飛び降りをすると今度は違う種類の脅しをかけ、それが騒動に発展し、塾側に無断で塾内に入ったことが露見する(氷野(ひの)の件といい、屋上からの落下危機が多いな)。
だが芽衣子の彼氏が彼らを庇ったお陰で お咎めなしで済んだ(彼氏の情緒が不安定すぎる)。これも作中に本当の悪人はいないという優しい世界の一環でしょうか。

そして もう一人、内密に穏便に事を処理したのが黒兄。かつて この塾で全国一位の成績をとった優等生だった黒兄が塾側の怒りを鎮めた。ここではセクハラ三昧だった黒兄の大人の一面が見られる。または顔と頭が良ければ世間は優しいという世界観が見られる。


して赤点危機のテストを乗り越え、修学旅行が始まる。なんと英語の成績が酷いものだった由宇は、黒崎の個人レッスンもあり学年5位にまで浮上。やれば出来る子なのか、今後の進路のための方向転換なのか。この辺もヒロイン特有の終盤の急成長が見られる。

作品的に優遇されている王子たち2人はビジネスクラスでの移動する。これは黒父の手配によるもの。そして少女漫画的には、このプチ遠距離移動がドラマを生む。エコノミーとビジネスの垣根は寮内における男子エリアと女子エリアの行き来みたいなものか。
驚くことに作者はビジネスクラスのシートで、修学旅行お馴染みの監視の先生から隠れるために1つの布団に男女が入る、を実施する。やること自体はベタなんだけど、その場所が前代未聞という謎の現象が起きている。

この時の会話で、黒崎が自分のことを最優先に考えていることを改めて知る由宇。ようやく本音で会話が出来る関係になってきています。交際後もモヤっとして関係でしたが、いよいよ本格的な幸福感に包まれていく。

立入禁止のエリアに入る背徳感でドキドキは倍増。これは寮の男子エリア潜入時の同衾と全く同じ構図。

学旅行は高校最大のイベントだけど、現地取材や資料などを合わせて、間違わずに ちゃんと描写をしようと意気込むからか、観光名所紹介で終わる場合が多く、いつも以上に見所がない(本書は取材旅行なのか分からないけれど)。

この修学旅行の影の主役は黒兄。兄は黒崎の表情が柔らかくなったこと、彼が父親と適切な距離を構築し、家族らしくなっていることを知る。黒兄は校医としてカナダへの修学旅行の帯同を断り続けていたが、父親の命によってカナダ行きとなった。そして黒兄は弟と父が結託していることが気に入らない。

そして黒兄がカナダを拒絶するのはカナダには恋人がいて、その女性から逃げるように日本に帰ってきたからであった。

修学旅行中に由宇は、その黒兄の恋人・リサに会う。ただし その恋人のことを由宇は黒崎が気に入ったと思って、不安になる。ヒロインの原動力にするためにも、いつでも仮想ライバルは必要です。この2人、互いに異性が近づくことを気にし過ぎである。そうして束縛まみれで息苦しい関係になりそう。黒崎は気持ちに余裕が生まれたため、その辺を少しずつ緩和していっているように思えますが。


た黒崎は、他人を気遣えるように成長しているため、黒兄とリサの仲を取り持とうとする。リサの友人との会話や、持ち前のエスパー並みの推理力によって彼らの関係性は既に承知しているらしい。

そのためにリサにアポイントを取り、黒兄に場所と時間を教える。ただし意気地のない黒兄は逃げてばかり。そんなヘタレな兄の精神力を見越しているからか黒崎はリサに会いに行き、彼らの再会の準備を整える。

その手駒となるのが由宇。黒兄を奮起させるのは由宇の役割となる。彼氏の家庭の事情に踏み込むヒロインの特権ですので、黒崎は この役割を由宇に任せ、彼女を裏で操ることに専念する。
目論見通り、黒兄は由宇にだけ本音をこぼす。家族というものを知らない(といっても黒兄は11歳前後まで母は存命だったはずだが)、家族になる資格がないと思っていた。いよいよリサと結婚の話が出るような関係性になったことが黒兄を日本に逃亡させた。

テコでも動かなそうな黒兄を見越してか、黒崎はリサと合流した後、電話口で由宇を挑発し、彼女と兄を自分に誘導させる。由宇は簡単には黒崎の言いなりにはならないが、知性で勝る黒崎には、感情的で お節介の由宇を動かすなんて お手のものなのでしょう。ここまできて、由宇が黒崎が浮気するかも、という発想が残念ではあるが、物語の展開のためには仕方がないのでしょう。本書においてはヒロインだって王子の格好よさを演出する手駒に過ぎないのです。


して黒崎と一緒にいるリサの口からも黒兄の習性が語られる。それは10年前、自分の家族がバラバラになったとき、何もできずに逃げた、という彼の後悔とトラウマだった。今回はリサから逃げるために日本に帰国した黒兄だが、10年前は その逆。彼は物事に向き合う勇気を持たずいたため、放浪していた。だから黒兄は、今回の帰国で弟と距離を接近することで家族とは何かを見直そうとしてたのではないか、というのが黒崎の推論だった。

この時の会話で、黒崎は もう他者にも自分が由宇に夢中であることを隠さない。だが、黒兄のために一芝居 打つ。自分が兄に代わってリサを奪うと演技をし、敢えて兄の怒りを買い、殴られる役目を果たす。黒崎が他人のために動いているだけで感動的だ。そして この騒動によって黒兄よりも黒崎の方が優秀だという地位の確定が行われたのではないか。

こうして兄の決意が ようやく固まる。家族を持つ勇気を持ってプロポーズした黒兄は、リサのお腹に自分の子がいることを知る。この授かり婚は黒兄に、自分が子供を持つ資格が…などという余計な考えを持たせないためなのかもしれない。


ロポーズを見届けた後、由宇は黒崎に おんぶ をしてもらいながら帰る。滝でずぶ濡れになったり、黒崎の浮気を疑ったり、聖母になったり忙しい1日を過ごした由宇が発熱したのだ。

熱に浮かれていることもあり、由宇は この帰り道で初めて黒崎に直接「好き」を伝える。ずっと欲しかった由宇からの その言葉に黒崎も自分に正直になる。「大好きだよ」。

これにて文句のつけようのない両想いが成立しました。長かったーーー。と言いながらも早速文句を言えば、『9巻』のスキー合宿では高熱の黒崎くんが本音を漏らすことで交際が始まり、今回も旅行回で由宇が高熱を出すことで本音を言った。どちらもパターンが似ているし、高熱、という異常な状態での告白というのが気になる。酔ってしか本音を言えない人みたいで、カタルシスを10%ぐらい減少させてはいまいか。大事な場面なんだから、相手の目を見るなど、想いが通じる幸福感の純度を高めて欲しかった。


スペシャルショート 64話 side 黒崎くん」…
黒崎が英語のテスト中に居眠りしてしまうまでの経緯を描く。
由宇の前以外でも表情が豊かになった黒崎。由宇の方の友情は薄っぺらいままだが、黒崎の方は充実している。まさか黒崎がイジられる日がくるとは。

スペシャルショート ブランデーラブ」…
『16巻』で2回目の黒崎家滞在となった由宇は、その日が黒父の誕生日だという事を知る。
そこで黒崎の母のレシピにあったブランデーケーキを作ることになる。黒崎と2人イチャイチャしながら作ったケーキは、黒崎にとっても思い出の味であった。こうして一家の思い出が加えられていく。これもまた由宇が黒崎家の聖母としての礎とも言えなくもない。そして庶民ヒロインが上流階級に入り浸るというのは白泉社作品っぽい。