《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

もしや美人キャラが王子たちに一顧だにされないことで、読者が快哉を叫ぶという仕組み!?

黒崎くんの言いなりになんてならない(12) (別冊フレンドコミックス)
マキノ
黒崎くんの言いなりになんてならない(くろさきくんのいいなりになんてならない)
第12巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

バレンタインで黒崎くんとの気持ちのつながりを感じた由宇。だけどまだまだ、対等な恋人同士になるには遠いことが発覚。どうにか振り向かせたい、と思っていた矢先、進級でまさかの別クラになっちゃった! さらには黒崎くんに猛アプローチする美少女まで登場して由宇の恋路は大ピンチ!! と思いきや──黒崎くんは、なぜか、甘い雰囲気で…!? 新章開幕で、ますます見逃せない悪魔級ドS男子との24時間ドキドキラブ☆

簡潔完結感想文

  • 交際後の停滞感を払拭するために新キャラ2人でテコ入れ。…が、なかなか動かない。
  • ドSがヒーローの作品は中盤から立場が逆転して彼の方が彼女に夢中になるのが定石。
  • ドSなヒーローは普通の会話をするだけで デレた!! 甘い!! と言ってもらえる楽な職業。

んな意味でヒロインは無自覚に特別な地位にいるんだぞ☆、の 12巻。

ドSヒーローで傍若無人だった黒崎(くろさき)は どんどん一般人化してきている。15歳まで恋愛という概念を持っていなかった彼が少しずつ自分の中にある感情を見つめ直し、人に会いたい気持ち、四六時中その人のことで頭を悩ますという制御できない自分を認識し始める。そうして彼は個性を失っていく。極端なキャラを付加して誕生したヒーローの宿命であろう。
少女漫画的には つまらなくなったとも言える彼を輝かせるのが、もっと性格の悪い人間の存在。『10巻』から登場し始めた氷野(ひの)が暗躍することで黒崎にヒーロー的活躍をさせる場面を創出している。ヒロインの由宇(ゆう)を守るついでに胸キュン場面も生まれるから一石二鳥である。氷野の目的は、実は作品と同じく つまらなくなった黒崎を もう一度 輝かせることだろう。出会った頃のような心に刃物を忍ばせるような黒崎に戻ってほしいと思うのは氷野も読者も同じなのかもしれない(氷野は2年以上前の黒崎、読者は1年前の黒崎と願う姿は違うが)。

…が、氷野の活躍が遅すぎる。『10巻』で顔見せしてから、11・12と表立って行動することなく終わっている。彼の存在を作品内に浸透させる意味もあるだろうが、展開を匂わせるだけ匂わせて先延ばしにしているとも言える。だが時間がかかればかかるほど、正面から黒崎に向き合えない氷野の弱さや陰湿さばかりが悪目立ちして、黒崎の敵ではないことが露見していく。
この伏線だけは張るが、実際に動き出すまでが長すぎるという展開は、引っぱり過ぎた割に呆気なかった黒崎の父との対面を連想せずにはいられない。氷野の話は それと同じ轍を踏む気がしてならない(実際そうなる)。彼との対決が終われば黒崎の2年前の襲撃事件も本当に幕を下ろすのだろうか。父との距離が生まれたり、新聞沙汰になったり大きな事件であるらしい2年前の襲撃だが、いまいち本質が分からない。その割に長く引っ張り、過去からの復讐者を生んでいく。

交際前は最強の当て馬に想われ、交際後は最強のライバルと対峙する。少女漫画ヒロインは波乱万丈。

かない氷野に代わって動くのが、もう一人の新キャラ・相田(あいだ)ミナ。彼女は由宇のライバルとなる。これまで目つきが悪く、言動にも棘があった黒崎に告白するような女子生徒はいなかったから(芽衣子(めいこ)も見ているだけだったし)、ミナは初めて黒崎への好意を明らかにする女性キャラとなる。ミナが動くのが由宇との交際後なのは、彼女は本能的に黒崎が柔和になり、自分の手に負えると感じ取ったからなのかもしれない。

ミナを巡っては、学年1の美少女がライバルに⁉ という展開で、自分に自信のない由宇は彼女の存在に心を脅かされる。だが実情は、白河(しらかわ)を含め2人の王子は彼女を歯牙にもかけないというもの。そういうハッキリとした態度を取っているのに由宇だけが不安になり1人で右往左往しているのは少し滑稽である。

ライバル登場、という実に少女漫画的な分かりやすい展開だが、この話、意地の悪い読み方をすると実は読者の自己承認欲求を高めるための読者サービスにも見えてくる。というのも多くの読者はヒロイン・由宇に自分を重ねて読むだろう。そこに外見だけが良いミナが登場するが、彼女は由宇を好きな王子たち2人には全く相手にされない。要するに外見で劣る人が容姿が華やかな女性に勝つという一種の下克上的展開になっている。美人が完膚なきまで負けることで読者が快哉を叫べるような構成なのだ。今回の話は もしかしたら実に性格の悪い お話なのかもしれない…。


2年生に進級し、由宇は黒崎と別のクラスになってしまう。寮の改修といい、黒崎との距離を少しでも離して、始まったばかりの交際に障害を設けようとしている。ここからは由宇が1人で問題を解決するという成長を描くという目的もあるのだろうか。
由宇が新しいクラスで知り合うのは同学年で1番かわいいと評判の相田ミナ。彼女はバレンタインデーから黒崎狙い。ちなみにミナは由宇とは同じ中学出身で、昔の由宇を知っている。これはメイクでキャラ変する前の由宇を知っているということで、ミナには由宇は遠慮することないという話なのか。それとも自分の価値を自分で高めた者同士の友情が この後に描かれるのか。

ミナが由宇に近づくのは由宇が寮生だから。同じ寮に住む黒崎の情報を聞き出そうとする。ミナはその交換条件として由宇の恋愛の協力を申し出るが、由宇はそれを断る。そういうことは芽衣子の件で懲りているから、由宇も成長している、はず。
ただ提案を断る勇気はあっても、ミナという強力なライバルが出現し、ただでさえ不安定な由宇の気持ちは揺らぎまくる。でも俯瞰してみると、黒崎の気持ちが揺らぐわけないんだから、無駄なターンですよね。交際前とか、読者が黒崎の性格を理解する前なら分かるが、ここにきてライバルを投入しても、由宇が勝手に自縄自縛に陥る一人舞台を見させられている気分になる。単に長引かせているだけなのか、表でミナを動かして、裏で氷野の存在を不気味に広げるためなのか。


ナは完璧な人間。あっという間に新しいクラスで人気者になる。ミナは黒崎攻略に由宇が使えないと分かると、彼の親友である白河をターゲットにする。だが全てを見通すエスパーの白河には、ミナの本性が分かっている様子。どうやら白河の脳内には同族嫌悪の警報が鳴っているらしい。それを見抜かれミナも一瞬 悪い顔を見せる。同族嫌悪、ということは白河も由宇を落とすために手段を選ばなければミナみたいな行動をしていたということか。正々堂々戦ったから まだ当て馬ポジションを許されているが、ミナは卑怯な手を使ったりしたら作品から追放されるだろうか。

由宇は黒崎と学校内では秘密の交際なので、距離を取る。クラスも別になってこれまで以上の距離。それに先に音を上げたのは意外にも黒崎。彼の方から由宇に接近した。『11巻』で「さみしい」という感情を覚えて、どんどん人間らしくなっているらしい。由宇に会いに来た理由は適当に誤魔化したが、由宇には見破られなかったが自分でも予想外の行動に混乱する黒崎。

さてさて、これもドS少女漫画のお約束、いつの間にかの立場逆転が始まってますね。完璧だけど性格に何があるヒーローを追いかけていたはずのヒロインが、いつの間にかに愛されるヒロインへと変貌しているという両想い後の関係性の変化である。


年度になり寮で新入生ウェルカムパーティーが開催。相変わらず下級生はいるけど、上級生がいない謎の寮である。
この回からミナが途中入寮してくる。校長先生の特例でOKが出たらしいが、この寮は美男美女しか入れない容姿審査があるのだろうか。寮監や教師が生徒(主に白河)の容姿にのぼせて態度を変えるという、あるまじき描写が多発するし、ルッキズムを拡大させるような、第三者には相当 胸糞の悪いであろう展開が続く。世界観が薄っぺらくて嫌だなぁ。


選択科目では由宇は黒崎のクラスで授業を受ける。更に黒崎と同じクラスのタラコちゃんの采配で由宇は黒崎の机で授業を受けることができ、黒崎の机の中にメッセージを残すことを思いつく。
そこで由宇は日曜日に外で出ることを提案する。今は2人の会いたいという気持ちが重なっている。いわゆる本当のデート回が見られる日も近いだろう。

だがミナの存在もあり、由宇は急いで成長しようとして不慣れで似合わないことばかりする。というか由宇は中学卒業後に自分を磨いているから伸びしろとしては余りなさそう。それだけ黒崎に自分だけを見て欲しくて必死なのだろう。
だから彼を他の誰にも取られないように、『11巻』で黒崎が残したようなキスマークを彼の肩につける。その後もイチャイチャし、互いに充電。会えない中での濃密な接触が作品にメリハリを生んでいるように思う。寮生の女生徒以外には秘密の恋愛という設定も読者に緊張感を与え、胸キュンを増幅している。

一方で黒崎との関係が どんどん普通になっている。まぁ序盤が異常だっただけなのだが…。これはヤンキーが更生しただけで褒められるようなもの。そして黒崎くんに「もっとS」を求めるような読者と由宇が そういう性癖だというだけ。由宇が そう望むことによって作品の売りが消失することはないのだろう。

本能で動いていた彼が、自分の感情を通して動く。幼児がやっと16歳相当の精神まで成長したか。

宇とミナはライバルでありながら仲を深める。なんだか彼女たちを見ていると、初期の黒崎と由宇の関係を連想する。由宇は無理して良い人を演じるような友情や恋愛(芽衣子たち・白河との交際)よりも、本音でぶつかっていける友情や恋愛の方が向いている気がする。

そんな中、ミナに嫉妬したらしい寮内の何者かが彼女のカードキーを切り裂くという事件を起こす。その問題に介入したい由宇だが、ミナが独力で解決するというので手も口も出せないし、ミナが抱える案件なので簡単に黒崎も頼れない。
だが風呂場でミナと一緒にいた由宇は、ミナの物と勘違いされ服を奪われ、風呂場に閉じ込められる。お風呂でよく事件を起こす人だ(今回は巻き込まれたんだけど)。手掛かりから犯人は1年男子と絞られ、ミナは独力で解決をしようと行動する。思考力も行動力もあるミナの方が格好良く見えるなぁ…。
1人取り残された由宇を救うのは勿論 黒崎。男に頼って生きてます! よく お風呂で事件が起きるのは裸のドキドキが加わって読者を物語に引き込むためだろう。一連の事件の黒幕に、黒崎は迫れるのか…⁉

『12巻』で表でガンガン行動するのはミナ。そして裏でコソコソと暗躍するのが氷野。彼もまた王子と呼ばれる。この王子は、寮の監視カメラをジャックして全てを見通す。女子エリアの監視カメラを覗いているなんて ただの変態である。またもや黒崎の敵ではない描写が重なる。氷野は暴れる前から負けている状態だから楽しめないなぁ…。


スペシャルショート 王子と悪魔の3.14」…
まだ由宇を奪いたいと心が揺れる白河のホワイトデーの男心を描く。
『11巻』の春休み明けの白河の怪我は、バレンタインデーで木から落ちた由宇を助けた際なのかと勝手に脳内補完してましたが、このエピソードが原因らしい。

白河は手こそ出さないが、ずっと由宇を大事に思っている。彼氏をキープしながら白河の気持ちもまだ縛っている由宇という両手に花(しかも無自覚)。承認欲求 満たされまくりですね!! でも白河が誰かに恋をしたら それはそれで嫌だ。どの作品でも最強の当て馬は幸せになる事すら許されない。