《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

お風呂での全裸遭遇、白河の諦めの悪い恋 の3回目が上映されるエコ仕様☆ ネタの枯渇が心配。

黒崎くんの言いなりになんてならない(15) (別冊フレンドコミックス)
マキノ
黒崎くんの言いなりになんてならない(くろさきくんのいいなりになんてならない)
第15巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

高校入学からの記憶をなくしてしまった由宇が戻った春美寮は、気にかけてくれる白王子と天使級美少女、親身な男友達…地味キャラの中学生だったときからは考えられないキラキラ高校生活!だけど“彼氏”だっていう黒崎くんは、怖いし、何考えてるかわかんなくて…でも、離れちゃいけない気もしていて──…。病院で、由宇の実家(おフロ!?)で、サービスエリアで…とまらない悪魔級ドS男子との“エロキュン”ラブ★

簡潔完結感想文

  • 冬休みは黒崎の実家、そして夏休みは由宇の実家に、カップルで里帰り。結婚一直線。
  • 白河が「好き」と伝えることで三度目の三角関係が終焉。どうか どうか成仏してくれ。
  • 『L♥DK』の玲苑編並みに読み飛ばし可能な記憶喪失編が終了。愛されヒロインを再確認。

度目の正直は、正直しんどい、の 15巻。

最早やることないから再放送でページを埋めている感が漂う本書。『15巻』は同じことを繰り返す三度目の再々放送の模様がお送りされる。

三度目の放送となるのは、1つは黒崎(くろさき)と白河(しらかわ)の友情譚。そして もう1つは風呂場事件簿である。

まず黒崎と白河の友情譚は、白河が本気で由宇に惹かれ、黒崎の お気に入りである彼女を奪おうと決意する『6巻』、2人が交際を始めたスキー合宿前後での彼らの友情危機を描いた『9巻』に続いての3回目となる。

作者からすれば、厳密には同じ内容を扱っていても視点の違いがあるから再放送ではないという主張なのだろうか。だが いつまでも決着のつかない三角関係に辟易している読者も少なくないはず。さすがに今回で最後だと思われるが素直に「好き」と言えない登場人物たちのせいで話がダラダラと間延びしている。
そして白河がヒロイン・由宇(ゆう)の記憶喪失という隙を突いて自分を売り込もうとするタイミングも残念だった。唯一、良かったのは記憶喪失を利用して作者は、今回 初めて自分の気持ちを表した白河の「好き」をリセットすることも出来たのに それをしなかった点。それが判明するのは次巻だが、無自覚に愛される由宇という おいしい状況を継続することをやめ、2人の王子から由宇がハッキリと一方を選んだという図式を鮮明にした。どんな結果になっても面と向かって告白することが、自分を成長させる。本書の王子さまたちは、その成長の度合いが少しばかり遅いのである。

これによって3人の中で まだ「好き」と言えていない お子様は黒崎だけになった。実は今回、白河が焦燥に駆られて動いていながらも、孤独が浮かび上がっているのは黒崎の方である。黒崎にとって由宇と白河は愛情と友情という違う種類の情ではあるものの同じように大切な存在。由宇の記憶喪失、そして白河の音信不通は、その どちらも自分から離れてしまう恐怖を黒崎に与えていた。これまでなら顔色一つ変えずに彼らが離れていくことを諦観していたであろう黒崎だが、白河に出会い、由宇と出会い どんどんと人間らしい感情を手にした。その感情が黒崎に寂しさや悲しみ、孤独といった感情を抱かせる。それは弱さではない。だからこそ彼は人を好きになることを覚え、自分の大事なものに気づけた。これまでと違い暴力や威圧以外で自分と関係を結ぶことを覚えたのだ。

落ち込んでいる王子を励ますという動機があれば、勝手に風呂を覗いても罪にはなりません。

して2つ目の お風呂場での遭遇は寮での『1巻』、別荘地での『4巻』に続いて3回目。どれも いかにも「別冊フレンド」が好きそうな作られた胸キュン場面であったが、まだ前2回はハプニング感があった。由宇が入っていることに気づかないまま黒崎が入浴してきて互いに全裸で動くに動けない状況が見られた。だが今回は完全に故意に起こした事件で、無理矢理感があって盛り上がらない。次の『16巻』といい、今度は恋愛関係的には やることないから、性的な場面を増やして読者の興味を持続させようという薄っぺらい目的しか見えてこない。

キャラ人気だけで継続している長編漫画の悪い所を抽出したような終盤戦が作品の価値を落としている。


た3回目ではなく、内容的に2回目の重複となったのは、初登場の『10巻』から暗躍し続けた氷野(ひの)との関係が呆気なく決着したところに、物語前半の悪者役(のように描かれていた)黒崎父との類似性を見る。

さぞ最悪の敵かのように描かれていた2人は由宇が仲介することで簡単に その態度を改めた。由宇の聖母としての役割なのかもしれないが、長い長い前振りの割に特に盛り上がることなく彼らは改心する。いや、改心するというのは適当ではない。彼らは2人とも黒崎が好きすぎて こじらせてしまった人たち、という共通点がある。自分を見て欲しい、自分のそばにいて欲しいという感情が彼らを暴走させた。黒崎という人間は女性だけでなく男性をも狂わせるのだろう。

氷野に関しては動機は番外編で語られるし、黒父に比べて可愛げがない。この後で氷野が もう1人の黒崎の信奉者の梶(かじ)と黒崎の子分の位置を取り合うなどの お笑い要因として出てくるのなら救いもあったが、寮も退寮させられ、小物だということもバレた彼に居場所はないだろう。害意のある人を出すことで、相対的に黒崎がまともに見えてるという効果以外に氷野の必要性を感じない。氷野の活躍を少しでも長引かせて作られたピンチを何度も提供することで、黒崎に由宇を大事に思う感情を行動で示させる。
それもこれも黒崎が「好き」を言わない(理解しない)からで、だから遠回りしなければならなかった。1話でキスしても、『9巻』で交際しても、まだしていない告白があるから本書は継続していく。それが放送されるまでは、何度も使いこすったネタを再放送するのだろう…。


間は夏休みの帰省時期。だが記憶喪失となった由宇は病院に定期的に通う。

その病院には氷野も入院していた。白河に守られて無傷だった由宇と違い、彼は足を怪我している。自分が理想とする黒崎ワールドの実現のためなら怪我や死をも厭わないのだろうか。信奉というより狂信である。この壊れ具合では この後に物語に出せないか。

そんな氷野にも、失われた自分の手掛かりを得ようと話をする由宇。氷野も由宇の無邪気さに毒気を抜かれて会話は穏やかに進行する。だが、その場面を見た黒崎は氷野に対する敵意を剥き出しにして、彼の胸倉を掴み、病院の屋上から落としかねない。
その黒崎の黒い感情を抑制するのが聖母・由宇。氷野の罪も許すことで、黒崎の矛を収めさせようとする。由宇は(自分の高校時代の)記憶がなくなってもたいしたことない、という。なんという美しい自己犠牲の精神。こうして氷野の命を救おうとする女神様である。

だが、その言葉に黒崎は傷つく。その彼の気持ちの変化に気づいた由宇は、黒崎の切迫した気持ちを感じ取る。これまでは鈍感だった由宇が、どんどんと敏感になって黒崎のメンタルをケアできるまでになっている。これも少女漫画後半での恋愛の力関係の逆転の一つか。ヒロインが最終的に無敵になる。


こに現れるのが、娘の一大事をずっと放置していた両親。特に理由もなく放置し、帰省の時期になって ようやく娘を迎えに来た。これは由宇と黒崎との関係の描写を優先するからなのだろうが、リアリティに欠ける。

その帰省に黒崎も一緒に、と提案する両親。黒崎は前のめりで同行を願う。これは年末年始に黒崎家に由宇がお邪魔したのと逆パターンですね(『10巻』)。互いに実家に泊まり込んで、結婚は待ったなしといった状況となる。
分からないのが、由宇が帰る「実家」とは両親が今 住む転勤先の家なのだろうか。実家と言えば実家なんだろうけど、言葉の使い方に違和感がある。そして この実家、マンションなのに階段があるという謎の構造も気になる所。基本的には夫婦2人暮らしで借りた家なのに、広すぎるし。

そこでは上述の通り、3度目のお風呂場事件簿が起きる。ただ常識的に考えて、記憶を失い、他人という認識がある黒崎が入っている浴室に由宇が侵入するのは変。もはや ただの痴女である。そこからは意味のない性的描写で幻滅。実家だぞ、ここ。


朝に登場するのは、白河とミナ。彼らはわざわざ夜行バスで由宇たちを追いかけてきた。この一連の流れに、ミナいる?

そして白河は黒崎がジョギング中であることを良い事に 由宇を攫って行く。まぁ黒崎は由宇の父と走っていて、婿としての働きをしているので、白河に勝ち目はないんだけど。

記憶喪失の由宇の治療方針で揉めていた彼らだが、白河は友情を壊してでも由宇に好意を伝えようとしている。こうして始まる由宇との擬似デート。

こうして白河が黒崎を裏切ろうとする場面で、決まって登場するのが 2人の王子たちの過去の回想。またもや友情話が挿入される。過去の話なら幾らでも後付けできますもんね。前回の回想とほぼ同じ内容をなぞっているが、今回は黒崎目線となっている。

家族とも距離があり孤独を募らせていた黒崎は白河と出会うことで安らぎを覚えた。そして高校に入ったら その輪に由宇が加わった。黒崎の心を波立たせる、地球上で たった2人の人たち。そんな大事な人たちが一遍に去ってしまう黒崎の一大危機。もし親友が恋人と恋愛関係になったら、黒崎は壊れてしまうだろう。再度 荒れるか、死んだように生きるか。


河は由宇を連れ出した先で告白する。由宇に想いをキチンと伝えたのは初めてでしょうか。ここ2巻で「好き」が どんどん解禁される。残るは黒崎か。
でも嫌な予感がするのは、記憶が戻った際に由宇からこの告白の記憶が抹消されているのでは、ということ。つまり由宇は無自覚に王子2人に愛される、という いかにも少女漫画的ヒロインの地位に戻らせる可能性は残されている。そうすると白河の未練も成仏できないで、4度目の横恋慕もあり得る。(どうやら記憶喪失中の記憶も維持するみたいだけど)

白河がキスをする寸前で由宇のスマホが鳴る。その通話から聞こえてくるのは黒崎の危機。由宇は黒崎に孤独の影が迫る悲しみを、そして白河に黒崎を裏切れない優しさを見た。そして記憶を失くしても、どんなに優しくしても由宇が選ぶのは、黒崎だった。

今回、北風と太陽になった2人。でも元来、芯の強い由宇は太陽の優しさではなく、北風にこそ自分を成長する好機を見たのかもしれない。または ただのドMで北風に煽られまくる自分が好きという嗜好なのかもしれないが。


河が自分たちの地元まで由宇を連れて来たため、地元に敵が多い黒崎は復讐者たちに囲まれ、そして由宇と白河を守るために自分を犠牲にしていた。わざわざタクシーを使ってまで舞台を移動したのは、敵役を出現させるのと救世主を出現させるのに便利だったからだろう。ちなみに黒崎はバイクを運転して、追いついたらしい。免許 持ってたんだ。ここまで そんな描写まるでなかったけど。あと誰のバイクなの? 大雑把な展開のせいで色々と気になる部分が出てきている。

その窮地の黒崎を守るのは、彼が大事にする2人。ここでは白河も初めて暴力を使う。てっきり弱いのかと思っていたら、ゴロツキを圧倒するぐらいに強かった。
黒崎は今度は由宇のピンチを身を挺して守れた。彼にあった、由宇が崖から落ちるのを守れなかった後悔やトラウマはこれで少しは解消されるだろう。そして もう一つ解決した問題がある。それが由宇の記憶喪失が終わった。愛の力で記憶が戻ったのだ。

この左下のコマを見て今度は黒崎が記憶喪失になるんだ、と早合点したのは私だけじゃないはず…(苦笑)

騒動の終結は、救世主・黒父が登場し、権力でゴロツキを退散させた。『14巻』で暴力の封印を解いたように見えた黒崎だが、黒父に失望されないためか、今回はフルボッコにされるだけ。ここでも暴力を使わないなら『14巻』での暴力もいらなかったのでは、と恨みがましく思う。

そして黒父は息子への愛情を見せる。この場面で黒崎は自分もまた誰かに愛されていることを知ったのではないだろうか。彼の幼少期のトラウマは少しずつ癒されていく。そこには白河との友情、そして由宇との愛がある。

黒父の用意したヘリの中、王子たちは秘密の会話をする。由宇にはヘリの音で会話は聞こえず、彼らはマイクを使って会話をする。これまでも男同士の話の時は由宇を排除するような場面がありましたね。

ただし冒頭で書いた通り3回目の再々放送。終わったと思った話をエンドレスに繰り返して、王子たちが素敵!ってだけの場面を作るだけの漫画って価値がありますかね?

今回の騒動で、鈍感な由宇にも黒崎がどれだけ自分を大事に思っているかが分かっただろう。記憶喪失中の、キャラを作らない、偽りのない自分でも自分は黒崎を好きになると分かった由宇。だから記憶喪失にも意味があった、はずだ…。


スペシャルショート 僕らのメモリー」…
記憶喪失中の由宇を元気づける梶の奮闘を中心に描く。梶くんは結局、恋人・タラコちゃんに他の女性とのキスを正直に自白するんですね。これで氷野の密告者と成り果てた彼の罪も帳消しにしましょう。

本編中に由宇が「コスプレ云々」といっているのは、ここでの内容なんですね。作者の中では一連の流れがあるのかもしれないが、読者(特に単行本派)の人には何が何だか分からない描写だったなぁ。『14巻』の氷野の動機の件といいスペシャルショートの内容を本編に反映させるのなら、一様に巻末に載せず、雑誌の掲載順にしてくれれば、話も繋がるのに。