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少女漫画と小説の感想ブログです

高い人気の お陰で連載中に寮をリフォームする余裕が生まれる。新築のはずなのに…。

黒崎くんの言いなりになんてならない(10) (別冊フレンドコミックス)
マキノ
黒崎くんの言いなりになんてならない(くろさきくんのいいなりになんてならない)
第10巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

「つきあってやるよ 俺の監視下で 俺の言いなりになるまでな」スキー合宿の夜、黒崎くんと彼氏彼女の関係になった由宇。クリスマス、カウントダウン、少しでも一緒にいられたらいいな☆ ――と思ってたら、まさかの黒崎家で年越し!? 想像以上の大邸宅で、悪魔級ドS“彼氏”とドキきゅんな冬休み♪

簡潔完結感想文

  • 待望の交際編なのに肝心の内容が出涸らしで味がしない。物語も矛盾が多くて楽しめない。
  • ヒーローの家族問題だが由宇は介入しないまま いるだけヒロイン役。伏線の割に平和な話。
  • 3学期、そして新年度までの連載は保証されたようだ。キャラ人気だけで継続する虚無感。

品の質の現状維持ができれば、それだけでありがたい、の 10巻。

いよいよ本格的に交際編が始まる。…が、面白くなりそうな予感が まるでしない。
話が続いて見えてくるのは、後付けの設定と生まれる矛盾、そして人気と連載継続に追いつかない作者の実力だろうか。もう作者が本来描きたいような場面は描き終えて、ここからは無理矢理話を作っているように見える。スタートダッシュで得たキャラ人気が作品を どうにか継続させていく。
そして この『10巻』では今後、物語が新年度まで続くような布石が打たれている。これも人気の賜物か。作品的に やる事も描きたい事もないけれど、連載は継続しなければならないのが苦しいところ(想像)。この巻で清い交際を約束させられた由宇(ゆう)と黒崎(くろさき)ですが、そんな状況と相まって ますます同じ「別冊フレンド」の作品、渡辺あゆ さん『L♥DK』を連想させる。2回の全裸対面や父親からの性交渉禁止など具体的な類似点の他に、作者の想定外に作品が当たってしまって手に負えない感じも似ている。ちなみに本書の作者のコメントの「まさか9巻」「まさか10巻」は毎回毎回それしか言うことないのかと思う。こういうコメント1つ取っても、作者の引き出しの無さを感じてしまうのは私が底意地が悪いからですよね…。


回、舞台となる寮が まさかの改修工事に入る。これもまた環境を変えて新鮮味を出そうという苦肉の策なのだろう。こうして作品的にも増改築を重ねて、新たな舞台、新たなキャラと新しい部屋の中に読者を いざなう。

ただ、無理なリフォームによる雑な工事の痕跡も見られ、それが矛盾となって現れる。特に『10巻』では大小3つの矛盾が気になって仕方なかった。特に3つ目の黒崎父の矛盾は ちょっと受け入れがたい。

まず1つが、寮の改修工事について。『1巻』2話では白河(しらかわ)が この寮は新築だ、という発言と完全に矛盾している。矛盾については、あぁそういう設定を捻じ曲げてでも物語を継続させなければならないんだなぁ、と思うだけだが、既に作者が描きたい内容が無いのに物語を継続させようとする編集部の商業主義には呆れるばかりである。

そして もう1つは白河の両親の所在地。今回、作中で年末年始を迎え、白河はカナダにいる両親に会いに行っていた。だが夏休みの帰省があった『3巻』では白河が「実家で用があって」実家に2泊している。これは日数的にカナダではなく今回 登場した黒崎と白河の地元にある家だろう。まぁ厳密に言えば白河は夏休みに両親に会った、とは言っていないので矛盾はないのだが、じゃあ2日以上費やす実家の用って何?と気になってしまう。多分、物語的には盆暮れ正月に最強の当て馬である白河をどっか遠くに飛ばすことによって、由宇と黒崎の仲が進展すればそれで良かったのだろう。白河は黒崎以上に由宇をずっと「監視下」に置けないことが恋愛における敗因なのかもしれない。少女漫画では家庭環境に問題がないとヒーローの資格がないとも言えるし…。

黒崎(子)驚愕の真実。どうやら自分たちが駆使する「黒崎家の文法」を互いに理解してなかった様子。

んなヒーロー側の家庭環境についての矛盾が最後にして最大の、3つ目の矛盾である。
今回で黒崎に厳しく接していた黒崎父(通称・黒父)が実は息子と同じ性質を持っていることが判明する。つまり その人を大好きだからこそ、自分の言いなりになって監視下に置いて、その人の身の安全を確保し、自分の心に平穏をもたらしたいと思っている。だが その独自の論理を伝えないまま、自分の願望だけを相手に強制するから、それが相手に「言いなりにしよう」と高圧的に感じられて、そこに距離が生まれてしまう。黒父の黒崎への執拗な電話は彼の愛情表現だったことが分かる。
このように本書には悪い人が出てこない。今後のネタバレになるが、ここからも波乱を予感させながら肩透かし的に丸く収まるのが通例となる。全ては高いカリスマ性を備える黒崎への愛をこじらせた結果、というのが悪役っぽい人に共通する背景となる。
少女漫画において、ヒーローの家庭環境へのトラウマは彼に恋愛を解禁させる大きなターニングポイントとなることが多いが、本書は数巻前から準備してきた割に、この問題に関しては呆気ない幕切れを迎える。今回の黒崎との実家暮らしにおいて、黒崎が多少は分かりやすい性格に変わってきたような気がするが、事実上の交際も始まっているし、キスなどの劇的な展開もなく、何のための黒崎家の家庭問題だったのかが分かりにくくなっている。

黒父の愛情が判明したからこそ大きな矛盾と疑問が生まれる。それが『5巻』での黒崎の頬に出来た殴打跡である。父親と会っているのを由宇が目撃した日、寮に帰ってきた黒崎の頬には殴られた跡があった。父親に殴られたのか?という由宇に黒崎は否定しないし、事情を知る白河も父親と会った事を確認する。顔の傷一つで全てを見通すエスパーのように描かれてきた王子様たちだから、白河の推理は外れないだろう。

そして『10巻』を読むと、こんなにも息子を溺愛している父親が、彼のためを思っての行動であっても息子を殴るとは到底 思えないのだ。私には この問題を消化しきれない。作者は物語に暗雲を予感させるような適当な伏線を張っただけなのだろうか。少しでも黒父の性格を事前に考えていれば、彼に息子を殴らせるなんて行動は取らせないだろうに。
考えられるのは、黒崎家にはもっと大きな遺恨やトラウマが用意されていたが、それを回避したという推測。乱暴に見えて自分からは手を出さない黒崎と同じような性格を黒父に与えることによって、彼らの類似性が一種コメディになるという案を採用したのだろうか。実は全員 良い人という世界観を作るために過去の描写を無視して塗り替えることにしたと思われる。

この矛盾一つで作者が物語を制御していないし、綿密な構想がある訳ではないことが一層はっきりしたように思う。どんどん大きくなっていく作品を隅々まで把握する想像力や能力に欠けているような気がする。同じように話を引き延ばしていると思われる作品でも、好きになる作品と そうでない作品があるのは、この想像力の差だろう。2人の関係の ここを描きたい、という明確で大きな目標もなく、その場その場で話を繋げていっているような印象を受ける。


末年始に両親が知り合いから貰ったチケットでクルーズ旅行に行ってしまい実家に帰れない由宇(両親は以前も福引で旅行に行っていた。強運夫婦?)。由宇は両親の結婚記念日でもある大晦日を存分に楽しんでもらおうと、寮が閉鎖されることを告げなかった。

クリスマスイヴは寮の大掃除、25日は寮でパーティーで、交際が始まったスキー合宿から恋人らしいことはゼロ。ただし黒崎は交際して由宇を監視する気満々。彼女が放課後どこか出掛けると知れば、初めて連絡先を交換し、何かあれば駆け付ける意思を示す。一気に束縛彼氏の爆誕である。

そしてクリスマスパーティー。由宇は黒崎へのプレゼントを用意していた。それを渡すため彼の電話を初めて鳴らし、2人での逢引きが始まる。プレゼントを用意していなかった黒崎は由宇の希望を聞く。「冬休み もぉ少し一緒に すごしたい」その由宇の願いを叶え、そして行き場のない彼女の年末年始を居場所を与えるために、自分と折り合いの悪いはずの実家で過ごすことを決めた。ちなみに由宇に良い印象のない私は「もぉ少し」という言い方に腹が立った(笑)。


うして黒父との対面。少女漫画の親との対面は結婚への序章であるから、将来の嫁舅である。ちなみに黒崎の父親は社長で、実家は和風の大豪邸。

この実家への滞在で、由宇は「黒崎家の文法」を学んだと言えよう。黒父の口調は冷たく、愛情があるとは思えない。だが そこは黒崎の父親。表面上の言葉が全てではない。

黒崎の母は彼が1歳の時に亡くなっているらしく、作中に顔も出ない。そして この事実に寄り、またもや少女漫画あるある の1つ、ドSという名の人格破綻者、母親の愛情を浴びていない説が立証された。
このように黒崎の家庭事情を肌で感じる由宇。そして黒崎もポツリポツリと自分や家族について話す。10歳上に自由な兄がいる。ちなみに黒崎の誕生日は12月でスルーしたまま終了。黒崎誕生日は来年に持ち越しかな。

この家でも黒崎は由宇をイジめる。だが由宇は気づいていないが、黒父から見れば表情の柔らかくなった息子の新しい一面であろう。

黒崎(父)驚愕の光景。由宇への嫉妬が止まらない!? もしかしたら 在りし日の黒崎両親の姿なのかも。

朝、庭の池に落ちたこともあり、由宇は黒父にはスッピンを見せる。白河には絶対に見せないが、黒崎家の人間なら大丈夫なのだろうか。由宇は黒父との2人きりでの会話で、自分たちが交際していることを明かす。

その会話で分かるのは黒父の性格。父が黒崎に何度も電話を掛けること、そして寮を どうにかして出させようとすること、自分の目的には彼を非難する言葉を重ねること、全ては息子が心配だったからであった。2年前の中学の襲撃事件のように無茶をして怪我をしないように監視下に置きたい。それは黒崎が由宇に感じるのと同じ種類の愛情だろう。


崎の実家は、当然 黒崎の地元ということになる。ここから新キャラで黒崎の中学の後輩・氷野(ひの)が登場する。氷野の存在は来年度の布石。物語は まだまだ続くという宣言だろう。

彼をはじめ暴力を封印していなかった かつての黒崎に恨みを持つ人間も現れる。今回 黒崎と由宇の前に現れたのは2年前の実家襲撃事件の犯人。
彼らを前に再び暴走し、人を傷つけようとする黒崎を制御するのは聖母・由宇。狂犬とも言える黒崎をしっかりと飼い慣らし、言いなりにさせている由宇こそ最強の人間だろう。そして由宇がいることで黒崎はドSだけど乱暴者にはしない配慮がされている。
黒崎が由宇の安全を最優先するように、黒崎を守りたいというのが由宇の意思。黒崎には お節介だと思われるが、それが由宇の望む交際のカタチなのであった。


の騒動で父と息子は会話の機会を持つ(由宇は寝落ち)。再び離れゆく息子に対し、父は本音を話す。「おまえが心配でたまらない」。この発言には黒崎も さすがに目を丸くする。
そして2年前の後悔を話す。2年前の襲撃で亡き母が大事にしていた桜の木を傷つけてしまった。だから父は自分を恨んで厳しい態度を取っているのだと思っていたらしい。2人は自分の中にある相手を気にし過ぎて、自分の本心を話せなくなっていた。愛情が上手く伝えられない黒崎家の男性同士だからこそ起こる摩擦であろう。


新年、目を覚ました由宇の首元にはネックレスが輝いていた。ネックレスは独占欲の証。『9巻』はネックウォーマーで友情の話だったが、『10巻』はネックレスを巡る愛情の話であった。そして少女漫画におけるアクセサリーは愛の結晶。これが輝き続ける限り2人は安泰。
これは黒崎が用意した物。先日、観光地でもある地元で由宇が手に取っていたものを選んだ。単純にクリスマスプレゼントの返礼であると考えられるが、父子の和解が成立した後に由宇に渡しているので、感謝の印とも言える。黒崎の悩み・トラウマであった2年前の事件は今回、父子の間で本当に消化された。そしてトラウマが消滅したからこそ、黒崎は由宇への愛をネックレスとして表現する。そうやって自分の愛情に向き合えたのだから、定石通りトラウマの消滅が恋愛の解禁と言えなくもない。

だが、黒崎は大いに照れ隠しもあるだろうが、ネックレスを「首輪」という。これ、黒崎とメンタルが似ている八田鮎子さん『オオカミ少女と黒王子』の佐田(さた)くんも言ってましたよね。どちらも母の愛情を浴びられず、愛情表現が下手だからこそ周囲に攻撃的なドSで自分を守る。首輪の件といい、類似点が多すぎて新鮮味がない。それは いくら寮という舞台を一時的に使用不能にしても同じである。


備の不具合で寮の一時閉鎖。3学期中は改装されるらしい。新築のはずなのにね★

年末年始を彼氏の実家で過ごして交際が認められた。だが接吻以上を許されない清い交際を命じられた。監視の目は厳しい。白河という監視の目があり、更には(広義で)1つ屋根の下に暮らしていた生活も一変する。

男子生徒は旧男子寮を使用し、2人1部屋。黒崎は白河と一緒。女子生徒は王子のいない寮生活に、これまでしていた努力を放棄し、薄汚くなる。これは ちょっとした遠キョリ恋愛で、会話の機会もない。

そこで由宇は黒崎の声を聞くために電話をする。だが用もないのに電話をしてくる由宇に厳しい黒崎。まるで黒父のようだ。まぁ黒崎からしてみれば、電話が鳴る=緊急事態だから身構えていたのかもしれない。

由宇はタラコちゃんの力を借りて男子寮に潜入。これまでの寮のような厳しい規則はないが、今回も友人を利用しているところが由宇の狡賢いところだ。だが、タラコが先に帰宅しなければならなくなり、寮の一室で白河と2人きりになる。その現場を黒崎に目撃され、黒崎は激怒。脇が甘い由宇に対して冷たい態度を取る。ネックレスに象徴される黒崎の独占欲に気づかない無自覚 愛されヒロインの由宇。白河もまだまだ由宇に気があるみたいだし。自信のない彼女が世界最強という俺TUEEE状態は継続中。

ただし由宇の方にも黒崎への不満があるから反抗する。こういう由宇は久しぶりな気がする。そして通例通り、そんな由宇の反抗に黒崎の性欲は昂る。だから翌日、黒崎が由宇の部屋を訪ねて…。少女漫画あるある。中身の無い作品、エロを売りにする、の始まりである。