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少女漫画と小説の感想ブログです

なんと交際後も続いていた「好き」と言った方が負けの恋愛頭脳戦。凡人には理解不能。

黒崎くんの言いなりになんてならない(11) (別冊フレンドコミックス)
マキノ
黒崎くんの言いなりになんてならない(くろさきくんのいいなりになんてならない)
第11巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

「言いなりになるまで」の条件つきでおつきあいをスタートした由宇と黒崎くん。本気のシツケにノックダウンして、大人しく生活中の由宇。ケンカをしないでいると黒崎くんの新しい一面に触れて…。そして迎えた初バレンタイン! いまなら受け取ってもらえるかも、だって、彼女ですし! だけどまさかのおおさわぎに…!?甘いだけじゃないバレンタイン。進級を迎えて寮にも新しい風が。見逃せない大展開☆

簡潔完結感想文

  • プチ遠距離恋愛の すれ違いと その解消で2人の距離感を近づけたが「好き」は遠い!?
  • 由宇は黒父の黒崎家の文法は理解するのに、黒崎本人の文法を理解しないという謎設定。
  • 黒崎が心にもないことを言う → バックハグでの本音爆発は『9巻』で読みましたが…。

ロインから自信を奪うために「好き」と言わない 11巻。

本書の基本構造として、ヒロイン・由宇(ゆう)と黒崎(くろさき)の間には認識の齟齬がある。「好き」という言葉を使わないまま交際に至ったため由宇は黒崎に大事にされている自信がないし、黒崎自身も由宇への気持ちに名前を付けられずにいる。
この関係で面白いのは、黒崎の方が由宇への気持ちに揺らぎがない点である。彼は好きという概念の分からない野性の少年であるから、本能のままに動き、キスをし、マーキングをし、首輪をつけ、守るために彼女を自分の監視下に置こうとする。黒崎の愛情は言語化されず、行動となって現れる。彼に足りないのは人間らしい感情と知性、そして相手に用いる言葉だろう(成績は良いが)。言葉足らずで一方的に自分の愛情を押しつけるのは黒崎家の伝統と言えよう。

こうしてイレギュラーな愛情表現ではあるが揺らぐことのない黒崎に代わって不安を担当するのが由宇となる。黒崎に言葉が足りないのであれば、由宇に足りないのは直観力だろうか。よくよく考えれば周囲の女生徒と比べれば、黒崎が様々な表情をするのも肉体的接触を望むのも由宇しかいないことは明白。『10巻』で与えられた愛の結晶のネックレスを見れば それは一目瞭然で、それがあれば どんな不安も吹き飛ぶ。…が早くもアクセサリーの持つ特殊効果は薄れたようで、由宇は黒崎の言動の裏にある愛情を読み間違える。不安を覚えない少女漫画ヒロインなんて存在しないのは分かるが、交際後も こんな場所を堂々巡りしているのかと徒労感を覚えてしまう。交際が楽しくなさそうだし、やっぱり読んでいて想いが通じた幸福やカタルシスが無い。

疑問なのが、由宇は黒崎の使う「黒崎家の文法」をいつまでも理解しない割に、黒崎の父(通称・黒父)が使う「黒崎家の文法」は理解していること。どうやら黒崎家の男性は、自分が気に入った人間に対して過剰な愛情を抱き、溺愛しているが故にその人を危険から守りたいし、手元に置きたい。だが それを直接言葉で伝えることはしない。彼らの文法では愛情表現とは命令なのだ。あぁしろ、こうしろ、これはするな、それらは全て愛ゆえ。
由宇は黒父の不器用な息子への接し方は理解していて、未来の嫁として黒崎父子の仲を取り持とうという気概すら見せる。だが彼女は直観力を奪われているから、黒崎父子が似た者同士と言うことを見抜けない。父の文法を理解しているなら、それを黒崎に適用すれば自ずと黒崎がどれだけ自分を大切に想っているかを理解できるはずなのだ。だが由宇は それをしないで不安ばかりが芽生えていく。

由宇は不安に思っているけれど、読者は黒崎の本質や愛情を見抜いているからニヤニヤできる一面もあるだろう。そして作品の性質上、黒崎が由宇に好きと伝えて関係性が完全に対等になってしまったら、それは作品の特徴を失うということも理解できる。「好き」と言うことは作品が終わってしまう危機に直結している。
だが読者としては、そんな「通」な楽しみ方ではなく、ストレートな幸福感がそろそろ読みたい。10巻以上も消費して関係性が深まらない物語も読んでいて辛いものがある。完全に黒崎のファンになったり、設定だけで胸キュンできる読者なら楽しめる内容なのだろうが、一歩引いてみると変な障害ばかりの作品に思えてしまう。

そして『11巻』の最大の欠点は『9巻』の再放送であることだと思う。黒崎が由宇を危険に巻き込みたくないから心にもないことを言い、それに由宇はショックを受ける。だが もう一度 黒崎に向き合おうと決めると、彼がバックハグで本音を漏らす、という流れは交際直前の『9巻』で見た内容そのまんま。愛の結晶であるネックレスを貰った直後のすれ違いと仲直り、なんだか一歩も話が進んでいない。通読する時、間違って『11巻』を読み飛ばしても全く問題がない。それぐらい内容の無い話であった。どんどん作品の濃度が薄まっている気がしてならない。それを埋めるかのように目隠しプレイやら太ももへのキスマークやら性的な匂いを濃くしている。1話で性的暴行をするような漫画に何かを期待するのが間違っているのか…。

内容を要約すると浮かび上がる以前との類似性。もしかして何度も同じことを繰り返して尺を稼ぐの⁉

氏以外の男性と密室で2人きりになる過ちを黒崎に身体で教え込まれて、由宇は彼女としての自覚が足りなかったことを反省する。由宇を調教して言いなりにならせるなんて、本来の黒崎っぽい。だが この場面、由宇も自然と身体が動き、黒崎を動揺させている。本能と快楽で動いているような節がある2人だなぁ。
それにしても黒崎は順調に老けていっている。続けて読むと気づきにくいが、ふと『1巻』に戻ってみたりすると、完全に前の方が若々しい。まだ作中では1年も経っていないのに。そして顔は以前から小さかったが、たまに全身が描かれていたりすると、違和感を覚えるほど小さいことに気づく。

ただ調教された由宇は白河(しらかわ)をはじめ男子生徒を避けるあまり、黒崎との接点もなくなる。そんな心の隙間風を埋めるのはバレンタインデーというイベントとなる。

共有スペースで手作りチョコを失敗したことを機に、由宇は寮生たちから彼氏がいると勘繰られる。仲良くなった女子寮の生徒たちに嘘をつくのは嫌だと由宇は黒崎が彼氏だと正直に話す。これは黙って失敗した芽衣子(めいこ)の件も影響しているだろう。

その当日こそ女生徒たちはショックを受けていたが、その後は由宇と黒崎の仲を考えれば妥当と思い、事実を受け入れた様子。結束力のある寮生には話したが、他生徒に話すかは また別の話らしい。この世界に君臨する王子との お付き合いは、交際後も問題が山積みのようだ。ネタに困りませんね。


レンタインデー当日は2人の王子が全校生徒、いや全女性からモテるという彼らの価値を再確認の日となった。この日から新キャラが登場。1年生で1番かわいいと評判の女生徒である。本格的な活躍(または暗躍)は次巻からだろうか。

この日、黒崎は常に女性たちに囲まれ、その上 由宇はチョコを紛失し、放課後まで渡せず仕舞い。王子たちにチョコを手作りした女子寮の生徒たちも渡す機会が無かった。そこで由宇は女子寮の生徒たちを集って、男子寮まで行くことにする。
ここで黒崎が誤情報を元に由宇を心配して保健室を覗いているのが笑える。これにより時間をロスし、由宇たちが男子寮に先回り出来るから一石二鳥のエピソードである。

男子寮の前には他校生をはじめ年上の女性までもが集まっていた。更には他校生の男子生徒が やっかみ半分で黒崎の顔を見物しに男子寮前に集合する。そんな彼らは由宇たちにちょっかいを出すナンパ男と成り果てる。そのピンチを救うのは当然 黒崎。またもや視線だけで他の男を圧倒する(この撃退法も何度目か)。


崎の登場に、由宇は勇気を持ってチョコを渡す。由宇のチョコが手作りだと知り、黒崎は驚き、そして喜んでいる(推測)。だが それが周囲を出し抜いた行動に見られてしまい由宇は矢面に立つ。
その空気を感じ取った黒崎は、批判から彼女を守るために「馴れ馴れしく呼ぶな」「鬱陶しいんだよ」と由宇を拒絶する。上述の通り、これは『9巻』の流れと全く同じ。そして由宇から手渡した物を拒絶するのは『6巻』の時と同じである(あの時は芽衣子の手作りだったが)。他作品との共通点だけではなく、作品内での既視感も多くなる。

落ち込んでいる時に声を掛けてくれるのが、もう一方の王子というのも お約束の展開。彼女としての自覚が芽生えた由宇は白河に寄り掛からないだけマシだが、この構図もエンドレスに続くのだろうか。そして今回は『9巻』などとは違い、由宇は自分で立ち直っている。少しは成長しているのかな。


日、由宇は黒崎に電話で呼び出される。どうやら黒崎は由宇の両親と一緒に駅前のホテルのラウンジにいるらしい。両親は出張ついでに由宇を訪問したが、男女の寮を間違え、黒崎の部屋を訪ねてしまった。その流れで彼らは黒崎とホテルに同行したらしい。

由宇は そこで黒崎と改めて話をし、前日のチョコ拒絶の件を聞く。そこで黒崎の真意を分かった由宇は胸キュン。まぁ読者には分かり切っていたことなので、特別 胸キュンするような場面ではない。由宇に直観力がないだけだ。

由宇の精神的な問題が解決した後に、更なる問題が出てくる。息子を溺愛する黒父が、情報網を頼りに、このホテル(黒父の経営)に黒崎がいることを聞きつけ駆け付けてきた。あんなに恐怖の対象であった黒父が ただのネタキャラになっている…。

ここで初めて顔を合わせる両家。これは本当に結婚一直線ですね。由宇の助言もあり、少しずつ距離を縮める父子。さすが未来の嫁か、はたまた黒崎家の亡き母親の役割を果たしているのか。

黒崎が辞するのと一緒に由宇も彼を追いかけ寮へ帰ろうとする。気を利かせて別々に帰ろうとする由宇を黒崎はホテルのエレベーター内でバックハグで抱きしめる。黒崎は距離を置くより、一緒にいた方が良いと改めて感じる。つまりは彼も さみしかったのだ。意識的に離れようとしても無理、それが彼の結論。
良い場面なんだけど上述の通り『9巻』と内容が丸被りしていて胸キュンよりも先に既視感に辟易してしまった。

本来なら胸キュン場面のはずなのに 既視感しか勝たん。しかも仲直りの1話後にはすれ違うし…。

書では問題が解決すると時間が早く流れる。続いての話は新年度の4月にまで時間が進む。寮のリフォームが完了し、新たな生活が始まる。
寮は外観が変わり、エレベーターが設置され、カードキーが導入される。内装も豪華になっているのは黒父の過保護な寄付があって実現したとのこと。ちなみに春休みは黒崎が海外に行ってしまったため、2人の間には何もなかったという。

新年度になり、後輩が入ってくる。これまでも寮は3学年が使っていたはずだが、先輩らしき影はなく、1年生の黒崎たちは我が物顔で寮生活をしていた。黒崎が後輩的な役割を果たしたり、敬語を使ったりするのは似合わないから作品から排除されたのか。そもそも1年生の王子たちが寮長をしているのが おかしいのか。作者は王子たちを作品内に君臨させないと気が済まないらしい。

新入生の1年生は、本書におけるナンパ男たちと変わらないチャラさ。そんなナンパ男のピンチはバレンタイン回でやったばっかりなので黒崎はすぐには登場しない。ここは由宇が独力で切り抜けようと虚勢を張る。だが格好がつかず、1年生たちの悪乗りに火に油を注ぐ展開になってしまい、そこで初めて黒崎の登場となる。
彼は暗闇に乗じて由宇を助ける。(『2巻』の机の下の情事といい、暗闇でも動ける黒崎ってロボットなの⁉ ってか停電ネタも使い回しだ)

そうして由宇の身体にマーキングして後輩たちに対して由宇の所有権を主張する黒崎。だが、まだ黒崎には「好き」という感情は生まれないらしい。こうして ただ交際しているだけという曖昧な関係が続いていく。
だからといって由宇が考えるような「…あたしの好きと 黒崎くんの気持ちは まだ全然 遠いんだ…」というのも極端な結論。不安になるのが少女漫画ヒロインの お仕事とはいえ、ここまで自信がないとヒロインに対して苛立ちを覚えてしまう。変な部分に問題を据えてしまった気がする。こういう点もスッキリしない。

そして次巻からようやく『10巻』で登場した氷野(ひの)が暗躍するらしい。新キャラばかりが増えていく予感。環境を変える + エロ + 新キャラ、全てが やることなくなった作品が やり始めること、である。