マキノ
黒崎くんの言いなりになんてならない(くろさきくんのいいなりになんてならない)
第19巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
「アンタなんて全然こわくない。大っ嫌いだから」 バチバチの大ゲンカから始まった、由宇と悪魔級ドS男子・黒崎くんとの関係…。大嫌いだった黒悪魔が、いまは大事な人になりました。
楽しいカナダ修学旅行の間も、どんどん将来のことを決めていく黒崎くん。留学についてこいなんて、いきなり言われても困るんだって…!だけど、そういうオーボーな決断力が好きだし、離ればなれになりたくない気持ちは一緒だし…。由宇が選ぶ悪魔級な恋のカタチは…? 最高にきゅんとする、悪魔級スケールの最終回★
簡潔完結感想文
- 留学・遠距離恋愛を巡って意見が対立し黒崎が失踪!? 全19巻の最後の2巻で進路決定。
- 黒崎家 男性3人が初めて一堂に会して、家族問題は完全に解決。御曹司の嫁枠 確保☆
- 男性の言いなりになるのが女性の生き方ではないという女性の自立まで描かれ、終幕。
同じことを繰り返す割りに、新しいことは不十分、の 最終19巻。
一気に閉店セールをしたなぁ、という印象が残ったままの最終巻だった。
ラスト3巻は ずっとカナダでの修学旅行の描写が続くが、現地に所縁(ゆかり)のある黒崎(くろさき)の兄の問題はともかく、黒崎自身と、そしてヒロイン・由宇に2人の将来像を決定させる場面まで詰め込むのは いささか やり過ぎな気がした。
ラスト1巻でいきなり黒崎に高校在学中の留学話が出て、それに由宇が同行するかしないかという問題が提示される。ただでさえ海外という非日常の空間の中で、そんな重大な問題を抱えても結論を出すような平常心になれるはずがない。一度帰国して、海外の文化や建築物への興味が高まった黒崎が、その問題を由宇と一緒に悩むという展開には出来なかったのだろうか。
結論を急いだ黒崎は由宇に、従順するか性的暴行をするかの二択を示し、退路を塞いでいるのも頂けない。黒崎も作者も何をそんなに焦っているのか、というぐらい落ち着く暇のない=余裕のない展開になっている。カナダの修学旅行編は10話分描け、という編集部からのお達しでもあったのだろうか、と思うほどだ(もし取材旅行をしていたら取材費回収のために本当に そんなノルマが課せられてそうだ)。
最初から本書と作者に全19巻という巻数が与えられるのなら、全体を再構成してブラッシュアップしたい、と思ってしまう。特に本来 腰を据えて描くべきだった2人の将来について、最後の2巻で一気に結論を出しているのが急ぎ足で、大長編なのに尺が足りないという事態を引き起こしている。
折角、由宇が黒崎の「言いなりになんてならない」性格と2人の進路についての結論が一致するという悪くない展開を用意したのなら、その結論に至る過程を もっと丁寧に描くことも出来たのではないか。3回にも及ぶ白河(しらかわ)の由宇への横恋慕の1回分のページを こちらに回して欲しいものだ。
そして白河を含め3人の進路まで描くのであれば、その手掛かりとなる描写をもっと早くから仕込むことは出来なかったのか。黒崎は いきなり海外で建築物に魅了されるという面を見せ、秒で留学するとか言い出すし、白河も「大学は国外も考えてる」という『18巻』の一言だけで進路を決定している。しかも彼が高校在学中に留学する理由は分からないし。なんか結局、作者が描きたいのはヒロインよりも、2人の王子であって、彼らをどうショーアップさせるかに腐心しているだけという疑惑が晴れない。王子たちは いつまでもいつまでも 同じ地に住み、永遠の友情を誓いながら仲良くくらしましたとさ、というのが本書の結論なのではないだろうか。
由宇が出した留学の結論は、とても納得できるものだった。性的な脅迫をしてまで自分を屈服させようという卑劣な黒崎に決して屈しないことで、男性の言いなりになるばかりの生き方から、1人の女性として自分の足で歩くことを選んでいる。そもそも2人は その関係から始まっているので、この帰結は冒頭の関係に戻るようで嬉しくなった。まぁ 成長したはずの黒崎まで初期型にリセットし、性的暴行を厭わない人間にしたのは大間違いだと思うが…。
ただ由宇の将来の進路も根拠が薄弱である。2人にとって この修学旅行で見聞きした物・経験が、本当に人生を大きく変えるものだったのであれば修学旅行の目的を大いに果たしていると言えよう。海外で勝手な行動をしまくった2人に手を焼いた教師たちも、生徒たちの大きな収穫に その振る舞いも帳消しにしてくれるだろう。
大きな意味のあった修学旅行だが、由宇がその体験を消化し、夢へと昇華する描写が全くないから、彼女の夢が語られても読者が共感しづらい。
多くの長編漫画は どこまで描くかなど決まっていないから、登場人物が将来を考えた時、ヒントになるのは作中の描写しかない。そうなると少女漫画におけるヒロインの進路は、序盤から お弁当を作るようなタイプなら料理系になり、真面目で学校生活で苦労が多かったタイプは教師になる、というのが2大進路だろう。
由宇の場合は、修学旅行が彼女に与えた影響がどれだけ大きかったかを描写する場面があれば、彼女の夢を応援できたに違いない。だが、もう最終回が近づいており、由宇の進路は結論が出てから初めて発表される形式になってしまう。やはり修学旅行編と遠距離恋愛編を分けて描き、その間に将来の問題を少しずつ入れていくべきだったのではないか。これだけのページ数がありながら、描くべき描写がないというのはやはり気になる。最後まで疑問の多い内容で、いまいち作品に没頭できなかった。
降って湧いた遠距離恋愛問題。黒崎は由宇に従うか性的暴行かの二択を提示する。
うわーーー、ドキドキしない。黒崎が服を脱ごうが、由宇に愛撫しようが心が動かない。むしろ気持ち悪い。1話の性的暴行という名のキス以来、何も成長していないことが判明する。胸キュン要素として、由宇が隣に いなければならないのは黒崎の方で、黒崎の寂しがり屋の性格が原因で、由宇を言いなりにしようとしているという場面らしい。でも黒崎をこんなにした作者に嫌悪感を覚える。本能や、自分が寂しければ女性に何でもしていいのか、という気持ちの悪い価値観は最後まで蔓延しているようだ。
翌朝、由宇が目を覚ますと、黒崎は姿を消していた。街を探す由宇に手助けをするのは黒崎の兄と その婚約者・リサ。そして白河たち同級生も合流し、捜索隊が結成される。
由宇も結局、1人で探すことになり(迷子防止のために黒兄の監視下にいるはずなのに)、彼女は1人で外国人に手掛かりを求める。これが由宇が立ち向かうべき逆境になり、その結果 黒崎の手掛かりを得て、そして それが将来へと繋がっていく。英語をはじめ外国語が苦手という設定が彼女の将来へと繋がる うすーーーい手掛かりだったようだ。
発見した黒崎は、彼が興味のある(という設定に急になった)建築に目を奪われていた。この時の「ムカつく …全然 飽きねぇ」というのは建築物だけじゃなく由宇にも言っている言葉だろう。
様々な騒動があった(ありすぎたかもしれない)修学旅行も最後の夜を迎える。
この夜、2人は またも集団行動から外れ、これが2人で将来のことを改めて話す機会となる。由宇は「守られながら夢 見つけるとか嫌だ」「頼るより追いつきたい」と黒崎に反論する。黒崎の言うことはきけない。それは1話からの由宇の特性である。その強さが黒崎に由宇を特別だと思わせたのだし、黒崎は そんな由宇の姿勢が大好きなのだ。
だから2人は決別を選ぶ。別れではなく違う場所で互いに頑張るというのが彼らの結論。黒崎も、由宇の性格を熟知しているからこそ その結論に笑顔で納得する。破顔というぐらいに清々しい笑顔は、黒崎が由宇に反論されることが大好きだから生まれるものだろう。
最終日は黒兄とリサの結婚前の記念撮影で、黒崎たち同級生が見届ける。遅れて到着した黒父が同級生たちを追い払おうとするが、黒崎は「俺の友達だ」と彼らを擁護する。黒崎が この寮生活で得たのは愛する人だけじゃない。視線で人を威嚇していた時代の黒崎に恐れず、ちゃんと向き合ってくれた友人たちもいるのだ。
そういえば黒崎家の男性3人が一気に揃う場面は ここが初か。黒兄初登場時(『16巻』)では3人は同じ家にいたのだろうが、集まったり3人での会話は無かった。こうして家族が1枚の写真に納まり、3人が並ぶことで黒崎家の問題は完全に解消されたと言えよう。顔はイケメンだが、心が弱くて素直な言葉が言えない面倒臭い黒崎家の男たちである。
欲を言えば、黒父と黒兄の和解(というと大袈裟だが)、心の交流、家族観の回復の場面は欲しかった。問題を引っ張った割に解決編がヘニョヘニョっとしているのは本書の悪い特徴だろう。
一緒に留学しなくても由宇との婚約話は黒崎の中では生きている様子。「俺の相手は赤羽だけだろ」。こんな言葉が素直に言えるのも黒崎の成長の証。
こうして年明けに黒崎と、そして白河は留学していく。そう、なんと白河も黒崎と同じく留学するという(急展開)。同じ下宿先で仲良くするそうだ。やはり本書は2人の王子がメインで、ヒロインは おまけ である。
寮生総出で用意した壮行会の日、黒崎たちは既に空港にいた。黒崎が由宇に出発の日を偽っていたことが判明。なので別れの場面も、遠距離恋愛で お馴染みの空港での お見送りも無し。自分のために他の人が悲しむのを嫌った、黒崎の優しさから生まれた行動かもしれない。
そして時は流れ、3年生の夏を迎えた由宇は受験生としての日々を送っていた。彼女が目指すのは国際学部だという。英語の成績の急上昇、修学旅行での体験、そして黒崎の留学が彼女に進路を定めさせたみたい。
相変わらず寮では王子たちを祀り上げている日々が続く。実物がいないからこそ、彼らは偶像化され信奉者たちが熱心な活動をするのだろう。本人がいたら威圧と委縮で絶対に出来ないだろうし。
中でも黒崎に狂信的な氷野(ひの ←おそらく)の手によって編集された動画で、全19巻分の思い出を振り返っている。一応、梶が作ったとなっているが、もう寮生ではないはずの氷野(っぽい)人が機器を動かしているので、氷野の愛が詰まっている可能性は高い。
2人の王子の留学は年明けまでらしい(1年間ということか?)。一体、何を学んでいるのか、そして それは在学中でなければならないのかは謎のまま。ただし卒業式は この高校の生徒として出席予定。だが大学も海外らしい。
そんな遠距離続きの2人だが、黒崎は由宇にだけは塩対応で通している。その割に寮長代理として寮生の管理をしている梶には気を配っているのが笑える。
でも そんな状況だからこそ、由宇は自分の夢を追い求めるその先に、黒崎の道と交わる未来があると信じて邁進する。逆境にこそ輝くのがヒロインというもの。弱点だった学力も克服して由宇が最高のヒロインになる日も近い。
と思いきや、由宇の成績はなかなか上がらず、志望校も厳しい状況。そんな落ち込んだ由宇を励ますかのように黒崎から絵ハガキが届く。文章のない絵ハガキだが、黒崎が好きであろう建築物が写った写真を部屋の壁に貼り、由宇は全身全霊で勉強に集中する。
年始に帰省した由宇が実家で目撃したのは黒崎の姿。由宇の行動を先回りしたらしい。
こうして ほぼ1年ぶりの再会となった2人。一通りのイチャラブを終えて、2人は近況を語り合う。
黒崎が由宇に連絡をしなかったのは、由宇に会いたくなってしまうから。相変わらずの寂しがり屋さんである。黒崎は学業に加え、長期休みは黒父に同行して仕事を手伝ったらしい。そして黒兄夫婦には女児が生まれ、黒崎は叔父さんになった。
この再会で初めて黒崎は由宇のことを名前で呼ぶ。これは名字が一緒になった際の早めの対策かもしれない(笑)
そして卒業式。黒崎は答辞を読んで、学校の顔として卒業。
そんな最後の日も寮を綺麗にする(久々ですね、黒崎の潔癖症)。この時点で由宇は進路未定。前期日程は桜が散り、後期日程の結果は この日に発表される。そして黒崎と白河はフランスの大学に行くという(学校は別)。
由宇が国際学部を選んだのは留学するためでもあった。語学を勉強し、いろんな人とコミュニケーションとれるようにするため。「あたしの人生 黒崎くんがすべてじゃないから」と飽くまで1人の人間として自立をする。
そんな由宇は無事に大学に合格。これからも自分のために歩き続ける。自立した彼女は黒崎くんの言いなりになんてならない。それでも黒崎とは離れることのない人生を進もうとしている。
結局、彼らは黒父による性交渉禁止を守ったまま卒業した。もう彼らには家族問題や進路問題といった障害は無いのだからには修旅から帰った後から留学するまでの間にしても良かったが、駆け足展開もあり描けなかったか。ただし卒業式から2週間後には卒業旅行が予定されており、晴れて高校生ではなくなった彼らが「一晩中 はなさな」い一夜を過ごすことも匂わされている。