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少女漫画と小説の感想ブログです

暴力で圧倒した頃の「黒黒崎くん」の信奉者を用意することで、現在の「白黒崎くん」の姿が際立つ。

黒崎くんの言いなりになんてならない(13) (別冊フレンドコミックス)
マキノ
黒崎くんの言いなりになんてならない(くろさきくんのいいなりになんてならない)
第13巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

黒崎くんを孤立させるため後輩・氷野くんが暗躍する中、由宇は黒崎くんとの距離の取り方にドキドキ中…。最近、黒崎くんがかわいく見えて困るんです!! もっともっと近づきたいのに、キスをめぐって黒崎くんと喧嘩してしまって…!? 進級編解決&新章スタートの13巻は、おまけ番外編「ミナの本音」「春美寮の1コマ」も収録☆

簡潔完結感想文

  • キスを巡る認識の違いで2人が初の喧嘩。意固地になる由宇を軟化させるのは意外な人物。
  • キレてないですよ。俺 キレさせたら大したもんです。氷野の数々の扇動に揺るがない黒崎。
  • やっぱり彼女は言いなりにならないので、厳しい監視下に置かずオープンな交際が最適解。

書の男性たちは虚像を求めがち、の 13巻。

『12巻』は容姿端麗のミナという由宇(ゆう)にとって上位存在が、実際には王子たちに見向きもされないことで本書において由宇が圧倒的な存在であることを証明した内容だったが、今回は氷野(ひの)という絶対悪がいることで黒崎(くろさき)が正義のヒーローになっている。意地の悪いことを言えば、この中盤で性格に難がある人たちを用意して、2人の価値を上げる権威付けが行われていると言えよう。ライバルや敵がいることで由宇と黒崎の成長が可視化され、彼らが作品内で絶対的な存在に祀り上げられていくのである。

以前から容姿においても成績においても、そして暴力でも負け知らずだった黒崎。だが彼は今回、戦わずに勝つという非暴力という平和で絶対的な武器を手に入れ、更に無敵の存在になったと言える。
氷野は暗躍し、何度も黒崎がキレそうになる状況を作り出す。氷野の目的は暴力でクズを圧倒する黒崎の姿が見ること。単純に言えば それは中学時代の黒崎の再臨である。だが黒崎が氷野の挑発に乗らず、絶対にキレないことで黒崎は完全に過去を払拭していることを表現している。今回、この部分は素直に感心した。氷野が求める黒崎像は もはや過去のもので、彼が求める虚像があるから、黒崎の現在地がより分かりやすく示されている。情報を駆使して他者を使って暴力を扇動する氷野の姿勢は「Qアノン」など現代の手法っぽい。彼が直接的な暴力を使わないのは、身体が弱いという設定に繋がるのだろう。陰キャの王様だ。
そしてクズを圧倒して欲しいという氷野の願いは反転し、作品的にはクズ=氷野を黒崎が圧倒的な正義感で格の違いを見せつけているという絶対的な勝利が導き出される。もともと手下を使ったりデジタル機器を使ったり陰湿な描写が多かった氷野ですが、今回で完全に黒崎の敵ではないことがハッキリした。だが既に負けも負け 完敗なのに氷野の暗躍は まだまだ続くらしい…。負けを認めなければ試合は終わらない、それはミナの恋愛バトルの価値観とよく似ている。だから新キャラ2人の話が どこまでもどこまでも続いてしまう。色々と決着が付いていることに、色々な理由をつけて長引かせるのは本書の悪癖だと思う。

中学生・黒崎を神として信奉する氷野。氷野は神自身が天災を起こし、世界を破壊することを望む。

して氷野を通して思ったのは、冒頭の一文の通り、本書の男性キャラが虚像を求めている、ということ。氷野は上述の通り、かつての黒崎を求めている。
そして こちらも こじらせすぎて行動がおかしくなっている黒崎の父は自分の言いなりになる息子を求めていた。これは息子を思っての行動だったのだが、その過剰な愛がありながら、高校の寮生活を通して変わっていく息子の姿に気づけずに、一貫して高圧的な態度で彼に接してしまっていた。父にとっては独り立ちする息子や成長する息子という考えが欠如していたのかもしれない。

黒崎自身も ほとんど父親と同じ。彼は由宇を監視下に置き、言いなりにすることで彼女の安全を守ろうとした。そこに由宇の意思はいらない。だが その達成を目的とした交際を通して、彼は自分が由宇の人格や人権を無視していることに気づいたのだろう。自分が惹き寄せられたのは、時に自分に反抗し反論する、違う意見を持つ別の人間だということを学んだ。だから黒崎は由宇を束縛・監視するだけではなく、彼女のやりたいようにやらせる器の大きさも身につけた。黒崎は もう交際が始まった数か月前の彼とも違うのだから、中学時代と違うのは当然である。

こういう部分も、いつまでも虚像=自分にとっての理想像を求める氷野との違いになっている。ホント、氷野は敵役としてはショボいが、黒崎の引き立て役としては良い働きをしている。


そして物語も2年目で同じイベントも2回目となっている。その中に1年目との差異や意図的な重複などを見つけるのも楽しいポイント。


氷野は かつての黒崎復活への足掛かりとして梶(かじ)を選ぶ。

一方、由宇は相変わらず黒崎の愛を信じられず、ミナと黒崎が一緒に帰る場面に やきもきする。由宇の性格や自信の無さを そういう塩梅にしているのは分かるが、ここまで何も信じられないと共感できない部分も多い。あたしたち(交際が)自然消滅してた…!? とかバカみたいな思考が読んでいて辛い。

実はミナは『12巻』の騒動の最中に黒崎の首筋に残ったキスマークを見て、黒崎の彼女が由宇だと推定していた。由宇を守るために黒崎はミナの言いなりになり、キスを求められ受諾するのだが…。それを身体を張って阻止する由宇。すごい、ヒロインなのに他の人とキスした! もはや お笑い要因である。

一方、氷野にカモられた梶は、合コンで初対面の女性とキスをして、それを脅迫材料に使われてしまう。ここでは「浮気」のキスで話が統一されているのが良いですね。
更に話は続き、もし由宇が黒崎たちを尾行していなかったら黒崎はキスをして、由宇に黙っていたのだろうか、という疑問が由宇の中に湧き上がり、それを追求しようとして2人は喧嘩状態に突入する。交際後、初の喧嘩と言えますが、こういう言い争いは序盤みたいで懐かしく思う。そして私の考えでは黒崎は由宇のはね返りの強さに惹かれ、興奮するタイプの人間だ。だから喧嘩であっても黒崎的には色々と満たされているのでは(笑)?


うして冷戦状態に突入する2人。でも実は由宇の方が黒崎をふり回しているというのは白河(しらかわ)も感じている。由宇は相変わらず自分の事しか考えてないが、顔に出ないだけで黒崎は黒崎で大変に悩んでいる(もしかしたら由宇以上に。男性はとても繊細な生き物)。

その上、黒崎に白河と体育倉庫での密着している事故現場を見られてしまう由宇。そういえば去年の体育祭でも体育倉庫が舞台になっていたなぁ。ここで黒崎は明らかに嫉妬しているが、由宇は彼を怒らせたと誤解し、また距離を感じる。

徐々に明らかになる氷野は黒崎至上主義。彼は自分の認めた黒崎像しか認めない。だから邪魔な者たちを排除する。「ゴミ同然」の梶、そして黒崎に相応しくない恋人にターゲットが移行する。


んな状況の中、学校イベント・体育祭が開催される(2回目)。
精神的に弱っているとイケメン男性に助けられるのがヒロイン・由宇の特権ですが、今回 由宇を助けるイケメン男性は なんと黒父。彼のアドバイスもあり、由宇は黒崎に自分から謝るという意識を持つ。

そんな時、由宇に向かって体育祭の看板が倒れてくるピンチが発生。怪我こそなかったが腰が抜けた彼女を謎の覆面の剣道部員が助ける。それは当然 黒崎。黒崎は剣道部の窮地を救ったついでに、由宇も救ったらしい。そんな根の優しい彼に由宇は自分から歩み寄る。自分が黒崎に腹を立てたのは、あの日のキス未遂が独占欲であることを申告する。すると黒崎は2人に出来た距離感に何も感じていないようで、実は眠れないほど悩んでいたことが判明。この所、本音がうっかり漏れて、それが読者に大好評の黒崎くんなのです。もしや計算高いの⁉

看板には細工がしてあることを見抜く名探偵・白河。そして黒崎も、由宇の発言から今回の事件が由宇を狙ったもの、そして それが自分が原因であることを推理する。王子たち、相変わらず推理力・直感力がエスパー過ぎるよ…。

今回も由宇に注意を喚起して、離れさせようとするが、由宇は離れるつもりはない。黒崎が自分を溺愛しているから行動を制限させようとすることまでは気づかないが、由宇は出来るだけ自分の足で立とうとする。この辺は、由宇が精神的に成長する事で再放送回避、といったところでしょうか。ここで再びショックを受けて再度 距離が生まれたら本を投げていたかもしれません。


分が手駒に使われた梶は落ち込む。そんな彼を迎えに行くのは2人の王子。梶から脅迫の真実と、犯人の名前を知る2人。更に梶は 黒崎の部屋にあった写真(『11巻』のホテルでの記念撮影)を氷野に報告しているという…。黒崎にとって由宇が特別な動かぬ証拠が手に渡ってしまった…。

そこに由宇から氷野から呼び出された、という連絡が黒崎に入る。飛び出す黒崎。
ここで大事なのは黒崎の梶への処罰。黒崎の過剰な愛情からすれば、由宇を危険に巻き込んだ梶は万死に値する。だが彼に罰を与えないのは、黒崎が梶に友情を感じているからなのだろう。そして どんな状況下でも暴力に走らない彼の非暴力主義が徹底していることが分かる。
一方、容赦ないのは白河。梶に責め苦を与え続ける。もはや白河の方がドSである。2人の王子の未来は王道を進む社長・黒崎と、裏街道を掃除する白河という感じが似合う。

当て馬・白河は黒崎との友情、そして由宇への愛情の二等辺三角形があるから怒りも二乗になる。

野の目的は、黒崎をキレさせて、彼が人をボコボコにする場面が見ること。中学のような場面をもう一度見ることが氷野の目的。絶対的な王者が、他者を踏みつぶすというヒエラルキーが厳然とそこに存在することが、氷野を興奮させるらしい。こいつもまた異常な性癖の持ち主だ。

氷野は梶が黒崎の部屋から盗んできた1枚きりの2人の写真を燃やす。これも黒崎には耐え難いこと。だが黒崎は ここでもキレることなく、由宇を連れ立って帰って行った。もう黒崎は人間の幅が広がっているのだ。

そして黒崎は、氷野に2人の交際を脅迫材料にさせないために由宇との交際をオープンにした。こうして むしろ交際後に距離が生まれてしまった寮生活での2人の距離は近づく。また氷野は、黒崎が退寮の手続きを取り、寮での安全は確保された。

氷野がどんなに中学の頃の黒崎を望んでも、黒崎はこの寮で由宇や梶、多くの仲間に囲まれている。黒崎を通じて作品世界が広がっていることが実感できるのも この巻の美点である。なんだろう『13巻』だけは すごい好き。


2人の交際宣言によって、ミナは恋愛の敗者になった訳だけれど、彼女は諦めない。交際が片想いの終了とは限らないという。それが白河の心に響く。えーーー、また同じことを繰り返すの?? 白河は作品外に追放されないだけ ありがたいと思うような身分なんだから もう その心の揺らぎは要らないよ。

そこから1か月は平穏が続き夏休みに突入。黒崎に夏祭りに誘われた由宇。今年の夏は去年と違い夏に浴衣が着られた。黒崎たち2人の王子の浴衣も見られる。そして少女漫画の夏祭りと言えばナンパで、それに加えてビジュアルで圧倒する王子たちによるナンパ撃退も お約束の場面である。

だが氷野はまだ何かを仕掛けるつもりらしい…。


スペシャルショート ミナの本音」…
自分の欠点を欠点として扱わない黒崎にミナが本気で恋に落ちる お話。

実はミナには中学時代、女生徒の恨みを買ったからか額に怪我をしている設定があった。この額の傷を隠すために前髪を作っているが『12巻』の脱出劇の際に黒崎には傷を見られた(黒崎のキスマークといい お互いが傷を見られたのか)。しかし黒崎は額の傷を気にしなかった。そんな これまでの他の男子生徒とは違う一面を黒崎に見たことで、ますますミナは黒崎に夢中になる。

この話、お忘れの方も多いでしょうが、額に傷といえば元祖は由宇なのである。文化祭の衣装作りのために黒崎の身体を計測した『7巻』での接触で黒崎は由宇の傷を見つけ、彼女のチャームポイントとして理解している。アバタもエクボじゃないですが、額の傷というのは黒崎にとって「良いモノ」なのである。ミナは自己肯定に繋がったかもしれないが、黒崎が認めているのは由宇という残酷な真実が見える。

それにしても中学時代の男子生徒の手のひら返しが酷い。額の傷によってミナに黒い噂が付きまとうのは確かだが、怪我一つで彼女の美貌が損なわれたとするのは頂けない。若いから仕方ないかもだけど。

あと折角、過去編をやるのならちょっとでも由宇を登場させて欲しかったなぁ。そして現在のミナは白河とのフラグが立ちまくっているようにしか見えないが。