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少女漫画と小説の感想ブログです

大事な巻なのに、尻込み → 男に助けられる。くらいつく! → 尻込み → 男に助けられる…。

黒崎くんの言いなりになんてならない(9) (別冊フレンドコミックス)
マキノ
黒崎くんの言いなりになんてならない(くろさきくんのいいなりになんてならない)
第09巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

大ヒット映画原作☆ 悪魔級ドS男子とのドキドキラブ第9巻! 梶くんの代理で出場したカップルコンテスト。黒崎くんと大勢のまえで恋人のふり!? 舞台袖の一瞬だけはふれるくちびるも由宇を包む手もやさしかった…。勢い余って告白もしちゃって…気がついたら雪山で遭難中!? 恋愛事情が大進展! ついに彼女になっちゃいます…!? 梶くんサイドの文化祭事件を描いた番外編も収録☆ 目が離せない最新刊♪

簡潔完結感想文

  • 全体の半分でターニングポイントとなる巻だが、良かったのは王子たちの描写だけ。
  • 大事な場面なのに自分の意思を貫徹できないで、2回とも王子に助けられる由宇が嫌い。
  • 明確な両想いの前に なし崩し的に交際が開始。長い割にボンヤリとしてカタルシス皆無。

ックレスは愛の結晶で束縛願望の象徴だが、ネックウォーマーは友情の証、の 9巻。

圧倒的 幸福感 不足!!
今回で由宇(ゆう)と黒崎(くろさき)に交際の同意が得られたので、次巻『10巻』からは交際編が始まる。全体からみると全19巻の約半分で、ここから変わりゆく2人の関係性を楽しむことが出来るだろう。
…が、交際編は始まるが、それが両想いと同義でないのが本書にカタルシスが欠落している所以である。両想いは少女漫画の大事なピークだが、本書には それがない。ここまで長く引っ張った割に、妥協して交際を始めた感じを受けてしまう。
2人の交際開始に妥協や諦念といった印象を受けるのは正解だろう。不器用な黒崎は自分の大事なものを傷つける事が一番怖い。だから由宇を手元に置いて傷つけるよりも、つかず離れずの位置で彼女を見守っていたかった。だが今回 黒崎は一つの失敗をして由宇を危険に晒した。どんなルートを選んでも その失敗をしてしまうのなら、自分の監視下に置いておこうというのが黒崎が交際に踏み切る論理だろう。本来は したくない交際(愛情が深すぎて)だが、予想外の行動をする由宇は ずっと見守ってやらなければならないから交際という形式を選んだみたいだ。

不本意ながらも黒崎くんの言いなりになる、振り回されるというのが本書のテーマだから、その路線を守るためにも こういう形式での交際開始が選ばれたのでしょうが、私が望んでいたようなシーンが見られなくて残念だった。由宇からすれば これまで(自分の脳内では)嫌われているとばかり思っていた黒崎くん。そんな彼が僅かながらでも自分への特別な好意や執着を見せ、特別な存在になれたとマイナスがプラスに変換される大きな変化だったのだろう。けど嫌われてないならいいぐらいの後ろ向きな交際を私は素直に喜べなかった。人でなしだけど本当は優しいの、というのはヒモやDV男に情けをかけるダメな女性のようで見ていられない。やはり2人は特殊な精神の持ち主のようだ。彼らの関係は割れ鍋に綴じ蓋、と思えば良いのでしょうか。


た もう1つ引っ掛かるのが、この大事な巻での由宇の立ち振る舞い。今回の感想文の題名にもしましたが、自分で決めた事を貫徹できずに簡単に心が折れ、それを男性たちに励まされている部分に彼女の成長の無さを感じてしまった。しかも それが『9巻』で1回ではなく2回もあるのだ。ヒーローである黒崎に助けられるのはまだしも、難攻不落の黒崎に果敢に挑戦する気持ちを白河に復活してもらうのはデリカシーに欠ける。こういう時でも芽衣子(めいこ)たちを使って女の友情を示さないのが本書らしいけれど…。
全体的に王子たちのプロモーションビデオみたいな内容の本書ですが、立ち位置的には彼らと伍する存在でなければならない由宇が圧倒的に実力と魅力のないことが、今回で露見したように思う。大事な巻なのに。由宇さえも王子たちの魅力を引き出すための道具のように思えてしまい残念だ。作者は本当に由宇のことを しっかりと造形できているのでしょうか。

朝令暮改ならまだしも、たった数分で自分の意思を挫くようなヒロインの どこを好きになればいいのでしょうか。良いな、と思う場面もあるのに、それを帳消しにするような描写もあって心から楽しめない。その中で両想いは待ち望んだ場面だったのに決定的な場面はなく交際編と進んでいく。この後は何を期待すれば良いのだろうか…。

(右)から たった5ページで意見を翻すヒロイン。彼女の意思の弱さを表現してるのかしらー(嫌味)

化祭の「カップルコンテスト」にクラス代表として出場するために「つきあってやるよ」と宣言する黒崎に由宇は混乱する。

強引に話を進めようとする黒崎を制止するのは白河。いよいよ由宇を巡る争いも最終段階。だが、男性たちの行動を前に由宇が逃走。とてもヒロインらしい行動だが、これは この後の男同士の会話に女は邪魔だということもあるでしょう。王子がいればヒロインは誰でもいいのだ…。

黒崎が由宇に「つきあおう」といったのは、彼女を白河に取られると思ったから。そんな意外な言葉を聞いた白河は それだけで満足。自分は黒崎のライバルでいる資格がある。黒崎は自分を認めてくれている。それだけで自分の存在価値が生まれる。このところ白河は本気で由宇を好きになったと思ったが、相変わらず黒崎に見てもらいたい、という気持ちのほうが強いのかも。

逃走した由宇だが、クラスメイトたちにカップルコンテスト用に改造されて帰ってきた。軍服の黒崎との対比で、地味な町娘に変身させられた由宇(まさか遠回しの嫌がらせ?)。それは まるで中学時代の地味な自分であった。そんな姿でも王子たちは由宇を歓迎する。

だが自分の意思で戻ったのに、出番直前になって出場に 二の足を踏む由宇。この後の胸キュン場面のためとはいえ行動に一貫性がなくて見てられない。作者はヒロインをこんなに優柔不断にさせて楽しいのでしょうか。読者だって胸キュン場面で都合よく記憶が消去されるわけじゃないんだからねッ! バカにしないでよッ!
そんな弱気の由宇を奮い立たせるのは黒崎。これまでのような言いなりにならせるような強引なキスではなく、由宇を励ますような優しいキスをする。

3巻に渡った文化祭編も終了間際。後夜祭の花火を見る黒崎の優しい表情に由宇は吸い込まれる。そして今度は自分から交際を申し出る。


…が、告白をしても どこまでも勇気のない由宇。彼女の中では1人で勝手に「好きと言ったら負け」の頭脳戦をしているし、それ以前に こっぴどくフラれると思っている。だから由宇も「好き」という言葉を使わない/使えない。
そんな中途半端な態度を黒崎に見透かされてしまい交際は保留となる。

続いてはスキー合宿回。直近3巻ずっと秋だったから、一気に時間を進めた感じがする。
変わらないのは新天地に行くと王子に目を奪われる女性の描写。これがウザい。こうして自分のキャラの価値を自分で高めないと自信が持てないのでしょう。厚化粧だよ、それ。由宇は少しずつメイクをしない本来の自分も受け入れているのに、作者だけはノーメイクが怖くて仕方ないらしい。読者たちだって もう飾らない作品を好きと言えるようになっているだろうに。充実した作品を作ることが自分の自信に繋がるのだと思うのだが…。

由宇は合宿中に黒崎に ちゃんとした返答を聞こうと目論む。自分がハッキリとした告白をしないからなのに責任転嫁じゃないか。
そして白河とはこれまで通りの関係性。これは友情が破綻しないような事前準備があったし、由宇が白河に本当に告白された訳ではないので、現状維持もOKなのだろう。白河の黒崎へのコンプレックスも薄まっている様子。王子たちの友情物語だけは驚くほど詳細に描かれているもんなー。


女漫画の山は、遭難装置でしかない。由宇と黒崎が2人で乗ったリフトが途中で止まり、黒崎からネックウォーマーが差し出される。だが それをリフトの下に落としてしまい、由宇は責任を感じる。
危険を冒して それを回収しようとする由宇を、黒崎は制止する。彼は文化祭で由宇を手錠で繋いでおきたいほど、手元に置いておきたいのだ。だが由宇は上級者コースで、黒崎のネックウォーマーの探索を始めてしまう…。

由宇は遺失物を見つけ出すも、今度は自分が遭難してしまう。ホテルまで下山した黒崎は由宇が遭難したかもしれないと知り、珍しく焦った様子を見せる。
探索を始めてすぐ黒崎は順当に由宇を見つけたが、再び吹雪き、雪山で2人きりで時間を過ごす。由宇のウェアが破けていることに気づいた黒崎は自分のウェアを差し出す。避難した横穴で由宇を奥に座らせ、自分は入口付近で周囲を警戒するのは由宇を最優先にするからだろう。彼女のためなら何でもする覚悟があるのだ。これはリフトで由宇が黒崎を雪から守る形になったのとは対照的。本当のピンチには自己犠牲も厭わないのが黒崎だ。

今回の一件で黒崎は由宇が自分のために無茶をしたことが耐えられない。だから彼女を遠ざけようとする。「俺はおまえが嫌いだ」と嘘をついてまで…。


にもない嘘を言って黒崎は心身にダメージを負う。由宇のために自分が盾になったこともあり、彼は高熱を出してしまう。

一方で由宇は黒崎の発言を真に受けて傷ついていた。そんな委縮する由宇の背中を押すのは白河。彼女の変化を目敏く見つけて、彼女に適切な助言をする。完全な当て馬だなぁ。
由宇にとっては黒崎からの「嫌いだ」という言葉は最も聞きたくなかった言葉。でも それが本当に彼女を傷つけたように見えないのが本書の欠点ではないか。ここはもっと大袈裟に落ち込んでもいいのに、なんか由宇のショックが軽い。それに男にすぐに慰められてるし。こういう部分で作者と波長が合わない。

24時間 王子が2人体制でヒロインを見守る。交際前の大事な場面でも1人で立ち直れないヒロインを…。

白河の手助けもあり、もう一度 黒崎に向き合う由宇。訪問した彼のホテルの部屋で、黒崎は熱を出していた。これは由宇のために自分のウェアを脱いだことと心にもないことを言ったダメージだろう。そう考えると由宇よりも黒崎の方が何倍も繊細だなぁ。

こうして遭難回からの風邪回のコンボが始まる。
高熱を出した黒崎は虚勢が はがれる。普段は言動を選んでいるが、今は高熱で言葉を選んでいる余裕が無くなっている。つまりは、これが彼のノーメイクの状態ということか。


崎は精神的にノーメイクの状態でも上から目線。つまり彼はナチュラルに横暴ということか。
自分の本能のまま言葉を紡ぐが、目下の問題である交際に関しては「つきあってやる」という姿勢を崩さない。彼もまた「好き」と言ったら負けだと思っているのだろう。
黒崎は由宇と一定の距離を保っても危険を回避できないし、彼女が突き放しても食らいついてくるなら、自分の監視下に置こうとしたようだ。面倒臭い思考だ。そして いつか由宇が「言いなりになるまで」つきあってやると乱暴に交際を開始する。

そんな風邪で弱っている黒崎に、由宇は「聖母力」を発揮する。おかゆを食べさせ、薬を飲ませ、看病してあげる。
付き合いの長い白河でも黒崎が風邪を引くのを初めて見る。そこまでして黒崎が自分を投げ出しても助けたかったのが由宇なのだろう。黒崎の初めての姿を何度も見せる由宇。それは白河がどんなに願っても手に入れられない位置。やっぱり白河は由宇にも、そして黒崎にも二重に失恋しているように見える。

看病も一段落つき、由宇は今日一日を振り返る。好きと言われないけれど、つきあうということは自分が黒崎にとって特別だと思えた。それだけで前進していると幸福を感じる由宇。立派に調教されてますね。大体、由宇が好きとハッキリ言わないのだから、黒崎も言い返せないのだ。ぼんやりとした交際の始まりの原因は由宇にもある。


日、熱が下がった黒崎は白河と2人でスノボに繰り出す。黒崎の熱は嘘を言った精神的な問題、知恵熱のようなものだとしたら解決したら熱を出す意味もないのか。

2人きりで黒崎は白河に由宇との交際を切り出す。2人にとっても新しい関係の始まりなのだろう。実は由宇が捜したネックウォーマーは、白河からの初めての贈り物。黒崎にとって とても大事な物だった。今回、失くしかけた品と彼らの友情を復活させてくれたのは由宇であった。由宇は男性たちの間で存在感だけは増していく。実体は好きになれないので、私の中では もはや概念としてのヒロインだ。


スペシャルショート タラコちゃんの言いなりになりたい」…
文化祭でカップルコンテストに出るはずだった梶(かじ)くんとタラコちゃんが何をしていたのか、という話。

梶は ますますタラコちゃんに夢中になり、そして黒崎に従順になる。本書で一番 黒崎くんの言いなりになっているのは梶だろう。
そういえば以前、タラコちゃんは先に下校したり(?)何か問題を抱えているような描写があった気がしたが、あれは無かった事になっているのだろうか…。