みきもと 凜（みきもと りん）
午前0時、キスしに来てよ（ごぜんれいじ、きすしにきてよ）
第03巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★★☆（7点）
みきもと凜の最新作、芸能人×JKのリアル・シンデレラStory！ 楓（かえで）と因縁がありそうなFunny boneのメンバー・充希（みつき）が日奈々（ひなな）に接近！ 一方、日奈々と楓はお部屋デートを繰り返すなかで初キスのときが!? みきもと凜の超ヒット作『近キョリ恋愛』のKC未収録の「特別編」もドカンと収録!!
簡潔完結感想文
- ＪＫヒロインが制服で行動するのは簡単に身分を証明できるから。リスク高すぎ。
- イチャラブ少なめ。芸能人の匂わせ発言連発。ヒロインも距離を取るから話が見えない。
- 2人の恋愛を阻む者が続々と登場する いつも展開。違うのは昔なじみ という点ぐらいか。
匂わせ連発の芸能人って 痛いよね、の 3巻。
作品内の温度にムラがあって、気持ちが落ち着かない。
その不安定さが、物語への没入を奪っていく。
『2巻』でヒーロー・楓（かえで）の過去に何かがあることが ほのめかされたが、そこに興味が持てない。
なぜ興味が持てないのか考えてみたところ、各キャラの過去への執着に温度差があるからだと思い当たった。
何といっても問題なのは、ヒロイン・日奈々（ひなな）が楓の過去を気にしないことだろう。
日奈々のスタンスは、楓の過去に何があろうとも、
彼女は自分の目で見て判断した楓を絶対に信じる、という日奈々の良い部分を表している。
彼女の前向きさは、後ろ（過去）を気にしない。
でも作品は、楓の過去を物語の中心に据えて、話の推進剤として使うばかり。
ここに読者の分身たる日奈々が興味を持っていない話との齟齬が生まれ、読者は混乱する。
しかも その過去は匂わされるばかりで一向に実体が掴めない。
ここが本書のイタいところ。
イケメン俳優である楓の過去って、全員 興味ありますよね という勘違いが見え隠れする。
現実の世界でも、ファンは芸能人（推し）も いつか恋愛や結婚をすると承知した上で応援している。
でも、芸能人本人から交際女性の存在を匂わせることは やっぱりマナー違反だと思う。
当人同士にしか分からない符牒があるから「匂わせ」は楽しいのだろうが、
そちらの盛り上がりに対して、受け手側の気持ちは冷めていくのが匂わせの弊害だろう。
それと同じ現象が本書の中で起こっている。
作者が盛り上がりだと思って仕掛けていることが、読者に同じ温度で伝わっていない。
しかも上述の通り、日奈々が この匂わせを冷静に傍観しているのが上手くない。
この時点で、本書が興味のないスキャンダルを延々と放送する情報番組みたいになっているのだ。
そして展開を優先するための不自然さが相変わらず目立つ。
1つは、ずっと指摘しているオートロック突破問題。
芸能人の楓は当然で、日奈々の住むマンションもオートロックだろうに、
なぜか芸能人はエントランスを突破して、玄関前に直接 現れる。
門前払いされずに、突然の登場でドラマを生み出すためなのは分かるのだが…。
そして今回はスマホのロックも簡単に解除される。
もしかして芸能人にはセキュリティが通用しないのか？？
これが いわゆる「顔パス」というものなのだろうか。
そして楓と、彼が元いたグループFunny boneとの接近も どうかと思う。
なぜ毎回、収録スタジオが一緒になるのか。
特に楓のマネージャー・茂雄（しげお）は楓の活躍も「トラウマ」も知っているから、
彼のためにも出来る限り接近をさせないことが茂雄の仕事ではないか。
特に楓は、部門は違えど Funny boneと同じ事務所にいるという設定なのだから、より調整は可能であろう。
ここは作中で気を遣おうとする茂雄に対して楓が遠慮するなというとか説明が欲しいところ。
胸キュン演出のために不自然な流れが多い作者ですが、
ドラマを生むためなら、現実を捻じ曲げていく姿勢が気になって仕方がない。
こういう点も素直に作品に没入できない理由である。
楓が脱退したグループ Funny boneのリーダー・充希（みつき）が突然の自宅訪問。
ここがオートロックが突破される場面。
因縁のある彼らは険悪な雰囲気になりそうになるも、
飄々とした楓の性格と、充希のキャラ付けで深刻にならないようにしている。
以前も、マネージャーの茂雄が真面目な話をした際に楓がボケていたから、天然キャラはワザとなのかも。
楓は何かしらの因縁があった充希にも「彼女」の存在を隠さない。
彼の誠実さは誰に対しても変わらない。
充希いわく「あれ以来」女と遊ぶことすらやめた、らしいが。
もうずっと匂わせるばかりだから、嗅覚が麻痺しそうだ。
充希の帰宅後、楓は新しい撮影が入るり、しばらく会えないからイチャイチャして充電しようと提案する。
これは充希によって自分の過去を想起され、温もりを求めての行動か。
または日奈々にも過去があることを知って、
近づき始めた彼女との距離を確かめようとしたのかもしれない。
結局、日奈々の勉強モードは忘れ去られた…。
そこから会えない日々が始まるが、日奈々が撮影現場に入る機会があり再会する。
わー、偶然。
事の発端は日奈々が花屋を営む あーちゃんの家の手伝いをしたから。
彼の家にテレビ局から連絡があって、依頼された花の配送を日奈々が任される。
しかし前回の自宅デートに引き続き、日奈々は制服のまま。
これはＪＫであることが一目瞭然の身分証明だからなのか。
制服で楓と一緒の所を見られた一発アウト、という緊張感を高めている効果があるのかもしれない。
ということは、制服は全裸露出と同じ系統ということか⁉（違うか）
制服で いるために、撮影のエキストラと間違わられ、そこで楓の姿を見る。
以前、トーク番組の観覧はしたので、芸能人の楓は見ていたが（『1巻』）が、
思わぬ形で本業の俳優業の現場を初めて間近で見られることになった。
仕事する男性って格好良いですよね、のパターンです。
だが、日奈々が偶然見た その場面にはキスシーンがあった。
自分たちは まだキスをしていないのに、仕事とはいえ他の女性とのキスを見てしまう。
これが日奈々の悲しみになるのかな、と思いきや、
彼女は、ショックよりも感動の方が大きかったという予想外の展開が良い。
一度は楓から逃げるような素振りを見せたのも
「お仕事の集中を切らせるようなこと」をしないための気遣いだった。
日奈々は人間として完璧だなぁ。
彼女が仕事に感動したことが、楓には新鮮に映る。
この場面で、楓が日奈々のことをもっと好きになるのは分かるなぁ
年齢差はあるものの、もうヒロインの方が頼りがいが出ている。
みきもと作品って、大体そうですけど。
ここで日奈々が一度 遠くに逃亡したのは、そうしないと2人きりで話すことが出来ないからだろう。
2人が非常階段から出てくる姿を見てしまうのは充希。
茂雄・あーちゃん に続いて、自分の親しい／近しい人には すぐバレるの法則である。
でも、今回は日奈々が制服を着ていても撮影スタジオだから、ＪＫ確定ではないのかな。
やがて日奈々の学校は夏休み突入。
友人に夏休みの予定を聞かれた日奈々が
「妹が しばらく おばあちゃんち行くから 相手しなくていいし」
と言っているのが、何だか言葉に棘があって嫌だなぁ。
「もらわれっ子」だから仕方なく義務で、という感じが滲み出ている。
一応、その後に楓の前では妹の相手は趣味みたい、という発言はあるが。
楓の前では、良い子の振りをしているのだろうか、と思ってしまう。
こうして夏休みは日奈々側に行動の制限がなくなる。
親も深夜まで帰ってこないし、日奈々が羽を伸ばす夏休みデビューになるのかな。
この頃、充希が楽屋泥棒となって楓のスマホを操作して、日奈々の連絡先を勝手に盗み取る。
うーーん？？
どうやって、あるであろう個人認証のセキュリティを通ったのか。
そして どうやって、楓の交際相手が日奈々だと認識したのか。
メール履歴から選んだ？
そんな細かい事は無視して、展開重視。
知らないアドレスからきたメールを楓だと思い込み、
本来のアドレスで本人への確認もせずに、のこのこと呼び出される日奈々。
この人、オレオレ／特殊詐欺に引っ掛かるタイプの、警戒心の欠如である。
誤送信や迷惑メールを疑うとかせず、楓の名を呼ぶところもダメだ。
楓のマンションまでやって来た日奈々は、その姿を充希が観察していることを知らない。
当然、楓とは約束していないが、偶然、彼が帰宅したから部屋の中に入れることになった。
結局、出会ってからというもの10日に1回は会ってるのではないか。
楓の家で彼がインタビューされている番組が流れるのだが、なぜか楓は退散。
日奈々が番組を見ていると、
楓が飼っている犬「ナナ」を通して、日奈々にメッセージを送っていたことが判明する。
完全に匂わせだけれど、当事者にとっては胸キュンに変換される。
だから芸能人たちも「匂わせ」を止められないのだろう。
しかし楓は、この後も ちゃんと本来の犬の名前・スカーレットの使用を禁止するだろうか。
熱心なファンに矛盾を見破られないか心配である。
こんなのファンにとっては最悪な匂わせだ。
日奈々のマンションへの入出を確かめた充希は彼女に接触する。
相手が芸能人、しかも日奈々の中では同じグループにいた彼らは仲良しの認識だから、
日奈々は充希のことを全面的に信用してしまう。
充希の言う通りに、彼についていく日奈々。
ヒロインの浅慮からピンチが生まれ、そのピンチをヒーローが救う少女漫画メソッドである。
充希が楓から「彼女」だと聞いている、と言えば、否定もせずに、恋人という立場で立ち振る舞う。
楓を心配する人を演じながら情報を聞き出そうとする充希に何でも話してしまう日奈々。
墓穴を掘るとはこのことか。
自分たちの交際の進展まで話し、キスをしていないことも告白。
その奥手っぷりに充希は、かえって楓の真剣度を推察する。
遅れて楽屋に来たメンバー・あやみ に充希は自分の狙いを語る。
充希は楓がグループを捨てたと思っているし、今の活躍も快く思っていない。
そして日奈々に強引にキスすることで、楓を傷つけようと目論む。
ピンチ！
が、誰も彼も自分の事を話すこの世界は情報の共有も早い。
あやみ が楓に連絡をし、楓をヒーロに変身させる。
救出された日奈々は、またもスタジオの非常階段で楓と話をする。
あやみ が情報をリークしたのは、自分たちの復讐に一般人・日奈々を巻き込みたくないという彼の理性によるもの。
決して楓を守りたいという訳ではなく、どうやら楓の認識では あやみ に一番よく思われてないという。
ここにきて ようやく日奈々もどうやら過去に何かあって、現在の関係は良好でないことを察する。
だが、日奈々は それを全部 知ろうとせず、楓が彼らをどう思っているか、を信じる。
そういう日奈々の大らかさが楓の救いになっているのだろうが、
上述の通り、これが本書の構造的欠陥でもある。
危機は乗り越えたが、まだまだ刺客は用意されている…。
今回も、前の2巻に引き続き、招かれざる者を召喚するところで物語は終わる。
新キャラ祭りで、物語を先延ばしにしている、などと思ってはいけない。
「近キョリ恋愛 特別編」…
留学して1年の20歳になった ゆに と櫻井先生の結婚式までの道のり。
幸せいっぱいだが、櫻井家の親族が不参加だということが、ゆに の心に引っ掛かる。
その解決策を探る過程で、かつての同級生や先生に会いに行く、という内容。
まだ高校卒業して2年余りだが、内輪カップルたちは全員、交際継続中。
いかにも少女漫画である。
櫻井先生ではなく、ゆに に浮気疑惑が生まれるのが本書らしい所か。
ここで すれ違いが生まれるが、逆境にこそ ゆに はヒロインパワーを発揮する。
本書らしさを出すために無理矢理いれたギャグシーンが痛々しい。
これで解決するとは絶対に思えないが…。
特に感動的なシーンがないのは、『きょうのキラ君』の『8巻』に収録されている短編で、2人が既に籍を入れているからだろうか。
結婚式はあくまで おまけ。
関係者を全員出すノルマが達成できればいいのだろう。
この話は元々『近キョリ恋愛』の実写映画の公開に合わせたプロモーション短編だろう。
だが映画が公開したのは2014年10月で、この「0キス」の連載よりも前。
この『3巻』の発売（2016年04月）とは1年半余りの時間差がある。
だからなのか、作者としては この位置での収録に思う所があるらしい。
この後も、本編以外の収録には文句を隠せていない。
色々と思う所はあるのだろうが、そういう不満の「匂わせ」も勘弁していただきたいものである。
