《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

君といた半年は 7.5巻分。君のいない4か月は0.3巻分。恋愛相対性理論だよ☆

きょうのキラ君(8) (別冊フレンドコミックス)
みきもと 凜(みきもと りん)
きょうのキラ君(きょうのきらくん)
第08巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

ずっと一緒にいたい。でも、ついに運命のときが!! ――「海外で手術を受ける道があるんだ。」キラが明かした、希望の光。だけど、それは勝率の低い賭けで……。喜びながらも不安でいっぱいのニノに、キラが伝えたのは――。なにげない日常に二人が紡ぐ、天国に一番近い恋。あの大人気作『近キョリ恋愛』の特別編を同時収録♪

簡潔完結感想文

  • 決意。成功確率が低い手術を受けることにしたキラ君。遠キョリ恋愛。
  • 別離。再び会うまでの遠い約束をして別れる友達たち。リモート恋愛。
  • 一人。進級や それぞれの夢・都合によって 元通りのような日々が始まる。

して誰もいなくなる 8巻。

キラ君に出会ったことで広がった人と人との輪が、
キラ君が遠くに行ったことで失われていく。

広がったニノンの世界は、また狭まり、そして 前以上に孤絶していく。

季節は巡り、キラ君と初めて出会った頃から1年弱。
運命のその日はやってきてしまう…。


ノンと繋がる輪は小さくなってしまいますが、
しかし皆、止まっている訳ではなく、自分の目的のために動き続けている。

インコの先生(センセー)は、
物語の中で影が薄くなっていく一方の自分の存在意義を回復させるために
テレビ業界に進出し、有名になろうとする。

確かに先生の存在感は薄くなる一方だけど、
実はこれ、先生の胸キュンシーンなんですよね。

後述しますが、作者の胸キュンシーンは、隠された本音の露呈、の場合が多い。
先生も、利己的ではなく利他的な目的があったことが発覚する時にキュンとする。

これは先生が、ニノンを巡るライバルとしてキラ君を認め、
彼が生き続けることが彼女の幸せであることを承知したということでもある。
間接的ではあるが、キラ君を応援することが、先生のニノンへの愛なのだ。


ラ君が前向きに手術に動き出したことが、
他の人にも影響を与える。

クラスメイトの矢部(やべ)は封じていた自分の夢を再始動させる。
レイは病気を通じて育んでいた夢に向かって進む。

皆、前を向いている。
それはキラ君の心臓も同じ。
手術の日まで何があっても動き続けるはずだったのだが…。


うーん、相変わらずレイに関しては、展開が急でついていけない。

今回は学年末のカラオケでアイドル志望であることが分かり、
2年生に進級後は芸能界に入るために、さっさと転校していってしまった。

ちなみに『8巻』でレイが 『近キョリ恋愛』の主人公・ゆに の いとこ だと判明します。
世界が地続きなら、いつか主人公同士の対面も見てみたい。


初読ではニノン目線でしか考えてませんでしたが、
この場面、真のヒロイン・矢部目線で考えると「遠キョリ恋愛」の始まりなんですね。
ここでも最終回間近の別れがあったのか。
交際も別れも唐突ですが。

2人とも将来の夢のために、今を全力で生きることにした。

矢部は最初から漫画好きなオタク設定があったので、
キラ君との仲直りが、彼にとっての生き直しになった。

でも、レイに関しては全てが青天の霹靂。
もうちょっと前に伏線を張れなかっただろうか。

全体的に準備万端に考えられた構成なのに、
やっぱりレイのパートだけは全てが駆け足なのが気になる。


してインコの先生(センセー)も ニノンと距離を置く。

これまで肩に乗って同行していた学校についていかないという。
これでニノンの孤独が決定的になりました。

ニノンだって成長していない訳ではないし、
これまでの経緯で彼女は1年前と大きく違う自分になっている。

だけど、どうしても同じ位置にいるように感じられてしまう。
それだけ周囲の環境の変化や歩みの速度が速いのだろう。

それは2年生に進級する前後で時間の流れが違うことに如実に表れている。

2年生になっても、住む場所が遠く離れても、
キラ君とは心が重なり、順調なニノン。

だけど やはり傍にいる時のような、驚くような毎日は訪れない。
それが物語の割愛となって表れている。


ニノンの孤絶といい、キラ君の体調といい、暗雲が立ち込めています。

以前キラ君は、自分の将来を悲観して
「…虹みたいに 毎日が鮮やかに感じられる日 俺にも来んのかな」、と言っていた(『1巻』)。

そうなのだ、虹を見るためには一度、雨が降らなくてはならない。
いつ止むか分からない雨の憂鬱な気分を抜けた時だからこそ、虹は一層 鮮やかに感じられるのだ。

物語に虹が架かる時までは忍耐の時である。


術を受けるとなると金銭面の問題が浮上し出した。

そこで一肌脱ごうとしたのが上記の先生の行動だった。
ギャラを荒稼ぎして、キラ君に渡そうとしていたのだ。
でも、先生の計画は、キラ君の介入により水の泡。

先生の身を危険に晒して得たお金を彼は喜ばないだろう。

そうか、これはキラのために無理してキャラを作って暴走した矢部と同じ構図なのか。

先生もキラのために自分を売り物にして お金を得ようとした。
でもキラ君は、そうやって無理した虚飾の先生ではなく、
自分に辛辣なことを言ってくれる「素」の先生が好きなのだ。

矢部の失敗を繰り返さないためにも、キラ君は先生を止めなければならなかったのだ。

男同士の裸の付き合いといい、矢部だけでなく、
キラ君と先生の間にも友情は静かに、確実に育まれていた。
先生もまたライバルで親友なのだ。

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種族を超えた信頼と友情。キラ君には親友が2人いるんです。

術費用のために家を手放すという決断をした吉良(キラ)家。

ってか、そもそも母親はキラ君の誕生時に召されたのだから、
最初から家族は2人に固定されている。

それなのに管理に手間が掛かる一軒家を購入しているのも、よく分からない話ではある。

安定した職業から、不安定だが一獲千金できる仕事を選んだキラ父が、
生活の規模の縮小などは考えなかったのだろうか。

ここは、ちょっとチグハグですね。

十中八九、ベランダを渡って行き来できる お隣同士という胸キュンのシチュエーションのためだろう。
胸キュンシーンのためなら何だってやるのが作者と、講談社の「別冊フレンド」ですもの。


ちなみにキラ君の病気は、心臓の病気というのは確定しているが、
海外渡航してまでの手術というと移植なのだろうか。

作者の頭の中では病名まで念頭に置いて描いているらしいが、作中では明言されていない。

もし移植ならば、キラ君が感じるであろう
倫理や哲学といった別の問題を描かなきゃならないから割愛したのだろうか。


はり、胸キュンシーンのワザとらしさが悪目立ちしている「別フレ」。

中でも、相手の隠された本心を、当人が見聞きする、というのが作者のパターン。

ニノンも、キラ君の「やりたいことリスト」のお陰で彼の本心が分かったり、
矢部が知りたいレイの本心もネット上で間接的に書かれていた。

今回は、特に巻末収録の近キョリ恋愛 特別編」の不自然さに失笑してしまった。

近キョリ恋愛』の『1巻』で感じた違和感そのもので、成長を感じられない。
シチュエーションも原点に立ち返っているので、故意に、という可能性もあるが、
こういう風にしか話を作れない作者のマンネリではないかと思う。

それが、主人公・ゆに が教壇の中に隠れていることを知らない、
櫻井先生と生徒たちのホームルームの場面。

「あれー? ハルカちゃん なんか不機嫌?」
「わかった アレだろ ハルカちゃんの唯一の弱点のペットの猫だ?」
「離れてる間 しんどくなんの嫌だからって 溺愛しないように してるとかさぁ」

ホームルーム中に一方的にこんなに喋る生徒がいるだろうか(これでも割愛している)。
そして、この いかにもな説明台詞の数々。

同性の男子生徒が先生の個人的事情を ここまで知っているのも不自然極まりない。

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人づてに自分が大事にされていることを知って大満足の胸キュン場面。なんだかなぁ…。

素直になれない人の本音を、漏れ聞くのは楽しい体験だが、
もうちょっと、シチュエーションに頼らない、人と人との交流を描いて欲しいと思う。

でないと、こういう偶然がないと彼らは誤解を払拭できないのではないかと思ってしまう。
本人に直接聞く勇気がなくて、運だけで物事が好転していく。
段々と全員、誤解に傷つくだけのヒロイン気質にしか見えなくなってくる。

傷ついてでも相手に体当たりしようとする気概がない。
相手が残してくれたメッセージや、他人に向けての言葉を傍聞きすることで、
勝手に胸キュンして、ダメージから回復しているだけなのだ。

ずっと草食系の棚ぼた場面を見せられているようで、いまいち爽快感がないのだ。


近キョリ恋愛 特別編」…
ゆに がアメリカに出発するまでに起こったこと。
各人の後日談を乗せつつ、先生との すれ違いと仲直りの顛末を描く。

実写映画化の発表の頃に合わせた特別編だろう。

しかし ずーーーっと同じことを繰り返してますね、このカップル。

関係が進もうが、婚約しようが、ラストで××しようが、
仲良く喧嘩し続けるんでしょうね。
完全に犬も食わない状態になっております。

本編とは関係ないが、浮気した人が再び浮気をする確率は高いらしいが、
生徒に手を出した教師が、再び生徒に手を出す確率はやはり高いのだろうか。

身も蓋もないことを言えば、教師たちが生徒の美貌と若さに惹かれているのは間違いないだろう。
同じ年頃の生徒を相手にする彼らは、同じことを繰り返すような気もする。