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少女漫画と小説の感想ブログです

キスをしたらハッピーエンドのおとぎ話と、キスをしたらハッピーがエンドする本書。

午前0時、キスしに来てよ(4) (別冊フレンドコミックス)
みきもと 凜(みきもと りん)
午前0時、キスしに来てよ(ごぜんれいじ、きすしにきてよ)
第04巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

みきもと凜の最新作、芸能人×JKのリアル・シンデレラStory! 何度も未遂に終わってきた日奈々のファーストキスがついに奪われます! 2人の関係を知っている幼なじみのあーちゃんも攻めに転じて!? さらに、楓の元カノの女優・柊も登場です…!

簡潔完結感想文

  • お面や被り物があれば夏祭りやテーマパークでも並んで歩ける。変装は万能の設定。
  • キスを上書きされたら、最初のキスの記憶が見事に消去。当て馬あーちゃんの悲哀。
  • 最初に全てを聞いても、後から知っても傷つく元カノ問題。秘密を知る者が続々。

姫様として王子から城に招かれても、結局 城でも姑や小姑にイジメられる 4巻。

夢の時間は終わった。
「王子様とキスをしたらハッピーエンドというのが おとぎ話の定番」
「じゃあ現実は?」と書いてある通り、
『4巻』でキスするまでがヒロイン・日奈々(ひなな)にとっての おとぎ話。
これ以降は、おとぎ話にはない その後の世知辛い現実が待っている。

その1つが、王子様=イケメン俳優・楓(かえで)に元カノがいたことが発覚する展開。
確かに おとぎ話では いつも王子はイケメンで独身で交際相手もいない状態。

しかし現実的に考えると王子が潔白かどうかは分からない。
例えばシンデレラならヒロインの不幸は描かれているが、王子の背景は何も描かれていない。

だから王子に好かれ、請われ、城に招かれても、そこに苦労があるかもしれない。
冒頭で書いた通り、もし王子の母親や姉妹が意地悪だったら、結局 イジメ続けられる可能性だってある。
身分の差を全く無視して愛に生きたものの、一般庶民が王族になる苦労は絶対に待ち受けているだろう。

本書も おとぎ話の第一部が終わり、現実的な第二部の始まりと言った所でしょうか。

少女漫画あるある。イケメンの元カノは絶対にヒロインより綺麗で劣等感うまれがち(年上の場合も多い)。

とぎ話ではなく、少女漫画においては散見される「元カノ問題」。

この問題に対して王子の撮るべき行動は次の内、どちらが正しいのだろうか。

A:彼女が傷つかないように元カノの事は話さない
B:彼女が後から傷つくかないように元カノの事を全部話す

現実的には自分が昔 付き合っていた人の存在なんて自分からは話すことは まずない。
それが交際のマナー。
ただ、その人が同じ学校や職場にいるのなら、それを隠すのもマナー違反な気がする。

少女漫画の展開的にはAを選択して黙ったまま隠し通すつもりが、
ヒロインが知ってしまう展開が一番 緊張感は高いだろう。
知りたくない真実を知ってしまうまでの過程、そして彼との衝突などハラハラする展開の連続だ。

この展開に欠点があるとすれば、ヒーローが意図的に情報を隠そうとした場合、彼に姑息さが生まれてしまう点だろう。

だから、ヒロイン/ヒーローを悪く描けない作者は、ヒーロー・楓にBを選択させたのではないか。
この選択をしてもヒロインは傷つくが、
三者などから知らされて傷つき、元カノが誰なのかを知って傷つき、
彼の自己保身に傷つくよりは ましなのではないか。
そしてBならばヒーローは誠実なままでいられる。

これによって日奈々が元カノ問題の「発覚」で傷つくことは最小限に抑えられたが、
シンデレラのその後のように、自分に引け目を感じてしまう事態となる。

結局、どちらの選択肢を選んでもヒーローは失敗する運命なのかもしれない。


して気になる選択肢が もう一つ。
それが多忙な芸能人との接点の持ち方。

A:自分から恋人の芸能人に会いに行くJK
B:JKの行く場所に偶然いる恋人の芸能人

これは どちらも一長一短。

Aのパターンは、バンドマンとJKの恋愛を描いた桐島りら さん『世界の端っことあんずジャム』で描かれていた。
ただJKが恋人のバンドマンのライブ会場や仕事場に のこのこと現れることに辟易した覚えがある。

本書はBのパターン。
日奈々から楓に会いに行ってリスクを冒すことはない。
彼女には彼女を家に縛るような制約があり、自由に出歩けないことも影響している。

が、そうなると2人が会わない日々が続いてしまい少女漫画的に宜しくない。
そこで考案されたのが、日奈々が出向く場所に楓がいる、という展開だろう。
別件で彼女が撮影スタジオに花を届ければ、そこに偶然 楓がいる。
テーマパークに行けば、そこで偶然 楓が撮影している。

偶然が重なれば必然、ではなく不自然。

世界が違う2人が断続的に会うにはAかBかしかないのだろうが、
どちらを選んでも作者に対して文句を言ってしまう運命なのかもしれない。


ーマパークデートをする2人。
イケメン俳優の楓にとってデートのルールは2つ。

1つは自然に顔を隠せること。
この「自然に」というのが大事。
2020年代のコロナ禍では誰も彼もマスクをする世の中になったが、
コロナ禍のない作中での夏のマスクは、かえって隠したいものがあると思われてしまう。
だから夏祭りのお面とか、テーマパークでの被り物など、
顔を隠しつつ、それが不自然ではないような状況が大事になる。

そして もう1つが、以前も書いたが、
日奈々に合わせた高校生っぽいデートをすること。
高校生同士を念頭に置いてるからなのか、金に物を言わせない。
(描写はないが さすがにデート代は楓が払っているのだろうか)

楓にとってテーマパークは人生初体験。
なので彼はテーマパークを心から満喫する。
そんな誰もが知っている彼の、誰も知らない顔を見られる特等席が日奈々なのである。

私は常々、少女漫画で一番大切な遊園地・テーマパークでの乗り物は観覧車説を唱えていますが、
本書においても、観覧車は この場所で唯一 落ち着いて話し合える場となる。

本書における被り物はドラえもんの秘密道具「石ころぼうし」と同等の効果を発揮する(マイナーかな?)。

がトイレに立った際に、日奈々は偶然、幼なじみの男性・あーちゃん に遭遇する。
わー、偶然。

しかも あーちゃん が後ろから押されて、日奈々の口に口が ぶつかってしまう…!
わー、偶然。

楓とのファーストキスがまだだから、それだけでもショックなのに、
その場面を楓に目撃されたこと、そして彼が「事故なんだから気にしない」と、
日奈々のキスを扱うことが悲しかった。

まー、分かりやすい胸キュン構造。
一度は落ち込ませてから、回復させるんですよね。
それに読者には もう楓が無理をして冷静を装った演技をしていることも お見通しである。
パターンが同じで楓の配慮が三文芝居に見える。

楓は本音をちゃんと言ってくれるから、日奈々は すぐにマイナス感情から立ち直る。

ただ、今回は通常パターンから逸脱することがある。
それが ここ数回お預けになっていたキス。

この回で あーちゃん が したのに楓がしないというのは問題だから、強行突破。
王子様が邪魔者を気にしないで理性を捨てる、というのも胸キュンポイントだろう。


が、キスの後こそ現実の痛みが待ち受けていた。
キスで思い出貯金を切り崩し会えない日々を乗り越える日奈々だが、それをマイナスに反転させる事態が起こる。

そのキッカケは、楓の主演が決まった一本の映画だった。
この映画で楓は天才音楽家の役で、ピアノを弾くシーンのために自宅にピアノを置き始めた。
(あの階段で2階にピアノを運ぶことは可能なんだろうか)
役作りに集中する楓は食事も忘れている状態なことを知った日奈々は彼の家に食事を作りに行く。
(しかし日奈々は なぜ制服姿のまま出入りするのか。アニメキャラみたいな固定の服装なの?)

家で家事全般を引き受ける日奈々だから料理も苦ではない。
そして日奈々には もう一つ隠していた特技があった。
それがピアノである。

そういえば自宅の物置部屋(WIC?)にもピアノが置かれていた。
今回も楓がピアノを練習していると知り、一度はピアノに縁がないと嘘をつくが、
実際に楓の演奏を見ていると、口出しせずにはいられなかった。

ミスタッチはあるものの、楓は彼女の演奏に対する集中力、
そして一度は嘘をついてピアノを遠ざけたことに、何かしらの日奈々の事情を察する。


して日奈々を悩ませる今回の台風の目は、
楓の主演映画の相手役が、彼の元カノ・内田 柊(うちだ しゅう)。

2年前まで交際してい2人。
そして柊が楓をフッて、交際は終わったらしい。
ちなみに その交際は世間には噂程度でしか広まっておらず、
今回の共演がスキャンダラスに報じられるということはない。

初登場の柊のキャラ付けはBL好きの腐女子という設定。
本書では各人に意外な一面を用意しているが、
これによって、各人に好感を持ってもらうためなのか。
それとも作者がノルマのように挿むギャグのために用意しているのか。
基本的に常識的で特徴がないのが特徴のキャラたちへの せめてもの特徴付けにも感じる。

楓はあっという間に元カノ・柊との共演を承諾する。
かつて在籍したFunny boneを避ける様子もないのは、彼が共演NGにしてないからか。
どこまでもオープンな人なのだろう。


一方、日奈々は事故キス以来、あーちゃん と会うのだが、
楓とのキスで記憶も上書きされたようで、日奈々は覚えてもいない、というのが残酷な現実。

それを思い知らされた あーちゃん は、自分が日奈々と楓の交際を知っていることを伝える。
カップル双方に異性の影がちらつくが、今のところ、どちらも積極的な態度は見せない。
この話は長くなりそうだ。
最後の最後で当て馬とライバルが結ばれるとかは止めて欲しいところ。

また、楓と柊の再接近を喜んでいるのが充希。
これによって今の楓の幸せが こじれていくことを充希は望む。
たとえ消化不良の別れであっても2年後も、簡単に焼け木杭には火がつくと思っている おめでたい思考だ。
そして その願望通り、柊は未練があるみたいなのだが…。
華やかな芸能界なれど誰も彼もが真面目な恋しかしないのがキャラを愛する作者のルールか。


ただし充希の願望と違って、楓が日奈々に黙ることで関係がこじれることはなかった。
どこまでも誠実な楓は、柊が自分の元カノだということを正直に伝える。

もちろん日奈々はショックを受ける。

だが日奈々がショックを受けるのは、今の自分たちの交際が元カノ・柊に比べ惨めに思えてくるから。
ただでさえ身分不相応な相手との恋愛に加え、
彼の元カノの立場や容姿が自分よりも遥かに優れていることで、
日奈々は自分が再びシンデレラ(灰かぶり姫)であることを思い出した、というところか。


画の撮影が始まり、楓からの連絡は2週間以上 途絶える。
日奈々も仕事の邪魔になるし、あちらから連絡がないから こちらから連絡をしない、
という姿勢だから作成したメールも送れないまま。

出しゃばらない日奈々が好きですが、まだまだ楓に遠慮しているということなのかな。
特に今は、何をしても日奈々が自分と柊と比べてしまうから、より委縮するのだろう。

そんな時に日奈々は冒頭でデートした所とは別のテーマパークの招待状を入手する。
そこに行くと、当然のように偶然 遭遇するのが楓である…。
楓側からしたら こういう「なんで いるの⁉」という突飛さが日奈々の魅力に思えるのだろうか。

そこは お姫様のコスプレが出来るテーマパークなのだが、
その日は撮影が入っており、お姫様に憧れているのに日奈々はメイド服しか着られない。

日奈々は何の撮影か知らずに、その撮影現場に立ち会うと、
そこに現れたのは楓、そして美しいドレスに身をまとう柊の姿があった。

この女性たちの衣装の対比が、日奈々の心境そのものなのだろう。

もう日奈々は王子様が自分を見つけてくれて、既にシンデレラなのに、
再び、華やかとは言えない服を着ることで他人に仕える立場の人間でしかないと痛感する。

自分に比べ、王子に相応しい 本当のお姫様のような美しい柊の姿に、日奈々は惨めさを覚える。

まぁ、秒でそんなマイナスの感情は消滅するのが お約束の展開。
楓が仕事現場で日奈々と合流するのは何回目だろうか。
裏手や裏口にいるだけで、第三者には見つからないのは、何かの魔法なのか。

そして いつも通り、そんな2人の姿を柊が目撃したようで…。
またまた仲間内だけに交際はバレて、公然の秘密となっていく。

癖のあるキャラと ちょっとした危機 → 和解で、新キャラと仲良くなるパターンは、
最初の長編以降 散々読んだって…。