《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

雨の日は聞きたくない話ばかり耳に入る。なら、もう話させないように口を塞いでやる(理央)

思い、思われ、ふり、ふられ 3 (マーガレットコミックスDIGITAL)
咲坂 伊緒(さきさか いお)
思い、思われ、ふり、ふられ(おもい、おもわれ、ふり、ふられ)
第03巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

自分の気持ちを聞いてくれた和臣のことが気になる朱里。恋愛にまったく興味がなさそうな和臣は朱里が今まで好きになったタイプと違い戸惑う。朱里が和臣に惹かれていると知った理央は複雑な気持ちを抱く。その理央のことを思うと由奈は胸が苦しくて──。

簡潔完結感想文

  • 自分の意識を下げるために合コンに参加してみても思い出すのは彼の笑顔。
  • 相手の意識に上がるために全速力で彼の背中を追い続けていたはずが…。
  • ラソン大会で困った状態の女性を助けるのがヒーローの役割。塞翁が馬。

わば、1巻丸々マラソン大会、の 3巻。

まずは こちらの画像をご覧いただきたい。
『3巻』開始時点での4人の関係性を端的に表した見開きの9話の扉絵(?)である。

各キャラの視線で現状を端的に表し、そして「小学生男子」である和臣の能天気さまで表現する。

ヒロインの1人・朱里(あかり・左から2番目)は、
天然で、これまでの恋の手法が通用しない和臣(かずおみ・左)が気になりだす。
この『3巻』は朱里が自分の中の気持ちに戸惑いつつ、
とても自分に振り向いてくれなそうな和臣の背中を追うための努力が描かれる。

この恋は朱里から冷静さを失わせる。
いつもは踏み込まないような義姉弟間での恋バナをしたり、
フェイクニュースに騙され、柄にもなく自分をアピールして疲弊したり、
余裕をもって恋愛を楽しんでいた頃とは違う、意外な一面を自分で発見していく。

そんな努力は思わぬ形で報われる。

全速力のマラソン大会の後、和臣から
「だから ほっとけない って言うか」という、彼にしては珍しい言葉が引き出される。

こうして和臣の「意識に上がる」ことの糸口をつかんだ朱里。
それが恋愛感情なのか、言葉通り危なっかしくて ほっとけないのか、は まだ分からない。

だって振り返ってみると、和臣の前での朱里というのは、結構 危なっかしい存在なのだ。

例えばバイト先の男性から言い寄られてしまったり(『1巻』)、
『2巻』では友人の兄に会おうと悩んで深夜まで駅にいたり、
高い所からバッグや自分が落ちそうになったりと、決してスマートとは言えない行動が多い。

特に前の2つは、これまで和臣にとって一番 身近な女性だったであろう由奈(ゆな)では絶対に起きないような出来事だろう。
そして それは和臣にとって非日常の入り口だったのではないだろうか。

朱里が朱里らしくない行動を取ったことが、和臣に強く印象に残る。
これまでの恋愛の手法が通用しないのならば、自分を変えていくしかない。

愚直に彼の背中を追い続けたことが、彼への唯一のアプローチだったのかもしれない。


れまで相手も恋愛を楽しむタイプとの駆け引きやシグナル交換することが楽しかったはずの朱里。
だが今、朱里が気になるのは、全く恋愛に興味がなさそうな和臣。
朱里は失恋こそしていないが、やはり由奈や歴代ヒロインと同じように恋愛成就からは最も遠い場所にいると言える。

それでも相手は自然にやっていることに、いちいちドキドキする。
ある意味で無敵の相手に対して、丸腰で戦うようなもの。
これが徒労を覚えずにいられようか。
そんな和臣を好きなはずの朱里も彼を「小学生男子」と断言する。


手応えのない恋に打ちのめされそうな朱里に合コンの話が持ち込まれる。
誰かと違って、「健全な男女のしかけ合い」が出来る場だから、朱里は参加する。

だが、そんな健全な男子を前にしても、朱里は会話に乗れない。
なぜなら頭の中に ずっと和臣がいるから。
これまでのような楽しむ恋愛ではなく、難攻不落の恋愛こそ朱里の「新しい世界」だったようだ。


の合コンには由奈も参加した。
彼女の場合は出会いというよりも、男子に慣れて、理央(りお)の前でも緊張しないようにするために。
そして これからも自分が変わっていけることを確かめるために。

合コンの主催者は柴(しば)。
以前から気になっていた朱里を誘うことに成功した。
ただし弟である理央は出禁。

由奈は以前「キッショ」と言われた柴とも改めて和解をし、
そして もう一人の理央の友人である我妻(あがつま)とも会話して、合コンを楽しみ始める。

こうして柴や我妻とは緊張せずに話せるまでになったが、理央とはそうはいかない。
これは友達と、それ以外の差なのだろう。


コンを経て、朱里は和臣への好意をハッキリと自覚し、切ないけど楽しい片思いを初めて味わう。
これまで勝ち戦しかしてこなかった朱里にとって初めての五里霧中の恋愛と言える。

そんな相談を由奈の家でして帰宅すると、自宅には和臣が来ていた。
理央と遊んでいたらしいが理央は不在。
そして和臣は小学生男子らしく、お昼寝中。
そんな彼の寝姿にフラフラと近づき、寝息を楽しみ、彼の手に自分の手を繋いでみる。

そこへ帰宅する理央。
理央は、朱里が自分の部屋から出てきたこと、
そして朱里の匂いが和臣の手に移っていることで、何かを察する理央。

そこで朱里の恋のことを由奈に問い質すとヘタクソな反応が返ってきた。
理央が和臣を気にするのは、これまでとは違う朱里だから。

これは理央が自分の「一番好き」を更新したい一心なのと同じように、
朱里にとって「一番好き」が更新されることへの恐怖がある。
そのことに理央は冷静ではいられず、和臣に対しても冷淡な態度を取ってしまう…。

好きな人の発する他の誰かへの好意・落胆が逐一 分かってしまうのが片想いの辛い所。
朱里の恋心を気にする理央を見ることで、由奈は自分がまだ彼を好きだということを自覚する。

こうして最初に載せたような片思いの図式が改めて完成する。
この時点では和臣だけが無自覚で無意識。
一番の罪人と言える。
由奈からも「のん気なのは和くんだけだな」と言われているのは笑った。
いや、君たち幼なじみコンビに、1ミリも男女間の微妙な空気が流れなかったのは、
似た者同士だったからでしょ、と言いたい。
由奈が和臣のお姉さんっぽい(誕生日は和臣の方が先みたいだが)。
同級生なのに皆の弟、和臣。


ラソン大会の前日、バイトの帰りに朱里は雨に降られる。
すぐに入浴できなかったため、身体が冷えてしまう。

その日の放課後に、クラスメイトから理央の好きなタイプを聞かれた朱里は、
それが脳裏にあり、そして自分の目的のためにも理央に恋愛話を振る。
クラスメイトからの調査は断っていたため、完全に自分の目的のためなのだが。

理央の恋愛観をちょっと聞いた後に、和臣の情報を得ようとする朱里。
が、自分の好みを聞く朱里の無神経さに加えて、
朱里の恋心に気づいてる理央は、和臣の話なんてしたくない。

好きな人の好きな話をしなければならない。
またもや雨の音は、理央に、自分がその恋に近づけないことを知らせる調べである。

この境遇は、理央の恋心を知ってしまう由奈と同じですね。
2人とも相手のために自分から動くという手段は封じているところも同じ。


ラソン大会当日、体調不良の朱里は見学に回ろうとする。
その姿を見て、前日に理央の情報を聞き出そうとした女子生徒たちが陰口を言う。
(この場面、この女子生徒たちは「人の悪口ばっか言ってる人はムリ」という理央の嫌いなタイプに該当する。
 こうして彼女たちの理央への希望は潰えた。なかなかシビアな場面を描く作者である。)

由奈は、そんな女子生徒に これ以上好きに言わせないように、
朱里をマラソン大会に参加させるアイデアを考える。
そこで名前を出したのが和臣。
「なんにでも一生懸命で つい いつも全力で がんばっちゃう子が ほっとけない」という嘘の理想を朱里に語る。

それが朱里の闘争心に火を点けた。

このマラソン大会は4者4様の走り方である。

朱里は恋のために全速力。
由奈は運動が苦手なようで、頑張っても遅い。
理央は抜け目なくズルをしようとするが、失敗し、スタートに戻されて由奈と合流する。

その日の朝、朱里が具合悪そうなことを察知した理央(いつだって少女漫画ヒーロー目ざとい)は、
朱里の全速力を由奈から聞いて、心配になる。
そんな理央の背中を押すのは由奈。
理央と伴走できる現状を捨てても、由奈は朱里が心配だし、理央に朱里に関わって欲しい。
自分よりも他者を優先できる由奈の気持ちが優しい。

そうして理央の背中は、みるみると由奈から遠ざかる。
それが由奈と理央との距離や関係性に感じられて切ない場面。

…が、理央は戻って来た。
由奈が辛そうなのを放っておけない。

そうやって自分の願望だけを押しつけないのが本書の登場人物たちなのです。


里は理央に制止されることもなく、
そして男女のコース分岐以降、和臣の背中を見つけることもなく「女子の中でも かなり上位でゴール」する。

倒れ込む朱里が見たのは、のんびりとゴールする和臣。
その理由は「ペース配分 考えながら走ったから」。
和臣が全力な人に対して、「まぁ大変そうだな~~」と思うと知り、
自分が踊らされていたことを知った朱里は、目の前が真っ暗になる。

朱里がもう一度 目を開いた時に見たのは和臣の顔。
お姫様だっこして救護エリアまで運んでくれている途中のこと。

更には和臣は朱里のために飲み物を買ってきてくれて横たわる朱里の横で話をしてくれる。
その会話の中で出てきたのが「ほっとけない」という言葉。

この言葉に和臣自身も意外性を感じている。
そんな自分に照れたのか、冷静になるためか、和臣は朱里を挟んで逆側にある飲み物を欲する。
和臣が手を伸ばすと、そのすぐ下には朱里の顔があり、互いにテレる。
本来の目的の飲み物を飲むことなく、和臣は顔を背ける。
本書で和臣の顔に赤面などの感情が出ること自体が初めてではないでしょうか。

老成しているかと思いきや、ただの小学生男子。そんな和臣が実年齢に近づく思春期シーンにキュン!

これは『2巻』の夜の展望台(?)でのシーンと重なりますね。
そして、またもやアゴ・首・喉仏、作者のフェチが爆発しているのか⁉

そういえば『アオハライド』でも洸が双葉に飲み物を買ってあげて、自分も飲もうとしたことがありましたね。
私は、あれを洸の間接キス狙いだと思っているのですが(笑)、
和臣はどうでしょう。ある訳ないか。
そういう あざとい計算が出来る人ではない、はず。


女性たちは一番苦しい時に、それぞれ男性たちに助けられた。
由奈は理央に、朱里は和臣に。
嫌な学校行事だったはずが最高のマラソン大会になったのではないだろうか。


だ、朱里が恋をがんばる事は、理央が悲しむ事に繋がる。
だから由奈は誰の幸せも願えない状態になってしまっている。

ラソン大会でもお姫様だっこは理央の耳にも入る。

それ以降、理央の目から見れば、朱里の態度はあからさまだし、
そして和臣も これまでとは違う反応を見せているように見える。

だから一層 彼は焦る。
苛立ちと焦りと、大嫌いな雨が、理央から抑制を奪っていく…。