《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

気を抜くと、浴槽に沈めた アヒルの おもちゃ のように、噴出しそうな君への想い。

僕の初恋をキミに捧ぐ(6) (フラワーコミックス)
青木 琴美(あおき ことみ)
僕の初恋をキミに捧ぐ(ぼくのはつこいをきみにささぐ)
第06巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★(6点)
 

病状が悪化したことを知った逞は、繭とさらに距離をとろうとする。ところが、1学年下の問題児・結城頼にハメられ、校内放送で繭への思いを告白してしまう。再び逞に近づこうとする繭に、逞は…!?

簡潔完結感想文

  • 純愛を貫きつつも、素直になれない障害によりドSヒーローにもなる便利な逞。
  • 両想い回避のためには障害を何でも使う。オナラ・病状悪化・卒業した先輩。
  • 長編2作品のクロスオーバー。あちらの主役は、こちらじゃ脇役。スポット参戦。

想い間近の、恋愛が一番 楽しい頃が描かれる 6巻。

4年前の それぞれの後悔を経て離れた逞(たくま)と繭(まゆ)。
その時間が再び動き出す時が近づいている。
惹かれ合う2人が両想い になるまでの、今か今かという待ち遠しい気持ちが心地よい。
『6巻』は丸々、そんな状態が続く(つまりは決定的な場面にならないのだけど…)。

今回、目を引いたのは(あるいは目を疑ったのは)、2人の気持ちを阻害する障害。
繭への気持ちの抑制が利かなくなりそうな逞が、我に返る瞬間が何回かある。

1つは、難病モノらしく、自分の病気のこと。
心臓病を患い、20歳まで生きられないと言われてきた逞も、『6巻』で高校3年生になる。
年齢は17歳。
彼の病気の場合、時間の経過に心臓が疲れてしまうということである。
この繭から離れていた この4年間、大きな変化の無かった病状だが、
繭への気持ちが我慢の限界にくる頃、心臓の方も限界を迎える兆候を見せる。
このリミットの存在が、読者に早く早く、と緊張感を高める役目を担う。

そして驚いたのが、興奮状態から冷静さを取り戻た繭のオナラ。
どちらも我慢の限界だった2人は、ある夜、先輩・昂(こう)の計らいで2人きりで雪道を歩く。
その道中で、繭は逞を押し倒しキスを交わし、それに理性が吹き飛んだ逞も繭に熱い口づけをする。
が、そこで起きたのが、繭のオナラ。

両想いの阻止が作品中盤の最大の目的とはいえ、まさか女性側のオナラを利用するとは思わなかった。
まぁ、繭は4年前から あんまり性格の良い子じゃないことは判明しているし、
決して作品上の聖母のような存在ではないので、オナラのような俗世のことも引き受けてくれるでしょう。

それにしても思い切った抑止力の行使だとは思いますが…。


そして障害の3つ目が、学校を卒業した昂の存在。
卒業して2年が経とうとしても何かと学校に顔を出す昂。
『6巻』序盤の王様ゲームの仕切りなど、お山の大将っぽくて少し滑稽。
でも それもこれも昂のカリスマ性があってこそ。
自分勝手にやっているようで、全員をまとめ上げていた元寮長は、自分の役割を知っている。

逞と繭が主役の恋愛においては、自分が当て馬にしかならないことを知りながら、
その役目を しっかり果たそうと、2人の奮起の為に粉骨砕身する覚悟がある。

4年ぶりに再接近する2人の距離の縮まりを しっかりと感知しているから、
当て馬として今度こそ、2人の想いが重なるように尽力する。
果たして逞(たち)は昂の縁結びの神様の役割を分かっているか。

彼らより ちょっと大人で大きな存在が物語を動かそうとしている。

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このアヒルのように強く強く力で抑え込まなければ、繭への気持ちは すぐに顔を出してしまう。

と一緒に居られることが嬉しいけど、それを顔に出さないようにしている この頃の逞。
繭から見た逞は、表面上冷たいけど、時折 彼女に優しいという少女漫画的なドS男子になっているのか。

そして読者は、逞が本来は優しくて小心者なのに、嫌いという態度を取り続けるために無理をしている人だと知っている。
ただでさえ読者から支持を集めるS系男子に加え、
この性格の二面性によって、読者から二倍 好印象を持たれるようになっているのか。
しかも過酷な運命を背負っている男性は、少女漫画読者の大好物の設定である。
読者に愛されるために人なんですね。


校2年生も最終盤。
いよいよ代替わりして寮長を決めるクジ引きが行われる。
男女それぞれ誰がなるかは前作『僕妹』を読んでいる人には自明ですが。

しかし、女子寮の方は、繭がクジ引きで寮長になった訳ではなかった。
別の女子生徒が寮長になるはずだったが、
繭がクジを引き当てた生徒に頭を下げて、彼女の出す条件を呑むことで、権利を譲渡してもらった。

繭は相変わらず、自分が世界の中心のようなヒロイン的な振る舞いである。
寮長になりそうな女子生徒を「殺ス…!!」と恨んでみたり、
自分だけルールを曲げようとしたり、命令通りにテストを盗もうとしたり、
善悪というものを わきまえていない感じが嫌になる。

だが、こういう汚い面もありながらも、純愛を完成させるのが本書の目的だろう。
でなければ、照(てる)ちゃんを死なせたりしない。
その紆余曲折が、彼らの青春であり、人生なのだ。

テストの盗み出すことに失敗した繭、次に出される寮長交代の条件は、その生徒と昂とのデート。
昂とコネクションを持つ繭は、彼に協力を求める。
協力する代わりに、昂は自分の誕生日(5月5日)に一緒にいてくれることを繭に約束させる。
なんだか繭が方々から借金をする人みたいになっている。
自分の願いや弱みを見せると付け込まれる、ということだろう。


方の逞は、風呂に沈めた「ピヨ子2号」のように、
繭への気持ちを水面下に隠したはずが、一気に噴出としている自分に焦っていた。

だが、その暴走から冷静にさせるのは、病状という現実。
逞は診察の結果が良くないことをカルテから知る。
そして繭は、父が再び笑顔で嘘をついたことを察知し、逞の状況が芳しくないことを知る。

そうして再び膠着状態となる中、新年度になり、2作品がクロスオーバーする。
逞と繭が寮長になった高校3年生の時に、新入生として登場するのが『僕妹』の主人公・頼(より)である。

これは中学時代の彼らの姿を想起させる構図ですね(『2巻』)。
あの時は新入生として入学した逞と繭。
新入生代表の挨拶をしたのは成績トップで入学した繭。
そして彼らを迎えるのは、当時の中学校の寮長であった昂であった。

あの時の逞と同じ立場の頼、そして あの頃の昂と同じ逞。
時間の経過がよく表れている場面だと思います。

しかも連載当時は、頼の登場が『僕妹』の映画公開と重なるという抜群のタイミング。
ってか、もしかして この商業的理由から、中学生時代があんなに長くなったのかしら。

『僕妹』が好きではない私ですら、このクロスオーバーに興奮していますから、
熱心な読者なら、青木作品のシャワーを存分に浴びる幸福な期間だったのではないでしょうか。

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正面の顔は細面なのに、どうして斜めになると 潰れた饅頭のようになるのか不思議。

題児の頼のお陰で、成長せざるを得ないのは逞。
いつも自分のことを隠すのではなく、心を開くこと。
それが先なのではないか、と先輩寮長である昂から教わる。
まさか頼の存在が逞を大きくしたとは、『僕妹』の時は知る由もなかった。
そして逞にとって昂の存在の大きさも改めて分かる。


逞と頼は「心に秘めた苦しい恋をして」いる2人。

人生という面では逞の方が他者から見て不幸だと思われるが、
恋の障害の多さで言えば頼に軍配が上がるだろう。
自分の気持ち一つで乗り越えられる逞の恋を見ていると、頼の心は苛立つ。


この逞と頼の会話は、校内放送で公開告白となる。
こうして逞の秘め続けてきた気持ちが全てがオープンになる。
もしや これが、昂の言う、「心を開く」ということか。

これは繭が ずっとずっと知りたかった逞の本心。
だが、この後も2人は決定的な告白の場面にならない。

そんな膠着状態に乗り出すのは、頼れる先輩・昂。


しかし、頼が登場して、頼・昂・律(りつ)は、誰が誰だか分からなくなった。
作者も (注)頼です! と断りを入れるほど、場面転換直後は、人の判別がつかない。

あと学校内にピザの配達をするとか、
全寮制の割に、色々と校風が緩いような気がしてならない。
まぁ、昂が繭たち事情を知るには、あの手この手で学校に入るしかないんだろうけど。