《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ライバルが振られるのを待ち望み、その期待が裏切られたら 平手打ちを浴びせるヒロイン。

僕の初恋をキミに捧ぐ(4) (フラワーコミックス)
青木 琴美(あおき ことみ)
僕の初恋をキミに捧ぐ(ぼくのはつこいをきみにささぐ)
第04巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

再会した初チューの相手・照ちゃんとつき合うことになってしまった逞。けれど、それが照の仮病のせいだと知った繭が激怒する。そして、逞の気持ちを取り戻そうとした繭は…!?

簡潔完結感想文

  • 両想いのはずの男女それぞれ当て馬・邪魔者が登場。両想い阻止が中盤の目的。
  • 姑息な手を使う照ちゃんだが、だからといって繭が良い子に全然見えないの…。
  • 全てを見抜いていたヒーローだけが格好良く、女性たちの自分本位が浮き彫りに。

四角関係が成立してしまう 4巻。

心臓病を患う逞(たくま)と、彼を8歳から知る繭(まゆ)の恋物語
将来的に悲恋が予想されるというだけで、読者の興味を引く内容となっているが、
『4巻』からは、単純な恋愛模様だけでも十分に面白い。

今回から四角関係が発生し、誰が結ばれるか結末は分かっているのだけど、
それでも毎回、ドキドキしていくような構成力で読者を引っ張っていく。

いわゆる恋愛の当て馬・邪魔者たちも全員、心臓病の関係者であり、そのことが物語を引き締めている。
直接的、間接的の違いはあるが同じ土俵にいるから、彼らの行動が悪ふざけに見えないようになっている。
むしろ一番 この世界に関係ないのはヒロインの繭ではないか、と疑ってしまう。

特に この『4巻』は私の中での繭の評価が下がる一方だった。
人に対して胸倉を掴んだり、殴ったり、暴言を吐いたり、
自分の思い通りにならないことは全部 なぎ倒して歩くような傍若無人な印象を受ける。
心臓病という自分や、または家族の運命を引き受けてきた他の人に比べて、一人だけ行動が軽い。

逞を罠にはめる計算高いライバル・照(てる)に対して、
直球勝負の繭で、繭の方が良い人に見えるはずだったのに、そう見えなかった。
むしろ、健康で恵まれて生きてきた彼女の幼稚性、人生観の浅さが露わになる。

これを作者が計算しているのだとしたら なかなかに性格が悪い。


前、逞と同時期に入院していた上原 照(うえはら てる)。
詳しい時期は描かれていないが『1巻』で8歳の逞が繭にキスする前に出会ったと推測される。

照は逞のファーストキスの相手らしい(『1巻』にも記述あり)。
いわば逞の元カノ的存在と言える。
2歳年上というのも、大人のお姉さん感がある(中1と中3だが…)。

彼女を見舞うという逞に、繭は なぜか同行する。
繭と照は、お互い名前や逞との過去は知っているが初めての対面となる。
ここでは見舞いに同行する繭が完全に邪魔者である。

照ちゃん は自分の知らない逞を知っている、そのことが頭から離れない繭。
だが逞自身は、繭がやきもちを焼いていることが嬉しいと思ってしまう。
両想いにはなれないけど、奇妙な満足感と、独占欲や嫉妬が生まれていく。


日に再び照を見舞う逞。
照は、逞と繭が交際しているかを聞き、それを逞は否定する。
その言質を取った照ちゃんは、逞にアプローチを開始する。

読者からすると主人公たち2人の関係をメインに読んでいるから、照ちゃんは邪魔者でしかないが、
別に横恋慕して、奪略愛を仕掛けている訳ではない。
照が利用しているのは逞(や周囲)の優しさだけで、他の人を決して傷つけたりしていない。

どちらかというと照ちゃんの領域にズカズカと入り込んでいるのは繭の方で、
繭もまた、運動禁止の逞が何度も動き回って失敗するように、自分を律さなきゃいけない場面で暴走していると言える。
まだ中1だから仕方ないが、どうしても子供っぽく映る。

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逞が女性に会うことすら許せないから同行する。その厚かましさと独占欲の醜さに繭は気付いていない。

照ちゃんは言葉巧みに誘導尋問して逞の逃げ道を塞ぐ。
逞の自分を「嫌いじゃない」という言葉を好きに勝手に変換して喜ぶ。
彼女の方が年上で、同じ苦しみの中を生きてきたから、逞は強く拒絶できない、それを見越しての行動だろう。

その言葉を病室の外で聞いていたのは繭と、逞と同室の律(りつ)。

その日の夜、繭の涙を見た律から、
「男はね! 好きな女の子以外に「嫌いか」って聞かれたら
 「嫌い」って答えなきゃいけないの! 曖昧にしちゃいけないの!」
という繭の言葉を逞は又聞きする。

そうして繭に電話し、明日 照に「嫌い」ということを予告するのだが…。
でも、会話の流れなしに「嫌い」と言えるような場面は、なかなか無いと思うが。

続いて、繭は「逞は あたしのこと…嫌い…?」と聞く。
逞の答えは「嫌いじゃないよ…」。

これが2人の精一杯の距離。
こういう会話のやり取りは大人っぽい。
なのに、繭の行動は空回りで、周囲が見渡せてないからチグハグさだけが目立つ。

そもそも繭がショックを受けたり、怒ったり泣いたりするのも、
自分の中の男性ルールに逞が適合しなかったからで、これも逆恨みに思える。


かし策士の照は先手を打っていた。
周囲の看護師に、交際を宣言し、祝ってもらう。
更には仮病を使ってまで逞の拒絶の言葉を遠ざける。

この行為に対して、心臓外科医である繭の父は
「甘えぐせっていうのかな 小さい頃から入院がちだったせいで
 どうすれば大人が自分に都合よく動いてくれるか知ってる」と分析する。
しかも、照にとっては半ば無意識な行為だという。

これも、患者の家族の昂(こう)と律の鈴谷(すずや)兄弟と同じく、
逞だけでは描けなかった病気との付き合い方だろう。
小児患者の中には、こういう人も一定数いるのだろう。
関係書籍から、性格形成や治療に必要な金銭など様々な病気の側面をキャラたちに託している部分は本当に巧みだ。


が、罠にかかった、そう思った時には、もう遅かった。
照の罠は逞を捉え、そして小学生の時以来の口づけを交わす。

その日、照に嫌いと告げて帰ってくる逞を待つ繭。
人の不幸を待ちわびて、報告を聞くために危機として待つ なんて性格が悪い。
というか、繭は自分勝手で乱暴で、自分だけが傷ついていると思っている節がある。
強そうに見えて、少女漫画ヒロインの悪いところを詰め込んでいる。

以前も書いたが、今回 病院内で「死ね!!」と大声を出す彼女には幻滅。
そこに勤務する父がいて、病気で苦しむ逞を見ているというのに…。
そして『4巻』ラストの行動も自分のことばかりで絶句する。

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生きたいと切に願う患者のいる病院内で「死ね!!」。そして権力者の父に患者の情報をねだる悪女。

照が振られることを期待する繭に、逞は正直に話す。
「照ちゃんとキスした」
思い通りにならない現実に、逞を責めたてる繭。

逞は、照ちゃんにキスをされ、嫌悪感を覚える一方、
彼女の企みに乗れば、照ちゃんも傷つける必要がないし、
繭と距離が取れるのではないか、と自分さえ我慢すればいいと考える。

自分を中心としない逞への怒りで、繭は逞と距離を取る。


らのすれ違いは続く。
まぁ、この辺は少女漫画特有の中盤の消化試合というか、両想いまでの困難でしかないのですが…。

昂との交際が噂されても、2人を応援するという逞を見て、
繭は もう逞は自分のことを全然 好きじゃないんだ、と悟る。

しかし そんな折、病院内で患者のことをベラベラと話す父と看護師によって、
照の仮病と偽装交際が繭に伝わる。

その怒りのあまり、繭は照の病室に向かい、彼女を平手で殴打。
照のカラクリを逞や、見舞いに同行した昂の前で暴露する繭。

それに対して逞は、自分が照の仮病を見抜いていたことを告げる。
逞は照と同じ境遇だから、入院生活のさみしさをよく知っている。
彼女がそうしてしまった動機も痛いほど。

繭は照を卑怯者と罵って、周囲の人々の前で彼女に恥をかかそうとした。
結果、1人だけ ちっぽけな正義感を振り回したのは繭となった。
それが浮き彫りになるけど、彼女は また約束で逞を縛ろうとする。

でも繭も友達のラインまで自分から後退したのに、
そのラインを越えて、逞の行動が自分の思うままにしようとしている。

自分の気持ちを貫く勇気を持たないのに、
相手の行動を封じようとしたり、相手に決断を委ねたりするような態度の連続は卑怯ではないのか。

悲劇のヒロインのように描かれているが、繭の言動も決して好きになれない。


そういえば学校生活・寮生活では3食が提供されるが、逞の食事の管理は どうなっているんだろう。
減塩など、1人だけ別メニューを作ってもらっているのだろうか。
調理実習では食事の制限がある描写があったが、寮の食事ではそういう配慮の描写はない。