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少女漫画と小説の感想ブログです

僕の4年間をキミに捧ぐ。それが幼稚で優柔不断な僕の罪に対する罰だと思うから。

僕の初恋をキミに捧ぐ(5) (フラワーコミックス)
青木 琴美(あおき ことみ)
僕の初恋をキミに捧ぐ(ぼくのはつこいをきみにささぐ)
第05巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★(6点)
 

自分より症状の軽かった照の死に衝撃を受け、逞は繭と別れる決意をする。そして、時は流れ、逞と繭は高校生に。いまだに逞からの別れを受け入れられない繭の切ない思いは募るばかりで…!?

簡潔完結感想文

  • 運命の日。全てを清算して繭に会おうとする誠実な逞。だが誠実さは罪となる。
  • 好きな人ほどイジメてしまう、昂様15歳の初恋は幼稚で不器用な態度になる。
  • 僕達の罪と罰を4年間に捧ぐ。12歳の早熟な恋は過ちで終わり、一気に17歳。

人公たちの汚い内面までも描くことは勇気がいる 5巻。

物語の大きな転機となる『5巻』。
誰もがその展開に息を呑むだろう。

初読では、あまりの いきなりな展開で唖然としたが、
再読すると、作者の冷静さが見えてくる気がした。

少女漫画では、時に甘美な響きとなる難病設定。
だが今回、その甘い幻想に完膚なきまでに叩き潰す展開が待ち受けていた。

それが登場人物の死。
ネタバレになりますが、一人の人物の命が消えていく。

作者は それを物語の時間経過の理由とする。
『5巻』の後半で、『2巻』から長らく12歳だった2人の時間を一気に4年間 進めた。
この4年は、逞(たくま)と繭(まゆ)、2人の恋愛関係は何も変化せず、停滞するから割愛した。
その呪縛として その死を用いた。

逞は その死に直面し、一歩も動けなくなった。
自分の優柔不断な態度が、自分を死神にさせたように考えても不思議ではない。
その後悔と自罰的な気持ちが、彼に4年間の自粛を決意させる。

繭は、その死を知らなかった。
だが、逞が懊悩していることも知らず、自分の苦しみから逃れるために他者を利用した。
彼女が自分の浅はかな言動を悔いても もう遅い。
逞の隣に居続ける資格を自分から放棄したことが、彼女に4年間、自省をさせる。

どうにも好きになれなかった主人公たちだったが、
作者は、12歳だった彼らの浅慮を しっかりと表現していたことが分かる。

そして単に死を主人公たちのドラマチックな運命に利用したのなら腹立たしいが、
本書では、死によって主人公たちの汚さが露わになっている点に驚く。

主人公たちの過ちを描こうとするのは少女漫画家にとって、
とても挑戦的なことで、とても心理的負担が大きいことだと推測する。

逆に主人公たちだけが正しい世界を構築しがちな少女漫画において、
彼らの汚さや浅はかさ から逃げずに、主人公たちの罪をしっかりと描いた作者は強い人である。


の日、逞には二者択一の運命の選択が待っていた。
病室で自分の訪問を待つ照(てる)か、それとも思い出の場所で自分を待つ繭か。

これは繭が逞に強制的に選択させた。
自分が逞を好きでいることを あきらめるかを逞に委ねた。
これがちょっと分からない。
そもそも何をそんなに生き急いでいるのか、と思うのは彼らより年長者の私の意見だ。

逞が照と結婚すると言い出したならともかく、
自分の気持ちにけりをつけるために、人を呼び出して試すようなことをしなくても いいのに。
照ではなく自分が選ばれたという優越感や恍惚を味わいたかっただけではないか。


ただし逞もまた、けりをつけることを望んでいた。
照との関係を清算してからではないと、繭のもとに行けない。
それは少年らしい潔癖な考え方で、逞にとっては その順序しか考えられなかったのだろう。

だが、筋を通そうとした逞の考えは、結果的に、誰も幸福にならない選択だった…。
照を傷つけてでも、自分の幸福を願った、その罰だったのか。

どこで間違えたのだろうか。
最初に照の言葉を否定しなかったからだろうか。
もしかしたら自分本位に繭に会いに行っていれば、照とは自然消滅的な別れになって、
照の方が執着をなくしていったかもしれない。

でもそれは全部 仮定の話。
逞の誠実さが、照の心身に変調をきたしたのは間違いない。


これまで誘導尋問や仮病を使って逞の反論を封じていた照。
彼女は本当に最後の力を使っても、逞を離したくなかった。
手段こそ姑息に見える部分もあったが、本当に逞に居て欲しかったのは、照も同じではないか。

そうして最後まで逞のそばにいたまま、照の心臓は動きを止める…。

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大人は付き合える照のワガママや仮病も、12歳の逞には重い負担だろう。その罠から逃れようとするが…。

当に命をかけたような恋をしている照に比べると、繭の言動はやはり浅い。
近くにいた男で、好きな男を忘れようとするなど、人を利用したような姑息な手段に見える。
繭は照の死を知る由もなく、彼女は待ち続け、そして諦める。

その日、病院で我に返った逞は、約束の場所に向かうが、
繭が昂(こう)とキスをしている光景を見てしまう。

なんという残酷な光景か。

ただ、その登場時の「…今日は… 厄日だな…」という台詞に嫌悪感を覚える。
災難に巻き込まれた、嫌なことがあった、と照の死を表現しているようで悲しくなる。
なんでこんな悪役のような台詞を言わせたのだろうか。

繭の、寂しさから逃れるための刹那的な行動は続く。
昂を利用し、昂もそれを承知で繭にキスをする。
それを「犯されているような気が」すると表現する繭。
そして もう逞のもとに戻る権利はないと思う。

これが繭の罪となる。
彼女が自分の罪を自覚するのは、もうしばらく後。
自分の愚かな行動を知った時、本当に逞のもとに戻る権利を失う。

繭への気持ちは昂にとっても初恋。
強引でSな態度は、何をやっても逞に負ける気がする自信のなさの裏返し。


期末テストの成績は、逞が1位。
前回1位の繭は、逞に振られて落ち込んで、昂とつき合い始めて勉強が手に付かないらしい。

そして初めて1位になった奴は罰ゲームがあるのが、この学校の伝統。
「女子寮に潜入して好きな子のパンツをもらって来い」
またもバカみたいな内容である。

ただ、これは昂なりの計略だったのかもしれない。
ここで逞が正直になり、繭の所へ向かうのなら、それで自分は身を引く覚悟だったのだろう。
だが、逞は「女子寮に好きな子がいない」という前提で話を進める。

そんな逞の姿勢に反発を覚え、昂は彼を挑発する。
衆人の前で、逞が長く生きられないことを暴露する。
授業などで逞の体調に問題があることは周知のことなのでしょうが、
長く生きられないことまで、暴露する権利は昂にはない。
これは、繭への不器用な恋心とは別に、人間的な倫理観の問題だ。

なんだか どんどん登場人物のことが嫌いになっていく。


いよいよ、女子寮への潜入の日、
律をはじめ、女子生徒を含めた共同作戦のお陰で、逞は繭の部屋にたどり着く。
周囲の人は逞と繭がカップルになるべきだという認識らしい。

だが、少しだけ走ったせいで、繭の前で息が切れる。
その身体の弱さに、心も影響される。

だから「好きな子なんか おらん」、
本音を隠すための大阪弁で、繭の前でまた嘘をつく。

繭も逞の その癖を見抜いている。
何を隠しているのかと詰問するが、
自分の本心を聴かれてしまう前に、逞は繭の下から去る。

なぜなら自分の身体はこんなにも弱く、
そして照のことがあって、彼にとって死というものがより身近になった。
ある意味で、照は死をもって初めて逞から離れがたい存在となった。
照の死に対する逞の罪の意識、そして彼女の死が逞に繭のそばにいられないという気持ちを強くさせた。

照には悪いが、それは呪いに近いものである。


休みに実家に帰って初めて、繭は父から照の死を知る。
そして、あの日の逞の行動の全容を把握する。

その事実を知り、同じく帰省している逞を問い質す。
だが逞の返答から、繭は自分の軽率な行動を思い知らされる。

逞は あの日の、昂と繭のキスを見て、彼になら繭を任せられると思った。
だから身を引く。
そう告げて、2人は背を向ける。

今回は絶対に繭は逞に追いすがったりできない。
なぜなら自分は間違えたから。自分から間違えたから。

1時間待ってダメなら2時間、それでもダメなら3時間 待つべきだった。
自分の弱い心の囁きに負けず、一途に逞だけを思っていれば良かった。
なのに、繭は昂に寄り掛かってしまった。
それが繭の罪となる。

どうでもいいけど、モノローグで繭は、この夏のことを13歳の夏と言っているけど、
01月11日が誕生日の繭は、12歳だと思われるのが気になる。
逞にしても誕生日は09月13日で、夏休みの段階では12歳だ。

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状況的には繭は寂しさに負けて浮気をしてしまった側。その彼女に逞を追う権利はもうない。

こから時間は一気に移り、4年後の高校2年生になる
照の死が、彼らを4年間 身動きを縛った。
照は、逞からこの4年間を独り占めしたといってもいい。

そして ようやく、絵と年齢が合致するようになってきましたね。

17歳の逞たちは学校のスキー合宿、
卒業して大学に進学した19歳の昂は自動車の合宿免許で近くに来ていて合流する。
合宿免許って抜け出す時間があるものなのかしら…。

中1の夏のことがあり、4年経っても、成長・変化しない関係。
逞の心はいつも繭にフォーカスしている。
だが、その気持ちを伝えることは許されない。

ここまで膠着すると、何が契機となって事態が動くのか、それが知りたい。