《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

視野の広いヒーローや父親たちに比べて、直情的で短慮なヒロインと母親たちが悪目立ち。

僕の初恋をキミに捧ぐ(8) (フラワーコミックス)
青木 琴美(あおき ことみ)
僕の初恋をキミに捧ぐ(ぼくのはつこいをきみにささぐ)
第08巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

繭の母親にふたりの交際を反対され、また弱気になる逞。しかし、再び心臓発作を起こした逞は、限られた時間の中で繭を愛し、今まで我慢していたことにチャレンジすることに決める!

簡潔完結感想文

  • この期に及んで まだ健康な男性との恋を念頭に置いている繭に腹が立つ。
  • 逞も 禁止されていることを進んでして体調を悪くする悪循環が目立つ。
  • 2人の父親はヒロインと率直に話し、2人の母親はヒーローの行動を嫌がる。

ヒーローに格好をつけさせていたら、ヒロインがバカに見える 8巻。

作者の作品って、全体的に男尊女卑の傾向にあるように思う。
女性が嫌いなのか、それとも どうしても男性を良く描いてしまうのか。

その傾向はヒーローに限らず、父親という名の男性においても同じ。
彼らは誰もが冷静な視点を常に持っており、人の気持ちに配慮できる。
これはヒロインや母親たちが、他者の気持ちを考える前に自分の気持ちを わめきたてるのとは大違いである。

例えばヒロインの繭(まゆ)は、心臓病のヒーロー・逞(たくま)と約10年一緒に居るのに、
彼の病気がどんなものか、彼視点で考えることをしない。
だから自分の要望が通らなければ、すぐに怒って掴みかかるし、
逞が繭を遠ざけることで、自分が間接的に守られていたことも想像できない。

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10年も逞を好きなのに、人から教わって初めて彼の人生においての自分を考える繭。

そして2人の母親たちは、息子や娘にとって大事な人を自分も大切にしようとする前に、
独占欲や、将来の悲しみばかりに囚われてしまっている。

いくら男性側の活躍を描く少女漫画においてでも、
こうやって一方の性別の知性を奪うような描写は あまり心証が良くない。

せっかく『7巻』でヒロイン側が成長したかと思ったのに、
また同じような喧嘩を見せられて辟易してしまった。
中学入学時には学年1位の成績を取って、
ヒーローと互角の知性を持っているのかと思いきや、繭は精神的に幼いまま18歳になってしまった。

以前も書きましたが、肉体的・精神的な成長著しいティーンエイジャーの彼らを扱っているのだから、
もっと年を追うごとの変化を絵と心理描写で描いて欲しかった。

進むのは時間と、逞の心臓病の病状だけで、
主人公たちの13歳と18歳で 意識に変化が しっかりと見せられていないのが惜しい。


分の心臓の為にも、繭の為にも、繭への性的な欲望を抑圧して生きている逞。
だが、逞の苦しい言い訳も、繭は自分に性的な魅力がないからだと落ち込む。
そうして自分に身も心も夢中になってほしいと願う繭は直接的な行動にでる…。

だが逞には自制心が働いていた。
やんわりと繭を拒絶する逞だったが、
それを受け、繭が「逞は あたしのこと全然好きじゃないんだ」と解釈する彼女の愚かさに唖然とする。

本当に自分以外の考え方を全く想像できない人ですよね。
たった1日2日前の出来事であろう逞の告白が何も彼女に影響していない。
人のことを想うことは、相手の身になって考えることでもあると思うが、
繭には そうした逞の強いられる生き方や苦しさについて考えが不足している。


逞は街で繭の母に会う。
彼女は、自分と娘の交際を快く思っていない、
その空気をしっかり読める逞は、自分をよく見せようと、繭の母の前で無理をしてしまう。

逞は出された紅茶とケーキが、本当は心臓に悪影響を与えることを知りながら無理に食べようとする。
それは繭の交際相手として出来るだけ「普通」でありたい逞の見栄であった。
かつて使っていた大阪弁とは別の彼の虚勢である。
だが、その無理はすぐに体調の変化に現れ、
結局、繭の母の前で薬を飲んで病気のことを逆にアピールしてしまうだけだった。

この時の、繭の母の別れ際の牽制が、彼女の本当の気持ちを代弁している。


が差し出した据え膳を食わなかったため、逞は彼女に恥をかかせてしまった。
そのことが一因となって、些細なことで喧嘩状態になり、繭を泣かせてしまう。
そんな彼女を追いかけようと全力疾走をした逞は、心不全を起こしてしまった…。

担当医である父が笑顔で逞の両親に対応しているのを見て、不安に駆られる繭。
(この時、逞の父がスーツを着ているが、彼は務め人なのだろうか)

この発作の後、繭の父は娘と話をする。
父は、逞が少し前にセックスをしても自分の心臓は大丈夫か、を聞きに来たと話す。
そうして繭は逞が自分とのセックスをしっかり考えていて、その上で自制していることを知る。

そうして自分の存在自体が逞の心臓の負担になっている現実の一つの側面を知る。
繭は、父親に教わるまで、その可能性を考えもせずに、自分の感情のままに動いてきた。
この10年間がありながら繭に覚悟が欠如していたことと、想像力の無さが原因だろう。

だから、今度は繭が大切な人を守るために、逞を遠ざける。
好きな人の負担にならないために、自分の恋心を抑える、それはこの4年間の逞と同様の心理。
ただ、正直、まだ こんな別れる別れないの話をやるのか、と思った。

…が、逞は4年間も恋心を抑制してきて、それでも繭を求めた。
今の彼の信念は、繭を二度と放さないこと(「離さない」ではないみたい)。

結果的に倒れてしまったが、繭を追いかけるために生まれて初めて全力疾走をした逞は、その気持ちよさを知った。
我慢し続けたことにも快感があるのなら、もう したいこと全部する と心を決める。
繭も抱き締められない人生に意味はない。
だから繭とのセックスも解禁しようとするのだが…。

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我慢ばかり重ねてきた人生だが、ここからは恋愛も青春も全力疾走しようと決意する逞。

その裏で、両親は担当医である繭の父から、病状の悪化、そして心臓移植についての話を聞いていた。
その深刻な話を聞いた後で息子の病床に戻ってみれば、彼は彼女とイチャついていた。

これは逞の母親も取り乱しても不思議じゃない。
しかも繭は「面会謝絶」を無視して、逞のベッドに上がり込んでいるのだから。
繭は父親の権威を使って入室したのかな。
ますます繭のことが嫌いになりそうだ。

ただし逞は、母と彼女、2人の女性の内、繭を選んだことを宣言する。
これは繭にとっては嬉しい宣言。
自分の母親の前では優柔不断だった彼が、今度は ちゃんと明言してくれた。

ただ母親にとっては二重の悲しみだろう。
息子にとって大事な女性は母親ではなく彼女だと突きつけられた。


長い一日の終わり、繭は逞の父親に来るまで送ってもらった。
その父親は息子の彼女に
逞は「僕の自慢の息子です 逞を好きになってくれて ありがとう
   …逞に「恋」を経験させてくれて ありがとう」 と感謝を述べる。

母親たちと父親たちの違いが如実になる描写が続く。
作者自身の人生観でも反映されているのだろうか。


の「したいこと」の1つが繭のいる弓道部への参加。
中学時代から ずっと弓道場の方を見てましたもんね。

逞の願いが叶えられる良い場面だが、ここでも繭の浅はかさばかりが目立つ。

父親が心臓病患者だった律(りつ)は、逞の体調管理をする目的で弓道部に入ったのだが、
繭は、冷やかしだと思って彼を足蹴にしたり、暴言を吐いたり容赦がない。

その律の思い遣りを友人に聞いて初めて気がつく愚かな繭。
他の人が当たり前のように人の気持ちを推察する中、一人だけ幼稚性が目立つ。

それはそれとして、2人の遅れてきた青春っぽい日々が始まろうとしている。


今回、『7巻』では描かれなかった事故時の、昂(こう)の車の様子が描かれている。
どうやら車の左前方をガードレールにぶつけたらしい。
車体の前部だけで、運転席までは損傷はないが、衝撃は受けたと推察される。

なるほど、事故に遭った時により衝撃が大きいのが昂の方でなくてはならないため、
彼のかった車は左ハンドルの外車でなければならなかったのか、
と決して裕福ではない昂の見栄っ張りな外国車購入にも意味があることを知る。

そういえば昂は全寮制の高校を卒業してから、大学進学を機に母と2人暮らしをしてるんですね。
母が働きづめで家にほとんどいないのも、昂の体調の変化を見抜けない状況になっているのか。

誕生日に繭と車でデートをするためにバイトに勤しんで、
その初運転で事故を起こし、その修理のためにバイトに打ち込み、
病院に行くのを後回しにしてしまう悪循環、貧困の連鎖が起きている気がする。

本書は変な部分だけ描写や設定がしっかりしていて、人を着実に追い詰めていくなぁ…。


「メールの返事くらい、くれよ」…
全く接点のない同じクラスの男子・橋本 達彦(はしもと たつひこ)から、
新年の挨拶メールが届いた水野 景子(みずの けいこ)は戸惑うのだが…。

『7巻』収録の読切と同じように、何の苦労もなく、素敵な男子生徒から想われる女性の話ですね。
そして女性は恋愛対象じゃない人でも、自分が愛されていると相手のことを簡単に惚れる、という展開でもある。
夢物語としては面白いが、2人の関係性や恋情に憧れたりはしない。

そもそも作者の作品は、どれもが同じ顔という感想が まず浮かんでしまう。
ただ、割とネガティブな橋本くんは面白かった。