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少女漫画と小説の感想ブログです

子供みたいに意地の張り合いをしたのは、明日も その続きが出来ると信じていたから。

僕の初恋をキミに捧ぐ(7) (フラワーコミックス)
青木 琴美(あおき ことみ)
僕の初恋をキミに捧ぐ(ぼくのはつこいをきみにささぐ)
第07巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★(6点)
 

昂の誕生日に、ドライブデートをすることになった繭。逞は気になって行くのを止めさせようとするのだが、出かけてしまった繭。そして、繭と昂は交通事故に巻き込まれてしまい…!?

簡潔完結感想文

  • 5/15 昂の誕生日。買ったばかりの車で大好きな彼女を横に乗せる幸福。
  • 連載3回分2か月以上 読者を心配させたミスリーディングで読者は息を止める。
  • 人の死で遠ざかってしまった2人が、人の死を前に再び距離が近づいていく。

り返し地点を過ぎて、登場人物のターニングポイントとなる 7巻。

本書で2つ目の死が訪れる。
1つ目の死、照(てる)の死によって逞(たくま)と繭(まゆ)の2人は4年間 自戒の日々を過ごしたが(『5巻』)、
今回の死によって、2人は お互いが かけがいのない存在であることを身をもって知ることになる。

ようやく想いが重なった2人だが、その事実に喜んでばかりはいられない。
永遠を誓う彼らの横には、今日 死を迎えるとは思っていなかったであろう人の遺体がある。
ようやく心置きなく相手と身体を寄せ合える2人なのに すぐ傍に「死」があるというグロテスクな場面が生まれた。

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最接近した2人の横には遺体。2人の恋愛には常に「死」が身近にあるというゾクリとする表現。

少女漫画で最も幸福な瞬間とも言える両想いの場面にも、作者は しっかりシビアな現実の重しをつけた。

2つの死は逞たちの恋愛をドラマチックにするために利用された、という見方もできるが、
両想いの場面でも場所を移動させたりせず、彼らの恋愛を綺麗なだけに描かなかったことに、
作者の このテーマを扱う覚悟を見たような気がした。
『1巻』の感想文でも書いたかもしれないが、やはり逃げない人という印象を持つ。

今回、繭が初めて人の死に直面して、
健康な彼女にとって、それまで ぼんやりとした死の輪郭が鮮明になった。
それは長らく心臓病を患い、照の臨終の瞬間を見た逞と、死の価値観を同じにすることでもあった。

価値観の共有、それは恋愛でも大切な要素だろう。
照の死が2人を遠ざけたけれど、今回の死は2人の距離を縮める。
死ぬことへの恐怖が2人を結び付けたと言える。


書の構成はミステリ小説と よく似ているような気がした。
それなりに平穏な日常が壊れる、主人公が直面する第一の死。
その死による緊張状態が続くが、恐怖と日常が均衡を保った頃に起こる第二の死。
そして物語には、新たな死が待ち受けるのか…。

という、緊張と緩和が続く構成がミステリの それに似ている。
逞たちの距離が近づいたり、喧嘩したりするのは途中に挿まれる推理合戦か。

しかも本書の場合、逞の心臓は やがて動きを止めるという前提がある。
これは時限爆弾が起動する中、限られた時間で犯人を突き止める名探偵のような緊張感がある。

ちょっと絵が残念な部分があるが、ストーリー性と構成力は抜きに出た作家さんだ。
難しい題材にも、しっかりと物語をコントロールしている手腕に好感を持つ。


は昂(こう)には借りがある(女子寮寮長になるために昂を利用した)。
だから彼の誕生日に彼とデートをすることを断れない。

誕生日に自分の買った車で好きな子を乗せる。
こういう価値観は07年の連載時の若者の価値観か、
それとも それより前の作者の青春時代の価値観を用いたのか。
15年経った2022年の若者の価値観は、また違うものであろう。

そのデートを知った逞は阻止に動くが、
まだ繭の前では彼女への好意を隠そうとするので、いつも通りの口喧嘩になってしまう。
この言い争いは、作品の重い内容のオアシスとも考えられますが、
8歳の頃から何も変わらない2人の精神性に辟易もする。

そうして お互い意地を張ったまま、寮へ迎えに来た昂の車に乗り込む繭。
だが、その車は事故に巻き込まれてしまう…。

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昂は最初から オッサン臭いから気が付きにくいが、14,5歳の出会いから5年間の初恋を繭に捧げている。

事故の一報を受け、逞は病院に向かう。
そこで彼に任されたのは、事故で死亡した遺体の身元確認だった。

これもドラマ性のために必要なフィクションなんだろうけど、
携帯電話の「登録1番に名前があったから」、その人を呼び出して、遺体の確認を第三者にさせるとは思えない。

ここから連載3回に亘って描かれる、繭と昂が巻き込まれた事故の顛末。

単行本などで、まとめて読んでいる読者はいいが、
雑誌連載を追いかけていた熱心な読者は、3か月間 気が気じゃない心地だったでしょうね。
これは悪趣味とギリギリのミスリーディングですよね。

昂も動揺しているとはいえ、最初の説明が足りてないし、取るべき行動の順番が変だ。

そして いまいち事故の状況が分からない。
漫画における自動車事故の定番の、ボールを取ろうと車道に出た子供を避けようと、
対向車がハンドルを切ったのは分かる。

だが、昂の車が、その避けてきた車にぶつかったかどうかは不明。
昂は事故の衝撃で頭を打った可能性があるらしいから、何かしらに衝突したのだろう。
これは車の破損状況を描くと、車の破損=昂の体調になって彼ら側の事故の大きさが分かるから割愛したのかな。

漫画では定番と言える この事故の状況。
若かりし日は、主人公たちに近い被害者側にしか目がいきませんが、
少し年齢を重ねると、この子供や その家族のことまで考えるようになる。
自分の行動が誰かの死を招いたこと、それを成長するに従って その子供は一生 悔やむだろう。
その親もまた、どれだけ頭を下げても足りないぐらいの謝罪をし続けるだろう。
その一家の未来を考えると暗くなってしまう。


が死んだかと誤認した逞の前に、繭が現れる。
その僥倖ともいえる体験をしたことが、繭を遠ざける逞の決意を揺るがした。

こうして遠慮することなく逞は繭に愛の言葉を告げる。
存在を確かめ合うように固く抱き合う2人。
絶望の後に幸運があり、2人は その幸運を もう離すことはしない。

その2人の姿を見ていた昂は、引き続き病院で診察を受けなければならなかったが、
本当に初恋が終わったことを自覚して、それどころではなかった。
この時点で、彼が最も痛いのは心だろう。

最初は、遺体の横で告白することも含め、
繭のことが好きな昂の前で、自分たちの世界に浸ったことに彼らのデリカシーの無さを感じたが、
それもこれも上述の通り、考えてみればグロテスクな状況の為なのだろう。


そうして遺体の横で寄り添う2人だが、その様子を繭の母に見られてしまう。
繭の母と逞は初対面らしいが、最悪の状況で出会ってしまう。

心臓外科医の夫を通じて逞の話を聞いている母は、娘と逞の交際に顔色を曇らせる。
逞は その気持ちを収めようと嘘をつこうとするが、もう嘘はつけない。
どんなことがあっても離れがたい。
…が、強く否定しないかわりに、弱い肯定という意気地のない所を見せてしまう。

それに立腹する繭。
繭とは価値観を一緒にしたかと思ったけれど、どうも繭は脳筋なところがあり、
全て力でねじ伏せて認めさせる方向で動こうとする。

キスも肉体関係にも積極的だが、逞の方は それを弱めに拒絶する。
それは、逞が繭のことを大事に想っているからであって、
彼女の周囲の母親にも気に入ってもらえるように、誠実さを押し出そうとする。
少女漫画ヒーローは、理性を重んじる生き物ですから。

「ほしいものが、あるんだ ~卒業式前に~」…
口の悪い図書委員長・拓実(たくみ)先輩と、廊下の角でぶつかって口づけをしてしまう図書部員の福山(ふくやま)。
拓実先輩はファーストキスを奪われた、責任とって結婚しろ!!!!と怒鳴りつけてきて…。

いかにも少女漫画らしい展開。
頭がいい設定の先輩がちっとも頭がよさそうに見えない。
ヒロインも強気で、口が悪いだけで、良さが見えてこない。
先輩側はそれも気に入った、ということで丸く収めているが、卒業前の駆け込みカップルに見える。

ヒロイン・福山は青木琴美という少女漫画家のファンらしく、拓実先輩はそれを読んだという。
作中で、拓実先輩が自分と『僕妹』の頼との共通点を挙げているが、一番似ているのは顔だろう。
髪型や髪色は少々アレンジしているが、後は手癖で絵を描いているように見えてしまう。