青木 琴美(あおき ことみ)
僕の初恋をキミに捧ぐ(ぼくのはつこいをきみにささぐ)
第02巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
繭から離れるために全寮制の中学に入学した逞。ところが、繭は逞を追って同じ中学に入学してしまう。繭が自分のためにつらい思いをしないように、繭を遠ざけようと、逞は冷たい態度をとることにするが…!?
簡潔完結感想文
- 女性を泣かさないために行動する男たちが暗闘する中学生編スタート。
- 寮生活。寮長様の言うことは絶対! じゃあ学年1位の女子生徒が俺とキス!
- 6年間の変化を絵で表せれば一層 作品が素晴らしいものになったのに。
決して中学生に見えない老けた男子生徒たちが追加される 2巻。
あんまり画力のことは言いたくないが、画力が気になって仕方がない。
これは物語が面白いからこそ思ってしまう読者の欲張りな要求、と思って欲しい。
もっと絵で雄弁に語ることが出来れば、作品は一層 魅力的になっただろう。
そう思うのは、本書が作品内で時間が経過していく物語だから。
『2巻』の時点で主人公の逞(たくま)は12歳。
冒頭から語り手として登場していた18歳の逞まで、あと6年余ある。
その間の男子が男性になっていく身体的な変化、表情の変容を、
絵で表現できれば良かったのだけど、本書では背が伸びるぐらいで、体型や体格が変わらないのが残念だった。
どうして10代男子の体型が、こんなにもオッサンのような寸胴体型なんでしょうか。
それが顕著になるのが、この見開きの扉絵での人物紹介。
驚くことに彼らは中1、もしくは中3である。
生徒会長の昂(こう)様なんて30代男性のような重厚な体型。
逞も、決して12歳の少年には見えない。
ちなみに重厚と言えば、↑ の『2巻』表紙の逞も気になる。
描きたいことは伝わるが、これ、逞が背筋を伸ばした時の胸囲が とんでもないことになる予感がする。
ボディビルダーも顔負けの上半身なんじゃないだろうか。
運動が禁じられている人に決して見えないのは本書の大きな欠点だと思う。
例えば『2巻』と終盤の『11巻』あたりを見比べると、
一目瞭然で逞の成長の度合いが分かる、というぐらい画力があると、
一層 時の流れや彼の人生に感動できる構成なだけに、それが叶わないのが惜しい。
この巻から主人公の逞(たくま)、そして繭(まゆ)は中学生になる。
ネタバレ、というほどでもないネタバレになるが、
彼らは全寮制の中高一貫校に入学して、寮生活を始める。
少女漫画としては寮に入ることで、親の干渉を無くして、2人だけの愛を育む環境を作りたかったのだろう。
親の排除は内容をドラマチックにしたい少女漫画に多い。
行動を制限する家や親が邪魔になるからだろう。
2人が寮生活を始めるのには理由があった。
20歳まで生きられない自分の運命を変えるために、小学校6年生にしてピアスを開ける逞。
そんな逞の決意を感じ取り繭は泣く。
それを見て、自分がそばにいることで、繭が泣くと思った逞は、
繭から離れる環境を求めるべく、中学受験を希望する。
それが逞の繭を悲しみから守る方法だった。
彼が望んだのは全寮制の中高一貫校。
「生まれてからずっと入退院のくり返しで半分も一緒に暮らしたことがない」息子との時間を奪われることに動揺する母。
だが「一生の思い出」を作りたいという息子の願いを、母は拒めない。
この決断の裏に繭の存在があると直感した母は、繭に会いに行き、中学受験をするか問い質す。
「逞を連れて行かないで…!!」
だが、この母の懇願は繭に、逞の決意を知らせる結果となってしまった。
息子の行動が繭のため という母の直感は間違っていない、ただそれで息子の願いを踏みにじってしまった。
繭に逞の中学受験の決断を間接的に知らせてしまったから。
この時、母はなぜ繭に直接 聞いたのだろうか。
同級生の母だから住所は分かったのだから、繭の母に話を通せばよいものを。
まぁ それだけ繭自体を敵視してしまったということだろう。
入院生活では勉強に時間を割くことが多かった学力の高い逞は無事合格した。
彼は、卒業式で会う繭が、自分が見る最後の姿だと思い、その姿を目に焼きつかせる。
そして20歳になって生きていたら、会いに来てもいいか、と心の中で問うのだった…。
少年らしい切実な思いである。
…が、なぜ逞は繭と離れる決意を確かなものにするために「男子校」を選ばなかったのだろうか。
子供だから思考に穴があるのは仕方ないが、
物語としては、この中学に進学する理由が欲しいところ。
病気の子を受け入れられないとか、発作の時に対処するために主治医から遠い学校には行けないとか。
展開上仕方がないが、作品に穴があるように思えてしまうので先手を打って欲しかった。
逞が入寮する場所は『僕妹』の主人公・頼(より)がその後にお世話になる場所でもある。
寮長の鈴谷 昂(すずや こう)をはじめ、寮生活で主要メンバーが一気に増える。
神尾 耕太郎(かみお こうたろう)1人を除いて、ほぼ同じ顔、そして全員同じ体型の男性キャラは見分けが困難。
中学進学を機に、逞はピアスに加えて髪を金髪に染めるのだが、
もしかしたら これは、同じ顔ばかりになることを危惧した作者が、
主人公の記号として付与したものかもしれない。
その金髪は、大阪弁と同じで、可哀想という自信への周囲の同情を全身で拒否する逞の対抗策・防御策であった。
自分と自分の好きな人を守るために精一杯な12歳の逞の姿は痛々しくもある。
生徒会長の昂の挨拶の後は、新入生代表による挨拶。
それが繭。
ちょっとしたサプライズ演出だが、
冷静に考えてみると『1巻』の段階から18歳の逞は、繭と同じ学校にいるので類推は可能。
逆に繭は なぜ逞の受験先が分かったのかは謎。
この辺りには私立校が1校しかないという作者の脳内設定でもあるのだろうか。
こうして同じ中学に進学して、離れらない日々が延長される。
だが逞は入学式の日以来は、中間テストが終わる頃まで、繭と一言も口をきかずに無視し続けていた。
その沈黙が破られるのが、学年1位の成績をとった者に対する罰ゲーム。
それは学校の慣例で、成績が1位だった繭に罰が課されたのだ。
昂が決めたその内容は「男子寮寮長のキスを奪いに」いくというもの。
いかにも少女漫画らしいハラスメントですね。
繭のキスを阻止すべく、決意を固め部屋を飛び出そうとするが、そこには繭の姿があった。
繭は逞が「しないで」というのならキスをしないと告げる。
判断は逞に委ねられるが、逞は繭の行動を制限することはできない。
もう、どんなことでも自分が繭の人生に影響を与えたくないから。
繭は逞に止めて欲しかったが、その願いは叶わない。
だから昂の待つ彼の個室に踏み込む。
だが やがて繭を廊下で見届けたはずの逞に我慢の限界がくる。
昂の部屋に乱入し、抑えていた気持ちを吐き出してしまう。
ここから逞の中途半端な態度が続く。
決心を貫き通せないのは逞の弱さだろう。
それを見抜くのは昂。
昂の父親は心臓病を患い入退院をくり返し、そして亡くなった。
その闘病の日々、母が神経をすり減らして生活をし、そして悲嘆にくれたことを知っている。
だから昂は、繭が逞に近づいて泣くことになるのが嫌だ。
昂が繭に近づくのは、繭を悲しみから遠ざけるため。
手段も方法も違うが、男性たちは女性を悲しませたくないのだ。
これによって繭は本人のあずかり知らないところで、2人の男性から「守られヒロイン」として扱われる。
読者の少女たちにその構造が見抜けるかは分からないが、こういう点が読者に受けるところでもあるだろう。
昂は最初の決意が揺らいで、中途半端な態度でいる逞をたしなめる。
自分の弱さを指摘された逞は再度、繭を拒絶する。
ここから何回か見たことあるような再放送のような内容が続きます。
まぁ想いがすぐに通じてしまえば、描くことないですからね。
本当に、いつ18歳になるのやら。
明らかに前日譚だった『1巻』と違い、『2巻』の中学進学からが本編と言っていいのかな。