《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

謝るべき時は誠心誠意 謝罪しなさい、それが母の教え。そして今こそ最大の謝罪の時!

高嶺と花【通常版】 17 (花とゆめコミックス)
師走 ゆき(しわす ゆき)
高嶺と花(たかねとはな)
第17巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

高嶺は野々村一家とともに、花の祖父母が住む九州へ里帰り。顔合わせをしつつ一緒に年越しをしようと試みるが、花のおじいちゃんが高嶺に大激怒して…!?お見合いから始まった高嶺と花のラブゲーム、「結婚」に向けて、二人らしく、歩みを進めます★第91話~第95話を収録!次巻(18巻)で最終回です!ラストまでお見逃しなく!

簡潔完結感想文

  • 花を愛する高嶺と、祖母似の花を溺愛する祖父の初めての共同作業。
  • 前巻に続いて、親の間違った教育から従兄弟たちを守る高嶺の奮闘。
  • 化粧で身分を偽らず、高嶺と横に並んで臨席する高嶺の祖父との面談。

トコを愛し、イトコに愛された男、それがこの俺、才原ァァァァ 高ャ嶺ェェェェ、の 17巻。

恋の火が着火するまでに長い時間を割いていたが、
焼けぼっくいは火がつきやすいらしく、
2人が両想いになってからというもの怒涛の展開が続く。

展開が読者の予想よりも早いのは嬉しいことだが、ラスボス戦が呆気ないのは、
これまで この お見合いRPGを楽しんできた読者としては肩透かしをくらった気分にもなった。

まず この巻で誰がラスボスだったのかも分からくなった。
そして 困難の撃退法も、他人任せ or 土下座謝罪で、何だか締まらない。

ただ、頭を下げることも、味方が出現することも、
『1巻』時点の高嶺(たかね)では考えられないことなので、これはこれで、
このRPGで身につけたスキルが活かされているのかな、と実感できるから満足ですが。

少し他作品のネタバレになってしまうが、
当初から同じ白泉社の全18巻の物語ということで引き合いに出していた
葉鳥ビスコさん『桜蘭高校ホスト部』もラスト付近で、ヒーロー側の親族が権力争いをする展開だった。
その骨肉の争いが、少し深く肉をえぐり過ぎて、結末も あまり気持ちのいいものではなかったから、
本書は、なんとか身内の水面下の争いに収めたのは良いバランス感覚に思えた。

本当の後継者争いは物語の外側に設定して、
高嶺がその候補に名乗り出るスタートラインに立った時点で一族内紛の話を終わらせるのは賢い選択ではないか。

ヒロイン・花(はな)をはじめ、2人のラブストーリーを見守る読者も、
高嶺がグループで足場を固めたり 偉くなるのは、人生で一番大切なことではないことが分かっている。


だし結婚に向けての足場は固めてもらわなくては困る。
いよいよ祖父(母)に2人のことを認めてもらう番。

12月上旬の花の誕生日を経て、晴れて婚約者となった2人。
クリスマス回は去年もやったので割愛(『6巻』)。

そして早くも年末になり、花たち野々村(ののむら)家は母の実家に帰省中。
今回は、婚約者として高嶺もそれに同行する。

指輪を渡して正式な婚約者になったからには祖父母にも一度は顔を出すのが筋、
こういう高嶺さんのきっちりしたところ好きです。

花と祖父の再会の挨拶は『6巻』とほぼ同じ。定型句の挨拶で笑う。
祖父母と初めて挨拶を交わす高嶺だが、ここで花の親族側から初めての結婚を反対する者が出る。
それが祖父。
高嶺を殺しにかかる(笑)ぐらいに、現実を認めたくない。
どうやら生まれながらの御曹司は、生まれながらに「じーさん運が悪い」。

ただし同じ花を愛する者同士、通じ合うところがあり、間もなく意気投合。
祖父が花を溺愛するのは、孫が祖母の若い頃にそっくりだからではないかと考える。
野々村家が花よりも姉を重視する中で、祖父の溺愛は安心する。
ちなみに父が姉を溺愛するのも、若き日の母に似ているからではないだろうか。
従兄弟たちに愛される高嶺の才原(さいばら)のDNAといい、
その人を溺愛するにはDNAの出かたに理由があると思われる。
となると、花も年齢を重ねたら祖母のようになるのか。
とても可愛らしいおばあさんに なりそうだ。


して新年、高嶺は祖父から呼び出される。
従兄弟の大海(ひろみ)の父(つまりは叔父)の後押しもあって、高嶺はグループ本社の役員に任命される運びとなった。

だが同じく本社社員になるのは従兄弟の八雲(やくも)。
あの倒錯サイコパスである。

思えば1年前の高嶺は、松が明けたら没落したんだよなぁ…(『6巻』)。
現実時間では1年の修行が長いのか短いのかは分からないが、
読者としては、随分 色々なことがあったと思う1年だ。
それが全部、高嶺の経験と成長になっているから、役員任命の時期は適当なのかもしれない。

鷹羽(たかば)の中で、正規のルートから外れ、一族の汚れ仕事を任される八雲。
だが、花の誘拐劇の後(『11巻』)八雲は、気を抜くと高嶺のことばかり考えてしまうから、
高嶺を頭から追い出すために、仕事に没頭した。

没頭することで会社の業績を伸ばし、それが母に認められ、本社に呼ばれる運びとなった。
高嶺を忘れるためのはずが、高嶺との再会を呼び寄せたという皮肉。
もしくは離れがたい2人の運命だろうか。

f:id:best_lilium222:20220214203922p:plainf:id:best_lilium222:20220214203919p:plain
2ページで分かる鷹羽グループの同族経営。写真なのに八雲は高嶺のことを気にしているように見える(笑)

八雲の母は自分が父であり会長の鷹羽 蒼天(そうてん)の正統な後継者であるという自負がある。
ここで初めて、正式に鷹羽の家系図が提示される。
蒼天には3人の子供がおり、長男が高嶺の父、名は陸人(りくひと)。
その後に長女の八雲の母・氷冴世(ひさよ)、
そして最後に次男で大海の父の狭谷(きょうや)。
(なんだか次男だけ名前が可愛そうな気がするが…)

大海の父は、親子の和解の恩義もあって、高嶺の進路を邪魔しない。
といっても高嶺を邪魔するであろう姉の企ても邪魔もしない。
高嶺が再び目の上のたんこぶ になることで、姉に狙い撃ちされることも想定済み。
中立を保つことで、漁夫の利を得ても拒みはしない。
それが彼なりの仁義であり、冷徹な処世術なのだろう。

その蒼天の3人の子の子供、蒼天から見た孫世代が、イトコ同士の高嶺、八雲、大海となる。
そして今回の騒動は、八雲の呪縛やトラウマが最大の焦点と言えなくもない。


雲の再登場だが、今の花にはSPの身辺警護がついている。
「念の為 守尾さんの数を増やしておこう」という台詞に笑ってしまった。
名前からして守尾一族は全員SPなのか。
そして本当に増える守尾さんたち(少なくとも4人・3兄弟設定ではあったが)。

そんな花の前に現れる八雲の母・氷冴世。
彼女は息子の誘拐劇の謝罪として、札束を野々村家に提示する。
だが意外に芯の強い父が、娘の恐怖や高嶺の怪我は、お金に換算できるものではないと、跳ねのける。

しかし氷冴世にとって、これは挨拶代わり。
拒否されることも想定内だろう。
本題はここから。
「あなた方が家族ぐるみで会長を謀(たばか)って お見合いを継続させていた事実
 すでに父… 蒼天の耳に入ってい」る、と告げる氷冴世。
大層 怒っているという会長の気持ちを丸く収めるよう、氷冴世が うまく話をつけるという。
全てを穏便に済ませる代わりに、見合いを破談とし、高嶺と縁を切ることを条件とする。

これに対しても家族は総出で反対。
家族もまた花の気持ちを重視し、それによる迷惑も騒動も一身に受ける覚悟を持っていた。

こうして氷冴世の買収工作は失敗。
身を挺して子供を守る野々村家の態度は、氷冴世に、
かつて志高く自分の信念を守ろうとした、高嶺の母・十和子(とわこ)の姿を思い出させる。

それもあって氷冴世は、野々村家も才原の身内とみなし、
かつて才原母子にしたような仕打ちをすることを捨て台詞に帰っていく。

この鷹羽の嫌がらせと危機を知り、高嶺は慌てふためいて帰宅するが、
花たち一家は、これまで結んできた縁で、海外でも暮らせると呑気に考えている。
蒼天の激怒情報に不安がない訳じゃないが、起きたことだけに対処すればいいという考え方らしい。
その雑草魂に高嶺は感心し、涙を流す。
27歳になってからというもの高嶺は年のせいか涙腺が弱いですね(笑)
いやいや、これも人情を知った彼の成長です。


じ日、高嶺は氷冴世の息子である八雲と会っていた。
これは八雲が再び花を危険に晒すリスクを考えてのこと。
八雲は母の命令には従うが、自分から行動するつもりはないことを話す。

だが、その八雲に、母から高嶺の弱みを提示するよう命令があり、
彼は花の誘拐劇の全裸タップダンス未遂(『11巻』)の高嶺の写真をほのめかす。
まさか全裸タップダンスが、再び蒸し返されようとは…(笑)

氷冴世は、高嶺と花のお見合いの件ではなく、
高嶺を女子高生に裸を見せる痴漢としてリークすることで記事として高嶺の失脚を企む。
これは、お見合いや花の件を高嶺が祖父に話す前に、
祖父が知ってしまうと、物事の順序が狂ってしまうことを回避するためでもあるのかな。

高嶺が本社に戻る前に彼を たたき出すためにも、
その日の役員定例会で、この件を取り上げ、高嶺の資質を問うことにする氷冴世。

身に覚えのある女子高生とのロリコン交際でもなく、
身に覚えのない痴漢を でっち上げられそうになる高嶺。ピンチ!


の一件での裏切者は八雲。
だが、八雲が裏切っていたのは、何もしないと確約した高嶺ではなく、
命令に従う振りをしていた母の氷冴世。

八雲が雑誌社に書かせたのは、高嶺の痴漢行為ではなく、御曹司・高嶺の特集記事。
高嶺に直接 取材していないのに、ここまで確かな内容になるのは、
心のありようからパンツの色まで高嶺のことを熟知する八雲だからだろう(笑)

高嶺を罠にはめるはずが、自分が息子の罠にはまったことに激昂する氷冴世は息子を打擲しようとする。
それが この家での子供のしつけ方だから。

だが、その手を制止したのは高嶺。
ぶった所で思い通りになるわけじゃない。
そう、高嶺に説教されて、氷冴世は踵を返す。

殴るのは、しつけをする時ではない。罰を受ける時だけ。
だから八雲は、一番の被害者である野々村家に殴られるべき、と高嶺は語る。
これは 八雲の幼少期からの劣等感というトラウマからの解放と、
自分の罰をしっかり思い出させることだろう。

こうして高嶺は『16巻』での11歳の大海に続いて、30歳の八雲の家の子育てに介入した。

鷹羽の後継者だった父を早くに亡くしたことで、鷹羽の名から解放された高嶺。
そして本格的な思春期を前に父と和解できた大海と違って、
八雲は、従兄弟の中では親や鷹羽の名前に一番 縛られてきた人といえる。

キスを交わして正式な交際となり、恋愛問題が一段落した『14巻』から、
15・16・17と、母・父・母と、鷹羽一族の親子関係を扱うことになった高嶺。
この一連の流れが綺麗ですね。

こうして高嶺も、そして従兄弟たちも「鷹羽」を背負ってきた親たちから解放されることで、
鷹羽グループの次世代の安泰が期待できるようになっている。
暗い気持ちがなく、正々堂々と切磋琢磨することで、グループは発展するのだろう。
親のしつけ、思いが重しになって飛び立てなかった鷹が、今、空に羽ばたこうとしている。

もしかしたら八雲は、久しぶりに一緒に乗馬したことで、屈託なく仲の良かった頃の2人に戻れたのではないか。
母からの歪んだ愛情が、八雲を歪ませ、高嶺への愛情も歪んで嫌がらせになった。
最後には「トゥンク…」と胸がときめいているから、これからは正攻法で高嶺に愛情表現をするかもしれない。

鷹羽グループの未来は明るいが、
高嶺と花にとっては、八雲 → 高嶺 ⇔ 花 ← 大海、と泥沼の四角関係が待ち受けている、かも(笑)

恋愛に関しては高嶺はウブだから、八雲の積極性なアプローチに 折れそうで怖いなぁ。
高嶺が屈服する そういう薄い本が出てもおかしくない。
大海に続いて、八雲も 高嶺と自分の願望を描いた同人誌を発売したりして…。


して本丸。
祖父である会長・蒼天との面会の日が、いよいよ指定される。

今度は花と高嶺の婚約者として、共に横に並んで臨席する。
本当の意味で、高嶺とは人生の同伴者なのだ。
自分の身分証明としてか、花は高校の制服姿で臨む。

そして3人は誠心誠意、謝罪する。
これは高嶺が母から教わった才原家の教えでもある。
花もまた、近々 才原の家の者になる、と考えると この謝罪だけでも泣けてくる。

f:id:best_lilium222:20220214203656p:plainf:id:best_lilium222:20220214203654p:plain
父を娘が庇い、その婚約者が彼女を庇う。この関係性を見せられて激昂したら、こちらの器が小さく映る。

祖父の返答は、知っていた、というもの。
これは読者の想定内だろう。

祖父は、これまで高嶺の人生を見守ってきて、
即断即決の高嶺が見合いを即座に断らないことが、花が高嶺の人生に大きな影響を与えるのでは、と予感していた。
この祖父の直感は、彼が高嶺の人生を見続けてきたから得られるものである。
高嶺と祖父の絆はそれほどに深い。

だが交際を認めるには条件があった。
それが、すぐに籍を入れること。
それが本気の証となり、そうすることで世間の目から2人を守ることになる。

その言葉を聞いて花は、懐に忍ばせておいた婚姻届を出し、
最後の記入欄、高嶺の名前を書かせようとする。
これが この席に臨む花(そして家族)の覚悟なのだ。

その行動力と決意を見た祖父は満足して帰っていく。
とある場面を割愛して…。


はトントン拍子に、定められたゴールに向かって進む。

お見合いのセッティングも祖父の手によるものなら、
結婚のタイミングも祖父の手によって成される。
祖父は高嶺が記入した婚姻届を自分の手に収めていたのだ!

これによって結婚が先で、プロポーズが後になってしまう。
こういう形式を重んじるタイプの高嶺は、自分が後手に回ることにショックを受ける。
高嶺は最高のプロポーズを夢見ていたが、雪崩式に物事が進んでいく。

肝心のポロポーズは本書にしては派手な演出。
これは もう言葉は形式的で、気持ちとしては通じ合っているからか。

そして私にとって意外だったのは派手よりも、冷静さを欠いた状況。
雰囲気に流されない2人(と作者)だと思っていたが、どう足掻いても結果は一緒だと、
そういう理性も吹き飛んでしまうのかな。


そういえば婚姻届に英語表記で署名した高嶺だが、祖父が提出しようとする婚姻届は漢字も書かれている。
筆跡を隠すためか、よれよれの字に見えるが、あれは祖父が後から記入したのか…。

結婚がゴールなのは、お見合い という形式から始まった本書では当然であろう。
だが、2014年の読切短編掲載以降、法律が大きく変わろうとしていた。

女性の結婚年齢の引き上げなどに関する民法の改正の法律は2018年06月に成立。
そして その施行が2022年04月。
これは花の結婚に大きく関わる。
『17巻』ラストの雑誌掲載は2020年なので民法の改正は決定済み。
ならば、作中で花が18歳になるのを待った方が、
後世の読者たちが読んでも不自然さがないのでは、と思う。

だが、今回の民法改正に合わせて結婚を先延ばしにすると、
絶対に結婚できない年齢の16歳の花が お見合いすること自体が不自然になるから、
当時の民法に合わせて、話を進めるのが自然な流れなのかな。

もしかしたら花は白泉社最後の18歳未満の結婚となるのだろうか。
少女漫画界での、いわゆる「幼な妻モノ」の結婚は誰が最後なのか気になる。
現在が2022年02月なので、3月中に誰か少女漫画ヒロインが結婚してくれないだろうか。