師走 ゆき(しわす ゆき)
高嶺と花(たかねとはな)
第18巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
鷹羽(たかば)会長のはからいでドキドキの2人暮らしがスタート!滝行(?)、披露宴、大学受験を乗り越え、ついに結婚式へ…!華麗ならざるラブゲーム、溢れる笑顔でここに完結!
簡潔完結感想文
- 押しかけ御曹司、通い妻、マスオさん同居から、2人だけの生活 始まる。
- 新婚気分は家事に専念できる春休み限定。夫婦としての絆を育む期間。
- 一緒にいる不安よりも幸せの方がずっと多いから、世間の荒波は弱めで。
『1巻』は最初から最後まで伏線だったのか⁉ の 最終18巻。
最終巻は、ウィニングランならぬ、ウェディングラン、といった感じですね。
今回は2人の新婚生活、結婚披露宴、そして結婚式と 結婚尽くしの巻となっている。
結婚という人生の一大事を他者の手によって決められた2人。
それは最初から目指していた大きなゴールではあったが、
スタートの合図(お見合い)も、ゴールの期日(婚姻届提出)も、
高嶺(たかね)の祖父の気ままな行動が原因となるのが本書らしい。
身内の都合で始まった お見合いという名の交際が、いよいよ夫婦生活へと変わっていく。
全体的に見れば、ヒロイン・花(はな)目線で考えると
高校1年生の桜の頃には お見合いを済ませて(謎の16歳設定が1年8か月続く)、
そこから1年半余り経過した高校2年生の秋、十五夜の月の下で正式な交際が始まる。
そして その冬には婚姻届を提出している。
これは交際2年弱の末の結婚なのか、それとも4か月余での結婚となるのか。
巻数で考えても『13巻』で交際開始、『16巻』で婚約、『17巻』ラストで婚姻届提出と、
この長距離走は、ペース配分がかなり おかしい。
急いで婚姻届を提出しているあたり、授かり婚を疑われても おかしくない。
今回の結婚披露宴の質疑応答で、新婦の妊娠の有無など聞かれて当然の状況かもしれない。
ただ高嶺のロリコン疑惑は否定できなくても、妊娠の有無は きっぱり否定できるだろう。
何といっても2人で暮らしても寝室は別だし、
モットーは清く正しく美しい生活だから。
下世話な興味としては高嶺は いつ手を出すのだろうか。
いや、この2人のことだから、花の心が決まったら、花から提案しそうだ。
そういえば2つ前に読んだ女性17歳と男性28~9歳の年の差カップルは、女性が成人するまで待っていた。
高嶺の場合は我慢というよりも、勇気が出るか、が問題っぽいが…。
最終巻は結婚したのに、1周回って『1巻』の頃の雰囲気が戻ってきたのが嬉しいところ。
花の高校に押しかけて高嶺が花を さらっていくシーンも久々で懐かしい。
そして何よりラストシーン。
これ以上の終わり方は絶対にないと言い切れる場面になりました。
更には巻末や限定版の小冊子(私は持ってない)にある6年後の世界の設定も、
実は『1巻』の とある場面と繋がっており、また『1巻』を読み返したくなる仕掛けになっている。
作者も読者も お幸せに! と声を掛けたくなる、そんな2人の記録となりました。
結婚というエベレスト級の人生の山をいつの間にかに登っていた2人。
花は友人たちに結婚を報告。
普通なら驚くべき場面だが、驚かない。
なぜなら それ以上に波乱万丈な出来事を2人は経験してきたことを知っているから。
おかモン をはじめ、丁度良い距離感の友達たちですね。
高嶺も友人・知人に報告。
りの と霧ヶ崎(きりがさき)、ニコラと花の友人・水希(みずき)など、
恋の予感を感じさせながらも、結局 花と高嶺以外は誰も結ばれなかった。
内輪でカップルを成立させて、誰も彼も幸せの大団円、というのは作者は苦手そう。
でも最終的に誰も不幸になっていない世界で、それで十分だ。
ちなみに霧ヶ崎は、この4人の集まりで毎回 コーヒーを飲んでいるが、下戸 設定なのだろうか。
神の如く 2人の恋愛を見守ってきた高嶺の祖父は、
結婚祝いとして2人にタワマンの一室を どどんとプレゼントする。
祖父にとっては こんなのは慎ましいお祝いの部類らしいが…。
これは祖父が花の自立心を育むための措置でもあった。
まだ未成年で、女子高生である花が、
一緒に暮らすことで「夫婦としての自覚を持ち、絆をたしかなものにすること」が狙いで、
祖父の「お前たちに与える最後の試練」だという。
そうして祖父の意向に従い、2人は新居へ引っ越す。
高嶺は この1年3ヶ月余で3度目の引越しだ。
いくら御曹司とはいえ、ヒーローが2年で4つの住居を渡り歩く少女漫画は本書ぐらいだろう。
ちなみに花以外の野々村(ののむら)家は、元の家に戻ることにした。
花の父は会社が上場して少しはリフォーム代を貯蓄できるようになるのだろうか。
引越しを前に、高嶺は浮かない。
2人きりの生活に自分の愛がバクハツしてしまうことを怖がっているらしい。
そこに通りかかった おかモン と会話し、高嶺は自分が新婚で2人きりの生活が出来る幸福を忘れていたことに気づく。
おかモン は高嶺のやる気を引き出す当て馬役が上手ですね。
今後は恋愛の悩みは、ニコラよりも おかモン に聞いてもらった方が良いかもしれない。
そうして始まる2人だけの新婚生活。
高嶺にとっては約1年3か月ぶりタワマン暮らしですかね。
そして夫婦2人だけの初めての夜。
お互い時間差で照れているのだが、表面上は いつも通りに過ごす。
そして互いに意地を張って、イチャラブの雰囲気を回避し続けてしまう2人。
だが、それを埋めるのは、高嶺からの思わぬ行動。
「抱きつかれる為のシミュレーション」は自分が抱きつきたいという思いの反映。
だから高嶺は花をその手に抱きよせる。
こんな密室で、高嶺が動いても問題なくなるのは、結婚後ならではのことですね。
こうやって互いに少しずつ相手に甘える間合いを覚えて行くのでしょうか。
ただし、高嶺は花の高校生活を全てにおいて優先するので、
夫婦として、花が高嶺の為に動くことを良しとしない。
寝室も別だし、それぞれが個々に動いて、相手の邪魔にならないよう心掛ける。
それが高嶺が考える花の生活を優先したルール。
もはや新婚生活というよりも共同生活である。
自分が最優先であることを理解できる賢さを持っている花だが、
高嶺の言われるがままに行動するのは嫌だという反骨精神も持っている。
だから受験生になってしまう前の春休みだけは夫婦らしい生活をしようとする。
3年生直前、それは最後のモラトリアム期間ではなくて、
花にとっては10日余の新婚期間となった。
この10日間で自分の時間を大好きな人の為に使う幸福を味わえたことで、
花に今後の1年間 受験を乗り切るだけのエネルギーを注入し、
そして夫婦としての自覚に目覚めていったのではないか。
夕食時の話題で結婚式の話が出る。
高嶺は花にウェディングドレスを着せてやりたい。
花には儀式としての花嫁願望はないが、
強いて言うなら高嶺の祖父と母が同席する式にしたい言う。
そのために高嶺の一族・鷹羽(たかば)の面々に、
「何があっても 何をされても 私たちは屈しないぞって」認めさせる、知らしめる。
これが祖父の言う「絆をたしかなものにする」2人への試練だと考える。
最後の敵は個人ではなく、鷹羽や世間の悪意の集合体。
それに負けない修行が、この新婚生活の目標となる。
その日から出掛けに2人はキスをする。
夫婦という共同体の意識を高める修行だろうか(笑)
愛妻弁当もその一環。
この世の春を満喫することで、世界はバラ色になり、
2人は夫婦として自分の役目を果たせる自分であろうとする。
ひいては、それが強くなるということなのではないだろうか。
2人の結婚生活における些細な すれ違いも、絆を強めるのに必要な要素。
自分の生活に専念する花に「お前がこんなに家庭をかえりみない女だとは思わなかった」と不満を漏らす高嶺。
「学校生活に専念しつつ俺の事も気にしろ…!」
高嶺は子供が生まれた後にも同じことを言いそうで怖い。
妻の頭の中でも優先度1位じゃないと気が済まないのだろう。
しかし花は そんな高嶺に愛の言葉をプレゼントする。
序盤から何度も何度も乗っている この高級外車が、
こんなにも愛で満たされる日がくるなんて思わなかった。
そして花は この車で一つの未来を思い描く。
これは とても良い目標ですね。
関係の変わっていく夫婦像も楽しい。
最後の修行は滝行。
それを終えて臨むのはm2人の結婚を鷹羽や世間に知らせる披露宴。
ここで鷹羽の皆さんが一堂に会する。
まずは高嶺の従兄弟・大海(ひろみ)が登場。
彼は初対面の時から背が伸びて、花よりも大きくなった。
高嶺に負けないぐらいの成長を誓うことで、両親の高嶺への抑止力になってくれている。
同じ従兄弟の八雲(やくも)は、この結婚を鷹羽のスキャンダルとして扱う雑誌記者たちに お灸をすえる役目。
八雲は鷹羽の中で こういう火消し役になるのかな。
火消し役を彼に「命令」したのは、彼の母・氷冴世(ひさよ)。
氷冴世も高嶺のことで鷹羽グループのマイナスにはしたくないのだろう。
この場面は、祖父の蒼天(そうてん)が、子供たちに やんわりと お灸をすえるような一言の後でも良かったかな。
大海の父親はともかく、氷冴世は、高嶺との間の出来事で別に改心する場面はなかったから。
八雲と大海は披露宴会場の外で話をしている。
花が結婚してしまって涙にくれる大海だが、本当は八雲も泣きたいのではないか。
八雲も「高嶺兄さんを称える会」の会員になり、疎遠だった2人の間を高嶺が結んでくれたと言える。
本書では高嶺の方が花よりもモテモテ状態で、ヒロインらしい働きをしているなぁ(笑)
祖父と その子供たちの会話は、結婚披露宴で同じテーブルを囲んでいる時に交わされる。
温和で人格者であった高嶺の父を失って、鷹羽家はぽっかり穴が開いた。
その悲嘆や寂しさの穴のある現実がもどかしくて、残された家族にそれをぶつけてしまった。
あの祖父でさえ、息子を亡くした喪失感から仕事に逃げた。
それが、高嶺の母・十和子(とわこ)に悲しい思いをさせてしまった。
蒼天をはじめ、大人の世代も悲しみを紛らわそうとした自分たちの失態を認め、
そこから先に やっと歩き出そうとしている。
孫世代の結束力は高まり、彼らの これからの成長も見込め鷹羽は これからも日本一であり続けるだろう。
鷹羽側の反発や世間の批判は、わずかしか描かれない。
終盤まで、あれほど恐れていたものが、ここでも肩透かしに終わった。
でもこれは、この回の冒頭で滝行をしている通り、
最初に冷や水を浴びておけば、何を言われても痛くもかゆくもないということなのだろう。
読者も最終回間際に不快な気持ちになるのも嫌だし、
この2人なら世間に何を言われても大丈夫だという確信も持てるので、それで十分だ。
最終回、大学に合格し、高校を卒業した花。
おかモン はプロデビューを控え有名人。
顔つきも大人っぽくなって、一段と格好いい。
そうして それぞれの進路に旅立っていった数週間後、
花と高嶺の結婚式が催される。
高嶺はストレス解消にタキシード姿の高嶺は愛馬・ベルベットクイーンに乗っていた。
どうやら この馬、式の演出で使うらしいが、また流鏑馬(やぶさめ)でも披露するのだろうか。
ストレスの原因は、安物のタキシードを着させられていることと、
花のウェディングドレス選びに参加できなかった恨み。
といっても、高嶺は知らないドレス姿の花を見た瞬間、そんなイライラは吹っ飛ぶのだけど。
式本番の前に、祖父と母・十和子の再会があった。
息子の死から鷹羽内での十和子の立場を守れなかったことを祖父が謝罪する。
本書において 謝って許してもらえないことはない。
誠心誠意 謝罪する心持ちが大事なのだから。
こうして義理とはいえ親子の絆が戻った。
これも『15巻』から続く、高嶺・大海・八雲、そして十和子の親子関係の修復ということなのかな。
やっぱり、少女漫画の終盤はヒーロー側のトラウマ・家族関係の修復がメインとなりますね。
その内容が重すぎず、本書らしい温かみのあるもので良かった。
トラウマは重ければ良いというものでも ありません。
義理の親子の時間が進むのは、中学生の高嶺が、あの日 才原高嶺のまま家を飛び出し、
鷹羽の中で研鑽を積んで、その道を歩き続けた、到達点と言える。
もちろんそれには高嶺に多大な影響を与えた花の存在がある。
お見合いで出会った2人は、その到達点の結婚式で、家と家を結んだ。
教会の中に、 3 3 ) ←こんな目をした屈強な体躯の男性がいるが、SP守尾一族だろうか(笑)
サングラスを外すと、のび太君みたいなんですね…。
結婚式にまで呼ばれ、作者にネタとして使われるなんて愛されてますね。
ラストシーンは、これしかない、という場面。
互いに減らず口を叩くのも、その口を塞ぐのも変わらない関係性。
見事にオチました。
私は通常版を読んでいるので、限定版の小冊子にある6年後の話は読めてません。
思った以上に楽しい世界観だったので、いつか そちらも読みたいなぁ。
通常盤でも巻末で それぞれの6年後の姿が2ページだけ見られる。
才原(さいばら)夫婦には男2女1の3つ子が爆誕。
『1巻』から おまけ漫画として描かれていた「高嶺と花とJr.」は、未来の話だったんですね。
花の子育てエッセイ漫画として、また最初から楽しもう。
おかモン は一層 大人っぽくなり高嶺に似てきた。
作者からも「誰よりも素晴らしい人生を送ってくれ」とのコメント。
本当に欠点の無い人ですからね。私も同感。
大海は「残念イケメン」に成長中。
彼を主人公にしたラブコメも読んでみたいなぁ。
いつか遠い先の未来で、作者が描くネタに困ったら、かつての読者向けに この世界観を復活して欲しい。
水希や光子(ひかるこ)など友人たちは途中からフェイドアウト気味。
長編少女漫画における「友人の恋」のターンが あまり好きじゃないので、これで良かったかな。
こういう所も作者のバランス感覚の良さを感じる。
最後まで面白い作品を ありがとうございました。