師走 ゆき(しわす ゆき)
高嶺と花(たかねとはな)
第10巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★☆(7点)
幼なじみのおかモンが、花に告白!!!花のこたえは、そして高嶺の反応は…? さらに、高嶺と花が国民的人気アイドル「微風(そよかぜ)」のライブを観に行くことに!? 第52話~第57話を収録。
簡潔完結感想文
- 当て馬の告白による結果が原点回帰。費用対効果の小さい告白で悲しくなる。
- 相手の幸せのためという口実で、ナイーブな男の身勝手が蔓延する少女漫画。
- 寝ぼけ or 高熱 or 泥酔しないと、女性に手を出せないヘタレ男の白泉社漫画。
当て馬の一世一代の見せ場も、バタフライエフェクトは微風(そよかぜ)、の 10巻。
残念なことに、少女漫画の長期連載によく見られる、
巻末で大きな事件を起こしておけば、次の巻も手に取るんでしょ、という姿勢を感じる。
これは作者というよりも、出版社側の商売っ気なんだろうけど。
これは次回予告やダイジェスト映像の「アバン」が一番 面白いテレビ番組に似ている。
そこが期待値のピークで、いざ本編を見てみても期待が大きすぎて満足感を得られない。
ここ3巻ぐらいは、その巻の前半は前巻ラストの騒動の余波、
中盤は日常回、そして最後に波乱を巻き起こすという構成が決まっている。
だから一層、帳尻だけを合わせることに注力しているように見えてしまう。
そして この『10巻』で最も残念なのが、
身動きの取れない状態の2人に、折角 当て馬が行動をしたのに、それに対する結論は現状維持だったこと。
物語が進むかもしれないという読者の期待は またも満たされることはなかった。
通常の少女漫画なら これで恋愛関係に決着がつくような内容なのに 何も起きない。
これでは本書で一番 勇気を持っている当て馬が可哀想だし、
読者としても徒労を感じる。
2人の すれ違い と仲直りのパターンも何度目だ、と辟易するものだった。
そもそも何で こんなに意地を張っているのか、
問題の論点が、長編化すればするほど、分かりづらくなる。
本音を話せない隔靴掻痒の感覚こそが快感だった序盤と違い、
中盤は その かゆみ が日常的に続くことへの苛立ちに変わっていく…。
本書で最初のストレートな愛の告白は、ヒロインの幼なじみ・おかモン の花への告白となりました。
物語の折り返し地点で初めて まともな告白が見られました。
幼なじみの告白は花(はな)にとって完全に予想外で、
高嶺(たかね)のことに構えなくなるぐらい花の頭は混乱する。
花の答えは決まっているが、それによって大切な幼なじみを失う恐怖から花は逃げ続ける。
花は どう断るべきかを思案するが、
高嶺に「自分が傷つけてしまう相手」に話をどう切り出すか、という悩みを聞いてもらう。
そうして心を整理できた花は、夜の公園に おかモンを呼び出す。
自分に好きな人がいることを正直に言うことで、間接的に おかモンに お断りしようとする。
花が好きな人として高嶺の名前を言おうとすることだけでも初めてですね。
(名前を出そうとして おかモン に口を塞がれたが)
これが聞けただけでも、この騒動に意味はあったかな?
同じ夜、花を探しに行った高嶺と おかモン が町中で遭遇する。
おかモン は高嶺に自分が花に告白したことを告げる。
高嶺は おかモン の花への好意や自分へのライバル心を感じてはいたが、
面と向かって告白の事実を知って、驚愕の表情を見せる。
結果を知りたがる高嶺に対し、おかモン は答える義務もない と高嶺の手を はねのける。
これは おかモン の精一杯の抵抗でしょう。
確かに敵に塩を送るような真似をする必要はない。
なぜなら彼は本書で一番 勇気のある人間だから。
その返答を聞いて、最悪の想像をする高嶺。
花は おかモン と付き合おうとしているのではないか、と。
実は自分こそが、花が気を遣って物事を切り出せない人間だと誤解する。
普段はポジティブなのに、自分が不利だと思うと弱気になってしまう人である。
ここは面白い誤解なんだけど、1年以上 一緒にいる2人が相手のことを信じられないというのには無理がある。
高嶺には自惚れだってあるはずで、花からの好意を感じないわけがないではないか。
それは花の側も同じ。
まるで2人の間に積み上げられるものがないかのような展開は疑問ばかり残る。
次の朝、ショートスリーパーで寝つきと寝相の良さが取り柄の高嶺が寝坊をする。
それだけ頭を悩ませたのだろう。
歯ぎしりにストレスが見て取れ、起きたくないという現実逃避が寝坊を誘発したのだろう。
今回は花からの一言ではないので、ショック状態の低嶺にはならない。
外見上は いつも通りに見えて いつも通りではない高嶺。
この状態の高嶺の変化に気づくのは、花か霧ヶ崎(きりがさき)ぐらいだろう。
だから花は高嶺をカラオケに行って元気づける。
おかモン の告白で悩む、花と高嶺。
その結果、互いに相手を元気づけるというエールの交換が行われる。
何だかマッチポンプというか、落ち込んでいる相手を 一方が立ち直らせる展開ばかりだ。
だがカラオケ店で露呈したのは、歌う歌による2人の世代の差。
そしてヒロイン気質の高嶺は、
カラオケ店で遭遇した花と おかモン の様子を見て、2人の仲を更に勘違いし、
傷つく前に、先手を打ってしまう…。
それが、見合いの中止。
高嶺が出した答えは、自分以上に幸せになれる人に最愛の人を譲ろうとする自分勝手な結論だった。
少女漫画の男性って、こういう自分勝手が多いですよね。
こういう動きをするとヒロインが傷つけられて感情は揺さぶられるし、
その後に真相を聞いた時に、誰よりも彼がヒロインの幸せを願っていた、という図式が見えて、
その上下の心の動きで胸キュンと幸福感が生まれるからでしょう。
高嶺も、そこら辺の男と同じ行動を取ってしまった。
なんだか それが残念でならない。
強気じゃない高嶺はアイデンティティーが失われる。
お見合い終了宣言を聞いた花は泣いてカラオケ店を飛び出す。
その場面を見た おかモン が高嶺に喝を入れる。
おかモン のナイスアシストが目立つ。
自分の精神状態だって普通じゃないだろうに、健気な働きに涙が出る。
花も高嶺も打たれ弱いというか、結構 自分中心に物事を考える節がある。
けれど、おかモン の告白をもってしても、
2人の関係は、もう お見合いを止めるなんて言わないよ絶対、という確約を得ただけ。
おかモン が犠牲になっても、これかぁ…。
先は長い。
先述の通り、ここが私は最も残念に思う。
動き出したのは遅かったが、長く花を想う おかモン の気持ちを、
もうちょっと作中で効果的に使って欲しかった。
これでは完全に当て馬でしかない働きだ。
この軽さは初登場の時のニコラぐらいでしかない。
もうちょっと作品にとって重要な人物じゃないのか?
私は そう思うぐらいに おかモン のことが好きなのかもしれない。
日常回を2つ挿んで、もうすぐ高嶺の誕生日。
見合い2年目にして初の誕生日イベント発生。
去年は気付かずスルーしてしまったという設定。
花の誕生日は、もっと後。
誕生日プレゼントに悩む花は、高嶺の部屋(2階部分)を勝手に探索して彼の趣味趣向を知ろうとする。
ウォークインクローゼットにはスーツや時計、バッグがずらり。
そして高嶺が欲していたホビールームには、骨董品や絵画など珍品がずらり。
大半は、没収した祖父から取り戻したのだろうが、高嶺の浪費癖を疑いたくなる。
彼は自分の物以外に お金が消えていくことに耐えられるだろうか。
花をはじめ家族が出来た時、それが不自由が始まりだとストレスを溜めないか心配。
高嶺も自分の誕生日を覚えており、それに向けて仕事をハイペースでこなしていた。
花と会う時間を確保するために、高嶺が無理をするのは定番ですね。
白泉社漫画は、寝ぼけて、または高熱で、イベントを発生させる率が高い。
こういうことでもないと、身動きの取れない男女を描いた作品が多いのでしょうが。
私の中では高熱や寝ぼけた時の行動はノーカウントです。
ここで本当にキスをしていたとしても、それをキスとは認めません。
泥酔して、こんなことをしても『10巻』で一番の勇者は おかモン だという事実は変わらない。