《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

少女漫画あるある。主人公カップルの狭い世界を打開するために親族を続々と投入しがち。

高嶺と花 11 (花とゆめコミックス)
師走 ゆき(しわす ゆき)
高嶺と花(たかねとはな)
第11巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

誕生会で酔った高嶺に、鼻キスされてしまった花。突然の出来事に2人は動揺しっぱなしでぎくしゃく…。そんな中、鷹羽の懇談会でアメリカから帰国した従兄弟の八雲と遭遇した高嶺。「お前、見合いしているんだって?」 久しぶりの再会に浮かない様子の高嶺だけど…? 大事件の予感…!

簡潔完結感想文

  • 昨夜の泥酔キス未遂を覚えている高嶺。アンチ俺様ヒーローが俺様行動に出た。
  • 身動きの取れない20代の代わりに勇気ある10代が告白。だが扉は閉ざされる。
  • 鷹羽の刺客その2。忘れた頃に少年漫画のような中ボス戦が繰り広げられる。

らない おっさん にホイホイと付いて行くことなかれ、の 11巻。

困った時は、背景を変える(ヒーローの職場や住居、社会的地位など)か、
親族を召喚して 話を組み立てることの多い本書。
今回は後者頼みで1冊お届けしている。

女子高生の花(はな)と、友達のいない27歳の高嶺(たかね)は、
どちらも世界が狭く、もう友人・知人枠は少なく、彼らを活用した話もネタが尽きてきた。

こうやって親族がワラワラと登場するのは、
渡辺あゆ さん『L♥DK』田中メカさん『キスよりも早く』を思い出す。

どちらも、1つのネタだけで始まるシチュエーション漫画なので、
親族に応援に駆けつけてもらって、最後まで頼り切ることで、
どうにかネタの枯渇から物語を救っていた。
特に後者は、ヒロインは天涯孤独だったはずなのに、次々に親族が出てきて唖然とした。
同じ白泉社漫画の本書も その系譜と伝統をしっかりと踏襲している。


愛漫画として残念なのは、恋が着実にステップアップしている様子が感じられない点。

例えば今回、花を守るために高嶺が心の扉を敢えて閉じる、
という内容があるのですが、これにはデジャブを感じる。

花を守るために高嶺が冷たい態度を取るのは少なくとも3回は見た。
そして心の扉を閉じる表現として、現実の扉を一方的に閉めるのも2回目。

話の展開にマンネリが生じるのは長期連載の仕方のない弊害だと割り切れますが、
心の歩み寄りや、恋愛感情の積もり方は、もう少し丁寧に描いてほしい。

私は時にロジカル過ぎるほどロジカルに組み立てられた話が好きなので、
少しずつ距離が縮まっていく様子が丁寧に描かれると無上の喜びを感じる。
その代表例が2021年の読書ベスト1の ろびこ さん『僕と君の大切な話』だが、
本書は2人の変化が そこまで繊細には描き切れていないのが残念。
特に恋愛描写において同じことを繰り返さないで欲しい。


かにも次巻への引きとして描かれた、泥酔・高嶺のキス未遂。

予想外だったのは、高嶺の側にもキスの記憶は鮮明にある点。
こういう泥酔・高熱など正体を失っている時の記憶は消されて、
覚えている方だけが、空回りするのが多いが、本書ではどちらも覚えている。
そして、だからこそ ややこしい事態が起こる。

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11巻は、高嶺の花なら落ちてこい、とばかりに よく落ちる。あとは恋に落ちれば完璧なのだが。

花は突然の事態に混乱しているだけだが、
高嶺は、花を怖がらせてしまったと誤解している。

この時に高嶺が反省の弁として語る、
「腕力に訴える畜生みたいなマウントの取り方はしない…」
「そういうポリシーがあ」るのは、作者が作品で気を付けていた点だろう。

少女漫画界では、そういう畜生を俺様とかドSとか言って崇拝する風潮があるが、
それに対するアンチテーゼとして、高嶺という存在が生まれた。
私も これからは、突然キスしてくるヒーローは畜生だと思うことにします。

なのに慎重な俺様、という二面性を内包していた高嶺が、乱れてしまったことが高嶺の後悔となる。


の家の誕生会に続き、高嶺の鷹羽(たかば)の家での誕生パーティーが催される。

同居ドッキリを企画した祖父は、高嶺に お見合いの進展を聞く。
そういえば祖父からみれば、高嶺は23歳の女性との交際を先延ばしにしている情けない男に映るのか。
実際は女子高生と交際する訳にはいかないからなのだが、
祖父は、高嶺が胸を張って「花」を選んだことの報告を待っているのではないか。


鷹羽側主催のパーティーに現れるのは八雲(やくも)という新キャラ。
八雲は高嶺と歳の近い(高嶺の3歳年上)従兄弟同士。

高嶺よりも出来が悪いことを気にした八雲の母親が八雲をアメリカ送りにしていたが、
高嶺が本社ではなく矮小子会社に在籍するお陰で、引け目もなくなり、八雲も日本に戻したらしい。

高嶺は八雲と過去に因縁があるようで、彼を警戒している。
八雲には絶対 お見合い相手(花)のことを知られる訳にはいかない。


ティーから帰宅後に、
距離を置こうとする高嶺にお構いなしに、花は単刀直入に勇気をもってキスの真意を聞く。

それに対し、高嶺は怖がらせたと詫びる。
そこで花は意外なことを口にする。
高嶺さんのことを好きだから、怖いと思っていない、と。

花は出来る子です。
自分の恋を認め、相手にも自分の方を向いてほしいから、
損得や力関係などを無視して、彼に言葉を告げた。

それを茶化そうとする高嶺にも言い返さずに我慢して、
いつもの丁々発止の意地の張り合いではなく、本音を返してもらうことを期待する。

だが高嶺の脳裏に八雲の存在が浮かび、高嶺は決定的な言葉を言わない。
それどころか、没落時と同じように花を切り捨てるような言葉を吐き、扉を閉める。

こういうタイミングの悪さは少女漫画ならでは ですね。
この日の朝に問い詰めれば違う答えが聞けたのに、
その前に八雲という障害と再会してしまった。

ただ、読者には八雲という人間がどういう人間か把握していない時点での、
高嶺の行動だから、よく分からない部分も大きい。
またもや独り善がりで、同様に扉を閉めた高嶺は没落時点(『6巻』)と変わっていないように見える。


は、告白によって高嶺との これまでの関係を失ってしまった。
これは おかモンが告白してきた時と同じ悩みだろう(『9巻』)。
告白は男女の関係を一変させる。
それが分かっているから、2人は現状維持を望んだ部分もあるだろう。

タイミングを間違えた一歩を踏み出してしまった。
その失敗を感じないように2人は 何事もなかったかのように過ごす。
花は覇気はないが、普段通りに生活している。
だが、その彼女が夜中に1人で、1コマだけ泣いているのが とても効果的で胸が痛む。
そういう子だよね、花って。

高嶺も花と距離を取らざるを得ない自分に苛立ち、仕事の効率が落ちる。
そんな高嶺が2週間の出張中に、花と八雲が接近してしまう…。


雲は、自分が鷹羽の人間だと名乗らないで、高嶺の お見合い相手の調査をしていた。
彼が近づいたのは 花ではなく、本来の お見合い相手として公表されている姉の縁(ゆかり)。

八雲は縁を頻繁に食事に誘っていたが、彼女は お見合いを理由に八雲を断る。

「田中」と名乗る八雲と面識が出来ていた花は、八雲が鷹羽の者だと思っていない。
八雲が、自分を振った姉のお見合い相手のことを知りたがるので、
花は、同居人として知る限りの高嶺の情報を伝える。
しかし 悪口と長所を述べすぎて、花こそが高嶺の お見合い相手だとバレてしまい…。

ここの花は、ちょっと危機意識がなさ過ぎる。
2回会っただけの姉に粉をかける男性に、ついて行くのも、
ペラペラと喋り過ぎるのも、本来の賢い花ではないような軽率さだ。

姉が振った相手、しかも男性を見る目が確かな姉が認めなかった人に対して信用するのは不自然なご都合主義。

この後の流れのために致し方ないが、
ここは恋愛の心情も、物語の展開も かなり雑に感じる。
ちょっと自分の持っていきたい方向に強引に舵を取り過ぎている。


こから始まる花の誘拐劇。

八雲は高嶺のお兄さんとして振る舞っていたが、
高嶺が頭角を現し、自分よりも年下の彼が優秀であることが分かると距離を置き、
しまいには 彼を階段から蹴り落とすという暴挙に出た。

更には八雲の身辺調査と花の警護の手配をするはずだった
有能なサポート役・霧ヶ崎(きりがさき)も、八雲の手の者に捕らえられてしまった。

花が高嶺の急所だと理解した八雲は、花を車に強制的に乗せて、連れ去ってしまう。
その場面を偶然見ていた おかモン と姉の縁。
なぜ八雲が少しでも縁に見られるリスクのある、デパートの前で花を車に乗せたかが謎。
目撃者が必要だったのだろうが、わざわざ移動して人目のある場所で女性を蹴る必要はない。

おかモン の必死の追跡によって、花の誘拐場所が絞り込まれる。

ヒロインのピンチに駆け付けるのは、ヒーローの特権である。
高嶺はヘリをチャーターし、ヘリから伸ばされた梯子に掴まりながらド派手に登場する。

気になるのは、この梯子を掴む手順ですね。
ヘリが飛び立った後に、梯子を下ろしてもらうのか、
それとも飛行中のヘリから梯子を下ろして、高嶺が梯子を使ったのか。
まぁ、どちらにしろ、絵面のインパクト以外に意味はないでしょうが。

そうしてヘリの梯子から飛び降りる高嶺。
どう見ても10メートル以上あって、死ぬような気がするが、それはそれ。

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ヘリでの登場はともかく、薔薇は何なんだ。人を雇ってヘリから ばらまかせているのか…?

描きたかったのは、スタイリッシュ土下座だろう。
土下座着地、フォーリング土下座、名前は何でもいいが、前代未聞のことをしたかった意気込みは伝わる。

頭を下げることが大嫌いな高嶺が、躊躇いもなく土下座をして、花の解放を願う。
だが、八雲は高嶺に更なる要求を課す。

それが全裸になること。
全裸になってタップダンスことが八雲の望み。

んーー、今回で一番 サイコパス度が高い。
暴力ではなく恥辱。
それが八雲が望む高嶺の破滅の姿。

しかし その無茶な要求を受け、高嶺は服を一枚ずつ脱いでいく。

その様子はビデオ撮影されており、その先に社会的な死が待ち受けていても、
彼の心の天秤は、花に傾いて動かない。

もう高嶺は、花の前では素っ裸になれるのだ。

これは『6巻』で高嶺が没落した時、花から逃げ惑う高嶺に ニコラが、
「情けないなぁ 完全武装しないと女の子に会う事すらできないの?」
「開き直って素っ裸で行けよ」

と言っていた内容と呼応する部分だろう。

不完全な自分を自覚し、そして情けない姿でも彼女を守ろうとする意思が高嶺に生まれた。
花と出会ってからの高嶺の変化の集大成。

それが全裸タップダンス!(笑)

どうでもいいが、服を一枚ずつ脱ぐ高嶺が、
最後にズボンと下着を一気に脱ごうとしたのは、その後の展開を考えてなのか。

通常ならば、ズボンを脱いで、下着姿になったところで躊躇が生まれるだろう。
だが、ここで高嶺がパンツ一丁になってしまうと、
その後に花が高嶺のパンツを引き上げることになってしまう。
更には、その後の一連の流れも高嶺はパンツ一丁姿で、しばらく人と会話をする羽目になる。

その間抜けな絵面を回避するためにズボンが必要だったのだろう。


全裸を回避した後に、振るわれる暴力に対し、
高嶺と花が、お互いを庇いあうシーンが印象的。
これが現在の2人の関係性を表すものなのだろう。

一方が守るだけでなく、互いに守り合う信頼感。
高嶺の祖父が欲していた関係の完成形といって良いのではないか。


嶺が決定的な打撃を受ける前に、八雲が手を引いたことで、ここは一件落着。
安堵して珍しく泣いてしまう花を見て、狼狽えてる高嶺が可愛い。
頭を撫で、髪を触ることぐらいしか出来ない不器用さが愛しい。


そして何より本書のオチが好き。
高嶺はスタイリッシュ土下座の影響で、すねが折れているらしい。

そして八雲の嫌がらせは自分という存在を高嶺に思い出して欲しいからという犯行動機が語られる。
サイコパスではあるものの、歪んだ愛情を感じる。
もしかして高嶺に嫌がらせをしたいんじゃなくて、高嶺を奪おうとする お見合い相手が憎いのではないか。
これはブロマンス? もしくはBLの領域かもしれない。
まさか花への性的暴行未遂のも、問題は花ではなく、八雲が女性に興味を持てないのでは…。

ある意味で八雲は、高嶺を敬愛する、同じく従兄弟の小学生・大海(ひろみ)と精神構造がよく似ている。
従兄弟たちは高嶺を崇め奉っていると言える。