《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

身も心も素っ裸になれる気概を持った高嶺は 押しかけ御曹司から押しつけ御曹司になる。

高嶺と花 12 (花とゆめコミックス)
師走 ゆき(しわす ゆき)
高嶺と花(たかねとはな)
第12巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

八雲による誘拐事件から帰ってきた高嶺と花・・・。ヘリからの着地の衝撃で怪我をしてしまった高嶺は搬送先の病院で遂に想いを自覚・・・!? 唐突に始まった猛烈アピールに花もたじたじ・・・!? 追われる者が追う者に・・・立場逆転のゲームが始まる! 番外編も多数収録★

簡潔完結感想文

  • 高嶺入院。空気を読まないことでお馴染みの御曹司はJKへの告白もKY。
  • 命がけの行動で脳内麻薬が出ている高嶺に対し、花は誘拐劇で背筋が凍る。
  • その愛を目に見える形で勝手に押しつけるのは高嶺の変わらない行動原理。

れた骨は2週間ほどで くっつくいたが、2人は1年半くっつかない 12巻。

『11巻』に続き、愛の告白が聞ける『12巻』。
今回は、前回とは逆で高嶺(たかね)から花(はな)への告白。
読者が待ちわびた言葉がやっと聞けました。
これは素直に嬉しい。

が、素直に話が進まないのが本書。
物語は進むと見せかけて、足踏みをする。

高嶺の突然の告白も、花の対応も、とても彼ららしいものだ。
登場人物の心情に寄り添ったリアルな路線と言える。

けれど、この場面から盛り上がらなかったら、
どこで盛り上がるのだ、と心配になるぐらい、今回も作品も登場人物も恋愛に溺れない。

ここで、物語の勢いを削ぐことに疑問を感じる。


は作者にずっと好感を持っている。
常に自分の創った世界と一定の距離を保ちながら作品に向き合っていると思うからだ。
若くしてデビューした作家さんのナルシシスティックな偏愛とは違う冷静さを感じる。

きっと作者は慎み深い人間なのだろう。
安直に感動に持っていくもんか、という信念を感じる。
恥ずかしがり屋でもあるのかも。
もしくは へそ曲がり。

まるで最終回クラスの大きな事件(誘拐劇)の後日談となる今回。
普通の少女漫画なら、その緊張と緩和を「吊り橋効果」として利用して、
素直になれなかった2人が、お互いの存在を確かめ合う契機として利用するはずだ。

だが、作者はそれをしない。
きっと一時の感情の高ぶりで 1年半以上に及ぶ お見合いに安易な決着を付けさせたくないのだろう。
飽くまで冷静に、2人が冷静すぎるほど冷静な状態で想いを通じさせたいみたい。

今回「吊り橋効果」で舞い上がったのは、ヒロイン的ヒーローの高嶺だけ。
これは誘拐劇において、花が被害者で、高嶺は助ける側だったことも影響しているだろう。
女子高生の花は、吊り橋を渡っていた時の恐怖をしっかり覚えている。
なにせ性的暴行を受けるかもしれなかったのだ。

こうして花の心情を慮らずに、自分の成功体験や興奮に酔いしれている高嶺が発した言葉だから、
今回の告白は物語において無効判定となるのだろう。

作者の描きたいことは分かる。
だが、どうしても花が冷静すぎる、と思ってしまう。

ここまで恋愛を こじらせなくても良いではないか。
どんどん花から10代ならではの瑞々しさが感じられなくなっていく。
20代後半から30代以上の、恋に舞い上がらないように自制する
大人として振る舞おうとする人や、手痛い失敗で男性不信に陥った女性に見えてしまう。
こうも こじらせ感が強くなると、花の方にも共感できなくなってきてしまう…。

飽くまで個人的な意見だが、作者とはチューニングが合いそうで合わない。
そこが残念である。


リからフォーリング土下座をして足を折り、
病院に運ばれ目覚めた高嶺は、花にフォーリンラブしていた…。
病院のベッドの傍らに座る花の手を取り、その名を呼び「好きだ」と言った。
だがベッドは、花以外の関係者7人が囲っていた…。

良い雰囲気になりそうな時にならないのが本書。

周囲の人物が気を遣って退室し、2人きりになってからも高嶺は花に告げる。
「俺はお前に命をかけられる」
「それがこの見合いの結論だ」

だが花にとってタイミングが悪い。
花は性的暴行未遂の恐怖から十分に回復していない。
高嶺は正気かもしれないが、花はハッピーな気分になれない。
これはプレゼントと同じで、高嶺が自分の好みを花に押しつけているに過ぎない。

f:id:best_lilium222:20220209192835p:plainf:id:best_lilium222:20220209192832p:plain
これは高嶺の脳内プラン。自分の好意を押しつければ女性は自分に なびくと考えているが…。

高嶺の告白を身勝手に思うのは花の父親も同じ。

作中では事件を重く扱わず、笑いを挿みながら描いていたが、
高嶺や、お見合い のせいで娘が誘拐されるというのは、親にとっては納得できない事件である。
それなのに当事者が頭がバラ色&俺色に染まっていたら怒りも湧くというものだ。

だが高嶺の決意は揺るがない。
高嶺は花と交際すること、そして結婚を前提とする お付き合いだという。
高嶺の中では、一気に婚約状態まで関係が進む。

だが父親の怒りは収まらず、一度 解散となる。
花の父のような普段 情けない人が、家族のために感情を露わにすると物語が締まりますね。
クレヨンしんちゃん」の泣ける映画っぽい雰囲気が出ます。


嶺は花を無事に助けられたことに大いに安堵している。

誘拐劇において花の監禁場所の特定に一役買った おかモン や、
調査のために危険な目に遭っていた霧ヶ崎(きりがさき)の、その労を称える。

これは人を素直に認められない高嶺の最高の褒め言葉であり、
高嶺にとって、人に感謝したいほどに花が大きいかが分かる事象である。
特に おかモン は、高嶺が本当に花が好きだということを痛感する場面となっただろう。

入院中から高嶺は自分の本気を見せる。
その一歩が、野々村家の安全保障。

金に物を言わせた警備体制を充実させ、彼らの安全を確保する。
(でもサイコパス八雲(やくも)が撤退している。高嶺は一体 何と戦っているんだろうか…)
高嶺がどれだけの高収入でも、この人件費は払えない気がするが、それはそれ(短期間だし)。


常識な高嶺の押しつけ行為(好意)に文句を言う花。
だが高嶺も自分の感情に困惑していた。

だが、どう考えても高嶺という世界最高峰のコンピュータが導き出した答えは、花に惚れている、という事実。
だから その結論に従うまで。
そして手段は一直線。

「いいから俺の女になれ」

高嶺 × 恋心、が どうして、= 俺様ヒーローになってしまうのか。
その謎の数式に花も読者も困惑するばかり。
恋愛に関してはアホの子なんで生温かく見るしかないか…。

そうして花の夏休みの後半は、高嶺による俺様恋愛メソッドの押しつけで終わっていく…。

f:id:best_lilium222:20220209192806p:plainf:id:best_lilium222:20220209192802p:plain
こんな胸キュン台詞を言っても花は激怒して踵を返す始末。本当に作者はアンチ俺様を貫いている。

学期になり、高嶺も退院する。
高嶺が あっという間に動けるようになったのは、
彼の非常識な身体構造と、物語に動きを出す為だろう。
高嶺の住居が2階なのに足を骨折させてしまったのは作者にとって誤算だったのかな。

自分の恋心に浮かれる高嶺に対して、抑止力が必要となる。
そこで考えられたのが、花に彼氏がいるという設定。

んーー 無理がある。
これまで1年半 過ごして、恋人の有無など筒抜けだろう。

その彼氏候補に選ばれたのが おかモン。
んん-ー、ここにきて偽装交際か。

どうやら、おかモン の未練を全面的に消し去る意味もあるようだが、
おかモン を再利用してまでする話ではない気がする。

花って、こういう手段が嫌いな人だと思うのに。
更には おかモン の傷口に塩を塗る事態になることは容易に理解できるだろう。
遠回りをさせるために、不自然なことばかりが起き始めてるなぁ…。

「番外編1」…
タワマン時代の高嶺の朝のルーティン。
『12巻』収録の回より2年前の作品(『5巻』のあたり)。
これは収録するタイミングが遅すぎる。
住む場所も古いし、もう本編では朝のルーティンのこと描いてるから新しい情報がない。

「番外編2」…
同居生活直後のGとの遭遇。

高嶺は深夜に自分の領域である2階に花を呼び出すほどGが怖いと思えば楽しいが、高嶺の行動に疑問を感じる。
彼は 花の両親に疑われるようなことをしない節度ある大人だと思っているから、
このような呼び出しは ちょっとチグハグな行動に映る。

キッチンなど1階の共有部分でGが出て、その対処を2人でするのではダメだったのか。設定が謎。

「番外編3」…
高嶺に憧れる従兄弟の小学生・大海(ひろみ)の話。

抱き枕、フィギュア、高嶺の顔Tシャツ、これらは業者に発注したとしても、
部屋に大海は数々の高嶺の写真を飾る…。
これは親が本気で心配するヤツ。
そして高嶺がシャツを脱いでいる半裸の写真は どこでどう撮影したのか。

これは花の恋人が年下バージョンの恋愛漫画としても読めますね。
おかモン といい大海といい、高嶺の恋のライバルは年下が多い。
そして彼らの方が絶対に普通に花を幸せにできるという、変な確信がある。