《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

自分で作った温かい料理を一緒に食べる人、相手のことを想うプレゼント。プライスレス。

高嶺と花 7 (花とゆめコミックス)
師走 ゆき(しわす ゆき)
高嶺と花(たかねとはな)
第07巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

財閥会長の祖父に全財産を没収されどん底に落ちてしまった高嶺。手助けを一度は拒絶されてしまった花だが、強引にアパートに押しかけ無理矢理サポートすることを宣言!情けなくて、頼りなくて、勝手で…いいとこなしな高嶺を放って置けない花は、自分の中に芽生えている気持ちを、もう否定できなくて…?

簡潔完結感想文

  • 2人で並んで料理を作る。銭湯にも2人で行った。名曲『神田川』の世界。
  • 花の尽力で高嶺 復活の兆し。更には戦力増強で高嶺の仕事は高効率化。
  • 復活のお礼に高嶺が花の為に用意したのは合い鍵。通い妻生活はじまる。

嶺の復活の序章となる 7巻。

『7巻』の内容は表紙が全てを表していますね。
守ってあげたい。

彼に少し迷惑がられても、守ることを止めない花(はな)。
そして 嫌々ながらも受け入れる度量を見せようとする高嶺(たかね)。
そんな2人の関係性が描かれる『7巻』です。

予想外に高嶺が どん底 御曹司となった『6巻』も面白かったですが、
意気消沈していた高嶺が花の内助の功もあって復活していく様子には胸が高鳴りました。

自分でも自己陶酔して語ってましたが、
高嶺にある本来のポテンシャルを駆使すれば、状況の打破も容易い。
『6巻』では没落に自分を見失っていましたが、今回から復活。

そして復活していく途上で、彼には彼が自分で手に入れたものが沢山あることに気づかされる。
1つはもちろん花。
どれだけの物を失っても決して手放そうとはしない存在。
彼女がいなければ立ち直るキッカケすら掴めなかっただろう。

そして2つ目は友人・知人たち。
彼らもまた花と同じように、高嶺がどんな状況であろうとも離れない人々。
時に強引な彼らには恥ずかしい部分も見せられるが、それもまた許せるようになる。

『7巻』では高嶺は花、そして友人たちと食卓を囲む。
それは決して高級料理ではなく、カップラーメンやカレー、鍋といった
ありふれた食べ物ではあるが、食品の温かさと人の温かさで お腹よりも心が満たされるもの。

そういう痛みや悲しみを伴う経験が高嶺には不足していたのだろう。
広い意味で高嶺の社会勉強になっている。

そして仕事面でも心強い味方が出来る。
花の父親、ではない。
その人もまた、高嶺の才能とポテンシャルに惹かれた人。
高嶺自身が得た唯一無二の人材だ。

強さも弱さも自分の中に落とし込んだ高嶺は無敵だ。
落ちぶれてから初めて完璧になった高嶺。
そんな彼に花が惚れてしまうのも仕方がないことだ。


嶺が閉ざした扉に入り込んだ花。

冷たいコンビニ弁当暮らしの彼の為に、一緒に並んでカレーを作る。
花が母から教わった彼は美味しく完成し、高嶺は人心地つく。
衣食住足りて礼節を知る。
人生で初めて不足して、その後に満たされたことで高嶺は生まれ変わっていくのだろう。

この2人、いまだ お見合い中ですが、もはや新婚さんのようである。
その後も花は高嶺に食べさせるために料理を研究する。
母の料理を盗んで、料理サイトを開く彼女は花嫁修業をしているようだ。

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これまで挑戦してこなかったジャンルへの初挑戦。それだけでも この暮らしに意味がある。

夜も遅くなり、花は高嶺のアパートからは徒歩で帰る。
タクシー代を受け取りたくない花は歩いて帰ると聞かず、
結局、高嶺は駅まで彼女を送ることにする。

高級車移動がデフォルトだったから、高嶺と並んで歩くこともレアで、それが花には嬉しい。
彼女にとって貧しさは怖くない。
常識的な範囲の普通の交際が出来ることは2人にとって悪いことではない。

一人で冷たい飯を食べていた時とは違う。
食べるのがカップラーメンも2人で食卓を囲めば立派な食事だ。

高嶺と一緒に歩くことで彼が夜間でも信号はきっちり守るし、
初めて一緒に食べるカップラーメンも秒数までしっかり計ることを知る。
四角四面で生きてきた高嶺っぽい行動に膝を打つ。

そして彼は負けず嫌いだから、料理の腕も密かに磨いていた。
包丁さばき は早くも花を凌駕し、
安い材料を駆使して自分の手でレストランのような食事を再現できるほどになる。

掃除も怠らないし、物を仕舞うことで生活感を出さない工夫をするし、
高嶺のポテンシャルの高さと美意識が垣間見られる。


うして覇気を取り戻した高嶺は現在の会社でも輝きだし始める。
着実に仕事をこなし、女性社員から噂される存在となる。

高嶺に この会社での初給料が振り込まれる頃、また転職者がやって来た。
それが霧ヶ崎(きりがさき)。
鷹羽(たかば)の本社で高嶺をサポートしていた男性社員。

鷹羽の未来の為に高嶺をサポートするのが彼の信念。
だから それを叶えるために自分も異動してきたらしい。
こうして高嶺をサポートすることで、彼を一刻も早く本社に戻そうとするのが霧ヶ崎の狙いだ。

霧ヶ崎によると、この会社では成果給が出るらしい。
今は給料の大半を生活必需品を揃えることに奪われてしまっているが、
成果給によって生活レベルの向上が見込まれる。
高嶺が元の生活に近づく機会があるということだ。

何より霧ヶ崎という最高の人材が自分の下に戻ってきた。
高嶺の下克上、彼自身の仕事の成果が出る日は近い。

恋愛面とは別にサラリーマン漫画として高嶺の今後の活躍が期待され、ワクワクしますね。
何となく会社の描写が地に足がついているのは、作者が1年間だけでも銀行員だったことと関係があるのかな。

給料によって、自分以外を養う余裕が少し出てきたので、
夏祭り(『3巻』)から飼うことになった金魚を取り戻してきた高嶺。
(どうやら彼の取り上げられた物は、祖父の権限でどこかに全て保管されているっぽい)

ちなみに現在の住まいは風呂なしアパートなので高嶺はずっと会社のシャワー室を使用しているらしい。
そこで花は高嶺と銭湯に行くことを画策する。
本当に昔の曲『神田川』の世界ですね。
不便で貧乏(高嶺比)だけど、困難な時にも幸せは潜んでいる。


ん底の時の高嶺に惚れてしまったことを自覚する花。
そして高嶺も、自分に何もない状態で付きまとってくる花を、もはや お金目当てだと疑う余地は何もない。

しかしそれは「詰まる所 お前は正真正銘 俺の人間性に惚れこんでいたわけで…」
「それこそ後は認めるだけじゃないか?」という状態になってしまう。

そうなると、2人が張り続けている意地の張り合いに決着がついてしまいかねない。
それは作品の終焉も意味するだろう。

花が自問自答する「いかに掛け引きを続けるか」という掛け引き、というのは作者にも通じる悩みだろう。
この気持ちが素直に伝えられるのは、高嶺が仕事で見事に返り咲いてからかな。
相手が万全の状態ではなかったり、弱っている時に、
物語に決着をつけてしまっては、相手のプライドが傷つけられるだけだろう。
恋の決着のためにも、高嶺の復帰が待たれる。


その頃、友人・ニコラの助言もあって、諸々のことを花に感謝する高嶺。
そして押しかけてきた自分が押しかけられることを許容する。
ここのところ、どんどん素直になっていく2人が見られて嬉しい。

高嶺が、ここまで引っ張り上げてくれた花に礼をしたいと考えた結果、
合い鍵を渡すことにした。

そして高嶺が花に合い鍵を渡すのは、
自分の生活の彩りに、彼女がいなくてはならないからだろう。
高嶺の心は もう開いているのではないか。

これは きっと これまでの どんな高価な品より、花の心に刺さる一品。
だが花は警戒する「あたしの本心は開錠させん」と。
花の心の鍵が開いたら、そこで試合終了なのだ。

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好きと自覚した人から、好きな人にいつでも会える権利をもらった。さすがの花も表情に嬉しさを隠せていない。

から花は高嶺の部屋に敢えていかない。
来るなと言われても押しかけたのに、OKだと行かない。
花も それなりの事情があるとはいえ 見事な へそ曲がりですね。

それに合い鍵を渡すというのは、穏やかではない。
特に そのことを知った 花を想う幼なじみ・おかモン は不愉快さを隠せていなかった。

花が合い鍵を最初に使ったのは、鍋パーティーをするため。
そのパーティーには おかモン も参加する。
だが高嶺はライバルと認識している おかモン に部屋の狭さなどを見られるのはプライドが うずくらしい。

おかモン も わざわざ高嶺と花の間に割り込んで座る。
表立ってはいないが、三角関係は『3巻』から地味に継続している。

一つの鍋を囲んで、図らずも高嶺を激励する会となった。
皆、高嶺という人、または面白い人格が好きなのだ。

自分の恥ずかしさを隠すため花は合い鍵を使って大勢で押しかけたことを詫びるが、
高嶺は悪態の後、渡した物は花の物だから好きに使えと言ってくれる。
なんだか器がデカくなったなー。


鍋パの後は、テスト勉強の自習室として高嶺の部屋を使う。
花は部屋に入るための口実が欲しい。
そして再び高嶺が勉強を教えてやると言い出し、この部屋は塾になる。

だが普通に過ごしたい気持ちと裏腹に、
花は高嶺のことばかり考えて勉強に集中できない。

平常心を保とうと熱心に集中していたら、熱があると高嶺に誤解されてしまう。
弱っている人には優しい高嶺なので、過保護モードに突入。

花を心配し、おでこで熱を測ったり、寝かせたりするのにスキンシップが過剰になる。
これまでの花の部屋や高嶺の広い家などと違って、
心も身体も距離が近いのがドキドキしますね。
これも没落の効用である。

ここで花が「命令に従う筋合い もうないんですけど」というのは、
もう高嶺が花の父親の仕事の生殺与奪権を持っていないことを意味しているのだろうか。

以前も書いたが、ちょこちょこ文章や意図が何を指しているのか分からない部分があるのが気になる。

そういえば高嶺は このアパートで、何をして過ごしてるんですかね。
テレビなどの娯楽はなくても大丈夫だろうけど、
書籍など自己研鑽を積むような物も置いてない。

帰ってきてから、寝るまで何をしてるのだろうか。
給料で次は高嶺が何を この部屋に迎えるのか。
それが彼にとってのエッセンシャルな物が何かが分かって楽しい。