師走 ゆき(しわす ゆき)
高嶺と花(たかねとはな)
第16巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
高嶺のいとこ・大海(11歳)は、高嶺を崇拝するあまり、ついに高嶺の同人誌を制作し始めてしまう。そんな大海の両親は、高嶺と花の関係に気付いてしまい…!?大海の家出を大捜索!さらに、偉人だらけのハロウィンパーティー、花の17歳の誕生日・高嶺は花についに・・・★と、盛りだくさんな16巻!第86話~第90話と、番外編3本を収録!
簡潔完結感想文
髪の分かれ目が、縁の分かれ目、の 16巻。
『16巻』は『15巻』から2巻続けて親の心 子知らず、という内容で、
高嶺(たかね)母子の次は、従兄弟の大海(ひろみ)父子の家庭の事情を描く。
今回、11歳の大海が家出をするのだが、この騒動に高嶺が積極的に動くのは、
自分を慕ってくれる大事な従兄弟を思い遣る気持ちだけでなく、
それに加えて『15巻』で母と和解(?)した高嶺だから、
大海には親と断絶して欲しくない、という気持ちが働いたのではないか。
そして父を早くに亡くし、父という存在をほとんど知らない高嶺だからこそ、
同じ時を過ごせる父子に すれ違いが生じることに胸が痛むのではないか。
今回は『15巻』と対を成すような内容であるが、
『15巻』の内容を経て、父のお墓に手を合わせたばかりの高嶺だからこそ、
自分を快く思わない大海の父の失礼な態度にも動じず、
ただただ息子の方だけを見てやってほしい、と心から願うのだろう。
ここは高嶺の成長と共に、彼の 人には言えない悲しさや寂しさが滲み出ているように感じられた。
こういう人生の艱難辛苦を味わっているから高嶺の懐は広く感じる。
更には家庭の事情という不幸を抱えながらも、
彼は俺様的な傍若無人な行動に絶対に出ない点も素晴らしい。
恋愛面に関しては押しつけがましいことが多いが、
人に対しては、自己の感情をぶつけたりせずに理性的であるところが好ましい。
序盤から残念さばかりが目につくようになっているが、
残念さの向こう側にいる高嶺という人は、とても素敵な人なのである。
だからこそ 花も高嶺に惹かれていったのだろう。
27歳にして日々成長している高嶺は、やっぱり生涯にわたって成長する人なのかもしれない。
冒頭のニコラ主催のハロウィン仮装パーティーは、
現在・過去・未来の英霊を召喚する fate 的な要素を感じる。
元ネタは そこだろうか。
花の仮装による召喚は伝説上の存在から、未来の自分と2段階。
この仮装で花は自分の目指すべき姿を見つけた。
今は年齢的に高嶺にロリコン疑惑が出てしまうけど、
きっと10年後の花は高嶺と並んで歩いていても、後ろ指をさされたりすることは決してしないだろう。
高嶺も ちゃんと大人っぽくなった花に たじろいでいるし、
小猿みたいな花が好きなんじゃなくて、花の存在そのものが好きなのが分かって一安心。
これでロリコン疑惑も少しは晴れたのではないでしょうか。
そもそも姉は美人設定だし、母も高校生の時は引く手あまただった様子(『15巻』運動会回想)。
その人たちと同じ血筋なのだもの、花が花開くときは10年以内にやって来る。
高嶺によって高価な衣装を着る機会はあったが、
彼の「押しつけ」のプレゼントではなく、一流アーティストの、
モデルの潜在的な良さを引き出す能力が、花の美貌を開花させたのだろう。
ただし『2巻』では姉と一緒にメイクをし、服を選んでも大人っぽくならなかったので、
やっぱり「スーパー整形メイク」の効果も大きいのか。
いやいや、これは花の この1年半以上の内面の成長が外面にも滲み出た、ということにしておこう。
なにせ ようやく『16巻』後半で花は1歳年齢を重ねて、時が進み始めたのだもの。
高嶺を愛するあまり同人活動まで始めた従兄弟の大海(11歳)。
大海は花も好きなので、2人の協力者でもある。
心境的には高嶺の友人・りの に近い存在かもしれない。
だが今回、大海は父親にスマホの高嶺の写真を見られてしまい、
女子高生の花と27歳の高嶺が親密そうに映っている写真を何枚も発見されて、窮地に陥る。
自分の失態で高嶺(と花)に迷惑がかかると思った大海は、
高嶺を守るために家出をして、それを父との交渉材料に使おうとする。
自分の大切なものを守るために、自分の全身全霊をかけて、その人を守る。
一方で大人たちも自分が一番大切な子供たちのために行動している。
高嶺の母が、高嶺を守るために鷹羽から出て行ったように、
大海の父は、鷹羽の者であるから、その道を邁進し、息子を将来的に安泰させようとしていた。
これは息子のためにレールが敷けなかったという高嶺の母が抱える自責の念とは違う種類の親の悩みである。
鷹羽の中にいて、上手く羽ばたけないかもしれない息子を思っての父の現在の奮闘であった。
どちらも守るために動いているのは同じ。
それは本書の、特に鷹羽に関わる人間の行動原理としてよく出てくる考え方だ。
テントを張って籠城戦をしている大海をいち早く見つけたのは花。
大海の行動は いかにも幼稚で、これが高嶺のためになるとは花にも思えない。
だが、自分を子供だと自覚した上での精一杯の行動は、花に共感を起こさせる。
だから花は大海の家出場所であるテントの中に入り込み、彼と話をする。
彼の了解を取ってから高嶺に連絡を取ろうと思ったが、電池切れで通話できない。
大海にとっては、父は いつも家にいなくて、だから父の考えていることは分からない。
それが不満。
大海の父は息子にとっての最善のレールを敷こうとしているが、
彼の真意は後ろ姿だけでは まだ子供である息子に伝わっていなかった。
大海が抱える悩みは、高嶺にとっては実体験の無いこと。
なぜなら父を亡くした自分には、大海が抱える悩みは抱えることが出来なかったから。
子供だった自分が、どんなに願っても叶わなかったことだから、
大海には親子でしっかり向き合って、同じ時間の中で生きることを実感してほしい。
親が何を考え生きているのか、子供扱いせず、しっかりと話して欲しい子供は多いのではないか。
それは長らく母子で目を合わせなかった時間が長かった高嶺だから切に願うことでもある。
今回は大海一家の問題であるが、息子の家出でも不自然なぐらい大海の母が出てこないのは、
父子という高嶺ではやれなかった問題を よりクローズアップさせるためだろう。
大海の居場所を見つけた父親は、息子が守りたい世界の中に入る。
一見、頼りなくても質は良いもので、雨風をしっかりと防いでくれる丈夫なテントは大海そのものだろう。
その中にあるのは、息子が作った好きな人の品の数々。
それを手に取ってちゃんと見ると、息子の器用さを褒めてあげるべき出来の良さだった。
高嶺というレッテルばかりを見て、それを作った本人や、物そのものを見なかったのは父の軽率さ。
だから父は自戒として高嶺人形を一つ譲り受ける。
そして大海の父は息子だけでなく、甥の高嶺という人も敵対心から本質を見ていなかった。
想像以上にたくましく育っている大海も、高嶺を目標として彼に追いつくだけではなく、
高嶺を追い越そうとする気概を見せる。
父が高嶺を排除しなくても、高嶺と正々堂々と勝負して勝てるようになる自分が目標。
健気に自分を守ろうとした従兄弟の姿と、彼ら父子の和解に高嶺も感情が溢れる。
ただし ここで問題が一つ。
大海が高嶺と競うのは花についても同じということ。
髪型から入っていた高嶺の真似を止めた大海は、花を貰い受ける宣言をする。
ある意味で鷹羽一族の最強の刺客は、将来の大海になる可能性が高い。
10年後、花は素敵なレディになっているだろうが、大海もまた一人前の男になるだろう。
『16巻』の表紙は、親子、いや兄姉弟のように大海が花と高嶺に挟まれて愛されていますが、
10年後の世界を描いた漫画では、立ち位置が変わり、花が男性2人に挟まれている表紙になるのではないでしょうか。
今回は大海は高嶺に抱きついているが、10年後は花に抱きついているはず。
その続編のタイトルはもちろん『両手に花』だ。
一流企業で大きな仕事をする年上の37歳の男性と、
きっと一流大学に通う年下の21歳の男性、その2人から熱烈な求愛を受けるなんて夢のように楽しそう。
それを叶えるためにも、あと10年現状維持をお願いしたいぐらいだ。
家出騒動が終わり、本書で初めて花の誕生日がくる。
高校1年生の春の時点(『2巻』)で16歳という謎設定だった花の時間が ようやく前へ進みます。
当日は2人きりでの食事となるのだが、
その前の花の母親と高嶺との会話が良いですね。
遠慮して ちゃんと節度を守ろうとしている高嶺と、
彼のことを身内のように考えている母の大らかな温かさ、どちらも素敵な姿勢だ。
この会話の「娘の婚約者さま」というのが高嶺に、とある決心をさせたと思われる。
サプライズは先に見られてしまうし、当日はアクシデントに見舞われる恋愛不器用・高嶺。
だが、人生は塞翁が馬。
リスク管理をしているからか失敗も挽回できるのが有能な高嶺。
高嶺から形あるプレゼントをもらって こんなに喜んでいる花は初めてだ。
長らく彼らを見守っていると読者も身内のような感覚になってくる。
ようやく収まるところに収まり始めた物語に、心地良い安堵感に包まれる。
中盤以降、早く事態が進むことばかりを願っていましたが、
こうやってゴールが見えてくると寂しさも募ります。
「番外編1」…
夏バテに悩む花を元気づけるために知恵を絞る高嶺。
誘拐劇や沖縄旅行以後は、結構 頻繁に家の中でもイチャラブしているのかな。
「番外編2」…
身だしなみを整える時も、相手に話しかける新婚さん(みたいな2人)。
本編登場の大海の同人誌がちょっと読めます。
絵が上手すぎる…。
高嶺そっくりな人が女子高生の待つ家に帰っているが大丈夫か…?
「番外編3」…
スケートデートをする2人。
短編の方がイチャラブ度、というか直接的な言動が多い。
連載を期待していたら短編だったという雑誌読者のガッカリを補完するためか…?