《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

俺が朝食を作ったのは たまたま早く目がさめただけで、眠れなかったんじゃないんだからねッ!!

椿町ロンリープラネット 8 (マーガレットコミックスDIGITAL)
やまもり 三香(やまもり みか)
椿町ロンリープラネット(つばきちょうロンリープラネット
第08巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

必死に、心からの自分の思いを伝えたふみ。すると暁もふみへの思いを言葉にしてくれ、二人はついに……! 今までで一番幸せな日々をつづった第8巻です。「ひるなかの流星」馬村とすずめのその後を描いた番外編も収録! 【同時収録】ひるなかの流星 番外編 red

簡潔完結感想文

  • 文化祭ミスコン衣装での両想い。大勢ではなく たった一人の貴方に選ばれたい。
  • 友人の恋で一呼吸。彼とは違う男と2回連続2人きりになる、無防備と無配慮。
  • 折れそうで折れない彼の当て馬フラグに、新たに立った女性ライバルフラグ。

たちが恥ずかしさで死にたくなる 8巻。

きっと彼らが一生で一回しか言わないようなことを、
一生で一回しか出会えない女性に言う『8巻』です。

彼らというのは本書の作家・木曳野 暁(きびきの あかつき)氏と、
作者の前作『ひるなかの流星』から出張された馬村 大輝(まむら だいき)氏である。

20代の男性が人生の一大決心をする場面は必見です。
私は硬派で不器用な男性が、自分の羞恥やプライドを捨てて、
愛しい人のために変わっていく様子が大好きです。
この場面を おかず に白飯を食べることだって出来るはず。

もし本書が通常の少女漫画なら、ここで完結でも良いぐらいである。
これ以降の両想い編や交際編は、ここまで以上の盛り上がりを期待できない。

ただし 本書には明らかに他のゴールがあると思われる。
それに作者が張り巡らした伏線と その回収はまだ なされていない。

私は本書の雰囲気が大好きなので、
このまま何も起きなくても良いぐらいですが、
両想いの後も本書は「THE 少女漫画」という展開を見せる。

また嫌なフラグが立ちましたね。
苦難こそがヒロインの成長を明確にするのでしょうが、
ここまで丁寧に積み上げた空気感もろとも壊さないかが心配です。

私の中では、それもこれも主人公・ふみが純情な男心を理解せず、
男友達と遊び歩いているのが原因だと思っています。

先生の忠告を無視して家を空けたりするから、フラグの成立を阻止できなかった。
『8巻』終盤の展開は、いわば天罰です。

この段階では ふみ は自分に落ちてくる雷を予感するだけ。
「THE 少女漫画」的な展開は、なんだかんだで目が離せないのです。


『7巻』はとんでもない終わり方であった。
史上最強の引きを見せたが、結果は ほっぺチュー。

『3巻』のデコチューに続いて、『8巻』で先生からの ほっぺチュー、
ということは本物のキスは『13巻』辺りが予想されます。

この行為は木曳野の仕返し。
ふみ が学園の王子・永人(えいと)と抱き合ったことに対して
先生だって「腹のひとつも立てるもんだ」。

その問答から見えてくるのは、先生の執着心や独占欲、もっと純粋な言葉で、恋。
交際を通して先生の中に、生まれた初恋。

女性と ぐいぐいスキンシップ出来る永人は便利な人でしたね。
ふみ とも恋愛関係に一切なることなく、先生の嫉妬だけを上手く引き出してくれました。

そんな素直な先生の恋を知って、嬉しさで腰を抜かす ふみ(通算2回目)
「今までの胸キュンコンボが地味にきいて」るらしい。
こんな専門的な言葉を使うのも熱心に少女漫画を読んでいたせいなのかな。

f:id:best_lilium222:20220114200428p:plainf:id:best_lilium222:20220114200425p:plain
饒舌な木曳野。自分には未知の「恋」の証明には、これらの心の揺れが証拠として必要だったのだろう。

れが両想いの記念日となった。
私の「少女漫画分析」では この41話を「両想い」に確定したいと思います。

それにしても学校関係者でもない木曳野と、
学校イベント・文化祭で両想いになることを成立させているのが凄い。

これまで学校前まで木曳野が来たことはあったが、
文化祭という特別な日だから、木曳野が学校の中まで入ることが出来た。

これは木曳野が ふみ の領域に入るという直接的な比喩となる。
学校という学生にとっての公の空間と、
家という私的な空間、そのどちらにも木曳野は足を踏み入れた。
すなわち ふみ の世界の全てを木曳野は手に入れたと言える、かな?

一方で、ふみ は先生の世界には足を踏み入れられない部分を感じている。
これが物語後半、両想い以後の最大の問題となるであろう。


恋を知ってからは先生に協調性と社会性が生まれている。

文化祭の翌朝、ふみが台所に立とうとすると、
木曳野が起きており、朝食を用意してくれていた。

曰く「たまたま早く目がさめ」たらしい。
うん、初恋が実って、上手く眠れなかったんだね☆

無口で不愛想だが、恋愛に関しては中学生メンタルだと思った方が良い。
酔うと女性に面と向かって言えない本音が飛び出すあたり、格好つけているだけみたい。

簡素な朝食だが、ふみ は純粋にそれを喜ぶ。
これは先生に初めて、人のために何かをする喜びと見返りを味あわせてくれたのではないか。
ふみ のリアクションは 大体において先生の心に刺さっていく。

でも、見ようによっては、
大袈裟に喜ぶことで夫に自信をつけ、積極的な家事参加を促す妻にも見えなくもない(笑)


み の恋が一段落したので、
「友人の恋」枠である洋(よう)ちゃんの恋模様が お届けされる。
物語が一本調子になることを防ぐ意味でも便利なのが「友人の恋」。
ここで一呼吸 置いて、次のターンが始まる合図ともなる。

てっきり、歩みの のろい ふみ の恋を洋ちゃんが先行すると思ったら、
ふみの方が先に両想いを成就させたのは予想外だった。

洋ちゃんとも面識が出来た永人は完全に恋バナ友達。
もしかして洋ちゃんと永人が本格的に話すのが、
文化祭後なのは、洋ちゃんが一心(いっしん)を意識するようになってからという順序があったのかな。
その前だと洋ちゃんも永人と話しただけで虜になっちゃうかもだし。
永人の魔性や魔力を打ち消す力を持つ(他の男性に恋をしている)女性しか彼には近づけないのだろう。

ただし一心を好きとは言い切れない洋は悩む。
そこで永人が提案するのが、1回2人遊んでみること。
こういう具体的な助言も ふみ には出来ないので、永人は便利ですね。


うして お試しデートをすることになった洋と一心。
それを尾行するのが ふみ と永人。
これは洋の依頼でもあった。

こういう高校生の日常は、いかにも「友人の恋」といった展開だが、
先生に行先や目的、一緒に行く相手を黙って出掛けるのは いかがなものか。
確かに洋たちの監視役ではあるが、永人と2人で出掛けてることに変わりないのに。

同じようなことを先生がやったら、どんな理由があっても嫌だと思うはず。
(実際、この後で先生と異性が お出掛けする回はあるし)

ふみ は先生だって(ある意味で)初恋であることを知ってるし、
「お前が他の奴と居ると腹が立つ」とまで言われたのに、こういう身勝手さは目に余る。

「少女漫画のヒロイン、彼氏を束縛する割に自分は男友達との交流 多め」は少女漫画あるある ですけどね…。

でも ここは先生に仁義を通す必要があったのではないか。
そして この1週間の間で2回も先生に与えられる食事(パウンドケーキ・おにぎり)が、
永人のために作った物の副産物なのも気になるところ。

ふみ の料理の独占権を勝手に崩されたと知ったら、
先生は激怒 or 「自分の存在を消したくなる」のではないか。

数か月かけての両想いの後なんだから慎重に行動して欲しかったなぁ。


ちゃんと一心のスキンシップは、
彼女に怖いものがある時に行われる(1回目は肝試し(『4巻』))。

肝試しの時は一心が洋を意識したが、今回は洋も一心を異性として意識する。

そういえば『1巻』の一心の初登場の場面では洋ちゃんは
「男はもっと ガチムチがいいぜー」と言っていたなぁ。
それが恋に落ちるなんて。

本書でガチムチはいないからなぁ。
強いて言うなら ふみ父かっ⁉
親友が継母になる。
違う意味で ふみ は 父と同じ家に住めなくなりそうですね。


うして「友人の恋」という一呼吸置いたところで、
編集者の悟郎(ごろう)の怪我(右手に ひび)と、新担当者が登場する新展開を見せる。

悟郎の怪我を知った ふみ は、彼の家まで お見舞いに行こうとする。

先生はそれを阻止しようと必死(笑)
晩酌をして酔っぱらったから本音が漏れまくっている。
すねている先生が可愛すぎる。

f:id:best_lilium222:20220114200411p:plainf:id:best_lilium222:20220114200408p:plain
先生のお酒は 心の壁を取り払うものらしい。今後は何かと お酒を飲ませれば万事順調かもしれない。

悟郎によると先生の晩酌は珍しいらしい。
元々 住むだけであった家という空間が、
ふみ と暮らすことで人の温もりのある場所になった。
その安心感が 木曳野に晩酌をさせる気になったのではないか、と悟郎は推察する。

ふみ は、先生の忠告を酔っ払いの戯言と一蹴して、悟郎のもとに向かう。

悟郎の家の中に入るつもりはなかったが、悟郎の転倒の声を聞き彼の家に入る。

これまでの扉や、私的空間に足を踏み入れるという例からすると、
ふみ が悟郎の部屋に入ることで、悟郎に新たな扉を開いてしまった可能性がある。

一心や永人は ふみ とのフラグすら立たなかったが、悟郎と ふみ のフラグは なかなか消えない。
まさか部屋の中で大声を出して転倒したのも、ワザとだったりして…。

でも悟郎には『ひるなか』における獅子尾(ししお)と同じ匂いがするなぁ…(笑)
悟郎が幸せになるのは、あと6年かかりますね(獅子尾のデータに準拠)


郎と ふみ は、悟郎の家の溜まっていた家事をしながら これまでの来し方を語る。

ここで明かされる衝撃事実。
なんと ふみ の身元引受人は最初は悟郎だったらしい。
彼が多忙で家に居られない時期だったので、木曳野に お鉢が回ったという。

でも もし悟郎と同居することになったら、上手くいかなかっただろう。
いつぞやの感想文で書いたが、木曳野が在宅ワークであることが、ふみ にとって重要だったのだから。

悟郎と暮らしたら、それは父親との暮らしの延長線上で、
それでは ふみ の さびしさの捌け口は永遠に失われてしまっただろう。

ふみ の心の扉を不意に開ける存在が、彼女には必要だった。
それもこれも、彼らの出会いが運命的であったと言える。


しかし、ここで家を空けたことが、ふみ にとっての良くないことの始まりであった。
ふみ の不在時に木曳野家に来訪したのが、臨時担当者の畝田 小夜子(うねだ さよこ)。
(まぁ 遅かれ早かれ仕事で出会う2人だから阻止はできないが、初対面に同席は出来たかもしれない)

ふみが2回連続で男性と2人きりになるから、先生の側だってという因果応報の天罰にも思える。
この件について、ふみ には あんまりプリプリしないでほしいものだ。

畝田は ふみ と同じような行動、同じような言葉を発する人物。

その様子を見て、木曳野は「初恋の人」を思い出し、微笑む。
ここは決して畝田を見て笑っているのではないことに注意しないといけない。

…が、天然ジゴロである木曳野の笑みは魔性。
ふみが引き出すのに時間が掛かった木曳野の笑顔を、
出会ったその日に見てしまった畝田は木曳野の魔力の虜となってしまうこと必至…⁉

ひるなかの流星 番外編 red」…
『7巻』の「blue」獅子尾編と同じく、本編終了から6年後の すずめ と馬村(まむら)の姿を描く。
馬村が なかなか言えない一言を言うまでの お話。

最初の場面は『ひるなかの流星 番外編』のラストで、叔父・諭吉(ゆきち)の結婚式帰りの すずめですね。
服装も同じ、引き出物の お赤飯を食べているし。

回想が入っていて、高校生の時の初デートが映画だっとか、
その時に馬村が高熱を出したとか、現在の彼らの職業とか、初出しの情報も多く見られる。
馬村のヘッドフォンは、高校時代のと同じ物だろうか。

馬村自身が10代から20代になって、
恋愛が相手の人生を左右することと、その恐怖が分かってきた。
それは かつての獅子尾への共感でもあった、という部分が良いなぁ。
かつての自分の言動が青臭く思える頃だろう。

馬村の転勤の話を問い質した時の すずめ の台詞が良いなぁ。
その台詞と瞳に触発されて、馬村も隠し玉を放つ。

でも、馬村は ひざまずかなかったんですね、残念(番外編)。
一生に一度ぐらい、全身全霊で愛を体現して、恥ずかしいことをして欲しかったなぁ。

『7巻』の獅子尾の番外編と同じく、
『番外編』を読んでいる人にはゴールがあらかじめ分かっている短編でしたが、今回は好きです。