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少女漫画と小説の感想ブログです

少女漫画版の異世界転移の縦軸は、俺TUEEEの万能感ではなく壮大な嫁姑戦争

天は赤い河のほとり(1) (フラワーコミックス)
篠原 千絵(しのはら ちえ)
天は赤い河のほとり(そらはあかいかわのほとり)
第01巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

みごと高校入試に合格した夕梨(ゆうり)は、ずっと好きだった氷室君とファーストキスまでして、嬉しいことばかり。でもそんなある日、彼女の目の前でコップの中の水が勝手にわきあがるという奇妙な出来事が!!さらに、水槽の中から手が出てきたり風呂の中に引き込まれそうになったりと、おかしな事は続く。初めは錯覚だと思っていたのだが、しだいに怖くなっていく夕梨。そしてある日、氷室君とのデートの途中で、夕梨は水たまりから出てきた手に捕まって、水の中に消えてしまう。やっとの思いで水から逃れた夕梨だが、辺りにはさっきまでとは全く別の風景が広がっていた。なんとそこは古代ヒッタイト帝国で…!?

簡潔完結感想文

  • ヒロインの日常が崩壊する恐怖を描くことで読者を作品世界に引きずり込む。術者は作者。
  • 「手からビームが出る」ことに憧れない少女漫画読者のためにヒロインは魔力を持たない。
  • 他国との戦争に女性読者は興味を持たない恐れがあるのでエンドレス嫁姑戦争を心掛ける。

1巻で4度 ヒロインがピンチに陥る息つく暇がない 1巻。

2002年の完結から24年が経った2026年にアニメ化される作品。(どちらかというとタイムスリップ)異世界転移や魔力が出てくる本書は異世界系が流行している2026年に受け入れられること間違いなし(ジャンルが出版社の救世主から破壊神に転生したという噂もあるけれど)。そして世界観をロクに考えない「ナーロッパ」的な作品群とは一線を画す唯一無二の骨太の作品である。この大河少女漫画は しっかりと完結させたことに価値がある。こういう史実と絡めた少女漫画を成立させられる作家さんは2026年に どれほどいるだろうか。読者に読まれるために記号化した魂の入っていない作品はエンタメの円熟というより爛熟に感じられる。

単行本で全28巻の長編作品だけど、どこを切り取っても面白いことに驚いた。構成は完成度が高いけれど、途中からファンタジーと歴史モノのバランスを考えてなのか、序盤で圧倒的優位だったナキア皇太后側が急に鳴りを潜めるのは ご愛嬌か。

ヒロインに狙われる理由はあるけれど特殊な能力はない。自力で運命を切り拓く

元前14世紀、古代中東のヒッタイト帝国を舞台にした作品なのだけど、上述の通り魔力が存在し、ファンタジー要素も織り込まれている。まずヒロインの夕梨(ユーリ)を転移させる力が必要だからだろう。

ただしヒロインの夕梨は最後まで魔力を持たない。これが男性読者をターゲットにした なろう系作品群とは絶対的に違う部分。男性読者は手からビームを出したいし、魔法もスタンドも念能力も使いたい。でも少女漫画読者は「手からビームが出てなんだというの©ろびこ さん『僕と君の大切な話』」という現実的な視点を持つ人が一定数いる。だから無能力の方が読者はヒロインのことが自分の延長線上に思えてシンクロ率が より向上するのだろう。

そして本書は転生モノじゃないので冒頭は主人公の死が必要ない。とにかく何でもいいから死なせとけと言わんばかりのドラマの無い なろう系とは違って転移までにもドラマと演出があるのが良かった。そして転移までを描いた1話目は読者がヒロインの置かれた環境を自分ごとにするために必要な過程だと思った。夕梨は古代の世界に引きずり込まれたが、読者は夕梨が引きずり込まれるまでの描写で作品世界に どっぷりと浸かっている。1話目は歴史モノではなく ほとんどジャパニーズホラーのテイスト。この幸福な日常の崩壊を描くことで怖いけど目が離せない世界を演出している。作品の序盤が残酷なのは作者が恐怖による読者の支配を試みているからで、読者は作品世界に非日常体験をする怖いもの見たさで作品の続きが気になり続ける。少々不謹慎かもしれないけれど節目節目に作中に死が覗くことで作品の中弛みが防がれている。作者は恐ろしいほどの力を持った能力者である。

これを読んで その日は入浴を控えた人が少なからずいるだろう。単純に怖い

た歴史モノ(特に多くの人が知識のないヒッタイト帝国)が受けにくいであろう少女漫画で読者に向けた仕掛けとして、本書全体が壮大な嫁姑戦争といえるように作られている

美形の皇子・カイルとの恋物語ももちろん少女漫画成立のために必要な要素なのだけど、この大河少女漫画を支えるには分かり切った恋愛は時に力不足になる。そのために用意されたのは当て馬などの対抗馬、そしてヒロインの夕梨の女同士の戦いとなる。

上述のキャラの死と同じく、ナキア皇妃が要所要所で夕梨をターゲットにした権謀術数や嫌がらせを繰り広げることで国の動きを描くと同時に個人の戦いを描くことになる。これによって読者の分身であるヒロイン・夕梨が常にターゲットにされ、姑にいびられることで それに負けない夕梨の強さが表現できる。夕梨には夕梨の戦いを用意することで常に彼女は物語の当事者であり続ける。

考えてみればナキア皇妃の最大の失敗は自分の企みを夕梨に喋ったことだろう。悪役が死にゆく人を前に自分の計画をベラべラ喋るように皇妃は夕梨に自分が召喚したと話したことで、夕梨から話を聞いたカイルはナキア皇妃への警戒心を強めた。喋る前に行動していれば夕梨を取り逃がし続ける失態は起こらなかっただろう。


『1巻』は冒頭の転移のピンチに加え、ヒッタイト帝国に到着してから4度のピンチが描かれる。そのハイペースなピンチも読者を虜にして逃さないためで、夕梨は その内3回をカイルに助けてもらうことで彼のことが気になっていく。氷室(ひむろ)というクラスメイトへの3年間の交流が たった数日で水に流されているのは吊り橋効果と思えばいいのか…。

カイル皇子はピンチを助けるためとはいえ出会ってすぐにキスをする俺様ヒーロー的な一面を見せ読者を虜にする。その後も性経験の豊富なプレイボーイとして描かれ、皇子という身分も加わり、夕梨が その人に一目置かれる存在になることで読者の承認欲求は満たされていく。

夕梨が4度もピンチになるのは彼女が事情を分からないまま狙われるからなのだけど、最後の1回に関しては自業自得という判定をせざるを得ない。自分の失敗はカイルの失敗であることを分かれ、というのも15歳には難しく、拙速な行動をしちゃうぐらい里心が強い。そして大局的かつメタ的な視点で見れば序盤の夕梨の失敗は彼女の未熟さと今後の成長を描くために必要なこと。

最初は自分のことしか考えられなかった夕梨は やがて「ユーリ」として成長し、大きな視野で物事を見極めるようになる。完読してから夕梨時代の彼女に再会すると、成長後との差異が明確に浮かび上がってくる。外見は、何年経っても老けないし太らないから あまり変わらないのだけど。


15歳の中学3年生の2月、クラスメイトの氷室(ひむろ)とキスをした幸福の絶頂にいる鈴木 夕梨(すずき ゆうり)。3人姉妹の真ん中で幸せな家庭と第一志望の高校合格と この世の春を過ごす夕梨の周囲に怪異が起こる。コップの水が溢れ、水槽の中から手が伸び、お風呂の底に引きずり込まれそうになる。怪異の共通点が水であると推理した夕梨は注意深く過ごすが、氷室とのデートの途中で雪解けの水たまりに取り込まれる。

夕梨が水面に顔を出すと景色は一変し、知らない言語の飛び交う土地にいた。ここは紀元前14世紀のヒッタイト帝国の首都・ハットゥサ。現在のトルコ共和国の中央部。


きなり夕梨は兵隊に追われる。転移の途中で自分を標的にした声を聞いた夕梨は捕まると自分が不利な状況になると察知して逃げ回る。しかし包囲され、窮地に陥る寸前に一人の男性に出会う。兵隊の所属で事情を察したか その男性は夕梨に いきなりキスをすることで兵隊たちを煙に巻く。このカイルと呼ばれる男性が身分が高いこともあり、兵隊たちはカイルに一喝されて この場を去る。

皇子と出会い、彼の義母に いびられる異世界転移版シンデレラの要素が読者に受ける

不思議なことにカイルにキスされたことで夕梨に翻訳機能が備わり、外国語も そして自分の言葉も相手に伝わるようになる。だが性的暴行という意味ではカイルも夕梨にとって悪人で その場を後にしたことで結局 兵隊に捕まってしまう。

この兵隊たちはナキア皇妃の私兵。捕まった夕梨の前に彼女の血を欲するナキア皇妃本人が現れる。皇妃は自分の実子である皇帝の末の息子に皇位を継がせたい。その呪いの形代として必要なのが夕梨の血だという。皇帝の息子は全部で6人なので倒すべき皇子は5人。この全ての皇子が物語に出てくるのだろうか。皇妃最大の失敗は自分の企みを夕梨に喋ったことだろう。


的に不審者を匿っていることを皇帝から疑問視されたことで皇妃は口八丁で、神官でもある自分が神の いけにえ にするのだと述べる。こうして夕梨は公的な祭事の中で殺されることになる。

夕梨は その祭事の出席者の中にキスをした男性を発見し、首を刎ねられる間際に その男性 第3皇子カイル・ムルシリに助けられる。これでカイルは紛れもなく夕梨のヒーローとなった。カイルは一回きりの夕梨との接触を利用し、いけにえ が純潔の乙女(処女)ではないと嘘を付く。カイルは神への いけにえ の代替品を用意することで皇妃の抵抗を封じる。ただし神への いけにえ ではなく皇妃の目論見に純血は関係ないため皇妃は二の矢を放つ。

今度はカイルに連行される夕梨は、カイルがナキア皇妃と敵対する関係であること、ここがエジプトをツタンカーメン王が統治していた時代で、場所は古代の中東であることを理解する。


梨はカイルからユーリと呼ばれ、夕梨は皇妃の企みをカイルに伝える。その証言でカイルの皇妃への不信感は補強される。

皇妃の時と違い、カイルは夕梨を人道的に扱う。ユーリの側仕えとしてティトという少年を遣わせ、夕梨はティトから この世界には存在する ちから のシステムを学ぶ。夕梨は現代日本に帰るためにはナキア皇妃の ちから を もう一度 発動させる必要があることを知る。ちなみにカイルの宮には男性しか使用人がいないから妃扱いの夕梨を男児のティトが世話するという理由が用意されている。

水の能力者・ナキア皇妃はティトの口に人を操る力のある「黒い水」含ませ、ティトを使って夕梨に血を流させようとする。ティトは幼いからか非力で なかなか夕梨を追い詰められない。そこにカイルが再び助けに来て、ティトに当て身をくらわせることで気を失わせる。しかし その前にティトから黒い水が吐き出され、いよいよカイルの疑惑は確信に変わる。


イルは傷を負った夕梨の手当てをする優しさを見せるが、同時に性行為に及ぼうとする。泣いて氷室の名前を呼ぶことで興が削がれ、カイルは行為を中断。泣くばかりの夕梨だったが、カイルが引き取った以上妃という扱いになっている夕梨に刃物を向けたティトが処刑されることを知り、その救出を考える。

夕梨が皇族の権力を行使しようとすることにカイルは苦言を呈すが、夕梨は身分の下の者を助けるために権力を使う意義を唱える。それがカイルが最初に驚く夕梨の資質だろう。だからカイルは無理をしてティトを預かる。


動の後、夕梨はカイルもまた神官の能力を持っており、彼に頼めば日本に帰れることを知る。帰還の条件は能力者である神官、暁(あけ)の明星が東の空に輝く季節、そして連れてこられた時の服。

その服は皇妃が持ち去ったという証言があり、夕梨は すぐにでも動こうとするが、カイルは罠だと考える。夕梨から皇妃に接近するのは皇妃の思う壺。そして夕梨の軽率な行動がカイルの命を危険に及ぼす。だからカイルは夕梨を手放さない。それは皇妃の探索能力を自分の魔力で打ち消すためでもあった。

けれど里心がついた夕梨はカイルが寝た後に単独行動に出る。ティトは夕梨の行動を阻止するが結局ガイド役として同行する。皇妃の宮は敵陣な上に水の能力が2人を襲う。ティトは退却を要望するが夕梨は引き返す意思を見せない。やがて屈強で残酷な男に捕まり、夕梨は死後も その肌を凌辱される未来が待ち受ける。

この4度目のピンチに夕梨の脳裏によぎるのはカイルの顔。早くも夕梨のヒーローは氷室からカイルへと移る。ティトの働きで服を取り戻し脱出を図る夕梨。皇妃の水の能力は無効化したが屈強な男の追跡は振り切れない。そこでティトが夕梨だけ王宮から出すが…。