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少女漫画と小説の感想ブログです

敵であれ味方であれ美形キャラとして描かれる男性から一目置かれる歴史乙女ゲーム開幕

天は赤い河のほとり(3) (フラワーコミックス)
篠原 千絵(しのはら ちえ)
天は赤い河のほとり(そらはあかいかわのほとり)
第03巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

ナキア皇妃によって地下道にとらわれていた夕梨は、なんとか追手から逃げきり地上へ脱出することに成功。しかし、そこにタロスという老人が現れる。彼はなんとティトの父親だった。夕梨のせいでティトを殺されたと信じている彼は、夕梨を助けるどころか逆に追手と戦うことを強要する。しかたなく戦うことを決意した夕梨は、数ある中からみずぼらしい1本の剣をとる。実はその剣は、ティトの一族に伝わる宝剣だった。迷わずその剣を選んだ夕梨の中に、彼は戦いの神・イシュタルの姿を見る。そこへ、ティトを殺した張本人・ズワが現れる。宝剣を手にした夕梨は、ティトの仇を討つべくズワにむかっていくのだが…!?

簡潔完結感想文

  • 序盤はナキア皇妃のペースと思いきや、その逆境を逆手にとって輝きを増すイシュタル・ユーリ。
  • 少女漫画読者が興味のない戦争パートの前にはイケメンキャラが補填されるのが お約束となる。
  • 現代日本じゃないから男性からの強引な性的描写が可能なのか、それとも掲載年の問題なのか。

「帝国の双璧」と称される2人のイケメンに囲まれる 3巻。

どうしても長くなる歴史大河少女漫画において一番難しいのは、小難しいことを読者を飽きさせずに伝え続けることではないか。本書は その工夫として『1巻』でも言及した壮大な嫁姑戦争『2巻』で述べたユーリのイシュタル伝説、そして この『3巻』ではイケメンたちによるユーリの奪い合いが開幕する。

ここまで登場したカイル皇子の従者たちは皆イケメンには描かれていない。キックリの目は線で描かれるし、イル・バーニは三白眼と描き分けがされていた。それは描き分けのためだけではなく彼らがイケメンではないという記号になっていた。それが分かるのは『3巻』からカイルに並び立つイケメンが登場するからだ。

世界にはイケメンとそれ以外の2種類が存在し、ユーリへの恋愛資格は前者のみ

この『3巻』では2人のイケメン新キャラが登場する。1人がカイルと兄弟同然で育った第4皇子・ザナンザ。カイルとザナンザは「帝国の双璧」
として有名なコンビ。そのコンビを従えてユーリは宴に参加し、そこでシンデレラ的な大逆転を見せることで読者の承認欲求は満たされる。更にザナンザから好意を受け、少女漫画読者の大好物である三角関係が『3巻』から始まる。
こうして分かるのは、ヒロイン・ユーリに恋をするのは美形キャラだけ、ということ。キックリやイル・バーニがユーリのことを女性として好きにならないのは とんでもないルッキズムが発動しているからだけど、歴史パートを前にして読者を作品に夢中にさせる一つの手段だろう。ナキア皇妃が常にユーリを狙っているように、作者は読者に魅惑の術を かけ続けている。

そして歴史・戦闘パートに入る前に もう1人のイケメン、戦争相手のミタンニ王国に魅力的なイケメンを用意する。黒太子ことマッティワザ。敵方が魅力的なほど戦争パートは盛り上がり、そして敵のイケメンにもドラマを用意することで群像劇が繰り広げられ、それが作品の深みとなっていく。そうして読者は何人ものイケメンキャラの中から推しを見つけ、それが作品の人気を底上げしていく。

全ての敵イケメンキャラがユーリに恋心を抱く訳ではないが、ユーリは敵方のイケメンと ことごとく交流していく。このような新キャライケメンとの交流による乙女ゲームのような側面で読者が気絶しかねない歴史・戦闘パートを乗り越えていく。作者が様々な少女漫画のルールを作品に落とし込んでいることが分かる。そして それが徹底されていることが読者のカタルシスとなる。そのルールが何かは作品のネタバレになるので最終回付近の巻の感想文で書こうと思う。


う一つ、この頃の少女漫画の盛り上げる手法にヒロインの性行為の危機(それも性暴力)があると思う。読者の性行為への興味を巧みに利用するのが この手法だ。

最初ユーリは氷室(ひむろ)への想いを持ちながらカイルに抱かれそうになる危機があった。けれど今は2人の認識がどうであれ両片想いが成立し、カイルも純愛だからこそ手を出さなくなる。もし今のカイルに手を出されたらユーリは応えるのだろうか。
そしてカイルを愛し始めたユーリは別の男性からの性行為の要求が性暴力になる。まだ15歳のユーリの貞操を心配する序盤から、中盤以降も時折 強引な求愛が描かれ、ユーリが誰と身体を重ねるかは終盤まで一大事として描かれる。

気になったのは、1996年前後の20世紀の作品だから このような男性からの性暴力のような展開が許されるのか ということ。21世紀となって久しい2026年の段階でも歴史モノならば、男性たちは過去の価値観の中にいるのだから女性への乱暴は描かれるのか、それとも少女漫画で性暴力を描くことが問題になるから そのような描写は描かれないのかが気になる。

今、同じような作品を描いても価値観の違いから猥雑だと思う世界には飛べないのだろうか。転生モノなどのように妙に浄化された世界で綺麗な感情を集めるような作品になるのか。2026年スタートのアニメ化では このような性暴力と認識されるシーンは割愛されるのか気になるところ。

どこかの作品のような下世話な展開のための性暴力シーンは正しいとは思わないけれど、もしも21世紀の価値観が適応された紀元前14世紀のコンプラ人間ばかりが出てくるような歴史モノがあったとして それは果たして正しいのだろうかとも思う。


けにえ用に拉致しようとする者たちから逃げるユーリだったが、その途中で自分を息子の敵だと憎むティトの父親に遭遇する。父親はユーリを屈強な男と対決させようとする前に武器庫から武器を一つ選ぶように言い、ユーリは宝飾の施されていない短剣を選ぶ。圧倒的に不利な戦いでも挑むのは自分が もう1年この世界に残ったのはティトの死の責任を負うためだ。ユーリが選んだのは部族に伝わる宝剣。鉄がオリエントの覇権を決める力という割に、カイルには侵略意欲がないため攻めることよりも守る・負けないことに技術が使われ、序盤以降 鉄の存在が目立つことは少ない。

恋愛以外の、読者が興味を持たない部分に どうやって興味を抱かせるかが作者の力量

戦いの演出として屈強な男に対して普通の男性が無惨に切られる描写を経てから体格的に劣るユーリの大逆転が描かれる。武器の性能の差もあるけれど、ユーリが剣に剣を当てなければ この勝利は無かった。勝因は心の強さとも言える。勝敗もユーリが人を刺傷することなく つく。作中でユーリが人を刺したり殺めたりする場面は出てくるのだろうか。ヒロインとして ぼやかされるのか、この時代を生きる者として それを乗り越えるのか。

死からの復活だけでなく、ティトと部族の敵だった男を倒したことでユーリのイシュタル伝説に新たな一ページが加わる。


ーリが選んだのは鉄剣。紀元前14世紀の青銅器の時代には製鉄法は普及していない。だが現代日本から来たユーリにとっては鉄は身近な金属で、その馴染みから伝説の武具に選ばれる勇者の逸話のようなことをしてみせた。

ティトのチョーカーを男が所持していたことが物証となりユーリの冤罪は晴れる。そしてユーリの無念も半分晴れ、恨みの半分はナキア皇妃となった。
製鉄法を伝承する部族はイシュタルであることを証明したユーリに処罰を願う。ユーリが処罰を望まないと知ったカイルはティトの3人の姉をユーリの侍女にすると宣言。ユーリに対して前科があるからこそ この3人は生涯忠誠を誓うだろう。カイルの人脈ではなくユーリが築いた人間関係といえる。

ユーリが得たのは3姉妹の侍女だけではなく部族の忠誠と製鉄法となった功績は皇帝も認めるところとなり、ナキア皇妃は内心 焦燥を覚えていた。


年 衝突を繰り返してきたヒッタイト帝国の東方に位置するミタンニ王国との戦争となる。皇帝は その戦争にイシュタルのユーリを士気高揚に利用しようとする。しかしユーリをイシュタルとして利用することは、カイルのユーリを一人の女性として好きという気持ちを汚された気持ちになる。

開戦を控えて各地にいる皇子たちが帰朝を命じられる。カイルが待ち望んでいたのは第4皇子・ザナンザ・ハットゥシリ。異母兄弟ながら ずっと一緒に育ってきたため腹心の弟と言える存在。少女漫画的には、カイルとは違うイケメン男性キャラの登場の始まりの一人と言える。

カイルは帝位を望むが、そこで理想とするのは「どこの国も侵さず どこの国にも侵されず 戦いのない平和な治世」。その実現のために現実的な脅威を退けるのがカイルの政治。だが15歳のユーリには その思想を理解できない。一人の男性として惹かれているが、皇子としてのカイルは遠い。

そしてカイル本人も一人の人間の自分と皇子の自分に引き裂かれていた。しかしユーリは皇子・カイルの役に立てる可能性を知り、側に居続ける。だからユーリは乗馬と剣術、弓を習い始める。乗馬の初回の崖下りは まぐれ だったようだ。


よいよユーリが存在感を増し、それが面白くないナキア皇妃はカイルをユーリ同伴の宴に招待する。ユーリはカイルとザナンザという「帝国の双璧」に囲まれて出席。しかし普段着で出席したために皇妃はユーリを嘲笑し、カイルに並び立つ資格がないと いびる。皇子が並んで紹介される中、侍女に勧められて着飾ったユーリは宴の注目を浴びる。まるっきりシンデレラである。

この宴で近づくのはユーリとザナンザの距離。ザナンザはユーリに自分の母親の面影を重ねる。ザナンザに側室を含めて妃はいないため、それが骨肉の争いになると、ナキア皇妃とイル・バーニは考えていた。


妃は お得意の水の能力でザナンザを操る。人は必ず水分を口に含むから皇妃の能力は発揮しやすい。今回の「バラ色の水」は欲望を解放する力があるらしく、ザナンザは生まれ始めているユーリへの恋情を爆発させる。

浴室に闖入したザナンザはユーリに性的暴行を働こうとする。騒ぎを聞きつけたカイルが到着してもザナンザは兄にユーリの譲渡を望む。カイルはザナンザが「何者かに操られて」ることを理解しながら、水を吐き出させるために お腹を殴らないためザナンザはユーリを人質に取って逃亡する。これはカイルが悪い。

ザナンザが城外に出てしまい、この兄弟の痴話喧嘩はカイルの醜聞となる。この事態を綺麗に収めないとカイルの資質に疑問符が付く。そしてザナンザがユーリを凌辱してしまうとカイルの心が乱れてしまう。


られているとはいえザナンザはユーリに精神攻撃を仕掛ける。帝位を狙うカイルは身分のある女性を正妃にするが、自分はユーリを正妃にするとユーリだけの愛を誓い、欲望のまま性行為に及ぼうとする。

そんな時、ヒッタイトの属国となっている海路の貿易の重要な土地・キッズワトナ王国をミタンニ王国が襲撃する。この土地にいたユーリたちも戦火に巻き込まれるがザナンザは皇子としての務めよりユーリを奪われまいとする執念が勝ってしまう。戦争に乗じた強奪が発生し、ユーリたちも巻き込まれるが、そんな中で ようやくユーリは皇妃の能力を打ち消す手法を思い出す。

ザナンザを正気に戻し、ユーリも剣を取って戦う。この時、初めて人を切っていると思うのだけど、それに対する感情は描かれていない。ザナンザが兵士から敵軍の兵力を聞き出すと、司令官はミタンニ王国の王太子・マッティワザだという。冷酷な戦闘を繰り返すことから血の黒太子と呼称される。この土地での戦闘が戦局を大きく左右すると判明する。