《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

読者が気絶しかねない戦争パートの前にイケメン補充。その数は戦争の規模と比例!?

天は赤い河のほとり(4) (フラワーコミックス)
篠原 千絵(しのはら ちえ)
天は赤い河のほとり(そらはあかいかわのほとり)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

キッズワトナの街はミタンニ軍の急襲によって火の海と化した。夕梨はザナンザを残し、カイルの待つヒッタイト軍を呼びに夜通し馬を走らせる。知らせを聞いたカイルは、ザナンザを助けるため兵を率いて一路キッズワトナへ。間一髪でザナンザを助けることができたカイルだが、ミタンニ随一の名将・血の黒太子と直接対決することになった。兵力で劣るヒッタイト軍だが、カイルとザナンザの巧みな作戦もあって勝負は互角。夕梨も自ら剣をとり、戦いに参加する。しかしキッズワトナ軍がミタンミ側に寝返ったことで、状況は一気に不利に。だがカイルが退却命令を出そうとした時、キッズワトナ市民が暴動を起こして…!?

簡潔完結感想文

  • ユーリの帰還のためにタイパ重視戦略のカイル。公人の成功は私生活の不幸に…?
  • 1巻の内に同じことを2回描くことにより1回目との意味や手法の違いを際立たせる。
  • カイルのピンチをユーリが、その逆をカイルが救う互いになくてはならない存在。

ケメンは増えるが美女は増えない、の 4巻。

『4巻』のラストでカイルは自分のプレイボーイの噂を逆手にとって女性をはべらせて人前に出る。勿論その中にユーリもいるのだけど その他はユーリの侍女の3人姉妹だけ。女性を計4人はべらせるプレイボーイだけど これがカイルが動かせる全4人の女性であることを相手は知らない。そこに笑ってしまった。少女漫画なので男性キャラに比べて女性キャラが少なく、残る女性キャラはナキア皇妃ぐらいか。でもナキア皇妃が味方でもラストシーンには年齢的な問題で呼ばれないだろう…。

その一方で少女漫画のアキレス腱になりかねない戦争パートの前に男性キャラが また増える。ミタンニ王国との 小競り合いとなった初戦ではザナンザと敵国の黒太子・マッティワザが増えたけれど、本格的に国同士の戦いの前には一気に4人も増えた。今回のタイトルにもしたけれど、もしかして新規の男性キャラの数は その戦争の規模を示しているのだろうか、と思ってしまった。…というのは冗談で、本格的に始動させたカイル軍の主要人物の紹介なのだろう。いよいよキャラの数も増えてきたけれど、ここまでで大体のキャラは出揃っただろうか。あとはエピソードに応じた新規キャラの登場となる。

戦争描写は読者のウケが悪い一方で作画カロリーが高いというハイリスクローリターンだと思われる(想像)。その高い作画カロリーを支えるのはアシスタントだと思われ、戦争シーンや背景・建物を詳細に描かれる歴史大河少女漫画が成立するのは そのアシスタントを増員するだけの作者の これまでの実績と財力があってのことだろう。内容も体制もベテランの域に達した作者の脂ののった時期の作品といえる。帝国の栄華の象徴であるカイルを描けることが作者の円熟期と重なっている。

戦争シーンはアシスタントを どれだけ雇えるか の作者の財力にかかってる!?

『4巻』で特に面白かったのは戦局を覆すために取るカイルと黒太子・マッティワザの違いの演出。これは目的のために流れる血の量の違いと言っていい。

カイルの作戦は次の『5巻』で明らかになるけれど、マッティワザは自分に従わせるために その国の王以外の身内を虐殺することで王を恐怖で支配していた。それに対してカイルは という手法の対比が描かれることでカイルが理想とする世界の輪郭が見えてくるという流れが非常に巧い。読者の主目的である恋愛ドラマを忘れずに、こういう演出を描けることに感心する。

また同じ内容で違う意味で言えばザナンザ皇子の2回のユーリ誘拐事件も良かった。1回目は欲望を爆発させた当て馬による行動だったけれど、2回目は兄のためのキューピッドになっている。1回目の時も正気に戻ったザナンザは兄・カイルがユーリ救出のために いても立ってもいられず行動していることを予測していた。2回目もカイルの感情を利用して愛情を上手く伝えられない男女の仲を取り持ったザナンザの健気さが出ている。操られていたとはいえ1度 罪を犯したことで同じことはしないという、侍女の3姉妹と同じ反省と忠誠が描かれている。

そしてザナンザでも気づくカイルの本気をユーリは気付かないまま。鈍感ヒロインは連載継続のために必要で、その上 ユーリがイシュタルとして公人のような性格を持ち始めたことで2人は いよいよ ただの男女でいられなくなる。出自の差や高い身分が恋愛の障害になる。だからこそ面白い。


要拠点の制圧が帝国の瓦解に繋がると考えたザナンザ皇子は、ユーリを この街から脱出させ兄・カイル皇子の援軍を呼ぶよう指示する。ザナンザはユーリを奪還すべくカイルが すぐ近くまでいると確信し、彼女に自分が知事を務める都市に不眠不休で向かうよう伝える。操られていたとはいえユーリに対する蛮行の数々を謝罪してユーリと別れたザナンザは この地の兵力を集め指揮する。

単独行動になったユーリだが街は閉鎖されており脱出が難しい。そこに戦争で平和が乱れた時、最初の被害者になるのが女性だと知り、その女性たちを見捨てなかったために街の女性から脱出ルートを教えてもらう。

お互いに最短ルートを通ったからなのか広大な土地でユーリはカイルと巡り合う(ご都合主義)。精魂尽きるまで馬を走らせ続けたユーリは昏睡し、カイルは兵の取りまとめに入る。一瞬の接触だったがカイルはユーリの身体にザナンザが付けたキスマークの数々を見る。


ナンザの抵抗により時間を稼いだ帝国にカイルの増援が間に合う。回復したユーリも参戦しようとするが、カイルは狭量な嫉妬心と何も聞ける立場にない焦燥からユーリを砦から出さない方針を出す。

いよいよ開戦となり、戦力差が ほぼ半分にも関わらず、カイルとザナンザ、2人の高い能力を有する指揮官がいるから数の劣勢を補い膠着状態となる。また残虐なミタンニ王国に対し、ヒッタイト帝国は戦時でも人道的な行動をすることで支持を得ていく。市井の人々に それが知られるのは街からの脱出時にユーリが知り合った女性たちが彼女の一貫した言動を目撃したからだった。

ユーリはカイルの命に反して、カイルのために戦場に出向く。それは有能さを示さなければカイルの傍にいられないという切実さと、カイルの心を理解していない鈍感さ故の行動だった。


着状態に対し黒太子・マッティワザは どちらにも味方しない この地の王を恐怖心で動かす。これによって兵力の差が更に広がる。さすがの「帝国の双璧」でも退却を検討するしかない頃、この街の市民が どちらの国を支持するか態度を示す。彼らの行動の支えになっているのがイシュタルの存在。こうして形勢は逆転し、マッティワザがイシュタルとカイルの存在を覚えて去る。

カイルもユーリに大きくなっていくイシュタルの存在を託し、彼女を利用するため冷たいキスを交わす他ない。


都に戻り戦勝と平和を謳歌する市民に対し、カイルの周囲は冷戦状態となる。
皇帝も知るところとなった兄弟間の三角関係に対し、ナキア皇妃はバンクス(元老院)を招集する。この国の国事決定権の所有者は、皇帝(タバルナ)、皇妃(タワナアンナ)、そして3つ目がバンクスである。そのうえ200条から成るヒッタイト法典があり、この国には王の独裁にならないシステムが働いている。

皇妃は自分の企みを隠して目撃証言でザナンザの罪を告発し、皇籍剥奪を要求する。そして皇妃はバンクスを掌握済み。これによりザナンザは帝位に就く資格を奪われる。…その直前にユーリが 今回の騒動はミタンニ王国の動きを察した味方をも欺くカイルの計画だったと事実を塗り替えようと試みる。それにカイルも阿吽の呼吸で乗り、ザナンザは処分を免れる。こうして三角関係の公的な処分を逃れても3人の関係は気まずいまま。すれ違いは続き これまで以上に距離が遠ざかる。


きな戦争の前に皇妃が執着する謎の一品のエピソードが挿まれる。バビロニアから取り寄せていた品が行方不明になったと知り皇妃は激昂。

それが彼女の企みだと知ったユーリは独自で調査を開始するもののピンチを繰り返す。動き続けることで物語に風を起こし波乱を演出する。貯蔵庫の麦の壺の中に隠れるという現実的に可能なのか疑問符の付く早業を披露しているけれど、ユーリの体積の分だけ ちゃんと麦が移動されているのが芸が細かい。想像力の乏しい作家さんだと そういう細かい描写は絶対に出来ない。ただ早業すぎるけれど。

間違い探しのようでユーリの行動が浮かび上がる。細部まで賢い作品

ユーリのミスをフォローすることでカイルはヒーローになる。このユーリの行動により皇妃が「竜(イルヤンカ)の眼」という伝説の秘宝を手にしようとしていることが発覚する。「竜の眼」を持つ者は すべての人間を自由に動かせるという。これまた動かないままの皇妃に有利な道具である。


イルはミタンニ王国滅亡の戦争の先陣を任される。それは皇帝の親征も含めた皇帝の宿願で、その成就のために何年費やしても構わないという態度を見せる。そこに加えてカイルにはミタンニ王国が奪取したという「竜の眼」を皇妃に渡さないという私的なミッションも加わる。

けれど遠征には問題があった。ユーリが現代日本に戻るためには首都の泉を通る必要がある。だからカイルはユーリの帰還のために彼女を、終わりの見えない遠征に連れて行かない。それはユーリの幸せを願ってのことだが、その心情はユーリに伝わらない。

こうして2人の間に距離が生まれたことでザナンザが再動する。しかし これはザナンザの理性的で強情なカイルから本音を引き出すための企み。当て馬はキューピッドに役どころを変えたようだ。

カイルはユーリを戦争に帯同させた上で、彼女が帰還できるよう10か月で戦争を終結させると目標を立てる。当初の計画を短縮させるのが出来る人間というものだ。2人はキスを交わすけれど、そこに愛を囁く言葉はない。今はまだ両想いは早すぎるのだろう。じゃあ なんで互いにキスしているのかとか思ってはいけない。


征が始まる。今回は文官のイル・バーニも記録のために同行する。この大掛かりな戦争を前にカイル軍の部隊長の3人が初登場する。カイルが本懐を遂げるまで彼の手足になる者たちである。そして皇帝陛下が遣わした神官・シャルマも登場。部隊長よりも美形に描かれており、彼が何かを起こすのは間違いがないと思われる。

時短を第一に考えるカイルは部隊長たちが2~3か月はかかると踏んだ都市の制圧を5日で終わらせると余裕の笑みを見せる。

マッティワザを都市から誘い出したのはザナンザだったが黒太子・マッティワザはカイルと戦えると思い自ら応戦する。黒太子が留守になった都市にカイルは少人数の滞在を申請し、彼らに翻意を促す。これは初戦でマッティワザが血で脅迫したのと同じことであり、2人の違いを際立たせる作戦となる。だがカイルの情報を盗み聞きする黒い影があり…。