鳥海 ペドロ(とりうみ ペドロ)
甘い悪魔が笑う(あまいあくまがわらう)
第05巻評価:★★(4点)
総合評価:★☆(3点)
一心(いっしん)は、一番近くにいてくれるけど、一番キケンなハルルの専属執事。ドキドキしながらも、ハルルはピュアな思いを寄せている。そんなハルルに急接近してきたのが一心のクラスメイト・千莉(せんり)。だが、ハルルの気持ちがぐらつかないことをしって、メイド・香月(かづき)をつかって一心への恋をジャマしようとする。執事×お嬢様×メイド。3人の生活は、さらにドキドキパワーアップ! デンジャラス・バトラー・ラブ、禁断の三角関係に突入!?
簡潔完結感想文
- 千莉のスパイである香月が早くも絶対ヒロイン・ハルルに寝返る。同居人が増えただけ。
- 一心はベテランの会長はもちろん香月でさえ誘惑可能な人間には見えない。ガキ執事。
- 主従関係が成立後 初の一週間の別居生活。一心にとってハルルはテスト1点分の価値!?
イケメン無罪で許されてますけど、それセクハラですから、の 5巻。
香月(かづき)という千莉(せんり)から送られたメイドのスパイが加わり、男女3人の生活になったハルルの毎日。女性が加わったというのに、執事の一心(いっしん)はハルルの着替えを手伝ったり職務を理由にセクハラ三昧。香月がいるから一心の仕事の内容や量が変わったという描写は一切ない。
他にも一心は、ハルルの髪についたクリームを舐めとったり、ショートパンツを たくし上げて お尻を露出させたりとセクハラ三昧。また年上の女性の結い上げた髪を勝手にほどくこともしている。
以前も書いたが、イケメンならセクハラをしてもいい、という風潮を少女漫画が許容しているのが気持ち悪い。ネタに困ると、ちょっと性的な描写に走るような気がする。移り気な低年齢読者をつなぎ留めたいのだろうが、健全に お願いしたい。
てっきり香月が加わったことで、彼女が一心を狙い、ハルルが奮闘するかと思ったのに、香月はスパイとしての役割を早々に放棄し、ただの この家のメイドに成り下がっている。
そしてハルルをサポートする体制が2人に増員されたことで彼女は一層 自立しなくなっている。『5巻』の最後は初の長期間の別離だったが、ハルルは香月の組み立てたメニューをこなして自分磨きをするだけだった。自分で考えることもせず、1週間 エステや買い物、美容に力を入れ、ケーキを我慢し、少しだけ走り込みをすれば男性から愛される。
奇しくも『5巻』の1話目で香月が言っている通り「いちばん つまらない お嬢さま」という言葉がハルルには ピッタリ。お金を湯水のごとく使って太って、同じように お金で美貌を手にしていく。
恋愛面でも、千莉からの告白にも無自覚で三角関係すら成立させないという作者の過保護を全身に浴びて生きている。それは香月の参戦に完成ても同じ。香月の毒牙は早々に抜かれ無力化。戦わないことでヒロインの至上性を表現しているのかもしれないが、ハルルの場合は、まともに戦うと勝ち目がないから、非戦という道しか残されていないのだろう。この構図は水瀬藍さん『恋降るカラフル』を思い出させる。『恋降る』も恋愛を濁らせないためか、ヒロインは戦うことなく純愛を貫いたが、努力もしなかったように思えた。
三角、または四角関係で長編としての面白さを出すのかと思ったら、『5巻』途中から結局、元のゲストキャラ参加型の構成に戻った。デビュー作で構想もないままなので試行錯誤しているのは分かるが、息切れするまでアドリブ勝負し続けるのも難しい。現に本書は二度は読まなくても大丈夫な出来になってしまっている。
「devil's lesson 17」…
千莉のメイド・香月を交えての3人の生活が始まる。この回では香月が千莉や一心を魅了するハルルの秘密を探ろうとする。ハルルに対する悪意も、香月が一心に対する秘めたる想いを告げても、頭の中がお花畑のハルルお嬢様には一切 通用しない、というお話でハルルのヒロイン力の高さを示す。
描きたいことは分かるが、問題は香月がハルルに敵わないと思った後に何も起きない、ということ。香月は千莉から与えられた一心を誘惑するという仕事も放棄する始末。1月前に描いたことを忘れる作者はハルル並みの お花畑なのかな、と思う。初めての連載でペースを掴めないのだろうが、もうちょっと作品への集中力を高めて欲しいところ。
「devil's lesson 18」…
教育実習生・秋ノ丸 陽介(あきのまる ようすけ)が登場するが彼は前座。即座に退場する運命にある。出会いに飢えた女子高生たちは若い男を見るだけで興奮し、逆に秋ノ丸は肉食獣たちの視線が怖い。柚月純さん『学園王子』同様に女子生徒たちの性欲が止まらない。
秋ノ丸が職務を放棄してしまい、彼を追い詰めていたハルルの親友の立場が危うい。そこでハルルの必死の願いを聞き入れた一心が代役になるのだが…。
もはやゲストキャラの男性が話のメインではなく、どうすれば一心が格好良く(実際は格好がついてないのだが)見えるかだけに腐心している。本来は1話で終わる話を無理矢理2話に引き延ばしている印象を受ける。
「devil's lesson 19」…
臨時教育実習生・一心の授業が始まる。それだけなら生徒たちの余興に過ぎなかったが、このクラスの生徒の母親でもある保護者会の会長が授業を見学すると言うので大騒ぎになる。ただ人生経験を重ねたベテラン女性の会長から見れば10代と20代の男性を一瞬で見分けられると思うが、ご都合主義で そこはスルー。
娘や生徒たちが委縮する会長との関係性を良好にする一心先生の魔法の授業なのでした☆ 会長の精神が安定しなくて、穏やかに終わったと思ったら豹変するのに戸惑った。会長と娘の確執が分からないので、雪解け演出されても感動する手掛かりがない。若い読者なら脳内補完できるのかなぁ…。
「devil's lesson 20」…
前回、ハルルの願いを聞き入れた一心は、今度はハルルに「一週間のケーキ断ち」を約束させる。だが秒で約束を破るハルル。それを発見され、ハルルは本気を出せば一心も一週間いなくて平気だと強がってしまう…。
18話で一心がいなくなったと思って、いつも一緒にいるのが当たり前じゃないんだ…、と泣いてたくせに学習しない女である。こういう成長の無さが本書の欠点だ。
自堕落なハルルの生活が始まるが、彼女は一心のことが気になって仕方がない。そんなハルルを見かねた香月が彼女の自分磨きをサポートする。もはや香月が この家のメイドにしか見えない。そして上述の通り、彼女がいるからハルルは成長しない。執事とメイドのせいで本当にハルルが箱入りお嬢さまになってしまった。
そこから一週間、ケーキを断ち、節制するハルル。一方、一心もハルルなしの生活は、テストで1点ミスするぐらいのダメージがある。久々の再会では互いが かけがえのない存在だということを再確認することになった。
ってか、一心は この間どこで生活していたのだろうか。普通に考えて実家だろう。本書における一心のウルトラハイスペックなら実家の立て直しなんて一週間もあれば可能に見えるが、彼は実家に対しての介入はしないのだろうか。というか作者は一心の実家の会社が倒産したことを覚えているだろうか。ハルルぐらい知性を疑ってしまう。