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少女漫画と小説の感想ブログです

異世界転移後に一度 死ぬことで転生が完了。中学生の夕梨からイシュタルのユーリへ

天は赤い河のほとり(2) (フラワーコミックス)
篠原 千絵(しのはら ちえ)
天は赤い河のほとり(そらはあかいかわのほとり)
第02巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

20世紀の世界に戻るために必要な夕梨の服を取り戻すため、夕梨は使用人のティトを連れて皇妃の宮に忍び込む。しかし、そこには皇妃のワナが!なんとか服を取り返した夕梨だが、ティトは夕梨を逃がすために捕らえられてしまう。ティトを帰してもらおうとする夕梨。けれど、ナキア皇妃はタワナアンナ(帝国第1の女性の称号)の権威をたてに相手にしてくれない。そして翌日、城の外にティトの死体が。悲しみにくれる夕梨だが、そんな暇もなく夕梨を20世紀の世界に帰す儀式が始まる。この機会を逃すと、あと1年は待たなければならないというのだ。嬉しいはずの夕梨だが、ティトのことを思うと素直に喜べなくて…。

簡潔完結感想文

  • 夕梨が経験する初めての喪失。過失が招いた事態への反省と無念が夕梨を次の一年に導く。
  • 第3皇子のカイルは実質的な後継者。その正妃は将来のタワナアンナで帝国第一の女性となる。
  • 時に冷酷な判断を下す文官、夕梨の気の置けない同性などなどサブキャラたちが続々と登場。

れぞれの最終目標が描かれる 2巻。

『2巻』は2つの死が描かれる。そのどちらも衝撃的な内容で『1巻』で この世界観に引き込まれた読者たちは ますます目を離せなくなる。ヒロインの夕梨(ゆうり)は自分が招いた死によって現代日本への帰還の機会を見逃す。人を死なせてしまった自分が幸福な日常に戻っても後悔が残る。ならば果たすべきことをしてから この地を去ろうというのが夕梨の考え。こうして夕梨は次の一年を送ることになる。

『1巻』の感想で転移までの最初の1話の重要性を書いたけれど、今回の夕梨の帰還しないという決断も その1話に理由がある。死んでしまったティトは夕梨の妹に そっくり。夕梨は自分の命の危険のない現代日本に帰っても、妹の姿を見る度にティトのことを思い出し、安寧のために ただ逃げてきた自分を責めるだろう。そこまでの想像力を働かせられるだけの知性が夕梨に備わっているから彼女は帰還しない。もちろん ここまでで初めてのボーイフレンド・氷室(ひむろ)よりもカイル皇子の方が存在が大きくなっているという恋愛脳による判断もある。

そして この氷室という夕梨の想い人の存在がカイルの側にも苦しい恋を用意しているのが上手い。夕梨が氷室の名前を出さなければ手の早いカイルは とっくに手を出していた。それは夕梨の本質や強さを知らないままの、多くの女性の中の一人として夕梨を抱くということ。これまでの女性たちと同じように夕梨を束の間の遊びとして扱ったかもしれない。しかし今のカイルは夕梨を愛し始めているからこそ、彼女が「氷室」という男を忘れ自分を愛してくれないまま彼女を抱くことは苦しい行為になる。最初から完璧な存在に見えるカイルだけれど、自分の地位や将来的な約束などを考えない夕梨に対して一人の男性として誠実に彼女に接し、自分を好きになってもらおうという一生懸命さと成長の余地が見えてくる。

全28巻の中で貴重なカイルの魔力行使シーン。皇子の魔力は万能ではありません

そういえば『2巻』では数少ないカイルが魔力を行使する場面が見られる。ナキア皇妃の魔力に対抗するための行使で一般人に対いては使わない。そうするとカイルが魔力で人の上に立ってしまうからだろう。カイルの生命の危機に際して自動発動してしまい、カイルが人として決着をつけたい相手を圧倒してしまうみたいな展開があっても良かったと思うけれど、作品は序盤以降 長い間 魔力という設定を忘れたかのようになる。この後もカイルが魔力を持っている設定は ほとんど出ない。他の皇子も魔力があるかなども出てこない。

皇妃が動かずに自分の権謀術数を実行するためには魔力が必要なんだけど、そもそも皇妃は なぜ魔力を持っているのか。持っている人と持っていない人の違いは何なのかなど、魔力の設定は詳細に語られることはない。残念ながら魔力は作品全てに行き渡っていない。それが瑕疵に感じられる。

私は2つ目の死によって夕梨がユーリへと変貌したと思った。異世界で無双するには自分の死が必要で、その死から次の生までの間に不思議な力が目覚めるのが一般的。そういう なろう系の お決まりを本書に適用しなくてもいいのだけど、そう考えると しっくりする部分があった。『3巻』以降の感想文では夕梨のことをユーリと記述しようと思う。


だまだ序盤の『2巻』はナキア皇妃の圧倒的優位が続く。
けれどナキア皇妃の企みが夕梨の隠された才能を次々に開花させているように見える。今回カイルは夕梨がイシュタルの輝く日に この世界に来た戦いの女神・イシュタルだという演説をしていて、夕梨=イシュタルの伝説が始まる。始まりはカイルの演説であったけれど、民衆がそれを認めるのは夕梨がイシュタルのような働きを見せる実例があってのこと。

今回、なぜか普通の女子中学生が初めての乗馬で荒馬を乗りこなしたり、屈強な男の攻撃を身軽に避けたりするのは、皇妃が夕梨に試練を与え続けた結果とも言える。そして医師から死亡宣告された夕梨が復活する様子は、まるで神の奇跡である。紀元前14世紀に あの宗教が一足早く誕生しそうなほどの伝説の数々を皇妃が演出している。

表向きは皇妃に追い詰められるピンチの連続なのだけど、その裏で夕梨はピンチの数だけ逸話を残す。その様子が描かれているから苦しい中にも清々しさを感じられる。


た『2巻』からはキャラクタが増え、それぞれに強い印象を残すシーンが用意されている。仲間の輪が広がり彼らと一緒に一歩ずつ目標に近づくことで読者は達成感と喜びを感じる。サブキャラは主人公たちと共に これから末永く お付き合いすることになる人々である。
その目標がカイルの皇帝、夕梨のタワナアンナへの道であることも『2巻』で描かれる。カイルの方は明確に目標があるけれど、夕梨は まだ そういう地位があることを知っただけ。でも夕梨がカイルを愛することは そこへの道と重複する部分が多い。狙われるばかりの中学生が どうやって その道を辿ることを選んだのか というのも今後の読みどころになる。


分を逃がすためにナキア皇妃の宮に残ったティトを助けるため、到着したカイルと共に再度 宮に入る夕梨。応対した皇妃は とぼけ続けて糠に釘。いかに第3皇子のカイルであっても帝国第一の女性の称号「タワナアンナ」を持つ皇妃に指図は出来ない。

そこで皇妃を動かし得る唯一の存在である父皇帝に面会をカイルは申し込もうとする。カイルが夜に父に申し立てをすることは異例だろう。それだけ夕梨のためにティトを助けたい気持ちの表れか。
しかしカイルの側近、王宮の書記官でカイルとは乳兄弟でもあるイル・バーニが夕梨の帰還条件が揃ったのなら それを優先すべきだと現実的な意見を述べる。イル・バーニにはカイルの参謀。大局を見て時には非情とも言える選択をする人として描かれる。イル・バーニは残酷な男に捕まったティトの生存を考えていない。だがカイルは良くも悪くも身分という意識のない夕梨から命を尊ぶ大切さを学んでいた。その意識の差が自分と皇妃の違いだとしていた。

しかし時すでに遅く、無惨に扱われたティトの遺体が発見される。ティトの死は夕梨の独断の結果。その罪に夕梨は茫然自失とし、その憔悴をカイルが温かく包む。この時点でカイルは夕梨を精神的に愛している。


の夕梨に帰還のリミットが迫る。暁(あけ)の明星が輝くのは明日まで。これを逃すと季節が巡る1年を待たなければならない。しかし この時にはもう夕梨・カイル双方に別れ難い事情が出来ていた。

夕梨は出てきた泉と同じ場所に入ることで帰還する。妨害する皇妃の私兵にはカイルの私兵を、王妃の魔力にはカイルの魔力で対抗する。カイルの魔力は風。それで皇妃の操る水を吹き飛ばす。
カイルによる帰還の儀式が始まるが、そこにティトを殺した残酷な男が登場。その男がティトの大切な装飾品と肌を持っていることに逆上した夕梨は その男から肌を取り返す。そこで夜明けが訪れ、夕梨の帰還は不可能となった。夕梨は帰還しても平穏な日常に戻れない自分を予感し、ティトの敵を討つことを目標とする。


うして次の1年が始まる。
皇妃の企みで城塞都市が急襲され、その制圧にカイルが向かうことになり、カイルと引き離されることで夕梨のリスクは高まる。

カイルが出発の準備を整える間、夕梨はカイルの周辺事情を知ることになる。イル・バーニはカイルこそ皇統を継ぐ存在だと考えていた。カイルの兄たちの第1皇子は身体が弱く正妃・側室の計6人に子供が一人もいない。第2皇子は生母の身分が低いため皇帝にはなれない。そのため現実的第3皇子・カイルこそ資質に恵まれた後継者だというのが暗黙の了解。それを認められないのが皇妃。

そしてカイルが皇帝になると その正妃は いずれタワナアンナになる存在。タワナアンナが器量に欠けると国に不必要な混乱が生じる。だからカイルは帝位を目指す自分の正妃に厳しい条件を提示していた。その代わり自分は正妃ひとりを愛しぬくと決めている。これまでの女性関係は独身を謳歌したい心がさせているものらしい。ただ そういう遊び方を覚えた人が結婚で真面目になるかは疑問が残る。

イル・バーニが夕梨に厳しく接するのは、そのカイルが側室とはいえ初めて女性を迎えたから。けれど それが即席のものであることは夕梨が一番 知っていて、それの事実が胸を痛くする。


イルは出発直前に夕梨を戦場に誘う。ティトの敵討ちをカイルに任せることに疑問があった夕梨は その勧誘に乗る。そして この時、カイルは暁の明星(イシュタル)が輝く日に現れた夕梨を戦いの女神・イシュタルだとし、兵の士気を高める。こういうカリスマ性のある演説を即興で出来るのが皇帝の器なのだろう。

夕梨とカイルの戦場での死を望む皇妃はウルヒという協力者を送る。そして一足先に戦場となるティトの故郷に到着し、ティトの家族が夕梨を憎むようにティトの死の真実を捻じ曲げる。

この遠征で夕梨は「赤い河」を初めて見る。まわりの土が溶けこんで いつも赤い色をしているハリス河の内側がヒッタイト本来の天地。


中、夕梨はティトが古い部族の族長の子で、彼には姉が3人いることを知る。その姉たちは唆されて夕梨に敵意を秘めて接していた。

初めての戦場で土地勘も戦術も分からない夕梨は飾り物に過ぎないため、戦地に赴くカイルと別行動になる(じゃあ なんで連れて来たのか)。カイル不在の間に夕梨を護衛するのはティトの3人の姉たちになるが、牙を研ぐ彼女たちにとって夕梨殺害の絶好の機会となる。
姉妹に誘導された夕梨は、ティトの敵の残酷な男に対峙させられる。その男から逃げ切るために夕梨は一頭の馬に跨る。馬に戦車を引かせる戦法が主流の この時代で騎馬をやってのけた夕梨は まさに戦いの女神のように見える。振り落とされもせず、崖を下る夕梨の脅威の身体能力は ご都合主義も甚だしいけれど。

夕梨は戦場でピンチに陥るティトの姉の一人を救出する。この時に夕梨が乗った馬がアスランと名付けられる彼女の愛馬となる。そして この戦場でカイルの無事を心から祈ったことで夕梨はカイルへの思慕を自覚する。

生命または存在の消失という究極の状況を考えると それぞれに胸が張り裂ける

ルヒによる最初の作戦は失敗に終わったが、続いてウルヒは姉妹に毒物を与える二の矢を放つ。
姉妹はカイルが夕梨といる寝所を襲撃。しかしカイルは姉妹の気配に気づいており冷静に対処し、夕梨も持ち前の反射神経を発揮したため失敗。そこで姉妹がティトの敵討ちが発覚する。経緯を話す夕梨の言い分を姉妹は嘘だと決めつけ、隙を見て毒物を口に含ませる。

夕梨は死亡確認される。カイルは夕梨の遺体から離れず、自分が夕梨を元の世界に還したくなくて留めたことを痛感する。夕梨は戦場で命を懸けて戦うカイルの姿に、カイルは命を失った夕梨に恋心を自覚する。


イルは姉妹を唆したのは皇妃の側近・ウルヒだと推測するが証拠がない。そのウルヒはカイルが離れた際、夕梨の遺体を強奪する。その報告を受けたカイルは皇妃が夕梨の首を欲していることを思い出し、ここまでが皇妃の計画だと知る。

夕梨が服毒したのは人を仮死状態にする毒。儀式で首を落とすために夕梨はハットゥサに運ばれようとしていた。その途中で目を覚ました夕梨は脱出を試みるが、前門の虎後門の狼という状況に陥る。