水瀬 藍(みなせ あい)
ハチミツにはつこい
第09巻評価:★☆(3点)
総合評価:★★☆(5点)
10年前に家を出て行った夏生の母親と再開した2人。
自分を捨てた母親に、夏生は複雑な想いを抱えていたけれど……。
どんなに離れていても、心は一瞬で「大好き」ってつながる――。家族の絆と、クリスマスの奇跡。
本誌でも大人気だった感動のサッカー合宿編完結!
簡潔完結感想文
- 自分を捨てた母との空白の10年間も1駅分の距離も一瞬で埋まっていく。
- 2回連続、母と息子の確執になっていることを気づかせないために合コン。
- 火事で1人暮らしの部屋が水浸し。そこから始まる同居生活。『L♥DK』?
女性は男性に許されるから何をやっても大丈夫、の 9巻。
とうとう私の堪忍袋の緒が切れた『9巻』。
いくら小中学生向けに(わざと)主人公の精神年齢を低くした作品でも、今回の展開はない。
本書が読者から支持されているのは、友情も恋愛も家族関係も全てが綺麗なものとして描き、
どこを読んでも不快感を覚えないからという部分も大きいだろう。
しかし人が人を傷つけることまでも全て水に流してなかったことにする展開に唖然とした。
主人公の小春(こはる)は、自分の許容量をオーバーした事態に直面したり、
恋人に言えない恥ずかしい欲望を抱いた時に、いつもその現場から逃げることで物事と向き合わない。
そうして自分以外の誰かが直接的に、
または助言によって間接的に助けてくれるまで身を隠すのが常套手段。
それが愛されヒロインの鉄則で、ここもまた読者から羨望を受ける箇所なのだろう。
『9巻』の実質的ヒロインの女性は そんな小春の30年後の姿だと思われる…。
だが『8巻』から続く、小春の幼なじみで恋人の夏生(なつき)の家庭問題でも同じ手法が採られたことに開いた口が塞がらない。
夏生の母親は、10年前に夫と2人の息子を置いて蒸発した人物。
出て行った理由は、冒険家である夫が「家にいないことが多くて、離ればなれになることが不安でいつも泣いていた」から。
大好きな人のお嫁さんになることを優先し、相手に依存してばかりで自分の生き方を確立しないと
こういう未来が待っていますよ、という悪いお手本である。
やはり小春の将来像に一番近い人物だ。
夏生の所属するサッカー部の合宿先が、夏生の母が今、生活している町で、
小春が彼女の正体に気付き、またまたお節介を焼き、親子の対面を果たそうと画策する…。
だが母と会わない選択をする夏生。
それはそうだろう。
彼は母の安易な現実逃避の一番の被害者なのだから。
そんな彼に小春は「1人で傷つかないで 怖がらないで」
「だって あたしは なっちゃん(夏生)が ママを大好きなこと知ってるよ」と語りかける。
いやいや、乙女チックモードで問題を軟着陸させようとしても無理があるだろう。
その大好きなママが自分を捨てて、身勝手に逃げたことが問題なんでしょうが。
可愛らしい言葉ばかり使って、本質を何も理解していない小春に辟易するばかり。
最初の工作は失敗したが、その後も勝手に侵入した夏生の母の部屋で、
彼女が家族を大事にしていることを確認し、
この地を去る電車の時刻を伝えて、小春は奇跡を待つ。
にしても夏生の母に関わってからというもの、
自分の好き勝手に行動して臨時マネージャー業を何もしてなくないか、コイツ。
大好きな人と離れるのが不安で付いてきたくせに、責務を放棄するとは…。
夏生の母といい小春といい、『9巻』における女性の描き方は本当に残念すぎる。
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夏生の母は、出発時刻ギリギリに駅のホームに現れるが、いざ息子と対面すると またもや逃走してしまう。
彼女が逃げ込んだ先は発車する電車内。
ホームに残された小春と夏生だったが、
夏生は母の姿を見たことで決意が固まり、それを走って追いかける。
そして電車よりも早く次の駅に到着する夏生なのであった…。
うん、無理があるよね☆
駅の間隔が1キロにも満たないような都心の地下鉄ならともかく、
海辺の町から東京を結ぶJRの路線で、
次の駅に電車が到着する前に、走って追いかけるなんて駅伝選手でも無理だろう。
駅の間隔が長いということは、最高時速もそれだけ出せるってことなんですから。
あっ、これはあれか『1巻』1話でも登場した夏生の特殊能力・瞬間移動の伏線か?
最終回で真相を明かして読者を驚かすって寸法だな! そうに決まってる。
夏生は母と対面して、彼女の謝罪によって全てを許す。
いつもそばにいてくれた小春に感謝し、そして母に10年ぶりに抱きしめられることで涙を流す夏生。
夏生は大きい男だなぁ。
母が出て行った12月に彼女が戻って来るというのも、
夏生の心の傷を癒してくれる効果があるだろう。
これによって夏生の家の欠損は回復し、彼のトラウマというべき悲しさは無くなった。
トラウマが解消されると、ヒーローは性格の歪みや陰湿さが消失するものですが、
夏生の場合、最初っから真っ直ぐな性格の持ち主。
この後の彼に性格の変化があるのか注目です。
次男の夏生に許され、長男の朋生(ともき)にも温かく迎えられ、
そして自分が捨てたはずの夫からも帰宅を心の底から喜ばれる夏生の母なのでした。
まさに大団円。
「クリスマスは幸せいっぱいの奇跡を見たよ」。
見事な子供騙しである。
10年前に家族を捨てた妻・母に遺恨がないなんて ありえない。
そして私が一番問題視したいのは、夏生の両親の環境が全く変わっていないこと。
夫は冒険家のままだし、母も都合の悪いことからは逃げまくる性格は相変わらず。
それなのに、また一緒に暮らして上手くいく根拠がどこにある。
女性が逃げ出せば、それだけドラマは作りやすいのだろう。
だが、ここでは母の変化や10年間で得た強さの証明として、
安易に彼女を逃亡させてはいけなかったのではないか。
それがないから、薄っぺらいの奇跡にしかならなかった。
彼女は弱いままで、人に見つかったから帰ってきて、
許されたから、そのまま何事もなかったように家に住まう。
何より、夏生の母に罰や責めがないのが許しがたい。
つくづく女性が逃げ回ることに甘い作品である。
小春の説明不足で、都築(つづき)が夏生に殴られた時も、彼女は謝罪しなかったなぁ…(『7巻』)。
奇しくも夏生の一家は母以外が全員男である。
そして男は女を一切 責めたりしない。
この男ばかりが色々と「ガマン」する構図が、少女漫画読者の心地良さに繋がっているのではないかと邪推してしまう。
男性にとって女性はいてくれるだけでよい、という女性賛美が続く。
それは10年前に家を捨てた女性であっても一緒。
それほど男性の愛は深くて大きいものらしい。
とっても女性にばかり都合が良い、一方的な描写だと思うが…。
これ以降、夏生の母に戻ってきたことへの影響はない。
同居の気まずさも、10年間の不在が響く心理的な行き違いも全くない。
さも彼女は最初から家庭にいたかのような描写が続く。
母は あの町でのお弁当屋の仕事は放棄したのかな。
こちらも逃げ出しても何の責めも受けないんでしょうね。
お弁当屋のおじさん、優しそうだったもんね。
あの人も男性だもんね。
女性である自分は、どんなことをしても許されると思ってるんでしょうね。
本書で一番嫌いなキャラは夏生の母で決まりです。
女性読者は男性のトラウマがお好みのようですから、それが続きます。
今度は夏生よりも陰のあるトラウマヒーローらしいヒーロー・都築。
ただし2回連続で、男性のトラウマ、しかも母子関係のトラウマだとさすがに物語が単調になるので、
その前に一呼吸置くのが合コン回である。
この頃、彼氏が会ってくれない友人・好花(このか)がやけになって合コンを開催し、
小春はそのお目付け役として参加することになった。
にしても思い立ったらすぐに合コン相手を用意できる好花、お前こそ浮気者なのではないか…。
お節介で合コンに参加したら自業自得のピンチが始まる。
ピンチには もちろんヒーローが現れる。
でもこれ、イベント委員合宿の時のピンチと似てるなー(『5巻』)。
そんなワンクッションを置いて、都築のトラウマ回が始まるのは高校2年生に進級後。
またもや仲良し6人組は同じクラスとなった。
しかし小春って、西園寺&都築の特進科2トップ以外には、誰も友達が出来ていない。
狭い世界で十分なんでしょう。
低年齢向けを狙うと、既存の集団、家族や友人の幸せが全てらしい。
先日読んだ同じ「Sho-Comi」の星森ゆきも さん『ういらぶ。』も世界の半径が狭かったなぁ。
2年生になって進路を考え始める小春。
夏生は春の大会で活躍して、スカウトの名刺を貰うほどだったらしく、
将来はプロサッカー選手も夢じゃない。
1年の1学期は部活をしていた雰囲気がないのに、いつの間にか有力選手になっている!
作品内でも少しずつサッカーの比率が高くなっています。
将来有望の夏生が掛け持ちするイベント委員は2年生になってもメンバーが持ち越しみたい。
そして2年生になっても1年生が追加される気配がない。
昨年度も先輩がいた気配すらなかったが、1年生が3年間務める仕組みなのだろうか。
まぁ この委員は本当にただただ4人を集合させる場所として機能してればそれでいいのだろう。
新入生歓迎期のために「白雪姫」を演じることになったイベント委員。
準備期間は1週間余。
春休みなどをスキップして、新年度から物語を進めたから唐突な話になってしまっている。
そのイベント委員室で、都築の制服のボタンが取れてるから つけてあげる小春。
ボタンを付けてもらうために都築が制服を勢いよく脱いでいるのには笑った。
セクシー眼鏡キャラでも狙っているのだろうか。
肉体美を見せつけ、小春へのアピールに勤(いそ)しんでいる。
でも着衣のまま、顔を近づけて作業するのも、それはそれで淫靡だったが。
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そこから物語は、都築の家庭の話に移行していく。
都築が1人暮らしをするアパートが火事とその消火活動により水浸し。
実家に帰れない事情がありそうな都築を小春が助ける。
さすがお節介の女王である。
そこから始まるドキドキ同居生活!
…って渡辺あゆ さん『L♥DK』じゃないんだから…。
6人家族の小春の家は決して部屋が余っている訳ではないと思うが、誰も文句を言わない。
父以外は全員女性だが、父も強く反対しない。
悪意や疑心などこの世界には存在しないらしい。
小春の家に快く迎えられた都築は、早くも家に馴染む。
だが夏生の嫉妬もあり、朝晩と風呂は夏生の家で済ますことに。
それなら もう夏生の家で暮らした方が良い気もするが…。
次巻は都築トラウマ編である。
彼のトラウマが解消された時が、彼の恋のセカンドアタックの始まりだろうか。