水瀬 藍(みなせ あい)
ハチミツにはつこい
第10巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
小春のおせっかいで、夏生の家に居候することになった冬哉。
夏生がサッカーで京都に出かけている夜に、
小春と冬哉が2人きりになってしまい――!?
ラブいっぱい、ドキドキの冬哉居候編開幕です♪
簡潔完結感想文
- 嵐の夜に ひとつ屋根の下に妙齢の男女。からの発熱って『2巻』と同じ展開ですけど…。
- 小春の お節介は、対面のセッティングだけして直接の介入はしない。2連続の母子問題。
- 演技力、アドリブ力、この子には千の仮面があるんだわっ。小春、怖ろしい子…!
両想い後のお節介ババア・小春編もこれにて終了?、の 10巻。
いよいよ目に見える範囲の友人たちの問題を解決して、全員が幸せになる準備が整った。
作者が連載前から構想して、序盤から匂わせていた問題も出し切ったはず。
でも思い返してみれば、教師と生徒の恋だったり、10年前の身勝手な行動が許されたり、と、
小春が思う幸せを叶えるために倫理観や現実感を全く無視している気もする…。
両想い後も作品の勢いを落とさないという作者の狙いは功を奏しているが、
物語を多層的にする効果よりも、子供っぽい価値観を前面に出してしまった感じがある。
そういう意味では前作『なみだうさぎ』に続いて、
両想いまでの展開の方が手に汗を握ったし、共感できたという意味では同じ末路を辿ってしまった。
この路線で掲載雑誌の読者からは受け入れられているから正解なのだろう。
ただ ある程度の年齢以上の者からすると再読が気になる箇所ばかりになってしまう。
1人暮らしのアパートの小火(ぼや)により、なぜか小春と暮らすことになった同級生・都築(つづき・男)。
同居の経緯といい、決着がついた恋に もう一波乱起こすためだけの同居生活といい、
マジで『L♥DK』の玲苑(れおん)編みたいになってるなぁ…。
そんな3角関係の中で、小春の恋人、お隣さんで幼なじみの夏生(なつき)が
サッカーでスカウトされた京都の学校へ1泊2日で見学になった。
『8巻』のサッカー部の合宿では一時も離れたくないから臨時マネージャーとして同行したが、
今回は不安が湧きおこることがないほど夏生との関係が強固になったので、小春は同行しないことに。
そんな たった一夜の中で事件は立て続けに起こる。
まずは春の嵐。
これにより小春の家も、都築が使用している夏生の家も出先から帰れなくなってしまった。
雷が怖い小春は不安に駆られるが、小春の不安を読み取ったのか、
都築が小春の家で一緒に過ごしてくれることになった。
そうして完成する2人きりの夜。
…と思いきや、小春の末の妹・こすも もいるんだけど。
『2巻』でも取材旅行で小春の両親たちは不在で、嵐の夜に小春だけで3人の妹たちの面倒を見ていたなぁ。
そして そんな夜に誰かが熱を出すのも同じ展開であった。
あれも約1年前の春の出来事だったか。
春は天候と体調の急変に注意、が本書の鉄則か。
しかし本書における両親たちの無責任さは腹が立つ。
小春がヤングケアラーとして働くことを前提とした家族計画や、仕事の仕方である。
ダメな親がいるお陰で相対的に小春が良い子には見えるんですが…。
今回、熱を出すのは妹の こすも。
なかなか搬送先が見つからない中で、都築が救急搬送先に選んだのは実家の病院だった。
この展開のために、小春の親は こすもを連れて行かなかったのだろう。
搬送された病院内で、小春は都築の両親に会う。
まずは都築の父。
といっても都築の実母の再婚相手なので義父となる。
妹の診察をしてくれたのは この義父。
ということは小児科医ということになるのだろうか。
若くてイケメン義父の医者、ってどこかで読んだことがあると思ったら
遠山えま さん『わたしに××しなさい!』と同様の設定だったからか。
母の再婚と義理の弟など似ている部分が多いなぁ。
都築と『わた×』のヒーローは性格が少し歪んでいるところも似ているなぁ。
「Sho-Comi」と「なかよし」、低年齢向け少女漫画だとハイスペックの最上級は総合病院の御曹司、になるのだろうか。
続いて小春は都築の実母とも会うが、それにより都築と険悪なのは義父ではなく実母だということを理解する。
なぜか息子に対して冷淡な態度を取り続ける母親。
これによって、小春の次のお節介ターゲットが決定しました。
しかも2回続けて、母と息子のブルースでございます。
いくら読者がイケメンのトラウマが大好物だと言っても酷似した内容は飽きるってもんですよ。
完全に妄想ですが、都築のアパートの火事、
あれ、こうすれば息子が実家に帰ってくると思った都築母の犯行だったりして…。
それなのに息子は同級生の家に居候するから(しかも頭の悪い女生徒(笑))、
彼女の怒りは心頭に発して、ツンデレが悪化してしまったのかもしれない。
小春たちが病院から帰宅すると、なぜか帰っている両親たち。
どこに行っていて、どういう手段で帰ってきたかは謎です。
ただこれによって小春の苦労がちゃんと報われたのは良かった。
もっと彼女は家庭内で両親から評価されてしかるべき。
逆に両親は反省すべきである。
小春の家から出て行こうとする都築の背中の寂しさが気にかかり、小春は彼と いっしょに寝ることを提案する。
そうして小春の一家6人と都築とペットと川の字で寝ることに。
高校生になって以降、夏生との並んで寝たことのないのに、都築と並んで寝る小春サン。
帰ってきた夏生に ちゃんと報告したのだろうか…?
この賑やかな環境を、小春たちが新入生の歓迎で演じる「白雪姫」と例えるのは上手い。
都築編と白雪姫のリンクのさせ方は本当に秀逸だと思う。
お節介の小春は早速、翌日に都築の病院へ繰り出す。
再度、都築の実母と対面したことで、互いに誤解があることに気づき修復に乗り出す。
これは夏生の回と同じ展開ですね。
本音を言い合える場を作るのが仲人・小春のお仕事なのです。
成り行きで都築の異父兄弟である光哉(こうや)と顔見知りになった小春は、
彼の家族に都築たちが演じる劇を見てもらうことにした。
劇の練習から1週間余りで、色々なことが起きすぎているなぁ。
休日を挟んだり、スカウト合宿に行ったり、練習時間が足りてない気もするが…。
そして本番当日、主役の白雪姫を演じる小春は、意外な才能を見せる。
これまで勉強以外の事なら何でもこなしている感のある小春ですが、彼女は演技の面でも秀でるものを持っていた!
圧倒的な演技力で観客を引き込み、
巧みなアドリブと構成力で物語の結末を変え、オリジナル劇を完成させるのだ。
都築の家庭の事情を劇中に織り込み台詞として託しながら…。
本書で一番ハイスペックなのは小春なのかもしれません。
そういえば、1つ前に読んだ福山リョウコさん『モノクロ少年少女』でも文化祭の劇を使って、
ヒロインが友人に自分の意見を訴える手法を採っていたなぁ。
少女漫画の主人公は誰もが女優なのかもしれない。
小春のアドリブによって、今回の白雪姫は、小人と暮らすのでも 王子に付いていくのでもなく、
自分を城から追放した母の王女の元に帰るという選択肢を見せる。
そして自分が母を大好きだという気持ちを伝える、と小春姫は訴えるのだった。
出ました、「大好き万能説」。
10年前に家庭を放棄しても、今も家族を大好きであれば、
何を責められることなく家に戻れるのです(夏生の母『9巻』)
まぁ、夏生の母の無茶苦茶な自分勝手に比べれば、
言葉は足りなかったが、都築の母にはずっと息子への愛情があって、即座の和解も納得できるんですが。
この、じっくり直接対話をすれば、問題がすぐ解決という
一直線かつ即効的な話の作りも、読者層には受けるのでしょう。
そして どの お悩み相談も、2人が直接対話をする環境を整えることまでが小春の お仕事なのです。
ただ残念ながら、2回続けて息子のトラウマ話で、2回続けて解決が安直。
そういえば、実母によると都築は小さい頃は2段アイスさえ与えれば機嫌の良い子だったらしい。
夏生と西園寺(さいおんじ)が急接近していた『2巻』で小春が落ち込んでいた時、
都築は彼女に2段アイスを買ってあげてましたね。
あれは自分が元気になることを、小春にもしてあげてたんですね。
最初から 良い奴なんですね、都築は。
どうしても言葉が足りない&冷たかったのは母親に似ているからなのだろう。