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少女漫画と小説の感想ブログです

高校生にして家事も子育ても完璧だった君はオレの最高の妻になるだろう。あまーーい!

ハチミツにはつこい(12) (フラワーコミックス)
水瀬 藍(みなせ あい)
ハチミツにはつこい
第12巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

遠距離恋愛中の小春と夏生。それぞれが夢を追いかけながら頑張っていた。
そして季節は巡り、ついに卒業の時。夏生が小春にプロポーズをーー!?
2人の恋は最高のクライマックスへ! 感動の完結巻!!

簡潔完結感想文

  • 遠距離恋愛でも問題の解決法は一緒。物語の骨組みは1種類しかないのかな…?
  • 最後まで他人様のことを絶対に悪く言わない正統派ヒロイン。心身ともに聖母。
  • 王道を極めると これしかない最終回。次作の純愛度の低下が今から心配になる。

後に彼女自身の すれ違いを正すのは、あなた、の 最終12巻。

夏生(なつき)との両想い後は、知人や友人の数多くの すれ違いを正してきた主人公の小春(こはる)。

例えば、互いに想いあっているのに立場上、別れてしまった友人と担任の恋。
例えば、10年前に子を捨てた母と、息子との再会。
例えば、言葉が足りなくて距離を置いてしまった母と息子。

そんな彼女に、両想い後になって初めて自分たちに本格的な すれ違いの試練が与えられる。
それが、夏生がサッカーのために京都の学校に転校してしまったこと。

小春は彼との間に出来た心の距離を埋めようと、
京都へ向かったが、夏生が所属するサッカー部のマネージャーに厳しい現実を突きつけられ、
またも許容量オーバーしてしまい、彼に会わないまま東京にとんぼ返りしてしまったのであった…。

久々に小春自身に降りかかった すれ違い。
この問題を解決するのは、小春自身ではなく、もちろん あの人である。


かし最後の最後まで、お話の構造は同じでしたね。

中盤は登場人物それぞれの抱える問題が背景になっているから気づきにくいが、
話の構造は全て同じと言っていいのではないか。

一度は失敗するが、恋人や友人の助言によって復活。
もう一度体当たりする勇気を貰って、小春は前へ進む。

ここまでが1ターンで、小春の動きだけに注視すれば これの繰り返しである。

しかも小春のやることは限られており、
問題の所在が分かれば、その当事者同士を一堂に会することが主な仕事となる。
あとは彼らが少し話し、アッと今に問題を解決してくれる。

そして一度解決した問題は ほぼ全てが終わった話題として処理される。
良く言えば、後腐れがないし、悪く言えば、余韻がなく、ぶつ切りの印象を残す。

小春が水戸黄門的に解決した問題の後日談が欲しかったなぁ。

友人・西園寺(さいおんじ)と教師との恋はその後が少し描けたが、
夏生の母が10年ぶりに家に戻ってきた影響とか、
その直後に夏生が家を出て行くことになったときの母の悲しみは是非 描いて欲しかった。

これを描くことで物語が幼い小春視点だけでない、
大人の苦みが出せて、物語が甘いだけの単純な味から脱せたのではないか。

同級生だという小春の両親と夏生の父親のちょっとしか会話などにも、
大人になった幼なじみの風格を出せたと思うが、それも設定だけで終わってしまった。

後日談や違う視点を ほんの少し採り入れることで物語が立体的になって、
今の読者が何年か後に再読した時に新たな発見があると思うのだが、それはしなかったようだ。


問題がその場限りで持続性が無いのだ。
解決した問題はぶり返さないのは潔いが、それで押し切っている面も感じる。
特に小春が直面する遠距離恋愛問題は、
安心と不安が交互にやって来るものだと思うのだが、
小春の中で一度 安心に傾いた針は、もう絶対に動かないのが本書の方針のようだ。


ち込んでいるヒロインがいたら助けるのがヒーロー。
今度はヒーローが彼女のもとにサプライズ訪問となる。

ヒーロー参上まで、少しだけ暗躍するのが当て馬・間男の都築(つづき)。
自分には何もないと落ち込む小春に、友達がいる、友達を作ることが出来る。
それは小春の温かな性格があってこそだと励ます。
都築もまた小春の自信を回復させてくれた「親友」なのです。
(本人が望まなくとも)

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都築の この言葉の後は「そういう所が オレは好きなんだ」だろうか。告白させてもらえなかった男。

それでも どうしても夏生を思い出し、落ち込みそうになる小春。
その心の隙を埋めようとする手を出しかけた都築だったが、夏生が現れる。

さすが本当のヒーローである。

レギュラー選抜の試合を放棄する可能性もあった夏生が、
マネージャーに言った台詞は意味あり気な割に、全く意味が分からなかったけど。
もうちょっと説得力のある言葉を考案できなかったものか。

こうして日帰りで、最長でも終電までの ほんの数時間だが一緒にいることが出来た2人。
夏生は翌日にレギュラーの座を獲得し、有言実行を果たす。
確かに、小春を笑顔にしながらも、自分の夢を追っている。

ここまでで1ターンですね。
そして1ターンが終わったら、もう不安も心配も一切が無くなるのも一緒。
物事を単純化しすぎて、物語から厚みが奪われていきます。

夏生は本質的に健全で頑強な性格だから、
彼の心配をほどんどしなくていい点において、小春は少女漫画ヒロインの中でも楽な部類に入るだろう。

性格の面倒臭いヒーロで頻繁に見られる、
立場の逆転(惚れる/惚れられる や 人としての強さ)がないのも本書の特徴か。

夏生は最初から最後まで自立していて、小春は彼の庇護の中にいればいいのだ。
旧態依然とした性別による役割だが、これが多くの読者には心地良いと変換されるのだろうか。


直、都築は もっと強烈な恋のアタックあると思っていたが、この花火大会での当て馬役が終了でしたね。

連載を更に長期化させるなら、その選択肢もあっただろうが、
小春の気持ちが全く揺るがないこの道が一番清く正しく思えるので、これで満足です。

ただし都築が正式に告白しなかったことで、
小春が自分の手で上手くいかない恋愛に終止符を打つという、汚れ仕事を回避しているのが気になる。

というか やはり小春を純粋な存在として扱うためだけに、都築の告白は封印されたのだろう。
純愛や純潔を守るって、人を傷つけないということでもないと思うのだけど…。


なみに、2人の恋の邪魔者として立ちはだかったサッカー部マネージャー・種田(たねだ)は、
夏生への ほのかな好意を伝えております。

しかし夏生は それを一蹴。
本物の好意は「ほのか」ではないと知っているから。

明確な悪意こそないが、小春がショックを受ける前提で
言葉に棘を含ませた種田マネでしたが、彼女も謝罪はありませんでしたね。
本書に悪人はいないが、それは女性たちが自分の過ちを認めないからかもしれない…。

種田マネの出演はここで終了。
彼女も都築と同じく やや煮え切らない行動で終わってしまった。
これ以上、意地を悪くすると後述の小春のフォローも空しくなっちゃうからかな。

『12巻』の後半で、小春が自分の進路を決定づけてくれた種田マネへ感謝の言葉を述べます。
やっぱり、という感じですね。
自分に向けられた ほのかな悪意や逆境も上手に利用して、
自分が良い子に映るようにするのが小春の手口ですから(笑)
まぁ実際、ネットで架空の人物に嫉妬してるような私なんかより、ずっと心が綺麗です。

ただ種田マネからの、夏生カップルへの感謝の言葉は、これまた理解できませんでしたが…。
前半の夏生といい、綺麗な言葉を使っているが、文脈が全くないのが気になる。


んな種田マネの直言もあり、小春は自分の夢が見つかる。
それは「スポーツ栄養士」となって、食で夏生を支えること。

でも夏生のサッカーでの成功を前提にしていることが怖いなぁ。
もし夏生の夢が破れたら、小春の仕事が かえって夏生の気に障るような気がするが。
まぁ、そんな後ろ向きの理由を考えていても仕方ないか。
前進し続けること、それがヒロインの条件です。

それにしても少女漫画においては食関連の仕事を選ぶヒロインは多いですよね。

「少女漫画あるある」としては、栄養士や料理系に進路を取るヒロインの、ヒーローとの結婚確率は100%、は補強される結果となった。
その多くで学校の成績が悪い人が進む進路や、彼氏依存型の女性の進路みたいに描かれているのが残念であるが。

その他の作品例は『ういらぶ。10巻』の感想文にありますので参考にして下さい。


春の夢が確定したことで物語は駆け足で進む。
遠距離恋愛も半年が経過し、夏生は一層の注目を浴び、
そして小春は進路に向かって勉強を進めている。
これまでも勉強以外ではスポーツ・女優と素晴らしい活躍を見せてきた小春だから、きっと大丈夫であろう。

そして2年生の年明けに京都への修学旅行で4か月以上ぶりの再会する小春と夏生。
2人きりで逢引きしている最中に、吹雪となって移動できなくなる。
急に天候が悪化するのも少女漫画あるあるですね。
本書では3度目の天候トラブルでしょうか。
そして雪が降り積もるまで何時間、喫茶店にいたんだよ、って話ですが…。


こで急遽、2人きりで旅館に泊まることに。
所持金とかどうなってるんでしょうか。

夏生は(避妊の)準備が出来ていないので、何もしないと小春に告げるが、
それに安心した小春は、夏生の布団に入って寝ようとする。

うん、大丈夫。誘ってるよ、OKサインだよ、と思われても仕方がない。

そうして小春を愛撫し始める夏生だったが、小春の
「まど しめて お月様 明るいよ…」
という わざとらしいぶりっ子ゼリフで興ざめした夏生は行為を中止する。

…というのは嘘ですが、
夏生はここでも有言実行をし、ちゃんと小春の歩幅に自分が合わせることにした。
本書は男性の愛が絶対に大きいものとして描かれるから読者も安心するのでしょう。

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純愛のために男性は告白も性行為もさせてもらえない。そして女性は謝罪をしないのが本書の特徴。

らの卒業式。
進路問題がメインになる高校3年生の前に連載を終わらせる作品が多い中、本書は高校3年生をスキップするという選択をしたようです。

この回、事件が起きすぎでしょう。
流石に もうちょっと分散させても良かったのではないか。

卒業式の場面で一番影の薄かった友人・松本(まつもと)くんの背後に
女子生徒がいるが、彼に恋する後輩か、それとも恋人か。
これで都築以外は幸せになったということなのでしょうか。


そして卒業式に現れた夏生は、跪いて小春にプロポーズをする…。
まぁ、純愛と純潔の行きつく先は結婚しかありませんよね。
いづれすることが宿命づけられているのなら、いつしても同じです。


終回は2人の結婚式の日の様子となる。
20歳となった彼らが、遂に結婚する。

夏生は現在、U(アンダー)-20日本代表らしい。
小春も栄養士になったので、一般的には早いが自立しているということなのだろう。

終わってみれば、仲間内でくっつく、いかにも少女漫画的な内輪感がある。
この世界では小春の友人たちは交際すれば絶対に別れないのだろう。

この2年で、夏生の兄・朋生(ともき)夫婦にも子供が生まれている。
友人・好花も妊娠中。

こうやって若い親が誕生するから、同級生の親同士でも子供の年齢に差が出るのだろうか。
小春と夏生の両親たちの年齢が知りたい(詳しくは『4巻』の感想文で)。


結婚式当日に忘れ物をした新郎新婦。
どうせならここで、夏生の秘密能力の瞬間移動を披露すれば良かったのに(笑)
電車より早く移動できる彼の能力の絶好の使い道だったのになぁ…。
(そんな設定ありません。)