水瀬 藍(みなせ あい)
ハチミツにはつこい
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
「スキ」って気持ちには色々あるらしい 友達へのスキ 家族へのスキ 恋人へのスキ じゃあ友達以上で恋人未満 家族みたいだけど家族じゃない 幼なじみのスキってどんなスキなんだろう?
「なみだうさぎ」水瀬藍の心あったまってちょっぴり切ない幼なじみラブストーリー!
簡潔完結感想文
- 物語から毒っ気を抜いたら味の対比効果もなくなり、ただ甘いだけの話に。
- 読者層の少し年上のお姉さんによる恋物語。…のはずが精神年齢が幼すぎ。
- 長期化連載を想定しての万全の人物配置。でも予測不可能な展開が何もない。
母の愛を失っても健全に育つと それはそれで物足りない 1巻。
本書のヒーロー・杉浦 夏生(すぎうら なつき)は10年前に両親が離婚して、
その後、母とは音信不通の高校1年生である。
この設定は、私の持論である「少女漫画の俺様ヒーロー、母の愛を充分に浴びてない説」の出番かと思いきや、
幼なじみの主人公・椎名 小春(しいな こはる)から「なっちゃん」と呼ばれる彼は、
非常に健全に育っており、性格に歪んだところが見られない。
あれっ、少女漫画というものは、両親の離婚や家庭の不和に悩まされた男性キャラは、
それがトラウマとなり、性格がひん曲がって、意味もなく女性を罵倒するものだと学んできたのに…。
例:八田鮎子さん『オオカミ少女と黒王子』の恭也(きょうや)くん。
本書が、学校の図書室にも置けるぐらいの内容であるのは、彼の性格によるものが大きいのではないか。
主人公・小春も典型的な初心(ウブ)なヒロインで、
高校1年生になっても初恋すらまだの2人が、新しい視点で幼なじみを意識していく、
胸キュン スローラブストーリーが成立している。
しかし まさか『レンアイ至上主義』など有害図書扱いされていた「少女コミック」が、
「Sho-Comi」にリニューアルすると、ここまで掲載内容まで変わるのか。
本書の連載開始(2012年)の少し前の2010年に雑誌読者の想定年齢が下がった(らしい)のも、物語に影響していると思われる。
本書の年齢設定が高校生である必要はあまりなく、中学生が適当のように思われる。
それぐらい、自分の恋心にも鈍感な主人公・小春の精神年齢は(よく言えば)ピュアなのだ。
ただし、メインの読者層であろう小中学生よりは少しお姉さんに設定する必要があるから、この年齢設定になったと思われる。
彼女たちが未経験の高校生活をキラキラと輝いて見せることに腐心し、
憧れを抱いて読んでもらうことを目標としているのだろう。
ピュアという言葉を使いお茶を濁してみたものの、
小春の思考能力は小学生並なので、彼女と同年齢以上の年齢の者が読むには厳しい部分がある。
手厳しいことを言えば、少女趣味が爆発しており、ずっと ぶりっ子の日記を読まされている気分になるのだ。
恋も知らない小春が、恋の手触りを少しずつ確かめていく経過を丁寧に描写しており、
それが本書の美点であることには間違いないのだが、
初恋も知らない私って可愛いでしょ、と作品が訴えているようでもある。
そして ここぞという場面に名言のように挟まれる恋ポエムが痛い。
作者は あえて目線を下げて描いているのだろうけど、
その中でもキラリと光るセンスを見せてほしい。
そのまんまのことを、そのまま描くのは芸がない。
純度の高い恋愛を描くために今回、作者が用いたのは、幼なじみ という関係。
物心ついたころから一緒にいる たった一人の運命の人。
主人公が他の男性には目もくれない、本当に一途な恋を描き切った物語である。
本書は大ヒット作となった前作『なみだうさぎ』に続く作品。
『なみだうさぎ ※以下『なみだ』』の感想でも書いたが、作者の作品は初・少女漫画に相応しい内容である。
これは初めての少女漫画だったら楽しめる内容だが、初めてじゃなければ既視感が満載という皮肉でもある。
序盤こそ工夫がみられるが、中盤からは予想範囲内の方向に物語が進むことを確認するだけに終始してしまう。
全て想像だが、『なみだ』は連載中に人気に火が付き、作者の想定を大きく超えて長期連載になった。
それによって『なみだ』は両想いになるまでのプロットがしっかりしていた反面、
以降は、恋のライバルが交互に登場するだけとなってしまう単調さが悪目立ちしていた。
その反省と経験を活かし物語の構成をブラッシュアップさえたのが本書だと見て取れる。
『なみだ』の想像以上の大ヒットで、
本作は最初から ある程度の連載期間が保証されていたのだろう(想像)。
そのため、序盤から ほぼ全ての登場人物を登場させることに成功している。
追加キャラもほぼいないので、あからさまな当て馬で連載を引き延ばすこともしなかった。
ただし、身も蓋もないことから言いますと『なみだ』の方が色々な意味でドキドキしたよ。
『なみだ』は読書から1年以上経過している今も内容を よく覚えている。
でも1年後、本書のことを覚えている自信はない。
ジェットコースターだった『なみだ』との対比で、スローラブを丁寧に描こうという意図は分かる。
だが、読者の興味をそそるような面白い連載をしようという熱意に溢れ、
各所に工夫が見られた『なみだ』に比べると、本書は何もかもが予定調和に見えてしまうのだ。
特に単行本に合わせて各巻の巻末に事件を巻き起こしていた『なみだ』に比べ、
本書は波乱が用意されていない(『1巻』『2巻』のラストはちょっと驚かされたが)。
比較してばかりで申し訳ないが、『なみだ』が苦手意識からの好意への反転だったのに対して、
今回は好きの種類が変わっていくだけで、感情に揺れが少ない。
何となく不気味だった『なみだ』のヒーロー・鳴海(なるみ)くんに比べて、
本書の夏生は健全そのもの。毒っ気がないのだ。
これが味わいに単調さを生み出している。
俺様ヒーローは大嫌いだが、感情の振れ幅という点では やはり便利な存在なのだ。
作品全体としても、純愛の雰囲気を保つためなのか、作品から徹底的に悪意がなくなった。
唯一、秀才キャラの都築(つづき)くんが、主人公・小春に少し冷たい。
ただ、都築くんに小春が惹かれることは まずないだろうし、
それでは『なみだ』の二番煎じそのものになってしまう。
ただでさえ都築くんは鳴海くん(メガネVer.)に見えて仕方ないのだ。
都築くんも途中で髪を切り メガネを取ってイメチェンするのだろうか。
もしかしたら小春が都築くんを選ばない、ということが、
『なみだ』とは違う、その先の作品を描こうという作者の気概なのかもしれない。
小春と夏生の家の隣同士でベランダ移動は、先日読んだ南波あつこ さん『隣のあたし』を思い出す。
あちらは中3と高1の幼なじみの恋愛模様だったが、
本書と同じ年頃とは思えないほど黒い感情がうごめいている作品だった…。
しかし この2軒の境界線はどうなっているんだ?
元々あった壁を、子供たちのために取り壊したのだろうか。
どことなく あだち充さんの『タッチ』っぽい。
真ん中に犬いるし。
第1話は高校の入学式がメインイベント。
どうやら この学校は特進科と普通科の2科があるようで、
新入生代表の挨拶は、特進科から入試の成績が同率トップの2人が選ばれ、
普通科からは なぜか小春が選ばれることになった。
物語の必要性以外で小春が選ばれた理由は謎だったが、後半で彼女の学力を知ると、
小春が入試の点数が一番悪かったからではないかという疑惑が出てくる。
優秀な生徒の横にいる劣等生代表として罰のように見世物にされたのではないか…。
挨拶をするのは西園寺 秋(さいおんじ あき)。
彼女は有名ホテルグループのお嬢様で、容姿端麗・頭脳明晰、くわえて性格もよしの完璧人間。
あぁ、そういう人なのね、という工夫のない人物紹介である。
しかし入学直後なのに、友人・松本(まつもと)くんは どこでそんな情報を手に入れたのか。
ヒロインのピンチに駆け付けるのが、少女漫画ヒーロー。
でも、過剰な演出のために不自然さばかりが悪目立ちしている。
まずは会場のセッティングを式の最中にする不手際。
そしてやっぱり夏生の瞬間移動だろう。
彼の動線が全く分からない。
せめて彼が体育館のどの位置にいたかぐらいは事前に描き込むべきだったのではないか。
最前列ならまだ間に合う可能性も考えられるのに。
少女漫画って、作者の脳内と描写が噛み合っていないことが多すぎる。
担当編集者も、注意しないのだろうか。
読者の心を掴む1話に何でも詰め込み過ぎなのだ。
ラスト数ページで両者の家族を出したが、関係性の説明するほどのページの余裕はない。
この場面に必要なのは入浴ドッキリなのであって、特に家族を出す必要性はなかったんじゃないか…?
この1話で、人となりが分かるのは主人公の小春だろう。
朝、夏生を起こしに行ったのに、しまいに自分が眠くなってしまい、隣で寝ようとする。
都築に嫌なことを言われたら、人前に出ても露骨に嫌な顔をして、ぶつぶつと文句を言う。
そして夏生に怒られたら、涙を流して ごめんなさいを連呼する。
もはや子供、いや赤ちゃんである。
これが作者が描きたい100%ピュアハニーなんだろうけど…。
そんな小春は、10年前に夏生の両親が離婚してから、
夏生のためにお弁当を作ることを決め、有言実行している。
それだけじゃなくて、家族の朝ごはんまで作っている。
学業も容姿も優れてはないけど、家庭的な一面がある、そんなヒロイン像。
もはや昭和の少女漫画である(ほとんど読んだことないけど)。
少女漫画あるある としては、成績と料理の上手さは反比例の関係にある、でしょうか。
一方で夏生は やはり健全なヒーローとして描かれる。
小春の身体測定を覗いていた男子に激怒したつもりが、養護教諭に犯人扱いされてしまう。
結果的に小春は覗かれておらず夏生は安堵するが、覗き疑惑は晴れない。
そこへ現れたのが西園寺お嬢様。
ここは、夏生と西園寺の関わりが深くなる場面なんだろうけど、
瞬間移動に続き、今度は論理が滅茶苦茶。
西園寺さんの第一声は「杉浦くんはそんなことをする人じゃありません」
新入学2日目で、作中で まともに話した描写もないのに何を言っているんだ、コイツは。
「現行犯というのは扉の前にいたからですか?」
「扉の前にいたことだけでは不確かではないでしょうか」
という弱い反論に教諭は「うー…ん そうねぇ」。
ダメだ、この世界には頭の弱い人たちしかいない。
本書の知能レベルがよく表れている場面である。
「なにかあれば私の責任でかまいません」と啖呵を切る西園寺さん。
入学式翌日のことなのに、教諭は西園寺さんがそこまで言うなら、と引き下がる。
西園寺さんにどういう信頼があるというのだ。世の中、成績が全てなのか。
そして彼女の言う「なにか」とは何か? どう責任を取るのか、そんな疑問は誰の口からも出てこない。
ただただ西園寺さん、かっけぇぇぇーーー、という称賛の言葉だけ。
私に分かったのは、この学校のレベルの低さ。
トップがこれだもの。称賛されてもねぇ…。
しかし唯一 確かなのは、夏生が同級生を売るような人じゃないってこと。
1話と違って動かないことがヒーローの格好良さを表しているのが、(意図しているなら)最高にイカしている。
続いては学校イベント・オリエンテーション。
今度は都築と小春の対面し、縁が出来る。
といっても都築の態度は最悪。
何も嫌う点がないのに、酷い態度である。
もしやドS?? 彼がドSなのか?
そういえば彼にはドSになる背景があったような…。
しかし小春はともかく、夏生まで恋愛に疎いというのは無理がある。
小学生じゃないんだから。
小春みたいな母性の強い子は、将来は なっちゃんのお嫁さん!とか夢見るタイプに見えるが、
恋愛関係を一度も考えたことがないという設定に無理がある。
学校でのお泊りは、先生の見回りからどう隠れるかがお約束。
本書では、夏生の独占欲が出て、小春と2人きりで寝袋の中に隠れるパターンでした。
でも寝袋、大きすぎない?
高校生男子が2人は入れる寝袋って かさばりそうである。
自分の気持ちの正体が分からない小春は、相談に乗ってくれた夏生の兄に事情を話す。
本書において小春の周囲に初めから居る人たちは人物紹介がない。
小春にとっては当たり前に居る人たちなのだろうが、
もう少し丁寧に関係性を示してくれるとありがたい。
夏生の兄・朋生(ともき)にしても名前も年齢も この時点ではよく分からない。
西園寺さんには見事な説明ゼリフだったのに。
そこで お兄さんから貰ったアドバイスは、夏生の顔を3秒見続けるというものだった。
俗に言う3秒ルールですね。
ただし、夏生が恋に落ちたのではなく、小春が彼への好意に気づくキッカケとなった。
恋に気づいた小春は一直線。
イメチェンをして、更にはラストページで驚きの二文字を口にする。
これは『2巻』も読まざるを得ない。
ちなみに小春と夏生は成績が普通科で最下位らしい。
成績最下位と何の関係があるのか、イベント委員に命じられた2人。
特進科からは成績トップ2。
委員内の成績格差がエグい。
そして この時点で夏生におけるサッカーはそれほど大事ではないらしい。
サッカー部に入るかどうかも迷っているような心境で、
まさか終盤で どんどん彼のサッカーへのウェイトが大きくなるとは思えない描写である。
これは この時点では作者も夏生とサッカーをそれほど重要視していないからなのか。
または、最初から部活に燃えていたら、それを理由にイベント委員も辞退してしまうからだろうか。
作者の中で仲良しグループは3人組、計男女6人グループという決まりでもあるのだろうか。
『なみだ』に続いて本書でも6人で中学からのグループが結成されている。
ただ、西園寺や都築を入れるなら、初期メンバー6人は少し多い。
男女1人ずつ減らしても問題ないかもしれない。
特に男性側の松本くんはキャラが薄かったなぁ…。
「ハチミツにはつこい プロローグ」
飼い犬・コパンとの出会いとなった、小春の10歳の誕生日の1日を描いた短編。
10歳から高校入学まで小春の精神面の成長が全く見られないことが分かる作品。
しかし妻と離婚して独り身の夏生の父。
彼がグラビアアイドルの写真集を河原に段ボールに詰めて隠しているなんて…。
色々と壊れていて怖い。
小春もよく普通に接していられるなぁ…。