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少女漫画と小説の感想ブログです

泣くか逃げるか、幼稚園児並の お前の世界一の彼氏になるんだぜ☆ あまーーい!

ハチミツにはつこい(8) (フラワーコミックス)
水瀬 藍(みなせ あい)
ハチミツにはつこい
第08巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

ますますラブラブな小春と夏生。
夏生がサッカーの合宿に行くことになり、
離ればなれになるのが不安な小春は臨時マネージャーとして付いていくことに……!?
サッカー合宿編スタート!

簡潔完結感想文

  • 12月は、10年前に夏生の母が離婚し家を出て行った悲しい思い出のある月。
  • 感傷的な12月は夏生と一時も離れたくないから臨時マネージャーに就任。
  • 学校内外で恋愛・家庭の問題を解決する水戸黄門・小春。お節介とも言う。

生 楽ありゃ 苦もあるさ、の 8巻。

ようやく理解しました。
本書の両想い後は、お節介な小春(こはる)による
各地の行脚と、問題の解決をメインに据える水戸黄門編だということを。

前作『なみだうさぎ』では、両想い後はカップルそれぞれが異性に言い寄られるだけの単調なラリーが続きましたが、
本書の場合は、恋のライバルは最小限にとどめ、小春が周囲を幸せにしていく様子が描かれていく。

そうして友人たちの恋を応援したり、家庭問題やトラウマを解決していくことで、
同じ問題を繰り返さずに、そして次々と問題が湧きおこるようにしている。
そうして女性読者の好きをたくさん集めた物語が完成していく。

1話から登場人物たちの配置をしっかり決めて、
当人たちの恋愛以外の話題にも事欠かないネタを集めていることが分かる。

それが読者が本当に読みたいことかどうかはさておき、
小春の親切心(または お節介)があって、彼女が主体的に動く(または逃げる)ことで、
読者をしっかりと巻き込んでいくのだから、作者の手腕は確かである。

長編化して、恋愛が高値安定中でも それほど失速感がないのは、
恋愛以外で小春が全力で動き続けているからだろう。

そして小春の手にかかれば、
教師と生徒の許されない関係だって、
一度誰かを傷つけた選択だって、何も問題が無く解決してしまう。

こうして登場人物たちと その周辺、誰をも平和にしていく水戸黄門なのでありました…。


生の母親問題を匂わせつつ、
2人の交際の「キスのその先」問題で読者の興味を引く。

2歳上の学校の先輩と交際中の友人・好花(このか)は、
自分が やせるまでは ぜったい清い交際を守る、らしい。
そして本書において男性が性欲を我慢することは「がんばる」ことらしい。

本書の女性たちは自分をよりよく見せるために、男性に我慢を強いたり、
『7巻』の小春のように、都合の悪いことを言わないで逃げ回ったりしている。
これって かなり自分本位な交際ではないか。

夏生(なつき)は相手のことを最優先に考えているというのに、
自分のイメージを優先させている小春は好きになれない。

性に関する知識が一切ないのも、読者と歩みを同じにするためと、
ウブの表現だろうが、高校生にもなって何も知らないままでいる姿勢が甘い。
願書を出したけど、勉強をしない受験みたいなものではないか。
ちゃんと準備しなさい、と思ってしまう。

『6巻』で夏生を突き飛ばしたのも、本能的な危険察知能力だけだったらしい。
この後も男女交際に関する知識がまるでない天然ぶりっ子キャラを連発しています。

ちゃんと女性を悪く描かないと決めると、色々と不均衡が生まれます。

また、家族の欠損は許さないし、結婚したら愛し合っているのが当然というスタンスも前時代的。
そして女性は男性を支えるものとして描かれる(小春の母は別だが)。

低年齢向けだから、物事を単純化してるのだろうけど、
少女漫画自体が女性の生き方を限定しているような気がしてならない。

特に『8巻』から始まる夏生の母の問題とその解決は辟易するものである。
全てを美談にすればいいというものでもない。


生たち兄弟の母が、冒険家の夫が「家にいないことが多くて、離ればなれになることが不安でいつも泣いていた」
「それが母さんが出ていった理由」と夏生の兄・朋生(ともき)は語るが、
息子に母と離ればなれになることを強いることは、夫と同じではないかと思ってしまう。
自分の抱える寂しさに耐え切れず、息子を放置して自分だけが解放される。
彼女の犯した罪はとても重いものだと思う。

そして、夏生の母には許容量をオーバーすると逃げ出すヒロイン特性を感じる。
これは小春とまるで同じである。
もしかして夏生は母の面影を無意識に小春に重ねているのだろうか。

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温泉で倒れたり、仕事を放棄したりして役に立たないけど宜しく。ぶいっ!

ればなれになることの怖さを実感した小春は、夏生のサッカー部の遠征合宿に一緒についていく。
小春が夏生の母の立場だったら、自分も冒険家になると言い出すタイプか。

頼まれてもいないのに、自分の精神状態だけでサッカー部に近づく小春を私なら快く思わないが、
もちろん本書の中ではそんな悪感情は生まれるはずもなく、熱烈に歓迎される。

小春も妹たちが生まれるまで(小学校高学年まで?)サッカーをしていたらしい。
彼女の運動神経の良さは、ここで鍛えられたのだろうか。

一方で夏生はサッカーを「ずっと続けてきた」らしいが、
高校入学から夏休み後までサッカーの描写が全くなかったけどね…。
特にサッカー部の先輩・三神(みかみ)と初対面設定はまずかった気がする。
全体の構成で欠点の少ない本書で惜しい点である。

ちなみに三神先輩はマネージャー・赤井(あかい)さんと付き合っている模様。
フリーだった『3巻』の遊園地デートの後から恋が芽生えたと思われる。

そういえば あれだけ妹たちの面倒を見ていた(押しつけられていた)小春だが、それはどうしたのだろう。
年末の忙しい時期に両親の仕事に余裕が出来たとでも言うのだろうか。

ここで、小春が両親に合宿の同行を頼みこんで、
両親が私たちこそ、いつも面倒を見てもらって助かっている、
あなたの願いなら叶えるのが親としての務めだ、ぐらい言ってくれれば、物語に奥行きが出ただろう。
しかし そんな話は一切なく、合宿中に小春が妹たちや家族を思い出すこともなく、
小春が何の予定もないから合宿に来たバカップルの彼女みたいに描かれているのが不満だ。


宿ではあるものの お泊り回でもあって、
のぼせた小春と部屋で2人きりになる夏生は落ち着かない。

寝ている小春の浴衣から胸が見えても、夏生は我慢の呪文を唱える。
「オレは世界一の彼氏になんだから」「この恋は小春のペースに合わせるんだ」
「小春が追いつくまで ぜってー無理に進めたりしねぇ…っ」

わざとかと思うぐらいハッキリと口に出す夏生の言葉を、
目を覚まして聞いている小春。

友人たちの助言もそうだが、
小春がハッとする名言が いちいちクサい。

夏生も小春ももっと自分の気持ちを面と向かって言えばいいのに。
彼氏の大きな愛が全てを包んでくれました、という展開は飽きた。


員たちが覗いている前で、恥ずかしい恋人同士の遣り取りと、
キスをしたことを思い出し赤面して小春は、また逃げる。
自ら志願したマネージャー業の放棄である。無責任だぞ☆

そうして場面転換して出会うのが、夏生の母。

彼女と会話をしている内に、夏生の母だと確定し自分の名前を明かした小春。

だが夏生の母は逃げてしまう。
本書では許容量をオーバーしたので逃げるのが女性というものらしい。

そんな母の態度を聞いた夏生は表情を暗くする。
「逃げたなら 会いたくねぇってことだろ…っ」。

そうなのだ、自分の言葉で伝えなきゃいけない場合に、逃げるのは後ろめたいという証拠なのだ。

『7巻』の文化祭の時の小春の逃げ回り方は、本来は責められるべきこと。
でも彼女は逃げたことを責められないし、謝りもしない。
だから同じことを繰り返すのだ。

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水戸黄門が今回 救いたいのは この人。世界から不幸を全て失くすために小春は動く。

「番外編1」…
またまた風邪を引いた都築を見舞いに行ったのは、夏生。
男同士の恋の鞘当てが火花を散らすが、
夏生が確認したのは、都築がライバルということではなく、
自分が小春をどんだけ好きかということ。

小春がサッカー部員からモテるのは嫌だけど、
自分は不特定多数からモテ続けたいらしい。

その内、浮気しそうなメンタリティである。

「番外編2」…
中学生になって性差が出始めたことに戸惑う小春。

過去編をやると、彼女の精神年齢が一向に成長していないことが露わになるから止めた方がいい。
そして これでもドキドキしないとか恋を意識しないとか無理がある。